転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

67話 蛇髪様?

 オレは、石になったように固くなった首を動かして、後ろを振り返ろうとするが、……駄目だ! 動かない!

 落ちつけ、落ちつけオレ。後ろに誰がいるかはわかっている。
 オレが変なイメージを抱いちゃってるから、動かないだけだ。
 あのおばちゃんが特別な力を持っている訳じゃない!

 もうオレは、自分の冥力を抑えきれなかった頃のオレじゃない!
 ここには、オレが守らなければならない3魂がいる!
 そして! 常に魂で繋がり、オレを支え続けてくれる3人の嫁さんがいる 

 リラーックス♪ リラーックス♪
 大丈夫だよ。後ろのオバチャン恐くないよ。
 ただの蛇だからね。メデューサの髪の毛じゃないからね~♪
 ただの蛇だよ。
 何でも丸呑みしちゃうだけの、可愛い蛇さんだよ♪
 ほ~ら、力が抜けてきた♪

 硬直化が解けたオレは、すぐさま振り返り、オバチャンに対して臨戦体勢を……?


「アナタハダレデスカ?」


 振り返った先には、蛇顔のオバチャンはいなかった。
 代わりにいたのは、蛇っぽい顔をした清掃員姿のお姉さんだ。
 色白の透き通るような、綺麗な肌のお姉さん。
 そのお姉さんが、手にしていたモップを床に叩きつけた。


「ふざけてんじゃないよ! あんたは恩人の顔も忘れるのかい! とんだ恩知らずだよ!」


 そう言われてもなぁ。顔に見覚えが……あった。


「ア、アンタ、オキョウか! なんで元に戻ってんだ?」

「元に戻ったって言うんじゃないよ! 若返ったって言いな!」

「結果、同じじゃねえか」

「気分がだいぶ違うんだよ!」
  

 うるさい奴だな。


「それで、なんで若返ってんだよ」

「ハッ! そんなこともわかんないのかい。若返りの秘訣なんて、ひとつに決まっているじゃないか」


 そう言って、身体をクネクネさせる。


「スネークダンスのおかげさ」

「そんなわけないだろ!」


 仮体の姿は、魂魄の状態に左右される。
 精神状態と言い換えてもいい。
 もっと追及しようかとも思ったが、今はそんなことより大事なことがある。


「あのー、教育上良くないので、ウチの子たちに変なものを見せないでくれます?」

「変なものとはなんだい! ……って、ウチの子たち? そのちんまい魂どものことかい?」


 カワイイと言え!
 無言で凄んでみたが、オキョウには通じない。


「ハン! 子連れで職場に来るとは、良いご身分じゃないか」


 クッ! それを言われると弱い。


「こ、こっちには育休ねぇんだから仕方ないだろ!  そんなことより、オキョウはなんでここにいるんだよ! ココ、魔獣部からだいぶ離れてるだろ!?」

「ハッ! 相変わらず理解力の乏しい男だね。そんなことだから、思い込みで動けなくなったりすんのさ!」


 オキョウは大きくため息をついて、やれやれと首を振る。
 ……ムカつく。


「できる女は、引く手数多ってことさ」

「サボってんの、バレたんだろ?」

「うっさいね! あたしはあたしの計画通りに仕事をしていたただけさ!」


 図星か。しかし、サボる奴を別の場所に回したってまたサボるだけだろ。何考えてんだ、総務部?


「オキョウさ。せっかく若返ったんだから、前みたく真面目にやればいいだろ?
 また、フケ老けちまうぞ」

「わかってるよ! だから、やってんじゃないのさ!」


 オレの前にモップを突きだしてくる。


「配置転換になったのは、以前の長期計画がバレたからだよ! まぁ、仕方ないさ。今はココを美しく磨きあげるだけ。……それも後わずかだけどね」


 オキョウは振り返り、彼女がモップをかけてきたであろう廊下を見つめる。


「どういうことだよ?」

「言ったろ? できる女は引く手数多なのさ。こないだ、知り合った相手にスカウトされたんだよ。ウチで働かないか、ってね。それで、ココを辞めることにしたのさ。わかる奴にはわかるってことさ。このあたしの有能さがね」

「ふーん」


 どちらにしろ、清掃する場所が替わるだけの気がするな。


「フッ。だから、あんたとこうして役所の廊下で会うのも、これが最後になるだろうね」


 まるで、毎日会ってたかのように言うが、オキョウと会ったのは、マーシャの執務室を含めても4回だけだ。インパクトだけは、強かったがな。


「ソウカ。サミシクナルナ。アタラシイショクバデモガンバレヨ。……あばよ!♪」


「最後だけ、感情込めんじゃないよ!」


 オレは、オキョウの投げつけてきたモップを、華麗にかわしてみせた。

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