転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

62話 結魂披露宴

 オレは想像する。
 現象を創造するおれを。
 オレの魂魄が消滅していくイメージを。

 最初は変な妄想からでないと発動しなかったが、この間は言葉を思い浮かべただけで発動したから、もしもオレの冥力に、魂魄を消滅させるだけの力があるなら、この想像でもいけるはずだ。
 この力が目覚めた切っ掛けは、たぶん極炎竜エルブシオンに威圧感をぶつけられたこと。
 魂魄に直接圧迫を受けたことが原因だと思う。

 それまでも、マーシャやアイシスに魂魄に直接刺激と言うか、打撃をもらったことはあったが、こちらでは、なんの変化も起きていない。

 何が違ったのか?
 威圧感の正体を誰にも確認していないが、俺の予測では、魔力ではないかと考えている。それも現界原産の魔力だ。
 誰でもなのか、オレだからなのかはわからないが、魔力による魂魄圧迫。
 これが冥力に目覚めた原因なんじゃないだろうか?
 先日は交流会で多数の神から威圧感を受けた。
 その直後に、オレの力は言葉を思い浮かべただけで発動するような、強力なものに進化している。
 威圧感の正体が魔力であろうとなかろうと、威圧感がオレの冥力開花と成長の引き金になったのは明白だ。
 消滅したい訳じゃない。消滅させたい訳でもない。
 ただ、マーシャの言う通り、暴発する可能性がある。
 自分の力の把握は必要だ。
 でも、そのために懸けるのは友達の命じゃない。
 自分の命だ。

 オレは目を閉じて、さらに念じる。
 冥力よ! オレの中にあるっていう、はた迷惑な力よ!
 オレの魂を消せるものなら消してみろ!
 こう見えても、けっこうしぶといからな! 半端な力じゃ消えねぇぞ!


「ダ、ダイチ  お前、何をしておる! その光はなんじゃ 」


 光?

 とても慌てた様子のマーシャの声に、固く閉ざしていた目を開ける。

 オレは、光の円に囲まれていた。光はオレの足下から発し、頭上高く伸びている。

 突如、仮体の全身から煙が立ち上ぼり始めーーーーっ!


「イッテェーーーーーッ 」


 イタイ! イタイ! イタイ! イタイ 
 洒落にならない痛みが全身を襲う!
 間違いない! この光、魂魄を削っていってる! 消せる! オレの冥力は魂魄を消滅させることが出来る!

「ストーップ  冥力さん、たんま! ゴメン! 貴方の実力わかったから! さっきの取り消し! ホント、もう無理だから! ちょっとやめて 」


 声にまで出して懇願するが、いっこうに手を緩める気配がない。
 嘘だろ! 前は止めようと思えば、すぐ止めれたのに!
 絶対に、この間の交流会で強化されすぎたんだ。

 いまや完全にオレの手から離れた冥力さんは、確実にオレを消しにかかってきてる!
 ヤバい! 消滅したくなかったら、オレ自身が冥力さんの力を上回るしかない!


「何をしておるか、この阿呆! 待ってろ、今なんとかしてやる!」


 ダメだ! 直感でわかる! これはマーシャでもダメなやつだ。


「来るな!」


 オレは強い想いを込めて、マーシャにぶつける。
 魔力の海を駆けて来ようとしたマーシャの動きが止まる。


「なん……だと  身体がうごかん!」


 すごいな、オレの冥力さん。あのパワー馬鹿のマーシャの動きを封じるなんて。
 良かった。消滅の想いをアイツに向けてなくて、本当に良かった。
 仮体の目から涙が溢れる。これは嬉し涙だ。決して痛いからじゃないからな!

 あーっ、クソ! 悔しいな。現界の神々との仲直り計画もたててないし、魂すり替え事件の謎もいっこうに解けてないし。

 あの三人には悪いことしたな。必ず返事するって言ったのにな。
 もしかしたら、オレにもお嫁さんが来てくれたかもしれないのになあ。
 死んでるし、異世界だけど。
 魂魄消滅したら、オレの意識はどうなるんだろう?
 まぁ、終わるんだろうな。消滅って言うくらいだから。
 冥々界ってあったりして♪
 ……ないか。

 終わりが近づいてきたな。幻が見える。
 最後に見る幻が、スリーショートだなんて、どこまでショートヘア好きなんだ、オレ。


「諦めちゃダメ! ダイチさん、まだ魂すり替え事件の謎、全然解けてないんですよ!」


 ソレイユの幻が、オレの右手をしっかりと握る。


「だいたい相談事は、マーシャ様やレイラさんより先に、私たちにするべきじゃないか? 魂約者みたいなものだろ? 私たちは!」


 アイシスの幻が、オレの頭をガシッと鷲掴みにする。


「深く同意」


 ラヴァーさんの幻が、オレの左手をって! 
 全員、本物じゃん!
 しまった! 痛みに気を取られて、マーシャ以外に気を配ってなかった。


「ダメだ! お前ら、今すぐ離れろ! このままじゃお前たちも消えちまう!」


「無理みたいです。すごいな、ダイチさんは。こんな痛みと戦えるなんて」


 なんで、なんで笑えるんだよ、ソレイユ!


「ああ、さすがダイチだ。こんなに痛みを感じるのは、初めてマーシャ様に会って、喧嘩を売った時以来だな!」


 ヤンチャすぎるよ、アイシス!


「この痛みも、ダイチが与えてくれていると思うと……ポッ♪」


 ヤベェ! ラヴァーさんはすでに壊れかけてる!


「クソッ! 止まれ! 止まれ! 止まれ!」

「落ち着け、ダイチ。まだ、間に合う。一人一人では無理でも、みんなでなら、この冥力を抑えられる」


 オレの頭を鷲掴みにしたまま、アイシスは力強く言い切る。


「ダイチ、辛いとは思うけど、目を閉じて自分の魂魄を感じてくれ」


 オレはアイシスの言葉を信じる。
 言われた通りに目を閉じ、削れていく自分の魂魄を感じる。

 ん? なんだ? すぐ近くに別の魂魄を感じる。これは……三人の魂魄か!


「ふれてくれ、ダイチ。私たちの魂魄に。お前の魂魄を、しっかりと重ねてくれ」

「掴んでください。あなたの魂魄で。私たちの魂魄を離さないで」

「永遠に」


 暖かい。近づくだけで癒されていく。
 彼女たちの魂魄にふれる。オレのことを想う気持ちが、流れ込んでくる。
 そして、三人の魂魄をオレの魂魄でしっかりと掴んだ。


「ッ  なんだ、コレ  力が! 力が溢れてくる!」


 冥力とは明らかに違う、温もりに満ちた力が、魂魄の奥から涌き出てくる!


「すごい! すごいよ、ダイチ! 力が漲ってくる!」

「はい! それに、痛みが嘘のようになくなりました。それに、暖かい。すごく暖かいです!」

「快感♪」


 冥力が生みだした魂魄削りの光は、いつの間にか消えていた。
 どうやら、三人のおかげで、九死に一生を得たようだ。


「ダイチ!」


 オレの呪縛が解けたマーシャが、こちらに駆け寄ってくる。
 ヤバいな。結果的に助かったとはいえ、完全にマーシャに逆らった形だ。
 しょうがない。2、3発は黙って殴られてやろう。心配をかけちまったからな。
 ところが、マーシャは殴ってくるどころか、満面に笑顔を浮かべていた。


「ダイチ!」


 マーシャの異様に強い呼び掛けに、身が引き締まる。


「は、はい!」

「結魂、おめでとう!」

「は、は……はい~?」

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