転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

45話 思惑

 オレは、今日感じたマーシャへの疑惑も含め、魂魄の内を包み隠さず吐露していた。
 途中、何度かウェイターが料理と酒を交換に来ていたが、気にせず話し続ける。

 ラヴァーさん本人は、聞き役には向いていないかもと言っていたが、まったくそんなことはなかった。
 余計な口は挟まない。絶妙のタイミングの相づち。
 表情の変化が若干乏しいというだけで、感情はしっかりと伝わってくるし、オレに向けられている眼差しは真剣そのものだ。
 気がつけば、オレは2ヶ月の間の心の声のほとんどを吐き出していた。
 言わなかったのは、せいぜい『黒髪ショート最高‼』くらいだ。これは、あくまで、フェチ的なモノであって、感情とは別だ。特に吐露するものではない。


「……そうか。ダイチの気持ちはわかった。
話が聞けて本当に良かった。
 ただ、今日、ダイチがマーシャ様に抱いた疑惑は、誤解である可能性が高いと進言する。

 理由その1、マーシャ様は個別に、冥界魂への認識力をコントロールするといった、細かい芸当は料理を除き、不可能と言っていいくらい下手だ。隠すことも駄目。
 あの方の行動は、総じて豪快。無駄に存在をアピールはしても、特定の相手に存在を感じさせないなどあり得ない」


 これは、ある意味信頼と言って良いのだろうか?
 言葉に容赦を感じない。


「理由その2、視察の場には、マーシャ様とは逆に、そういったこそこそと隠れて行動するのが得意そうな人物が同席している」

「……あ! クルデレか!」

「そう。自動監視装置の目を、誤魔化し続けていた実力者。
 二人に冥界魂把握の魔方陣の処理をしたのが彼女なら、ダイチとマーシャ様の姿を視認できることを隠す為に、魔方陣の認識力を一時的に止めたとしても不思議はない」

「……ああ、うん。確かにそうですね」

「でも、マーシャ様が、ダイチの魂を異世界に留めたという容疑を消す理由にはならない。クルデレが利用したというのが、マーシャ様を指している可能性は充分にある。
 その点に関しては疑い続けるべき」

「仰る通りです。それにしても、なんでクルデレはそんな冥界魂を認識できるような魔方陣を二人の身体に刻んだのですかね?」

「それは簡単。クルデレが現界ではなく冥界の魂だから。
 他の現界の魂にまったく認識されていないのが良い証拠」

「え? でも、ソレイユはいつからかは覚えてないけど、ずっと一緒にいたって言ってましたけど……」

「冥界の魂が現界に行くのに、現界の有力者に連絡を入れるのは、あくまで正規の手続き。
 無断で移動したり、居続けたりしたとしても、魂に不都合が発生する訳ではない。居ようと思えば居れる。
 でも、現界側にも冥界側にも、存在をはっきりとつかませていない。相当、実力のある魂。
 でも、魂は強ければ強いほど目立つ。
 特に冥界では。
 どうやって隠れて行動しているのか興味深い」


 ラヴァーさんは眼鏡をクイと上げて、クルデレへの感想を述べる。


「……そうか。そうですよね。冥界の実力者なら、監視装置なんかの仕組みとかもわかってそうですもんね」

「うん。監視装置さえクリアすれば、後は楽。
 稀に視察に来る冥界の魂に、二人が反応しないように、魔方陣の効果をコントロールすれば、誰に見咎められることなく、二人をサポートできる」

「サポートですか?」


 ラヴァーさんがコクンと頷く。翼以外はサイズが小さいので、動作のひとつひとつがとても可愛らしい。


「話を聞いた限り、本人が積極的に現界でなにかをなそうとしてるとは感じない。
 二人、特にソレイユの魂に強い固執。
 クルデレにとって、転生させる魂がソレイユの魂であれば、器は必ずしも王子のモノである必要はなかったと感じる。
 それと、クルデレの利用という言葉は、解釈の仕方が2つある。
 相手と協力関係を結んだ上で利用した。
 相手には存在を知られずに、一方的に利用した。

 さらにクルデレの邪魔、王子を殺害した勢力。
 利用した相手とイコールの可能性もある。
 違う場合は、今回の魂入れ替え事件に関係する勢力は最低でも3つとなる。
 場合によってはもっと出てくるかも。
 事態はいよいよ混迷」


 ここにきて、ラヴァーさんの声が弾んでいる。


「楽しそうですね」

「うん。謎解きは好き」


 その素直な返事に、思わず顔が綻ぶ。


「ダイチは、後に現界に転生するにしても、まずこの事件の真相をはっきりさせたい。そういう認識で良い?」

「はい、問題ないです。さすがに、これをうやむやにして、再出発はできません」

「理解。ダイチは共に解決の為に歩める、心から信頼できる仲間が欲しい。これも良い?」

「ええ。オレの魂脈は、ンボさんを除いて、マーシャやノラといった冥界の有力者経由です。
 ンボさんはこの件には巻き込みたくないので、両者と敵対関係になった場合、オレには味方が残らない」

「そんなことはないと思うけれど、ダイチがそういう不安を抱くのは無理のないこと。
 ……そこで、私からダイチに提案がある」


 ラヴァーさんが、ピッと人差し指をたてる。


「ダイチの不安を解消し、さらに、これまでの私の冥界魂救済計画に足りなかったモノを補完する、画期的な提案」

「そ、そんなのがあるんですか⁉」

「ある。聞いてくれる?」

「はい!」

「ダイチ」

「はい!」

「私と結魂してくれ」

「はい! ブッ‼」


 オレは、食道を通過しようとしていた、45世界目を盛大に吹き出した。

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