転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

51話 第3の刺客

「お疲れさまでした、ダイチさん。
 今日もこの後は、ノラさんのところですか?」

「ああ。もう日課だからな。仕事終わったら、部屋に原稿取りに行って、冥界新聞社に届けて、部屋に戻って飯食って、明日分の原稿書いて寝る。
 たまに、ンボさんと『い〜と魔鬼魔鬼』で飲む。最近は、ノラも一緒だ」

「そうなんですね。でも、あまり同じことの繰り返しは、よくないんじゃないですか?」

「う~ん。オレってここで働き始めてから、やたらと刺激の方がよってくるから大丈夫だと思うんだよな。
 そ、それにさ、今は考えなきゃいけない大事なことがあるから・・・さ」

「そ、そうでしたね。消滅してる場合じゃないですもんね」 


 そんなことを話ながら転移部屋に入ろうとしたオレたちだったが、一歩早く、転移部屋からアイシスが出てきた。


「あ、よかった♪ まだ、いてくれたんだな。お疲れ様ダイチ、ソレイユ」

「お疲れ」

「お疲れ様です、アイシス」


 ん? アイシスとソレイユがなんか親しげだ。
 あー、そうか。アイシスは面倒見がいいものな。
 同じマンションに住んでいる秘書さんたちの中でも、一番あれやこれやと世話を焼いていそうだ。


「どうしたんた? アイシスがここまでくるなんて、なにか緊急事態でも?」


 オレがそう言うと、アイシスはどうだろうと考え込んだ。


「うーん、単に私が我慢しきれなくなったというだけで……あー、そういう意味では、緊急と言えなくもない!」


「それはいいけど……アイシスなんで手が後ろ手に縛られてるの?」


 ソレイユの言葉に、ぎょっとして、アイシスの後ろにまわって見ると、確かにアイシスの両手が、腰の辺りでしっかりと縛られていた。


「ああ、これか。ラヴァーさんに縛ってもらったんだ!」

「縛って……もらった?」

「そうだ。だって、こうでもしないと私、ダイチを抱きしめて、キスして、押し倒して、無理やり結魂しかねない!」


 三魂目の求魂は、とてもワイルドのようです。


「ラヴァーさんの仮体に変化が起きたのは知っているか?」

「な、なんだと  さらに若返ったのか!?」


 ラヴァーさんが、あの仮体から若返ったら、幼女だ。さすがに結魂は犯罪ではなかろうか?


「いや、違う。ラヴァーさんは若干成長していた。
 それよりも!」


 なぜか、アイシスがとても幸せなそうな顔をする。


「ダイチは、私みたいなヘアスタイルが好きだったんだな。
 ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいよ♪」


 な、なぜ、バレた!
 ラヴァーさんには魂魄の内を確かに語ったが、『黒髪ショート最高♪』までは言わなかったはず!


「ラヴァーさん、ダイチに求魂したその日、ダイチにもっと好かれたいって願いながら、シャットダウン……ラヴァーさん的に、寝るという意味らしいんだけど、そうしたら翌朝、顔立ちや身体が少し成長してて、私と同じ髪型になってたって。色はそのままだったけど」


 ちゃ、茶髪眼鏡ショート 


「ラヴァーさん曰く、『アイシスは出会った時から、ダイチに愛されていた。羨ましい』だって!
 そのあと1時間くらい、ダイチの話で盛り上がって……レイラさんに、仕事の効率が悪いって怒られた」


 幸せそうに話していたアイシスが、最後のところだけショボンとする。
 相変わらず、表情がはっきりしていて可愛らしい。


「……そっか。ダイチさん、短い方が好きなんですね。
 ……良かった」


 前髪をいじりながらのソレイユの呟きに、アイシスが反応した。


「ソレイユもダイチのことが好きなのか?」


 ソレイユは明らかに狼狽していたが、アイシスはさらに幸せに包まれたかのように破顔する。


「そうか! ソレイユもダイチの良さをわかってくれるか! 嬉しいよ!


 プルルさんの時みたく、焼きもちでもやくかと思ったが、まったくその気配はなかった。


「なんか、プルルさんと角合わせをした時と全然違うな。
 あの時は部屋に引きこもったのに」


 アイシスが顔を真っ赤にする。


「な、なんで今その話が出るんだ!
 あの時は、自分の気持ちがなんなのか、わかんなくて、ああなっちゃったんだ!
 今はダイチのことが好きだってわかってるし、そ、そのダイチも私のことが好きだってわかってるから平気だ」


 正面からぶつかってくる愛情が、嬉し恥ずかしだった。
 アイシスも少しばかり恥ずかしかったのか、視線をすぐにオレからソレイユへと移す。


「ところで、ソレイユはもう求魂したのか?」


 純真が服を来て歩いているようなアイシスに、ソレイユは誤魔化すこともできず、若干の躊躇いは見せたが、やがてしっかりと頷いた。


「そっかー! 自分からしても良かったんだー。失敗した……」

「どういうことだ?」

「いや、以前ダイチの生きてた頃の故郷のことを調べていたら、プロポーズだったか? ダイチの国の求魂は、男からするのが、一般的だって書いてたから、その……待ってたんだ。
 ダイチが求魂してくれるの」


 な、なんと!


「オレの魂魄が崩壊するのを心配して、ではなかったのか……」

「へ? なんで? ダイチの魂が結魂くらいで崩壊するわけないじゃないか」


 アイシスが心底不思議そうにしてくる。


「ダイチの魂は、私たちの感情がまとめて流れたって崩壊なんてしない。そんな柔な魂じゃない。私が保証する!
 それに私たちが結魂して、ダイチに流れ込むのは、ダイチが好きだっていう感情だ。幸せになりこそすれ、崩壊なんてするはずないじゃないか!」


 オレとソレイユは、思わず顔を見合せ、どちらからともなく笑った。
 やっぱり、アイシスはすごい。
 言葉に力がある。


「なんだか、二人して悩んでいたのが、馬鹿みたいですね」

「まったくだ」


 訳がわからないといった表情のアイシスに、オレはきちんと向かい合ってきっぱりと言った。


「ありがとう、アイシス。
 おかげで覚悟が決まったよ。
 でも、少しだけ待って欲しいんだ。
 最近、妙な力に目覚めちまって、下手したらその力のせいで、結魂したらみんな揃って崩壊やら消滅やらになりかねないんだ。
 だから、この力を使いこなせるようにすために、時間が欲しい。
 必ず、3人にはきちんと返事をするから……頼む!」


 おもいっきり、頭を下げる。
 次に顔をあげた時に見えたのは、二人の微笑と頷きだった。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品