転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

77話 取材契約

(なるほど、なるほど。そういうこどでござんしたか。
 そりゃあ、風神ウェントスに会わせてもらえないわけでござんすよ~。
 まさかプリサさんが偽物とは。
 ダリーナ峡谷の外れに、冥界との転移魔方陣を置くのに協力してくれただけで、他がさっぱりだったのも、してくれなかったというより、できなかったわけでござんすな。
 派手に動けば本物にばれる危険があったということでござんしょう)


 オレはウェントスたちとの情報交換を終え、プリサにおかわりを淹れてもらったティロ茶を楽しみながら、ノラに魂魄通話をいれていた。

「だな。それで話は変わるんだけど、ノラ。本物と新たに契約結ぶ気ない。転移陣の場所もダリーナ峡谷の中心部に近い所に移すし、他の地域への移動も仲のいい風の精霊なんかに協力を要請するってさ。会合も他の場所だとプリサが代理になるけど、ダリーナ峡谷でやる時ならウェントス自身が参加できる。
 おまけになんだけど、天界の取材も出来るように取り計らってくれるって。ウェントスのバックが」


 三人に通話を入れることを伝えたので、オレは声に出してノラと通話する。ノラの声は三人には聞こえないが、オレの言葉である程度察することはできるだろう。

(バック?)

「旅女神レンダ」

(!)

「あ、知ってる? やっぱり」

(あ、当たり前でござんすよ! どれだけの信者を持ってる神だと思っているでござんすか!
 北神と南神を除けば、おそらくトップでござんすよ。月と太陽の姉弟神よりも、信仰が強いのは間違いないでござんす)


 自分の名前が出たにも関わらず、気にもとめずに隣で嬉しそうにグウという焼き餅みたいなお菓子を頬張るレンダを見る。
 威厳はさして感じないが、気さくな神様ではある。
 一緒にいて気楽な奴だ。


「どうする? 直接会った感じ、オレは信用していい奴らだと思う」


 なにが不服なのか、プリサは俺を見て唇を尖らせている。


「この方、さっきから言っていることが、神様に対して失礼だと思うのですよ」

「気にするでない。ダイチ殿はこちらのことわりから外れている方。それに言い方ほど我らを軽んじている訳ではない」


 なんか二人がまたイチャつき始めたが、心の広いオレは気にせずノラと会話を続ける。


(正直なところ、断る理由がないでござんすな。
 土地神ですから、自分の領土以外では代理の方を出すのは当たり前ですし、ダリーナで行う時はご本人が参加してくれるなら問題はないでござんす。そもそも偽物のプリサさんにもそれを要求していたでござんすよ。
 それに天界での取材もさせてもらえるなら、記事の幅も拡がるというもんでござんす。
 ただ、ひとつ心配なのは、ウェントスさんが悪魔族をどう見てるかでござんすよ。会合の度に喧嘩されたんでは、あっしも困るでござんす)

「あー、そりゃそうだな。
 ウェントス。会合には悪魔族も参加しているんだけど平気か?」


 オレの問いにウェントスはしっかりと頷く。


「私に思うところはないな。千年前の争いにも土着である私は参加していないし、このダリーナに悪魔が攻め込んで来たという歴史もない」

「ボクもその戦争には参加してないよ。
 戦争はボクの領分じゃない。ダンジョン探索とかだったら話は別だったけど、あれは違ったからね。
 過去に祝福を与えたことのある人間が参加したってのはあったけど、そこまではボクにもどうしようもないから。僕にとっては荒ぶる神も、狡猾な悪魔も、旅における試練であって憎む敵じゃない。
 もちろん相手によって多少の好き嫌いはあるけど、一括りにして敵視しているわけじゃないよ」


 ウェントスに便乗する形でレンダも悪魔族に対して、特別に敵愾心を抱いていないと主張する。


「ああー、こっちは大丈夫みたいだな。むしろやられた側の方が問題だろ?
 バリエンテは大丈夫なのか、偽プリサにもいい感情は抱いていなかったように見えたけど」

(左様でござんすな。バリエンテさん……と言いますか他の参加者の方にはあっしの方から、今回の事情や個人の怨みなんかを会合に持ち込まないようには言い含めておくでござんすよ)

「そんじゃまあ、とりあえず契約成立ってことでいいか」

(よござんす。間にダイチさんが入ってくれるとなれば、こっちも安心でござんすよ。
 ただ、これまでのダリーナ峡谷の転移陣は使えなくなっているでござんすから、明日の正午にキクロス街道からダリーナ峡谷に入る入り口にプリサさんに来ていただきたいでござんす。新たな転移陣の設置にご協力頂きたいのでござんすよ。あっし自身が出向きやすから、あっしの様相をお伝え頂けると)


 ウェントスにそのまま伝え了承を得ると、オレはノラとの魂魄通話を終えた。


「という訳でこれからよろしくな。ウェントス、レンダ。あとついでにプリサも」

「やっぱりこの人、失礼の塊だと思うのですよ。ブリサは」


 笑顔で頷いて来る二人と対照的にブリサがジト目で俺を見てくるが、もちろん無視だ。


「でもさ。なんでこのノラってのに私たちと協力体制を敷かせたの?
 魂魄通話だっけ? する前に言ってたけど、ダイチが欲しいのって自分の魂が転生出来なかった原因を作りだした相手の特定なんだよね?
 この人のこと、全面的に信用しているわけでもないんでしょ?」


 レンダが当然とも思える質問を口にする。


「それに関してなんだけどさ。
 正体不明の容疑者が一人いるんだけど、ソイツがいまどこで何をしているか、さっぱりわからないんだよ。というかわからないことだらけなんだけどな。
 いまはっきりとわかっているのはひとつだけ。
 とある魔獣が半年後に出産する予定の赤ん坊に、今日の冥界説明会で受付をしてたウチの嫁さんの魂魄を入れたがっているってことだけなんだ」


 ウェントスがなるほどといった様子で頷く。


「フム、つまり冥界側だけでなく、現界側からも調査を進めていることをアピールし、相手を焦らせ、当初の計画よりも早く、なんらかの行動をとらせたいということですかな?」


 おおう。さすがは土地神。ただの引きこもりじゃないな。


「うん。オレが直接現界の神と組んだなんて情報は、流れていたらかえって嘘くさいだろう?
 元々現界の情報を集めている新聞社のノラだったら、現界の神と繋がりを新たに持ったって噂が流れても自然だ。
 んで、俺とノラの関係は冥界では周知の事実だから、両者の関係の間にオレが関わっているかもって、後ろ暗いところを持ってる連中は、勝手に勘ぐってくれんじゃないかな」

「なるほどね~。それでシャーロちゃん達が、謎のエルフ娘なんて噂を流している訳だ」


 レンダも納得できたようで……って、あれ?


「お知り合いで?」

「僕は旅と好奇心の女神だよ?
 世界中を飛び回って噂をばらまくあの子たちに、加護を与えないとでも?」


 レンダがにんまりと笑う。
 ……コイツ、俺の事最初から知ってやがったな! 絶対そうだ!
 今度お仕置きだ!
 もちろん、シャーロをな!

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