界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

腕を落とされた者


東條絵里とそのマネージャーとしての役割と、界外された神として付き添う平、通称へべ。


彼女達は3階で謎のとんがり帽子の少女の襲撃時、神宮寺とアリアに言われて逃げ、普通の階段からではなく通常は使われていない非常階段を使って地上まで降りようとしていた。


しかし、二階についたときには一階まで降りる階段がぽっかりと無くなっており、仕方なく二階のフロアに出ることにする。


二階はどうやら文房具などの画材を取り扱っている大きなフロアだったらしく、あたりには様々な絵の具やペンが陳列している。

「………もう、疲れた……」

東條はドレスの下にある膝に手を置いて、疲れた様に顔をしかめる。

だが、へべは自分のスーツを少しだけ整え、東條に向き合う。


「何を言ってるの。ほら、早くこのビルを出なきゃ絵里の身に危ないことが起こるのよ」


そう言い、東條の手を取ろうとした。
だが、その手が東條に触れることはなかった。
なぜなら、へべの手がスッパリと、手首から先が切り落とされてしまっていたから。



「が、がぐぁぁぁぁ!?」



へべは斬られた腕の激痛に呻く。
人間と違って血が出ないので分からないが、おそらく痛みは人間と同じなのだろう。

東條は、そんな痛みに耐えようとしているへべに顔を青ざめ、すぐに駆け寄る。

「へ……べ……。もしかして……私が……」

喉から必死に声を出そうとしている。へべの肩に手を置いて彼女の身を案じる。

けれど、へべはそんな泣きそうな顔を浮かべている東條に、我慢して笑顔を作る。

「いいえ、あなたに落ち度なんてない。悪いのは油断した私です」

そう語ると、東條を自分の後ろに下がらせる。


「…………神ではない様ですね。人間、魔法ですか?」


フロアには響かない音量で、ヒッソリと言った。

「さすがは【ギリシャ神話】青春を司る神だ。今のを【魔法】と見抜くとは、ボクは君に敬意を持ってワインの一献を交わしたいくらいだよ」


そんな聞こえるかもわからない小さな質問に、答えが返ってくる。

そして、次の瞬間には不思議なことが起こった。
陳列していた文房具、ペンや鉛筆、画材の道具や紙が宙に浮いたかと思うと一転。

 それらが一点に集まって人の形を形成し始めた。



紙が集まり、それが白いシルクハットに。

黄色のペンや少量の黒の鉛筆が重なり、それらが黄色いスーツの様に形を整い始め。

顔や腕なども、肌色のペンや黒が基調しあうかの様にお互いの色を重ねたかと思うと、それが顔の輪郭、さらには細部の瞳までもをけいせい。

最後に、白と黒の紙が集まって、一本のステッキに変わった。

そして、造形が終わる頃にはそこにはさっきまでの画材が集まっているとは思えないほどの瑞々しい肌と生気のある顔色をした。一人の生きている生身の男が立っていた。




「やぁどうも、ボクはデルモンド・キルギス。世界中の魔法の頂点にいる【魔法師】という者だが…………君たちは知らないだろうが。先んじては、東條絵里さん。貴女を殺す者だと言えばいいかな?」


デルモンドがそう言った直後。



東條絵里の左腕が肘から下までを、スッパリと鋭利な刃物で切った様に切断面が綺麗なまま、地面に落ちた。






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