転生しているヒマはねぇ!
28話 情勢
ノラはテーブルに1枚の絵を広げた。見覚えがある。図書館で借りた本にもあった絵だ。
「現界の地図か」
「ええ。 ダイチさんは、現界についてはどの程度?」
「図書館で歴史の本を借りてた。だいたい50年くらい前から2年前までの、文化とか戦争とか、世界的な大きな流れだけかな。各国の立場や関係には、あまり触れられてなかった」
ノラがわかりましたと頷き、茶を飲んで舌を湿らす。
「マタイラの現界には、ご覧の通り、5つの大きな大陸があります。内、世界を東西に別ける南北に細長い中央大陸。ここは中央の運河を境に北と南にそれぞれひとつ国があるだけです。
それ以外の北西、北東、南西、南東の大陸には、大小多数の国が入り乱れておりますな」
ノラが、地図の中の北西の大陸に指を置く。
世界の北西のカドに近い辺りを頂点として、東と南に同じくらい伸びた二等辺三角形に近い形の大陸だ。
ノラが指をずらし、二等辺三角形の底辺、海沿いの北東のカドに近い辺りで止める。
「この大陸、現界ではセヴデーンス大陸と呼ばれるこの大陸のこの辺り一帯が、今回問題のホーレイト王国の領土となるでござんすよ。歴史は300年程。規模としては、世界では中の下。周辺国の中では上でござんすな」
周辺を円状に指でなぞってそう言う。
「この辺りは土壌としてはあまり豊かではないでござんすが、豊かな海洋資源、良質な鉱石の取れる鉱山が多数ありやす。
主には、その加工品を――――――――」
今度は、中央大陸の真ん中辺りにある運河を指さす。
「ここ、永世中立運河都市セクルスに運び、各国と取り引きすることで、主な生計を立てている国と言えるでござんすな。
直接、他の国へ行き貿易をしないのは、まぁ、周辺の国々を刺激しないようにとの配慮でござんしょ。強国に隣接している訳ではござんせんが、無駄な疲弊は避けたいでしょうからな。その政策のお陰か、周辺のヒトの国や異人種の集落とは良好な関係を築いているようです。世界の安全機構『世界同盟』にも参加しておりますしな。
……ここまでが、ホーレイト王国の現状ですな」
オレは茶請けの羊羹ぽい菓子を咀嚼しながら、目で先を促す。
ちなみに羊羹は、程好い甘さで、とても旨かった。
「さて、最近のソレイユ王子を取り巻いていた環境は、昨日話した通り。ただ、王の後継に関して、積極的だったのは利権が欲しくて王子に近づいた一部の有力貴族だけで、当の本人は、まだ10歳という年齢もあってか興味がなかった。むしろ王子が興味を示されていたのはハイエルフの預言でござんすな」
「世界を救う的な、アレ?」
そう言えば、本人の魂も世界を守らなきゃ的な事を言っていたな。
「そうでござんす。小さな男の子、自分が英雄になるなんて聞かされて育ったら、心踊らせても不思議はござんせん。王族の教育も受けていましたから、責任感も芽生えていたでござんしょ。さらには魔獣を手懐ける自身の能力。
王になることより、そちらに興味を抱いても仕方ない環境は整っていたでござんすな」
なるほど、自分が英雄になると信じていたのに、突然訪れた死。本人のあの様子を見る限り、本当に気づいたら死んでたんだろうな。となると、やっぱり暗殺ってことになるのか。
「社長はさ、2週間前にオレが発見されたのも踏まえて、王子が暗殺されたとしたら、後継問題ではなくて、預言関連ではないかって見込んでんだろ?」
ノラが神妙に頷く。
「だとしたらさ、矛盾みたいなのが生まれるんだよな」
「と言いますと?」
「10年前の事件の時さ、どうもオレが見つかったとしても、別の魂を送った後なら、構わなかったように感じるんだよね。
ンボさんがオレの事を忘れていたのは、魔法か何かの影響だとしても、人類部の部長が隠蔽しようとしたのは偶然ぽいんだよ。はっきり言って、隠蔽の仕方が露骨でさ、いつばれても不思議じゃなかった。
だから、隠蔽せずに報告して、役所内の捜索が行われて、オレが発見されてもよかったんじゃないかって。送った魂は、本人が死ぬまで戻せないんだから」
ノラが難しい顔をする。
「だから、今さらダイチさんが見つかったからといって、それを理由に王子が暗殺されるのはおかしいと?」
オレは頷く。だからといって、王子が後継問題の為に暗殺されたというのもしっくりこない。
だって、王子はすでに、後継者争いに負けていたのだから。
「……もしかしたらさ、いや、本当に単なる思いつきなんだけど、オレがいつ見つかっても結果は同じだったんじゃないかな」
「?」
意味が通じなかったらしく、ノラは首を傾げる。
「つまりさ、理由は思いつかないけど、王子はオレが見つかった時点で、殺される予定だったんじゃないかな。ただ、冥界の情報がすぐに現界に届く訳じゃなかったから、殺されるのに時間差が生じた」
「え? それってつまり……」
「うん。あの魂を王子に送る事が、目的じゃなくて、オレを送らせないこと自体が目的だったんじゃないかって……」
「送る魂は誰でも良かった?」
「いや、選ばれたのには理由があるとは思うんだ。あの魂、自分でやったのか、誰かにやられたかはわからないけど、前世の記憶を消されているらしいからさ」
「なるほど、異世界からの魂には、前世の記憶を消す処置はしませんからな。意図的に消したのは間違いござんせんな」
「まぁ、ホントにそうだったとしても、また疑問の選択肢が出てくるんだけど」
「なんでござんす?」
興味津々といった様子でノラが尋ねてくる。
「オレを現界に送らせない事が目的だったのか?
オレを冥界に留まらせる事が目的だったのか?
いっけん同じに聞こえるかもしれないけど、かなり意味合いが変わってくるんじゃないかな?」
話を聞きおえたノラは、大きく息を吐いて、改めてオレを見つめてくる。
「ダイチさん、ウチに転職しません?」
オレは、笑って断った。
「現界の地図か」
「ええ。 ダイチさんは、現界についてはどの程度?」
「図書館で歴史の本を借りてた。だいたい50年くらい前から2年前までの、文化とか戦争とか、世界的な大きな流れだけかな。各国の立場や関係には、あまり触れられてなかった」
ノラがわかりましたと頷き、茶を飲んで舌を湿らす。
「マタイラの現界には、ご覧の通り、5つの大きな大陸があります。内、世界を東西に別ける南北に細長い中央大陸。ここは中央の運河を境に北と南にそれぞれひとつ国があるだけです。
それ以外の北西、北東、南西、南東の大陸には、大小多数の国が入り乱れておりますな」
ノラが、地図の中の北西の大陸に指を置く。
世界の北西のカドに近い辺りを頂点として、東と南に同じくらい伸びた二等辺三角形に近い形の大陸だ。
ノラが指をずらし、二等辺三角形の底辺、海沿いの北東のカドに近い辺りで止める。
「この大陸、現界ではセヴデーンス大陸と呼ばれるこの大陸のこの辺り一帯が、今回問題のホーレイト王国の領土となるでござんすよ。歴史は300年程。規模としては、世界では中の下。周辺国の中では上でござんすな」
周辺を円状に指でなぞってそう言う。
「この辺りは土壌としてはあまり豊かではないでござんすが、豊かな海洋資源、良質な鉱石の取れる鉱山が多数ありやす。
主には、その加工品を――――――――」
今度は、中央大陸の真ん中辺りにある運河を指さす。
「ここ、永世中立運河都市セクルスに運び、各国と取り引きすることで、主な生計を立てている国と言えるでござんすな。
直接、他の国へ行き貿易をしないのは、まぁ、周辺の国々を刺激しないようにとの配慮でござんしょ。強国に隣接している訳ではござんせんが、無駄な疲弊は避けたいでしょうからな。その政策のお陰か、周辺のヒトの国や異人種の集落とは良好な関係を築いているようです。世界の安全機構『世界同盟』にも参加しておりますしな。
……ここまでが、ホーレイト王国の現状ですな」
オレは茶請けの羊羹ぽい菓子を咀嚼しながら、目で先を促す。
ちなみに羊羹は、程好い甘さで、とても旨かった。
「さて、最近のソレイユ王子を取り巻いていた環境は、昨日話した通り。ただ、王の後継に関して、積極的だったのは利権が欲しくて王子に近づいた一部の有力貴族だけで、当の本人は、まだ10歳という年齢もあってか興味がなかった。むしろ王子が興味を示されていたのはハイエルフの預言でござんすな」
「世界を救う的な、アレ?」
そう言えば、本人の魂も世界を守らなきゃ的な事を言っていたな。
「そうでござんす。小さな男の子、自分が英雄になるなんて聞かされて育ったら、心踊らせても不思議はござんせん。王族の教育も受けていましたから、責任感も芽生えていたでござんしょ。さらには魔獣を手懐ける自身の能力。
王になることより、そちらに興味を抱いても仕方ない環境は整っていたでござんすな」
なるほど、自分が英雄になると信じていたのに、突然訪れた死。本人のあの様子を見る限り、本当に気づいたら死んでたんだろうな。となると、やっぱり暗殺ってことになるのか。
「社長はさ、2週間前にオレが発見されたのも踏まえて、王子が暗殺されたとしたら、後継問題ではなくて、預言関連ではないかって見込んでんだろ?」
ノラが神妙に頷く。
「だとしたらさ、矛盾みたいなのが生まれるんだよな」
「と言いますと?」
「10年前の事件の時さ、どうもオレが見つかったとしても、別の魂を送った後なら、構わなかったように感じるんだよね。
ンボさんがオレの事を忘れていたのは、魔法か何かの影響だとしても、人類部の部長が隠蔽しようとしたのは偶然ぽいんだよ。はっきり言って、隠蔽の仕方が露骨でさ、いつばれても不思議じゃなかった。
だから、隠蔽せずに報告して、役所内の捜索が行われて、オレが発見されてもよかったんじゃないかって。送った魂は、本人が死ぬまで戻せないんだから」
ノラが難しい顔をする。
「だから、今さらダイチさんが見つかったからといって、それを理由に王子が暗殺されるのはおかしいと?」
オレは頷く。だからといって、王子が後継問題の為に暗殺されたというのもしっくりこない。
だって、王子はすでに、後継者争いに負けていたのだから。
「……もしかしたらさ、いや、本当に単なる思いつきなんだけど、オレがいつ見つかっても結果は同じだったんじゃないかな」
「?」
意味が通じなかったらしく、ノラは首を傾げる。
「つまりさ、理由は思いつかないけど、王子はオレが見つかった時点で、殺される予定だったんじゃないかな。ただ、冥界の情報がすぐに現界に届く訳じゃなかったから、殺されるのに時間差が生じた」
「え? それってつまり……」
「うん。あの魂を王子に送る事が、目的じゃなくて、オレを送らせないこと自体が目的だったんじゃないかって……」
「送る魂は誰でも良かった?」
「いや、選ばれたのには理由があるとは思うんだ。あの魂、自分でやったのか、誰かにやられたかはわからないけど、前世の記憶を消されているらしいからさ」
「なるほど、異世界からの魂には、前世の記憶を消す処置はしませんからな。意図的に消したのは間違いござんせんな」
「まぁ、ホントにそうだったとしても、また疑問の選択肢が出てくるんだけど」
「なんでござんす?」
興味津々といった様子でノラが尋ねてくる。
「オレを現界に送らせない事が目的だったのか?
オレを冥界に留まらせる事が目的だったのか?
いっけん同じに聞こえるかもしれないけど、かなり意味合いが変わってくるんじゃないかな?」
話を聞きおえたノラは、大きく息を吐いて、改めてオレを見つめてくる。
「ダイチさん、ウチに転職しません?」
オレは、笑って断った。
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