転生しているヒマはねぇ!
10話 報告書
「お願いします。手伝ってください」
「イヤじゃ」
棒状のスナック菓子をパリポリと食べながら、マーシャはオレのお願いを一蹴した。
オレは、現界での視察を終え、植物部のモニター室にて、今回の表向きの仕事であった、植物の視察の報告書を書いているところだ。
いや、一度は書いたんだよ。小学生の夏休みの自由研究的なやつ? 可愛い絵も描いてさ。
それを監視課の課長に提出したら、突き返された。
『お前、仕事舐めてんのか』って言葉付きで。
オレ、持ってく前に見せたんだよ。マーシャに。役所の最高責任者に。なんて言ったと思う?
「大丈夫、大丈夫。そんなものテキトーでいいんじゃ。どうせハンコ押して処理済みのカゴに入れるだけなんじゃから」
仕事舐めてるよね!
そのことを課長に言っても、課長を困らせるだけだとは予測がついたので、諦めて他の監視官が現界視察の時に書いた過去の報告書を参考にしようと、報告書のファイルを借り、さらには資料室からあの庭園の植物の魂に関する資料を持ち出して、モニター室に戻って来たわけだ。
そうやって、再提出の準備を整えていただけで、すでに終業時刻まで、あと1時間くらいしかないのよ。
わかる?
新人一人では正直結構きついの。もちろん代わりに書けとは言わないけど、同じ部屋にいるならさ、モニターに過去の映像を流すなり、この植物のことを教えてくれるとかさ、手伝いをしてくれてもいいんじゃないかなと思ったわけさ。
それで実際にお願いしてみたらこの仕打ちな訳よ。
そりゃあさ、コイツの話を鵜呑みにして、そのまま提出しに行ったオレにも問題はあるよ。
でもさ、テキトーなことを言ったことに対して、謝罪の言葉があっても良くない?
申し訳ないと思ってくれても良くない?
手伝ってくれても良くない?
お菓子食べなくても良くない?
「はぁ~」
オレは大きくため息をついて、モニターの操作盤にふれる。
このわがままなお子ちゃまに文句を言うだけ時間の無駄だ。真面目に報告書に取り組もう。定時で帰れなくなる。
全てのモニターにホーレイト王国王城の庭園に植えられた植物の映像が映し出される。
『クロスジャミール』
毎年春から夏にかけて、花びらが4枚の、希少な薬にもなる十字架のような形の花を咲かせる植物とは聞いていたが……お世辞抜きで美しいと思う。
資料では、この庭園に植えられたのは、今から10年前。ソレイユ王子誕生の年である。ホーレイト王国のある大陸から見て、南西にある大陸。その大陸にある世界樹の麓に住まうハイエルフ(他の地域に住むエルフと区別され、こう呼ばれている)より、王子誕生を祝して寄贈されたとある。
それまでまったく交流はなく、ソレイユ王子は第1王子でもなかったから、王国ではひと騒動あったと書かれている。このエピソードより、ソレイユ王子は『森に愛されし御子』と呼ばれることになったそうだ。
庭園のクロスジャミールに関して書かれているのはそこまでで、あとは空欄だった。つまり贈られたあとは特に魂に問題なく成長しているということだ。
だが、本当に問題はないのだろうか?
オレたちモニター係、オレたちが帰った後に作動する自動警報装置は、各体に宿る魂の大きさや色が、短期間で急激に変動した場合に異常と判断し、前者は報告を、後者は警報を鳴らすことになる。そのシステム上で言えば、確かにこの庭園はなんの問題もない。
しかし、オレが読んだ歴史書には、少なくとも最近50年間で、あんなに、いろんな種類の魔獣が一ヶ所に集まり、互いに争うこともなくヒトと戯れるような歴史を目にした記憶はない。ヒト種にいたっては他の人類といざこざを起こしていることの方が多いくらいだ。
人類の中でも、特に欲深いヒトは、他の人類から敬遠されている。クロスジャミールの資料にあった通り、ソレイユ王子が生まれるまで、ホーレイト王国も他の人類とは疎遠だったはずだ。
今日見たあの空間は、そんな歴史を一足飛びで越えすぎているように感じる。
それこそ、異常と判断して良いくらいに……。
「おい、なにをぼさっとしている。儂は定時で帰るからな。お前は報告書を書き終えるまで残れよ。クックック♪」
オレの真面目な思考を、低俗な嫌みが阻害した。
「うむ。まだ時間があるのう。それでは、最後にお楽しみの……♪」
マーシャは中身を全て食べきり、空になった菓子袋を投げ捨て、先程とは違う種類の菓子袋の封を切った。
「ブチッ!」
「? なんじゃ、ブチッとは?」
オレは答えずに立ち上がり、マーシャの前まで行くと、その手から菓子袋を奪い取った。
「こ、こら! それは季節限定の人気商品で、すでに売り切れて―――ああっ!!」
オレは菓子を袋から直接口に流し込み、バリボリと噛み砕き、味わうこともなく飲み込んだ。さらに残りを口に流し込む。
「ま、待て! 手伝う! 報告書手伝うから! せめて一口!!」
時すでに遅しだ。オレはすべてを飲み込み、空になった菓子袋をマーシャの顔に叩きつけた。
はらりと菓子袋が床に落ちていく。
マーシャはしばらく床に落ちた菓子袋を呆然と見つめていたが、やおら顔をあげオレをにらみつけてきた。
「おのれぇ! ダイチーッ! 許さんぞ! 許さんからな!! 報復してやる! ギャフンと言わせてやる!! おーぼーえーてーろー!!!」
マーシャは、泣きながらモニター室を走り出ていった。
……まだ、定時前だというのに
「イヤじゃ」
棒状のスナック菓子をパリポリと食べながら、マーシャはオレのお願いを一蹴した。
オレは、現界での視察を終え、植物部のモニター室にて、今回の表向きの仕事であった、植物の視察の報告書を書いているところだ。
いや、一度は書いたんだよ。小学生の夏休みの自由研究的なやつ? 可愛い絵も描いてさ。
それを監視課の課長に提出したら、突き返された。
『お前、仕事舐めてんのか』って言葉付きで。
オレ、持ってく前に見せたんだよ。マーシャに。役所の最高責任者に。なんて言ったと思う?
「大丈夫、大丈夫。そんなものテキトーでいいんじゃ。どうせハンコ押して処理済みのカゴに入れるだけなんじゃから」
仕事舐めてるよね!
そのことを課長に言っても、課長を困らせるだけだとは予測がついたので、諦めて他の監視官が現界視察の時に書いた過去の報告書を参考にしようと、報告書のファイルを借り、さらには資料室からあの庭園の植物の魂に関する資料を持ち出して、モニター室に戻って来たわけだ。
そうやって、再提出の準備を整えていただけで、すでに終業時刻まで、あと1時間くらいしかないのよ。
わかる?
新人一人では正直結構きついの。もちろん代わりに書けとは言わないけど、同じ部屋にいるならさ、モニターに過去の映像を流すなり、この植物のことを教えてくれるとかさ、手伝いをしてくれてもいいんじゃないかなと思ったわけさ。
それで実際にお願いしてみたらこの仕打ちな訳よ。
そりゃあさ、コイツの話を鵜呑みにして、そのまま提出しに行ったオレにも問題はあるよ。
でもさ、テキトーなことを言ったことに対して、謝罪の言葉があっても良くない?
申し訳ないと思ってくれても良くない?
手伝ってくれても良くない?
お菓子食べなくても良くない?
「はぁ~」
オレは大きくため息をついて、モニターの操作盤にふれる。
このわがままなお子ちゃまに文句を言うだけ時間の無駄だ。真面目に報告書に取り組もう。定時で帰れなくなる。
全てのモニターにホーレイト王国王城の庭園に植えられた植物の映像が映し出される。
『クロスジャミール』
毎年春から夏にかけて、花びらが4枚の、希少な薬にもなる十字架のような形の花を咲かせる植物とは聞いていたが……お世辞抜きで美しいと思う。
資料では、この庭園に植えられたのは、今から10年前。ソレイユ王子誕生の年である。ホーレイト王国のある大陸から見て、南西にある大陸。その大陸にある世界樹の麓に住まうハイエルフ(他の地域に住むエルフと区別され、こう呼ばれている)より、王子誕生を祝して寄贈されたとある。
それまでまったく交流はなく、ソレイユ王子は第1王子でもなかったから、王国ではひと騒動あったと書かれている。このエピソードより、ソレイユ王子は『森に愛されし御子』と呼ばれることになったそうだ。
庭園のクロスジャミールに関して書かれているのはそこまでで、あとは空欄だった。つまり贈られたあとは特に魂に問題なく成長しているということだ。
だが、本当に問題はないのだろうか?
オレたちモニター係、オレたちが帰った後に作動する自動警報装置は、各体に宿る魂の大きさや色が、短期間で急激に変動した場合に異常と判断し、前者は報告を、後者は警報を鳴らすことになる。そのシステム上で言えば、確かにこの庭園はなんの問題もない。
しかし、オレが読んだ歴史書には、少なくとも最近50年間で、あんなに、いろんな種類の魔獣が一ヶ所に集まり、互いに争うこともなくヒトと戯れるような歴史を目にした記憶はない。ヒト種にいたっては他の人類といざこざを起こしていることの方が多いくらいだ。
人類の中でも、特に欲深いヒトは、他の人類から敬遠されている。クロスジャミールの資料にあった通り、ソレイユ王子が生まれるまで、ホーレイト王国も他の人類とは疎遠だったはずだ。
今日見たあの空間は、そんな歴史を一足飛びで越えすぎているように感じる。
それこそ、異常と判断して良いくらいに……。
「おい、なにをぼさっとしている。儂は定時で帰るからな。お前は報告書を書き終えるまで残れよ。クックック♪」
オレの真面目な思考を、低俗な嫌みが阻害した。
「うむ。まだ時間があるのう。それでは、最後にお楽しみの……♪」
マーシャは中身を全て食べきり、空になった菓子袋を投げ捨て、先程とは違う種類の菓子袋の封を切った。
「ブチッ!」
「? なんじゃ、ブチッとは?」
オレは答えずに立ち上がり、マーシャの前まで行くと、その手から菓子袋を奪い取った。
「こ、こら! それは季節限定の人気商品で、すでに売り切れて―――ああっ!!」
オレは菓子を袋から直接口に流し込み、バリボリと噛み砕き、味わうこともなく飲み込んだ。さらに残りを口に流し込む。
「ま、待て! 手伝う! 報告書手伝うから! せめて一口!!」
時すでに遅しだ。オレはすべてを飲み込み、空になった菓子袋をマーシャの顔に叩きつけた。
はらりと菓子袋が床に落ちていく。
マーシャはしばらく床に落ちた菓子袋を呆然と見つめていたが、やおら顔をあげオレをにらみつけてきた。
「おのれぇ! ダイチーッ! 許さんぞ! 許さんからな!! 報復してやる! ギャフンと言わせてやる!! おーぼーえーてーろー!!!」
マーシャは、泣きながらモニター室を走り出ていった。
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