転生しているヒマはねぇ!
70話 ぬいぐるみ
「ウフフ♪ 確かに、お店の方にいらしてくださいと申し上げましたが、まさかこちらにいらっしゃるとは……。てっきり、娼館の方に来てくださるとばっかり」
ボンキュッボーンさんが妖艶に微笑む。
いや、違う! 
こんな長い名前じゃない。ボボさん?ボボドロゴ?
いや、違う! 
ンボさんと合体してる!
確かもっと地味な名前だ。仮体と違って!
「あら、悲しいわ。わたしのことお忘れかしら?」
反応を示さなかったオレに、悲しむ様子をみせる。そんな姿まで色っぽい。
「と、とんでもない!
貴女のような美しい人を忘れる訳ないですよ!
この間は、わたくしごときの昇格祝いに参加してくださり、感謝いたします」
そう。思い出せないのは名前だけだ。
目の前のボンキュッボーンさん(仮)は、ラヴァー、ノラ、建築の匠カルジャーノと並ぶ居住界4代表の一人だ。
『い~と魔鬼魔鬼』で行われたオレとンボさんの昇格祝いの時に一度会ったきりだったから、しっかり名前を覚えていない。
というか、身体のインパクトが強すぎて名前がどっかに行ってしまった。
「ウフフ♪ ごときだなんてご謙遜を。
あの時は、あまりお話し出来ませんでしたから、改めてご挨拶させていただきますね」
そう言ってボンキュッボーンさん(仮)は、ボンの隙間から名刺を取り出して差し出してくる。
名刺を受けとると、不自然にならないように気をつけながら、すぐさま名前を確認した。
『冥界快適生活デザイナー   アベラ』
思い出した!
オレは表情を変えずに、心底ほっとする。
さすがに、身体の印象が強すぎて名前を忘れてましたとは言えない。
サヨナラ、ボンキュッボーンさん(仮)!
お久しぶり、アベラさん!
「そうそう。ご結魂されたんですってね。しかも、いっぺんに3魂と。
おめでとうございます。
お祝いとお近づきの印に、そちらはプレゼントさせていただきますわ」
「へ?」
アベラさんの言葉に戸惑うオレの角に、何かが噛みついた。
それはドラゴンだった。もちろん本物じゃない。 ぬいぐるみだ。中にリューリが入り込んでるのを感じる。
だが、翼をパタパタ、しっぽをバタバタさせながら飛んでいる姿は、本当にこのぬいぐるみが生きているようだった。
今度は、足元からフワフワした感触が感じられた。そこにいたのはウォーウルフのぬいぐるみだ。千切れるんじゃないかってくらいしっぽをブンブン振って、気持ち良さそうな毛に包まれたその体をオレに擦り付けてくる。
中に入っているのは……ルトルだな。
リューリもルトルも、ぬいぐるみのチョイスに、母親の影響を強く感じてしまう。
ところでもうひとり、チーノはどこだ?
正直、ラヴァーの魔獣のチョイスは想像がつかない。
リューリを角につけたまま見回すが、そばにそれらしいぬいぐるみはいない。
いや、……いた。
ぬいぐるみの群れから外れたところに、一体だけポツンと佇んでいるぬいぐるみがあった。
ガーゴイルだ。中には間違いなくチーノを感じる。
しかしピクリとも動かないな。どうしたんだ。まさか、アイツだけ上手く動かせないのか?
心配になったので、ルトルがしがみつく右足を、チーノに向かって踏み出す。
すると、踏み出した分だけ、ガーゴイルがズズッと後ろに下がった。
「ん?」
今度は左足を踏み出す。
同じ距離だけガーゴイルが下がる。
左足を戻す。
戻した分だけガーゴイルが前に出る。
素早く2歩下がった。
ガーゴイルが素早く2歩分前に出る。
楽しくなりかけたオレだったが、ドラゴンとウォーウルフがガーゴイルに挟撃をかけたので、ガーゴイルごっこは終了してしまった。ちょっと残念。
またじゃれつきあい始めた3子魂を、ぬいぐるみごと抱き上げる。
「いいんですか?
いただいちゃって?」
うん。我ながら遠慮がないな。
疑問形だが、抱きしめている段階で、すでにもらう気満々だ。
そんなずうずうしいオレを、アベラさんは気にした様子もなく、微笑する。
「ええ、もちろんですわ♪
是非、また遊びにいらして。
とは言っても、私はたまにしかいませんけどね。
……それにしても、本当に可愛らしいですわね。小さな魂は。
特にこの子は、美しいですわ」
アベラさんが、ウォーウルフに入り込んだルトルに手を伸ばす。
ルトルは彼女の手が届く前に、オレの腕の中から脱出し、オレの背中に隠れる。
「お、おい。どうした、ルトル?」
呼びかけても、ルトルはオレの背中に顔を埋めたまま、まったく動こうとしない。
「あら、嫌われちゃったかしら? 」
「すいません! 
なんか照れちゃったみたいで」
「いいえ。私の方こそ、急に触れようとして、驚かせてしまったのですね」
アベラさんは優雅に頭を下げる。なんだか、行動のひとつひとつに華を感じるな、このひとは。しかも艶のある華だ。
「いえ、気にしないでください。
えっと、ぬいぐるみ、本当にありがとうございます。
また、買い物にきます。今度はちゃんと」
「ウフフ♪
またのご来店をお待ちしております。
奥様たちにもよろしくお伝えください。
特にアイシス様には、たいへん御贔屓にしていただいておりますので」
ああ。やっぱり、常連なのか。
礼儀を欠くことは覚えさせたくないので、背中からルトルを引っ張り出し、3子魂揃って頭を下げさせ、小物店を後にする。
帰り道、時刻はもうすぐ夜の7時になろうとしていた。
閑静な住宅街に向かう道は、すでに魂通りはまばらだったが、他魂とすれ違う度に、生温かい視線を向けられた気がする。
まぁ、気のせいだろう。特に理由が見当たらない。
オレは気にするのをやめ帰路を急いだ。
頭にドラゴン、左肩にガーゴイル、右肩にウォーウルフのぬいぐるみを乗せながら。
ボンキュッボーンさんが妖艶に微笑む。
いや、違う! 
こんな長い名前じゃない。ボボさん?ボボドロゴ?
いや、違う! 
ンボさんと合体してる!
確かもっと地味な名前だ。仮体と違って!
「あら、悲しいわ。わたしのことお忘れかしら?」
反応を示さなかったオレに、悲しむ様子をみせる。そんな姿まで色っぽい。
「と、とんでもない!
貴女のような美しい人を忘れる訳ないですよ!
この間は、わたくしごときの昇格祝いに参加してくださり、感謝いたします」
そう。思い出せないのは名前だけだ。
目の前のボンキュッボーンさん(仮)は、ラヴァー、ノラ、建築の匠カルジャーノと並ぶ居住界4代表の一人だ。
『い~と魔鬼魔鬼』で行われたオレとンボさんの昇格祝いの時に一度会ったきりだったから、しっかり名前を覚えていない。
というか、身体のインパクトが強すぎて名前がどっかに行ってしまった。
「ウフフ♪ ごときだなんてご謙遜を。
あの時は、あまりお話し出来ませんでしたから、改めてご挨拶させていただきますね」
そう言ってボンキュッボーンさん(仮)は、ボンの隙間から名刺を取り出して差し出してくる。
名刺を受けとると、不自然にならないように気をつけながら、すぐさま名前を確認した。
『冥界快適生活デザイナー   アベラ』
思い出した!
オレは表情を変えずに、心底ほっとする。
さすがに、身体の印象が強すぎて名前を忘れてましたとは言えない。
サヨナラ、ボンキュッボーンさん(仮)!
お久しぶり、アベラさん!
「そうそう。ご結魂されたんですってね。しかも、いっぺんに3魂と。
おめでとうございます。
お祝いとお近づきの印に、そちらはプレゼントさせていただきますわ」
「へ?」
アベラさんの言葉に戸惑うオレの角に、何かが噛みついた。
それはドラゴンだった。もちろん本物じゃない。 ぬいぐるみだ。中にリューリが入り込んでるのを感じる。
だが、翼をパタパタ、しっぽをバタバタさせながら飛んでいる姿は、本当にこのぬいぐるみが生きているようだった。
今度は、足元からフワフワした感触が感じられた。そこにいたのはウォーウルフのぬいぐるみだ。千切れるんじゃないかってくらいしっぽをブンブン振って、気持ち良さそうな毛に包まれたその体をオレに擦り付けてくる。
中に入っているのは……ルトルだな。
リューリもルトルも、ぬいぐるみのチョイスに、母親の影響を強く感じてしまう。
ところでもうひとり、チーノはどこだ?
正直、ラヴァーの魔獣のチョイスは想像がつかない。
リューリを角につけたまま見回すが、そばにそれらしいぬいぐるみはいない。
いや、……いた。
ぬいぐるみの群れから外れたところに、一体だけポツンと佇んでいるぬいぐるみがあった。
ガーゴイルだ。中には間違いなくチーノを感じる。
しかしピクリとも動かないな。どうしたんだ。まさか、アイツだけ上手く動かせないのか?
心配になったので、ルトルがしがみつく右足を、チーノに向かって踏み出す。
すると、踏み出した分だけ、ガーゴイルがズズッと後ろに下がった。
「ん?」
今度は左足を踏み出す。
同じ距離だけガーゴイルが下がる。
左足を戻す。
戻した分だけガーゴイルが前に出る。
素早く2歩下がった。
ガーゴイルが素早く2歩分前に出る。
楽しくなりかけたオレだったが、ドラゴンとウォーウルフがガーゴイルに挟撃をかけたので、ガーゴイルごっこは終了してしまった。ちょっと残念。
またじゃれつきあい始めた3子魂を、ぬいぐるみごと抱き上げる。
「いいんですか?
いただいちゃって?」
うん。我ながら遠慮がないな。
疑問形だが、抱きしめている段階で、すでにもらう気満々だ。
そんなずうずうしいオレを、アベラさんは気にした様子もなく、微笑する。
「ええ、もちろんですわ♪
是非、また遊びにいらして。
とは言っても、私はたまにしかいませんけどね。
……それにしても、本当に可愛らしいですわね。小さな魂は。
特にこの子は、美しいですわ」
アベラさんが、ウォーウルフに入り込んだルトルに手を伸ばす。
ルトルは彼女の手が届く前に、オレの腕の中から脱出し、オレの背中に隠れる。
「お、おい。どうした、ルトル?」
呼びかけても、ルトルはオレの背中に顔を埋めたまま、まったく動こうとしない。
「あら、嫌われちゃったかしら? 」
「すいません! 
なんか照れちゃったみたいで」
「いいえ。私の方こそ、急に触れようとして、驚かせてしまったのですね」
アベラさんは優雅に頭を下げる。なんだか、行動のひとつひとつに華を感じるな、このひとは。しかも艶のある華だ。
「いえ、気にしないでください。
えっと、ぬいぐるみ、本当にありがとうございます。
また、買い物にきます。今度はちゃんと」
「ウフフ♪
またのご来店をお待ちしております。
奥様たちにもよろしくお伝えください。
特にアイシス様には、たいへん御贔屓にしていただいておりますので」
ああ。やっぱり、常連なのか。
礼儀を欠くことは覚えさせたくないので、背中からルトルを引っ張り出し、3子魂揃って頭を下げさせ、小物店を後にする。
帰り道、時刻はもうすぐ夜の7時になろうとしていた。
閑静な住宅街に向かう道は、すでに魂通りはまばらだったが、他魂とすれ違う度に、生温かい視線を向けられた気がする。
まぁ、気のせいだろう。特に理由が見当たらない。
オレは気にするのをやめ帰路を急いだ。
頭にドラゴン、左肩にガーゴイル、右肩にウォーウルフのぬいぐるみを乗せながら。
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