転生しているヒマはねぇ!
36話 謎のメイドさん
「単刀直入に言うと、クルデレという名のエルフは存在しない」
「は?」
「冥界新聞社の特派員さんの調査結果では、王国の記録の中にエルフのメイドさんが入ってきた記録も出てった記録もないんだと。魔獣に関しては、ちゃんと一匹ずつ記録に残されていたにも関わらずだ。
ただ、その特派員さんが、直接お前の様子を見に行ったのは、生まれた時と、ハイエルフからクロスジャミールを送られた時だけではあるんだがな」
現界から戻り、選魂係に資料を提出し終えたオレは、休憩室で、正体不明のエルフメイド『クルデレ』に関して、ノラから聞いた話をソレイユに聞かせていた。
ソレイユは訳がわからないと首を振る。
「おかしいです! 確かにいたんです、クルデレは!」
「落ち着け、落ち着け。オレも見てるし、マーシャも見てる。
確かにいたよ。エルフのメイドさんは。
でも、困ったことに、監視課のモニターに姿が映っている映像がない。
マーシャが言うには、監視装置の働きを妨害するような魔障壁を展開していたんじゃないかってさ。
それに、人類部の資料にはさ、クルデレという名前のエルフはなかった。偽名を使ったとしても、その頃、消息不明になっていたエルフの魂もないらしい」
がっくりと肩を落とすソレイユ。
「それじゃあ、クルデレに関しては、なにもわからないということですか……」
ため息混じりのソレイユの言葉に、オレは首を振った。
「まったくってことはない」
ソレイユが不思議そうにオレを見る。
「クルデレちゃんはさ、現界で生きている連中だけじゃなく、冥界の自動監視装置の目まで欺いてるんだ。
つまり、クルデレちゃんは、冥界の存在を、転生役所が魂の監視をしていることを知っている。
お前のそばにいて、なおかつ冥界となんらかの繋がりを持つ。
魂すり替え事件にも関係していると考えるのが自然だ」
この考えは、マーシャにも話し済みだ。
冥界には、現界不干渉というルールがある。
これは、魂の管理を冥界に一任することへの代わりとして、現界に長く住み続ける強い力を持つ魂たちへの、冥界代表の配慮だという。
だが、現界側が、冥界の魂の管理になんらかの関与をしてきたというなら、話しは変わる。
まずは、現界側の有力者たちに、今回のあらましを説明し、クルデレの捜索も含めた協力を要請。
らちが明かないなら、強制捜索も辞さないとマーシャは言っていた。
「なぁ、クルデレってのは、どんな奴だったんだ?」
「そう……ですね。しきりに、私を選ばれた人間だと、運命に逆らわず、使命を果たすべきだと言っていた気がします。距離ができた今だからこそ言えるんですが、まるで私を焚き付けているようでした」
むぅ? それを素直に受けとるとしたら、クルデレはソレイユに、勇者の真似事をさせたかったということか? だとしたら、クルデレには、ソレイユを暗殺する理由はない。
「嫌な思い出だろうから、答えたくなかったら、答えなくても構わないんだが、お前が死んだ時、彼女はそばにいたのか?」
「クルデレが私を殺したと?」
「いや、先のお前の話からだと、そうは思えないんだ。
ただ、お前に毒を盛ろうとした人間が他にいたとしてだ。
現界と冥界、どちらの目も誤魔化してきたような実力者が、それをみすみす許しちまうかなって思って……」
「……」
ソレイユが目を閉じた。
まるで、瞼の裏にその時の情景を映しだそうとするように。
「一緒に庭園にいたのは間違いありません。
絶対とは言いきれないんですが……、私が体に異変を感じ倒れてから死ぬまでの間、必死に私を現界に引き留めようとする声が、たくさん聞こえたと思うんです。
その中には、クルデレの声もあった気がします。
もっとも、現実のことではなく、私の頭の中でだけで響いた、幻聴かもしれませんけどね」
悲しみ、苦しみ、恐れ、そして、願望。
今のソレイユの魂魄にはそんな感情が交互に、現れては消え、現れては消えている。……オレにはそう感じられた。
「他の奴等とクルデレはどんな感じだった」
「そうですね……あれ? そう言えば、クルデレが他の誰かと会話をしてるところを見たことないかも」
マジかよ……。徹底してんな。
「あ! いや、待ってください!
1度だけ誰かと言い争っていたのを見ました。
どこだったかな? 城内には違いないと思うのですが。
それに、相手は知らない人だったような……。
あれ? でも、どこかで会ったような……。
……え⁉  あれ? マーシャ様に似てたような?」
……は!? 今こいつ、なんて言った?
聞き直そうとした時、オレの魂魄が震えた。
魂魄通話だ。
相手は……ノラ。
「悪い、ソレイユ。魂魄通話入った。出てもいいか?」
「へ? あ、はい。どうぞ」
ソレイユの了解を得て、オレは魂魄信号をノラの信号と結びつける。
(お待たせ。どうした、ノラ)
(ああ、ダイチさん。仕事中に申し訳ないでござんす。今日も原稿をウチに持って来てくれる予定でござんしょ?)
冥界新聞に載るオレの文章の話だな。
ついでに小タイトルがついている。
『ダイチさんの現界にもの申す』だ。
ちょっと恥ずかしい。
今回のテーマは、南西の大陸で起こった宗教戦争についてだ。
昨日のうちに書き終えているから、後は新聞社に持っていくだけだった。
(うん。そのつもりだけど)
(ありがとうでござんす。ただ、もし可能なら、仕事が終わったら、すぐにウチに来やせんか?)
(ん? なんかあるの?)
(はい。……ダイチさん、現界に住む魂と話してみたいと思いやせんか?)
ノラの声はとても楽しそうに弾んでいた。
「は?」
「冥界新聞社の特派員さんの調査結果では、王国の記録の中にエルフのメイドさんが入ってきた記録も出てった記録もないんだと。魔獣に関しては、ちゃんと一匹ずつ記録に残されていたにも関わらずだ。
ただ、その特派員さんが、直接お前の様子を見に行ったのは、生まれた時と、ハイエルフからクロスジャミールを送られた時だけではあるんだがな」
現界から戻り、選魂係に資料を提出し終えたオレは、休憩室で、正体不明のエルフメイド『クルデレ』に関して、ノラから聞いた話をソレイユに聞かせていた。
ソレイユは訳がわからないと首を振る。
「おかしいです! 確かにいたんです、クルデレは!」
「落ち着け、落ち着け。オレも見てるし、マーシャも見てる。
確かにいたよ。エルフのメイドさんは。
でも、困ったことに、監視課のモニターに姿が映っている映像がない。
マーシャが言うには、監視装置の働きを妨害するような魔障壁を展開していたんじゃないかってさ。
それに、人類部の資料にはさ、クルデレという名前のエルフはなかった。偽名を使ったとしても、その頃、消息不明になっていたエルフの魂もないらしい」
がっくりと肩を落とすソレイユ。
「それじゃあ、クルデレに関しては、なにもわからないということですか……」
ため息混じりのソレイユの言葉に、オレは首を振った。
「まったくってことはない」
ソレイユが不思議そうにオレを見る。
「クルデレちゃんはさ、現界で生きている連中だけじゃなく、冥界の自動監視装置の目まで欺いてるんだ。
つまり、クルデレちゃんは、冥界の存在を、転生役所が魂の監視をしていることを知っている。
お前のそばにいて、なおかつ冥界となんらかの繋がりを持つ。
魂すり替え事件にも関係していると考えるのが自然だ」
この考えは、マーシャにも話し済みだ。
冥界には、現界不干渉というルールがある。
これは、魂の管理を冥界に一任することへの代わりとして、現界に長く住み続ける強い力を持つ魂たちへの、冥界代表の配慮だという。
だが、現界側が、冥界の魂の管理になんらかの関与をしてきたというなら、話しは変わる。
まずは、現界側の有力者たちに、今回のあらましを説明し、クルデレの捜索も含めた協力を要請。
らちが明かないなら、強制捜索も辞さないとマーシャは言っていた。
「なぁ、クルデレってのは、どんな奴だったんだ?」
「そう……ですね。しきりに、私を選ばれた人間だと、運命に逆らわず、使命を果たすべきだと言っていた気がします。距離ができた今だからこそ言えるんですが、まるで私を焚き付けているようでした」
むぅ? それを素直に受けとるとしたら、クルデレはソレイユに、勇者の真似事をさせたかったということか? だとしたら、クルデレには、ソレイユを暗殺する理由はない。
「嫌な思い出だろうから、答えたくなかったら、答えなくても構わないんだが、お前が死んだ時、彼女はそばにいたのか?」
「クルデレが私を殺したと?」
「いや、先のお前の話からだと、そうは思えないんだ。
ただ、お前に毒を盛ろうとした人間が他にいたとしてだ。
現界と冥界、どちらの目も誤魔化してきたような実力者が、それをみすみす許しちまうかなって思って……」
「……」
ソレイユが目を閉じた。
まるで、瞼の裏にその時の情景を映しだそうとするように。
「一緒に庭園にいたのは間違いありません。
絶対とは言いきれないんですが……、私が体に異変を感じ倒れてから死ぬまでの間、必死に私を現界に引き留めようとする声が、たくさん聞こえたと思うんです。
その中には、クルデレの声もあった気がします。
もっとも、現実のことではなく、私の頭の中でだけで響いた、幻聴かもしれませんけどね」
悲しみ、苦しみ、恐れ、そして、願望。
今のソレイユの魂魄にはそんな感情が交互に、現れては消え、現れては消えている。……オレにはそう感じられた。
「他の奴等とクルデレはどんな感じだった」
「そうですね……あれ? そう言えば、クルデレが他の誰かと会話をしてるところを見たことないかも」
マジかよ……。徹底してんな。
「あ! いや、待ってください!
1度だけ誰かと言い争っていたのを見ました。
どこだったかな? 城内には違いないと思うのですが。
それに、相手は知らない人だったような……。
あれ? でも、どこかで会ったような……。
……え⁉  あれ? マーシャ様に似てたような?」
……は!? 今こいつ、なんて言った?
聞き直そうとした時、オレの魂魄が震えた。
魂魄通話だ。
相手は……ノラ。
「悪い、ソレイユ。魂魄通話入った。出てもいいか?」
「へ? あ、はい。どうぞ」
ソレイユの了解を得て、オレは魂魄信号をノラの信号と結びつける。
(お待たせ。どうした、ノラ)
(ああ、ダイチさん。仕事中に申し訳ないでござんす。今日も原稿をウチに持って来てくれる予定でござんしょ?)
冥界新聞に載るオレの文章の話だな。
ついでに小タイトルがついている。
『ダイチさんの現界にもの申す』だ。
ちょっと恥ずかしい。
今回のテーマは、南西の大陸で起こった宗教戦争についてだ。
昨日のうちに書き終えているから、後は新聞社に持っていくだけだった。
(うん。そのつもりだけど)
(ありがとうでござんす。ただ、もし可能なら、仕事が終わったら、すぐにウチに来やせんか?)
(ん? なんかあるの?)
(はい。……ダイチさん、現界に住む魂と話してみたいと思いやせんか?)
ノラの声はとても楽しそうに弾んでいた。
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