転生しているヒマはねぇ!
69話 おねだり
「いやー、あっしのところは、こんなにくっついてはきやせんでしたけどねぇ」
冥界新聞社の応接室で、3日分のオレの原稿を受け取ったノラが、苦笑混じりに言う。
最近はこうして数日分の原稿を渡している。ノラの方が1週間分のテーマを渡してくるようになったので、オレも書く日と、書かない日を分けたのだ。
その方が家族との時間を持ちやすい。
役所での仕事が終わってから、オレの仮体の上限定ではあるが、3子魂は動きっぱなしで一時もじっとしていない。
仕事中にじっとしていた鬱憤がよっぽど貯まっていたと見える。そんなに動き回りたいなら、仕事についてこなければと思いもするが、それはそれで嫌らしい。
「まぁ、今だけさ。さすがに仮体をつけるようになったら、職場につれていく訳にはいかないからな」
「そりゃそうでござんすね、なるほど、それまではダイチさんも子供とベッタリを堪能なされると」
「バレたか」
俺たちは声を出して笑いあった。
「それじゃあ、そろそろいくわ」
「はい。今回もお疲れ様でござんした。このコーナーもすっかり定着いたしやした。これからも、お願いするでござんすよ」
俺が応接室を出ようとすると、何かを思い出したらしいノラが呼び止めてくる。
「ダイチさん。たいしたことではないんでござんすが……。
これまで付き合いのありました、風神ウェントスとの縁をすっぱりと切らせていただいたでござんすよ」
ノラの言葉の端々に怒りのようなものを感じた。
「そりゃまたどうして?」
「いやね。付き合い自体がまだ50年程度しかないんでござんすが、あまり協力的ではなかったんでござんすよ。そのくせ、こちらの情報だけは、よこせよこせと。
そこにもって、今回無茶な要求をしてきやがったものですからね。今後一切ウチに関わるなと、縁切りを言い渡してやったでござんすよ!」
その時のことを思い出しているのだろう。ノラの言葉はどんどんヒートアップする。
「お、おお。ノラがそこまで怒るなんて珍しいな。
何を言われたか、聞いても?」
ノラはむしろよく聞いてくれたと、大きく頷く。
「今度開催される、神々への冥界説明会を中止させろと」
オレは思わず眉をしかめる。
「実はね、ダイチさん。あっしは一度も風神ウェントスに直接会ったことがないんでござんすよ。
あっしが会ったのは使徒天使プリサのみ。シャーロさんの紹介で、向こうから協力を申し入れてきたでござんすよ。
地方の山岳部族の信仰で生まれた地方神でござんすが、風神でござんすからな。
現界の情報集めに一役かってくれるのではと、期待したのでござんすが……」
見事に裏切られやしたと、ノラは自嘲気味に笑った。
――――――――――――――――――――
冥界新聞社を出て、家にまっすぐ帰ろうとしたら、3子魂が揃って右足に移動し、ズボンの裾を引っ張る。
引っ張っている方向は……。
「商店街に行きたいのか?」
オレの問いに、3子魂は跳び跳ねることで答える。
時計をちらりと見ると、6時を少し過ぎたところだ。
少し、寄り道をする程度なら、嫁さんたちに怒られることもない……と思う。
「う~ん。まっ、いいか。でも、お母さんたちが家で待ってるからな。あんまり長くは駄目だぞ」
3子魂は、さっと横一列に並び、頷くような姿勢をとる。
うん。ここらへんはアイシスの教育の賜物だな。
オレは3子魂に引っ張られるようにして商店街に向かう。
どうやら、最初から行きたい店が決まっていたらしく、3子魂は商店街に着いてからも、迷うことなくオレを誘導する。
もう6時を過ぎていたから、魂通りはだいぶ減っていたが、途中、魂とすれ違う度に、暖かい視線を向けられた。
きっと3つの小さな魂に引かれて歩くオレの姿は、とても微笑ましいものだったんだろう。
「あれ? ここって……」
3子魂に連れられて、たどり着いた小物店には見覚えがあった。
店先に並べられた人目を惹く可愛らしいアクセサリー。
店内の棚に並べられた、女性向けの可愛らしいハンカチーフやらリボン。
どこかの誰かさんが、キャッキャしそうな可愛らしいデザインの魔獣のぬいぐるみ群。
そう! べての商品の冠に『可愛い』がつく、『可愛い』の宝石箱のようなこの店は!
アイシスのお見舞い品として贈り、今ではアイシスの部屋の神棚に飾られている『ケロちゃん』(カエルではない)を購入したあの店ではないか!
3子魂は、他の商品には目もくれず、ぬいぐるみの群れに飛び込んだ。
「コ、コラ、お前ら落ちつけ!
わかった、買ってやる!
一人一個なら買ってやるから!」
オレが割りと必死に3子魂を説得していると、無駄に色っぽい声が聞こえてきた。
「あらあら? あらあら! あらあら~♪」
店の奥から、ボンキユッボンが現れた。
冥界新聞社の応接室で、3日分のオレの原稿を受け取ったノラが、苦笑混じりに言う。
最近はこうして数日分の原稿を渡している。ノラの方が1週間分のテーマを渡してくるようになったので、オレも書く日と、書かない日を分けたのだ。
その方が家族との時間を持ちやすい。
役所での仕事が終わってから、オレの仮体の上限定ではあるが、3子魂は動きっぱなしで一時もじっとしていない。
仕事中にじっとしていた鬱憤がよっぽど貯まっていたと見える。そんなに動き回りたいなら、仕事についてこなければと思いもするが、それはそれで嫌らしい。
「まぁ、今だけさ。さすがに仮体をつけるようになったら、職場につれていく訳にはいかないからな」
「そりゃそうでござんすね、なるほど、それまではダイチさんも子供とベッタリを堪能なされると」
「バレたか」
俺たちは声を出して笑いあった。
「それじゃあ、そろそろいくわ」
「はい。今回もお疲れ様でござんした。このコーナーもすっかり定着いたしやした。これからも、お願いするでござんすよ」
俺が応接室を出ようとすると、何かを思い出したらしいノラが呼び止めてくる。
「ダイチさん。たいしたことではないんでござんすが……。
これまで付き合いのありました、風神ウェントスとの縁をすっぱりと切らせていただいたでござんすよ」
ノラの言葉の端々に怒りのようなものを感じた。
「そりゃまたどうして?」
「いやね。付き合い自体がまだ50年程度しかないんでござんすが、あまり協力的ではなかったんでござんすよ。そのくせ、こちらの情報だけは、よこせよこせと。
そこにもって、今回無茶な要求をしてきやがったものですからね。今後一切ウチに関わるなと、縁切りを言い渡してやったでござんすよ!」
その時のことを思い出しているのだろう。ノラの言葉はどんどんヒートアップする。
「お、おお。ノラがそこまで怒るなんて珍しいな。
何を言われたか、聞いても?」
ノラはむしろよく聞いてくれたと、大きく頷く。
「今度開催される、神々への冥界説明会を中止させろと」
オレは思わず眉をしかめる。
「実はね、ダイチさん。あっしは一度も風神ウェントスに直接会ったことがないんでござんすよ。
あっしが会ったのは使徒天使プリサのみ。シャーロさんの紹介で、向こうから協力を申し入れてきたでござんすよ。
地方の山岳部族の信仰で生まれた地方神でござんすが、風神でござんすからな。
現界の情報集めに一役かってくれるのではと、期待したのでござんすが……」
見事に裏切られやしたと、ノラは自嘲気味に笑った。
――――――――――――――――――――
冥界新聞社を出て、家にまっすぐ帰ろうとしたら、3子魂が揃って右足に移動し、ズボンの裾を引っ張る。
引っ張っている方向は……。
「商店街に行きたいのか?」
オレの問いに、3子魂は跳び跳ねることで答える。
時計をちらりと見ると、6時を少し過ぎたところだ。
少し、寄り道をする程度なら、嫁さんたちに怒られることもない……と思う。
「う~ん。まっ、いいか。でも、お母さんたちが家で待ってるからな。あんまり長くは駄目だぞ」
3子魂は、さっと横一列に並び、頷くような姿勢をとる。
うん。ここらへんはアイシスの教育の賜物だな。
オレは3子魂に引っ張られるようにして商店街に向かう。
どうやら、最初から行きたい店が決まっていたらしく、3子魂は商店街に着いてからも、迷うことなくオレを誘導する。
もう6時を過ぎていたから、魂通りはだいぶ減っていたが、途中、魂とすれ違う度に、暖かい視線を向けられた。
きっと3つの小さな魂に引かれて歩くオレの姿は、とても微笑ましいものだったんだろう。
「あれ? ここって……」
3子魂に連れられて、たどり着いた小物店には見覚えがあった。
店先に並べられた人目を惹く可愛らしいアクセサリー。
店内の棚に並べられた、女性向けの可愛らしいハンカチーフやらリボン。
どこかの誰かさんが、キャッキャしそうな可愛らしいデザインの魔獣のぬいぐるみ群。
そう! べての商品の冠に『可愛い』がつく、『可愛い』の宝石箱のようなこの店は!
アイシスのお見舞い品として贈り、今ではアイシスの部屋の神棚に飾られている『ケロちゃん』(カエルではない)を購入したあの店ではないか!
3子魂は、他の商品には目もくれず、ぬいぐるみの群れに飛び込んだ。
「コ、コラ、お前ら落ちつけ!
わかった、買ってやる!
一人一個なら買ってやるから!」
オレが割りと必死に3子魂を説得していると、無駄に色っぽい声が聞こえてきた。
「あらあら? あらあら! あらあら~♪」
店の奥から、ボンキユッボンが現れた。
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