界外の契約者(コール)
創造のクヌム神
これはほんの数十分前のお話。
神宮寺がビルを移動しながら他の界外術師を倒していた頃。
『約束された盤上』
彼らの最強の策、迷惑メールに扮した儀式場の形成。
その形成をした神、エジプト神話の創造の神であるクヌム神を使役していた男。
砂沢 金次。
彼は主神級の神を持ちながらも、今回の計画には全面的に参加せず、後方援護として西巣鴨駅から数分のネット喫茶で待機していた。
彼は独学で界外術師になり、クヌム神と契約を交わした後は、その力でネットを悪用していた。
それをニアに見込まれ、現在は『約束された盤上』に所属する1メンバーになっていた。
そして今回、迷惑メールを作った後の彼は身の安全を守るために、組織が全額負担で生活費や宿泊費を出してくれた。
東京中を転々としながら最後の宿泊地であるこのネット喫茶で、コーラに刺したストローを啜りながら、モニターに映っているクヌム神と会話していた。
「ははは! 今東京中が恐怖の災禍に巻き込まれているぜ! もうほんと楽しすぎたかな俺ら!」
『ククク、この度の界外で真の闇が出てくるのだろう。我はそれが楽しみで仕方ない』
「そうだな。……なんだ、もうすぐ俺たちの我儘が通用する世界になるんなら、今のうちにグロバの部屋を荒らしてぇな」
『そうだな。ならば我も共にログインするべきか? そしてその部屋を荒らしても良いぞ』
「ははは! いいね! こりゃ新しい世界での面白いネタになるな!」
そう仲良く会話していた2人だったが。
突然、ネット喫茶の電気が全て消えた。
「……あ?」
辺りは真っ暗となり、他の部屋からパニックの声が聞こえてくる。
「おい何事だ!!」
客の一人が暗闇から疑問を投げかける。すると、もっと遠くから店員らしき青年の声が聞こえてきた。
「すみませんお客様! ただいまブレーカーが落ちてしまったようでして……!!」
その一言、ネット喫茶でブレーカーが落ちるなんてどんな状況なんだろうか。
ありえない事態。
「おいクヌム……」
「われはここだ」
「どう考えてもだが、こいつは考えすぎだろうか? 俺達の存在に誰かが気づいてるようだ」
「近くにはそんな気配はしないが、我のような神にかなう神がいるならそいつは我と同じ主神級だと思う」
「普通、そう考えるよな」
狭い個室の中、砂沢とクヌム神は背中合わせで暗闇の中立っていた。
時間にして約数秒が、砂沢にとっては数分の事のように思えた。
しばらくして、個室の電気が再び灯り、周りを照らした。
「誠に申し訳ありません! 今ちょうど電気の復旧が済みましたが、不具合の確認調査のため本日は閉店とさせていただきます。お金の事につきましてはカウンターにて受けつけますので……」
青年の申し訳そうな謝罪の声。
ドアの向こう側がガヤガヤと騒がしくなっていく。
「……どうやら、本当に事故だったようだな。さしもの我も慌てたぞ」
「ふん、お前は実戦向けじゃないからな。とりあえずここ出て違う場所でネトゲでもしてようぜ。もうそろそろ本丸が界外始めちまうし」
そう言って、最低限の日用品が詰まったリュックサックを背負う砂沢。
クヌム神は、容姿が羊のような事もあるので自らの創造の力を使い。自身の体をまるで飴細工のようにぐにゃりと捻ったり伸ばしながら片手サイズのスマートフォンに変わり、自分から砂沢のポケットに潜り込む。
 
そうして一通りの退室準備を終え、いざドアノブを回して外に出ようとした。
開かない。
最初、砂沢はドアを引いていた。なので今度はドアノブを回して押してみた。
しかし開かない。
「……クヌム、ここには気配がねーんだって言ったよな。ならなんでドアが開かない?」
「確かに我には何も感じないのだが」
「一体どうなってんだ?」
そう疑問を口にしながらも、果敢にドアの開錠を試みようとドアノブに力を込めようとした。
その時だった。
急に砂沢の後ろにあるデスクトップpcのモニターに電源が入ったのは。
「……あ?」
精密機器特有の起動音に砂沢は気づき、後ろを振り返って確認する。
モニターには、ある画像が映っていた。
それは、あいうえお表。
それはいたって普通の。
しかし、その50音の上には地図記号によく見られる神社の記号があり。下には『はい』と『いいえ』の二つの言葉が書かれていた。
砂沢は、その不思議な画像を見て気味悪く思うのと同時に、子供の頃に何処かで見たこたがある事に気づく。
「………………こっくりさん?」
そういった直後、画面に黒い丸が神社の記号の上に現れ、50音の上を動き出す。
そして止まって、また動く動作を確認しながら下の言葉をつなげていく。
「み、つ、け、た……だぁ!?」
「な、何だこれは!! 我には何も感じないぞ!」
クヌム神がスマホの姿のまま疑問を口にする。そこでようやく呆然と立っていた砂沢が、ハッと何かに気づいた。
そしてポケットに入っていたクヌム神のスマートフォンを取り出すと、モニター画面に向かって投げつける。
「敵はインターネットにいる! お前がネットでいろんな細工をするように、相手の神も同じことをしている! 」
そう、事実クヌム神はネットの中に対して介入をすることができる神だ。
戦闘力は普通の人間と同じだが、司る創造の実力は現実でも仮想でも誰も拒むことができない。
しかし、やはり才能があるだけの普通の人間である砂沢では、実力の3割しか出せない。
だからできることには制限がたくさんあるのだ。
モニター画面にスマホが当る。するとモニターに吸い込まれるようにスマホが入り込み、中でクヌム神が姿を戻した。
『ふふふ! 砂沢の言った通りだ!いるぞ、この着物のガキが!!』
『ヒィ〜! す、すいません!!』
画面の中でクヌム神が見たこともない着物の少女の襟をつまみ上げている。
少女の方はさっきのホラーは一体何処へやら。今は縮みあがりながら涙目だった。
ちなみに、現在『約束された盤上』と神宮寺たちが戦っているのを砂沢は知らない。
「おいガキ、よくもビビらせてくれたな。こっちは今からここ出て泊まる場所探すってのに、無駄な手間かけんじゃねーよ」
『ご、ごめんなさいィィィィィィィ!!』
「敵対する組織が放ったもんか……つーか、こっくりさんなら俺の居場所がばれて当然か……。そんで、この停電騒ぎやら閉じ込めも演出か?」
『へ? 今来たばかりですぅけど?』
画面の少女に不満を言い散らかす砂沢だったが、こっくりさんが放ったそのキョトンとした言葉に一瞬動揺する。
「な、なんだよてめー。まさか他にも神がいるってのか?」
『いいいいいえ!! 今は口裂けさんと花子さんは他の人と戦ってるんですが……』
そう答えたこっくりさんは。それを聞いていた砂沢の肩にだれかの手が置かれるのを見て、目を見開いて驚愕した。
同様にこっくりさんを捕まえていたクヌム神もだ。
『あ、あの……』
「なんだ? つーかクヌム、お前もどうした?」
『お、お主の肩にある手は一体なんなのだ?』
「は?」
そう呆れるように答えた一瞬。
バダン!!! と、急にドアが開いたと思ったら砂沢の体がそこに勢いよく引きずりこまれてしまった。
砂沢体がドアの外に完全に出たのと同時にドアがバタンッと閉まり。今度はドアの向こう側から悲鳴が聞こえてくる。
『な、なにが……』
そう驚き、声を上げようとしたクヌム神の体が、スッーっと焦りの表情を浮かばせながら消えていった。
残ったのはモニターの中にいるこっくりさん、ただ一人だった。
『…………え? 何事!? ようやくメールを出した界外術師の居場所を掴んだのに、いきなり展開がアメリカが本場のホラーとなってすっごい怖い。なにこれ怖い!!』
こっくりさんはいきなりの展開についていけず驚きや動揺を隠せないで、ガチで涙をポロポロと流し出していた。
その時だった。
「よー、ひっさしぶりじゃん! 5年ぶりじゃねこっくリンと会うのって?」
『へ?』
ハッと、聞き覚えのあるその声に気付いてモニターの外をもう一度見つめる。
すると、さっき閉まったドアが開いており、そこから気絶した砂沢を引っ張りながらこちらに向かう姿を見る。
『え…………あ、あれぇ!?』
「よっ! お互い今時の都市伝説じゃぱっとしなくなったものだ。はははwwwww」
それは、もともと綺麗だったと思われるワンピースがボロボロになっており、そこから見える肌も全身傷だらけの女。
しかし、見た目とは裏腹に軽快なテンションで、なぜか温かい印象がある。
その女の子は、『都市伝説』の1人。
無数の伝説の中でも特に人に危害を加える伝説。
それは、「ひきこさん」と呼ばれる人を引きずり殺す化け物。
「しかし、あんたも大変なことに巻き込まれてるんだね〜。しかーーし!安心しなさい!」
片手でひょいと意識がない砂沢を吊り上げると、今度はキメ顔でモニターの向こうのこっくりさんに指をさし、キメ顔でこう言った。
「この街はこいつのおかげで危機に落ちて、逆に危機を脱却できるのだよ!! 短いシンデレラの魔法のように、都市伝説の百鬼夜行が始まってるんだぜ!!」
…………まぁ、こっくりさんは一切理解できずに「へぇー……」と放心状態でそれにうけこたえたのだが。
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