転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

34話 パーティー(後半)

「ダ〜イちゃん。アタシィ〜、酔っちゃった〜。キャハ♪」

「嘘をつけ」


 しなだれかかってきたチェリーの言葉を、一刀両断にしてやる。


「なに言ってるのさ。冥界の酒だって、充分酔えるんだよ。
 体調不良起こすような悪酔いをしないってだけでさ。キャハ♪」

「それは知ってる。だが、絶対お前は酒に強いタイプだね!
 つーより、お前酔ってる時と酔ってない時の境界線ないだろ!」

「なんなのさ、その偏見は。
 そういう、意地悪を言う人には、こうするのさ♪
 キャハハハハハハッ♪」


 オレのほっぺにチュ〜をしてこようとする。
 オレは辛うじて手でブロックする。
 好みのタイプではないにしろ、チェリーは、妖艶な美女である。言い寄られて悪い気はしないが、周りの視線が恐い。


 特に、今オレの正面から注がれている視線がだ!


 オレがその視線に気を取られた一瞬の隙を突き、チェリーの唇が、オレの頬に到達する!


 目の前の人物がガバッと立ち上がる!!
 その目に涙を貯めて……。


「ふ、ふ、ふ、――――――」

「アイシス!! 落ち着け! 左が! 左が空いている‼」


 な、なにを言っているのだ、オレは?
 明らかに宥めるための言葉にはなっていなかった。

 だが、意外にもアイシスはハッとした表情になり、いそいそとテーブルを回り込んで、本日のもう一人の主役のンボさんを押し退け、オレの左側に座り、恥ずかしげではあったが、腕を絡め、オレの左頬にチュ~をしてくれる。

 あのアイシスが、まさかここまでしてくれるとは!

 アイシスは続けてオレの肩に頭を乗せてきた。


「よ、酔っちゃった」

「信じる♪」


 それなら、この言動も納得だね♪


「ちょっと〜、随分扱いが違うじゃないのさ!」


 当たり前だ。
 すでにアイシスは、好みの女性という枠さえ超越した存在だ。
 一緒にしてもらえると思うな!


「あら、盛り上がっていらっしゃるようですね。
 チェリー、私たちも今話題の魂様に、ご挨拶したいのだけれど、場所を譲ってくれないかしら?」


 誰かと思い、チェリーの頭越しに覗いてみると、チェリー以上にボンキュボンなアラサー的一本角美人と、両耳の上から角が生えている、小柄がだが筋肉ムキムキのおじさんが並んで立っていた。


「おや、アベラ姐さんとカルジャーノのオヤッサンじゃないのさ。
 ダイちゃん、この二人がラヴァーとノラと並ぶ居住界の4代表だよ。アハッ♪」


 チェリーがふわりと浮かび、オレの頭に着地する。
 おい、オレは課長じゃないぞ。
 体重をかけてきてはいないから重くはない。むしろお尻柔らかい。
 い、いかん、いかん
 オレは視線だけで、仕事をサボっている椅子課長を探す。
 課長は、そう離れていない所に立っていた。
 頭にはシュポカの入ったジョッキ、両手には料理の乗った皿を乗せていた。
 どうやら、椅子からテーブルになったらしい。
 あれは、昇格なのか?  降格なのか? 
 後者の方が本人は喜びそうだな。


「アベラと申します。娼館やアパレル、アクセサリーといった店を中心に経営しております。以後お見知り置きを」


 豊かな胸をオレに押し付けて、挨拶する。


「ガルルルルルルッ! わふっ♪」


 酔っちゃったアイシスが威嚇を開始するが、頭を撫でてやったら収まった。


「ウフフ。今日はご挨拶だけで。
 近いうち、お店の方にいらしてくださいね」


 オレにウインクをして見せ立ち上がる。


「やれやれ。はたしてダイちゃんはどの店に挨拶にいくんだろうねぇ。アハッ♪」


 オレの頭の上で、お尻を軸にクルクル回りながら、ラヴァーが言うと、アイシスが可愛らしくふくれる。
 今日のアイシスは、凄く甘えん坊で可愛い。 
 これから1ヶ月に最低1度は一緒に飲みに来よう。


「カルジャーノだ」


 筋肉質のおっさんは座らず、立ったまま声をかけてくる。


「マーシャ様から聞いた。
 あんた俺たちが建てたあのマンションに、ケチつけてくれたそうだな?」


 へ?  アレか?  あの景観ぶち壊しマンションを建てた匠のひとりか⁉

 オレをギロリと睨むと、おもむろに背中をバシッと叩いてきた。
 魂魄を削られていないので、痛くはない。

「ガッハッハッハ!!
 わかってるな、兄ちゃん!
 アレはマーシャ様に頼まれて、仕方なく建てたが、風情がなくていけねぇや!」


 飲め、飲めとオレのグラスにシュポカを注ぐ。
 どうやら、職人としては、あまり楽しい仕事ではなかったようだ。

 さて、匠の意思を汲まないマンションを建てさせた当の本人だが、姿が見えない。


「レイラさん。マーシャの奴どこいったんですか?」


 一人で枝豆を摘まみながら、シュポカを飲んでいたレイラさんに尋ねる。


「姉さんなら、厨房をお借りして、キャブーレを作ってます」
「キャブーレ?」
「チヂームという異世界の現界一般家庭料理」


 レイラさんではなくラヴァーさんが答えてくれる。


「へぇー、……え?  誰が作ってるですって?」

「姉さんが」
「マーシャ様が」


 バ、バカな!  頭の残念な子は料理の腕も残念なはず!


「大丈夫なんですか!  食べられるモノがでてくるんですか⁉ 
 厨房が爆発するんじゃないですか⁉」


 逃げ出したいが、アイシスにがっちりと押さえられていて動けない!  これは無理矢理食べさせられるパターンか!


「随分と失礼なことを言ってくれとるのう」


 マーシャが料理の乗った大皿を運びながら、俺を睨んでくる。
 大皿が、オレの前にドンと置かれる。
 ……駄目だ。もう逃げられない


「文句は、食ってからにするがいい!!」


 マーシャが先程までアイシスの座っていた正面の席に座り、ふんぞり返る。


「ダ、ダイチ! 私が食べさせてやる!」


 マーシャとレイラさんのやり取りを見ていて、やってみたくなったのだろう、アイシスがそう申し出てくれる。
 助かる。これで若干ながらも、味補正がかかるはずだ。


「ア、ア〜ンして」

「ア〜ン」


 あ〜んかけやきそば的な食べ物が、オレの口に運ばれてくる。
 一応、見た目や香りは悪くない。
 オレは覚悟を決め、レンゲに乗せられた料理に食いついた。


「‼」


 マーシャがどや顔をしているが、それを咎める権利はオレにはなかった。


「どうじゃ? うまいであろうが。儂は1度食ったものは、料理も菓子も、ほぼ再現できる。儂の食い意地を甘く見でないわ!!」


 すいませんでした‼
 信じられないが、確かに旨かった。
 食レポの得意な奴だったら、口から光線を出しているレベルだ。

 どや顔だったマーシャが、突然にハッとした表情になった。


「……味を再現? ……おお! 記憶が! 記憶が戻ってきたぞーっ!」


 今度はなんだと言うんだ!?
 嫌な予感しかないが、オレはまだ動けない。


「貴様ーッ! 期間限定の菓子をすべて食いおって!
 おかげで、再現できんではないかーッ!!」

 言うが早いか、マーシャはテーブルを飛び越え、飛来する。
 マーシャの膝が、オレの顔にめり込む。
 マーシャの打撃の威力は、アイシスでも支えきれなく、オレは後方に吹き飛ぶ。魂魄の一部も、遥か彼方へ飛んでいく。


「あれ?  すでに報復していたか?」


 ……全て思い出してから、行動してください。


「ダイチさん!」

「ダイチ!」


 床に倒れ伏したオレに駆けつけたのは、なんとプルルさんの方が先だった。
 アイシスに負けないぐらいのオレへの愛を感じる。


「気を失う前に、記念の角合わせ、させて頂きますね!
 えい! えい、えい‼ えーい‼」


 ……ああ、感じるぜ。角への愛を……。


「あ、相手が倒れている時は、ご、ご遠慮ください……」


 辛うじてそこまで言い終えると、オレは意識を手放した。

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