転生しているヒマはねぇ!
30話 頼み
オレは、マーシャに冥界新聞社でのノラとの会話をかいつまんで説明した。
「なるほどのう。……お前は、相変わらず小賢しいのう。次から次へとよう考えおるわ。ある意味、レイラ以上じゃな」
「まだ、アイツの記憶が戻ったという連絡はないんだろう?」
「ない。
記憶を消す処置での記憶の消え方には個人差がある。
消え方が粗く、魂魄の表面に欠片が残っており、ふとした拍子で、過去の記憶が雪崩のように頭に流れ込んでくる者。
奥深くまで丁寧に消され、記憶を呼び戻すには、長い年月と根気が必要な者。
共通するのは、魂魄の奥には、必ず記憶の断片が、刻まれているということだ。まぁ、あくまでも断片じゃからな。ひとつの記憶の流れにするには、他者の協力も必要であろう。
ただ、その必要な協力者を特定するには、やはり断片を思い出してもらう他ない」
そうかとオレは頷く。
「少なくとも、記憶が戻るまでは、アイツは敵じゃない。
だから今のうちに、アイツが現界で見聞きしたこと、感じたり考えたこと、実際に行動したこと、オレがこれからアイツに話そうと思うことに対してどう思うかとか、いろいろ聞いてみたいんだ」
「あくまで、一人でか?」
躊躇いなく頷く。
マーシャの顔が綻ぶ。そして、前にも一度見たことのある慈愛に満ちた瞳をオレに向ける。
「良かろう。許可する。言ったであろう。儂は新たなことに挑戦しようとする魂を心から応援すると」
「別に新たな挑戦じゃないけどな」
マーシャは静かに首を降る。あの瞳をそのままに。
「いや、挑戦じゃよ。お前、今までそんな真正面から誰かと向き合おうとしたことなんてないじゃろう?」
……あー、確かにねぇな。
「行ってこい。骨は拾ってやる」
「仮体の骨だけ残ることなんてあんの?」
「ない!!!」
「拾う気ねぇだろ♪」
最後には二人とも笑って立ち上がった。
二人の拳がコツンとぶつかる。
微妙に納得いかないが、やっぱコイツとは、時々凄い気が合う。
時々な!
「別に魂の削り合いする訳じゃないんだから、心配はないだろ。
まっ、危険があろうと、無事に戻ってくるさ。オレのアイシスが待ってるからな!」
「はっ! 言いよる……わ?」
なぜかマーシャが、ウンウン唸りながら、首を捻り始めた。
「ど、どうした?」
「むー、なんというか、魂魄の奥が刺激された気がするのだ。
……おお! 戻ってきた! 記憶が戻ってきたぞーっ!」
な、なんだと! コイツ、いったいどんな記憶を消されてたっていうんだ!
「……お前、確か前は、オレのプルルとか言っておったな?」
グハッ!
「な、なんのことかな、マーシャ君。きっと他の誰かと勘違いしてるんじゃないかなー」
「フハハハハハッ! 良いではないか、良いではないか。
お前も、母やノラノラリと同じ、求める者ということであろう? そういう魂は周りを引っ張るからのう。冥界の活性化には大歓迎じゃ」
「……え~と、母と言いますと、先程の?」
「うむ。偉大なる小説家マリンじゃ」
官能小説家な。
「母は父以外にも9人旦那がおる。一人ずつ交魂による子供もおるぞ。我が母ながら、10の魂と結魂してみせるとは、本当に恐るべき魂魄の持ち主よ!」
な、なかなか複雑な家庭環境をお持ちで……。
「おお、そうじゃ! いっそのこと、秘書ども全員と結魂してしまえば良いではないか! お前ならば5人と結魂しても、やっていけよう! ……しかし、レイラと結魂されると、お前と妙な関係になるのう」
「お、おい! なに一人で盛り上がってるんだ。オレはまだこっちに来て1ヶ月も経ってないんだからな。結婚なんて考えられる訳ないだろ!」
マーシャが、呆れたようにため息をつく。
「ダイチ、現界と冥界を一緒にするでない。現界でなら表面を取り繕うこともできようが、冥界では無理じゃ。
冥界は魂と魂のぶつかり合い。
化かし合い、騙し合いが、基本はできん世界じゃ。仮体は肉体とは違う。薄布一枚羽織っているだけのようなもの。本音を隠すには薄すぎる。
だからこそ、お前の言葉は相手に届き、相手の言葉はお前に届く。わずか数日一緒に仕事をしただけのアイシスと、交尾寸前の仲まで進展できたのは、そういう付き合いをしておるからじゃ」
……魂と魂のぶつかり合い……。
……だからこそ、オレの言葉は相手に届き、相手の言葉はオレに届く……か。
仮体は薄布一枚……でも、仮体を持ってない奴からしたら、これも壁だよな。
「マーシャ、できたらでいいんだけど、もうひとつ頼みがあるんだ」
「ダメじゃ! それはできん!!」
なんだとー‼ 
「秘書たちとの仲を取り持ってやりたいのはやまやまじゃが、やはりそういうことは自分で――――――――」
「ちっげーよ!! 今はその話、遠くに置いとけよ!」
「なんじゃとーっ! この話を置いて、なんの話をすると言うんじゃ!」
……まさかコイツ、もうオレの最初の頼み忘れてるんじゃないだろうな。
「いいから、コレ!! いったん取っちゃうことできない?」
オレは自分の身体を指差して、そう言った。
「仮体か? やれるが、なぜじゃ?」
「ソレイユは魂のままで、オレは布一枚とはいえ壁を作る。
そんなの公平じゃないだろ? まっ、男同士の裸の付き合いってやつさ」
「おお! カッコいいではないか! 母の本にもそういうのを題材にしたものがあったぞ!」
ほう、官能小説だけじゃなく、友情みたいなものをテーマにしたものも書いているのか。
「BLというやつじゃろう⁉」
「ちゃうわ! BLちゃうわ! お前の母ちゃんなんでもありか‼」
オレが全力で否定すると、マーシャがガックリと肩を落とす。
「交尾はしとらん、結魂は後回し、BLはせん。
お前、なにが楽しくて冥界にいるんじゃ?」
転生できなかったからだよ!
「もうよい。儂は飽きたから帰るぞ。魂宿所の所長には連絡しといてやる。
魂宿所の場所は転生界に行けば、案内板があるから自分で探して行くがよい。
ていっ!」
「グハッ!」
マーシャの奴が突然オレの鳩尾に拳を突き入れた。
痛みが魂魄を襲うのと同時に、見る・聞くといった感覚がなくなる。
代わりに『感じる』という感覚に切り替わった。
この感覚は覚えがある。
死んだ後、10年続いた感覚。そう、オレは魂の姿に戻ったのだ。
「終わったら仮体を創造し直してやるから、連絡してこい」
「ああ、わかった。……ありがとな、いろいろと」
いろいろ、文句もあるが……。
「よい。満点ではなかったが、期待には応えてくれておる。
コレならば、わざわざお前の帰りを待った甲斐があるというものよ」
そっか、待たせちまってたのか……ん?
「あれ、オレが帰ってから1時間以上経ってるよな? なんですぐに来なかったんだ?」
「そんなの決まっておろうが!」
マーシャがない胸を張る。
「驚かせる為に、電気が消えるのを待ってたんじゃ!」
オレは、マーシャに魂身の体当たりを食らわせた。
「なるほどのう。……お前は、相変わらず小賢しいのう。次から次へとよう考えおるわ。ある意味、レイラ以上じゃな」
「まだ、アイツの記憶が戻ったという連絡はないんだろう?」
「ない。
記憶を消す処置での記憶の消え方には個人差がある。
消え方が粗く、魂魄の表面に欠片が残っており、ふとした拍子で、過去の記憶が雪崩のように頭に流れ込んでくる者。
奥深くまで丁寧に消され、記憶を呼び戻すには、長い年月と根気が必要な者。
共通するのは、魂魄の奥には、必ず記憶の断片が、刻まれているということだ。まぁ、あくまでも断片じゃからな。ひとつの記憶の流れにするには、他者の協力も必要であろう。
ただ、その必要な協力者を特定するには、やはり断片を思い出してもらう他ない」
そうかとオレは頷く。
「少なくとも、記憶が戻るまでは、アイツは敵じゃない。
だから今のうちに、アイツが現界で見聞きしたこと、感じたり考えたこと、実際に行動したこと、オレがこれからアイツに話そうと思うことに対してどう思うかとか、いろいろ聞いてみたいんだ」
「あくまで、一人でか?」
躊躇いなく頷く。
マーシャの顔が綻ぶ。そして、前にも一度見たことのある慈愛に満ちた瞳をオレに向ける。
「良かろう。許可する。言ったであろう。儂は新たなことに挑戦しようとする魂を心から応援すると」
「別に新たな挑戦じゃないけどな」
マーシャは静かに首を降る。あの瞳をそのままに。
「いや、挑戦じゃよ。お前、今までそんな真正面から誰かと向き合おうとしたことなんてないじゃろう?」
……あー、確かにねぇな。
「行ってこい。骨は拾ってやる」
「仮体の骨だけ残ることなんてあんの?」
「ない!!!」
「拾う気ねぇだろ♪」
最後には二人とも笑って立ち上がった。
二人の拳がコツンとぶつかる。
微妙に納得いかないが、やっぱコイツとは、時々凄い気が合う。
時々な!
「別に魂の削り合いする訳じゃないんだから、心配はないだろ。
まっ、危険があろうと、無事に戻ってくるさ。オレのアイシスが待ってるからな!」
「はっ! 言いよる……わ?」
なぜかマーシャが、ウンウン唸りながら、首を捻り始めた。
「ど、どうした?」
「むー、なんというか、魂魄の奥が刺激された気がするのだ。
……おお! 戻ってきた! 記憶が戻ってきたぞーっ!」
な、なんだと! コイツ、いったいどんな記憶を消されてたっていうんだ!
「……お前、確か前は、オレのプルルとか言っておったな?」
グハッ!
「な、なんのことかな、マーシャ君。きっと他の誰かと勘違いしてるんじゃないかなー」
「フハハハハハッ! 良いではないか、良いではないか。
お前も、母やノラノラリと同じ、求める者ということであろう? そういう魂は周りを引っ張るからのう。冥界の活性化には大歓迎じゃ」
「……え~と、母と言いますと、先程の?」
「うむ。偉大なる小説家マリンじゃ」
官能小説家な。
「母は父以外にも9人旦那がおる。一人ずつ交魂による子供もおるぞ。我が母ながら、10の魂と結魂してみせるとは、本当に恐るべき魂魄の持ち主よ!」
な、なかなか複雑な家庭環境をお持ちで……。
「おお、そうじゃ! いっそのこと、秘書ども全員と結魂してしまえば良いではないか! お前ならば5人と結魂しても、やっていけよう! ……しかし、レイラと結魂されると、お前と妙な関係になるのう」
「お、おい! なに一人で盛り上がってるんだ。オレはまだこっちに来て1ヶ月も経ってないんだからな。結婚なんて考えられる訳ないだろ!」
マーシャが、呆れたようにため息をつく。
「ダイチ、現界と冥界を一緒にするでない。現界でなら表面を取り繕うこともできようが、冥界では無理じゃ。
冥界は魂と魂のぶつかり合い。
化かし合い、騙し合いが、基本はできん世界じゃ。仮体は肉体とは違う。薄布一枚羽織っているだけのようなもの。本音を隠すには薄すぎる。
だからこそ、お前の言葉は相手に届き、相手の言葉はお前に届く。わずか数日一緒に仕事をしただけのアイシスと、交尾寸前の仲まで進展できたのは、そういう付き合いをしておるからじゃ」
……魂と魂のぶつかり合い……。
……だからこそ、オレの言葉は相手に届き、相手の言葉はオレに届く……か。
仮体は薄布一枚……でも、仮体を持ってない奴からしたら、これも壁だよな。
「マーシャ、できたらでいいんだけど、もうひとつ頼みがあるんだ」
「ダメじゃ! それはできん!!」
なんだとー‼ 
「秘書たちとの仲を取り持ってやりたいのはやまやまじゃが、やはりそういうことは自分で――――――――」
「ちっげーよ!! 今はその話、遠くに置いとけよ!」
「なんじゃとーっ! この話を置いて、なんの話をすると言うんじゃ!」
……まさかコイツ、もうオレの最初の頼み忘れてるんじゃないだろうな。
「いいから、コレ!! いったん取っちゃうことできない?」
オレは自分の身体を指差して、そう言った。
「仮体か? やれるが、なぜじゃ?」
「ソレイユは魂のままで、オレは布一枚とはいえ壁を作る。
そんなの公平じゃないだろ? まっ、男同士の裸の付き合いってやつさ」
「おお! カッコいいではないか! 母の本にもそういうのを題材にしたものがあったぞ!」
ほう、官能小説だけじゃなく、友情みたいなものをテーマにしたものも書いているのか。
「BLというやつじゃろう⁉」
「ちゃうわ! BLちゃうわ! お前の母ちゃんなんでもありか‼」
オレが全力で否定すると、マーシャがガックリと肩を落とす。
「交尾はしとらん、結魂は後回し、BLはせん。
お前、なにが楽しくて冥界にいるんじゃ?」
転生できなかったからだよ!
「もうよい。儂は飽きたから帰るぞ。魂宿所の所長には連絡しといてやる。
魂宿所の場所は転生界に行けば、案内板があるから自分で探して行くがよい。
ていっ!」
「グハッ!」
マーシャの奴が突然オレの鳩尾に拳を突き入れた。
痛みが魂魄を襲うのと同時に、見る・聞くといった感覚がなくなる。
代わりに『感じる』という感覚に切り替わった。
この感覚は覚えがある。
死んだ後、10年続いた感覚。そう、オレは魂の姿に戻ったのだ。
「終わったら仮体を創造し直してやるから、連絡してこい」
「ああ、わかった。……ありがとな、いろいろと」
いろいろ、文句もあるが……。
「よい。満点ではなかったが、期待には応えてくれておる。
コレならば、わざわざお前の帰りを待った甲斐があるというものよ」
そっか、待たせちまってたのか……ん?
「あれ、オレが帰ってから1時間以上経ってるよな? なんですぐに来なかったんだ?」
「そんなの決まっておろうが!」
マーシャがない胸を張る。
「驚かせる為に、電気が消えるのを待ってたんじゃ!」
オレは、マーシャに魂身の体当たりを食らわせた。
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