転生しているヒマはねぇ!
2話 対応
「本当に、本当にごめんなさい 」
黒いおっさんは、頭を床に何度も打ち付けて謝罪してきた。
おっさんの話によれば、なんとオレはこの部屋で10年も待たされていたらしい。
待つことしかできなかったとはいえ、自分でも呆れるほどの時間が経過していた。生きていた頃だったら、10分待たされるだけでも耐えきれなかっただろうに……感覚の麻痺って凄い。
二桁を超えるほど頭を打ち付けた後、黒いおっさんは上司だという2メートル超えの巨漢を連れて来た。オレは二人に連れられて、実に10年振りに部屋から出た。
二人に連れられて入った部屋は、待機していた部屋よりはるかに広く、奥の壁には大きく「9」と書かれ、床には部屋いっぱいに模様が描かれている。
おそらく、これがオレの世界の小説とかで、魔方陣と呼ばれていたやつだろう。その魔方陣の中央には四角い台座があり上部には小さなボタンが15個ついていた。その内のひとつを巨漢上司が押すと魔方陣が輝きだし、部屋が白い光に包まれる。
光がおさまった時には、奥の壁の数字が「16」になっていた。
どうも別の部屋に転移したようだ。
なんか感動だ。さっき……と言っても10年前だが、門をくぐってこちらの転生界に来た時よりも、異世界に来た実感が湧く。死んだ時とは逆に、今度はあの世からこの世への旅立ちだ。ドキドキが強い。以前の生き方に後悔があった訳じゃない。だが同時に満足していたとも言いきれない。
違う世界、違う理の中で、今度は自分を試すような生き方をしてみたい。
そんな思いを抱きつつ、オレは二人と転移部屋を出る。目の前に巨大な扉があった。巨漢上司が、ノックと言うには、些か力強く扉を叩く。
「界長。先程ご連絡した件の受付係と魂を連れて来ました」
「……入れ」
中から短い返事が返ってくると、巨漢上司は重そうな扉を両手で押し開けた。
5人の男女がそこにはいた。特に目を引いたのが、正面の高級そうな座席にふんぞり返っていた金髪をおかっぱにした小柄な少女だ。少女は明らかに不機嫌な様子で、その碧き瞳で俺たちを睨んでくる。
「いや、確かに10年前に転生させた魂に似てはいるようですが、別の魂でしょう。たまたま最近紛れ込んでしまったのではないですか?」
「黙れ。本人に聞けばわかることじゃ」
オレから見て右奥にいる骸骨のように痩せ細った男が口をだしてきたが、少女に叱責され面白くなさそうに押し黙った。
「おい、お前。改めて出身世界と生前の名前を言え」
少女がオレに無茶振りしてくる。口がないのに喋れる訳がない。
そう思っていると少女が眉をひそめた。
「おい。まさかわかっていないのか? 生きていた時と同じように、喋るつもりで思い浮かべれば、儂らには伝わるぞ」
(ウソ!?)
「本当だ。その調子では物に触れることにも気付いてなさそうだな。
それが10年も部屋の中でじっとしていた理由か。
……クソが。チキュウの転生界はそんな事も説明せんのか」
少女は苛立たしげに重厚そうな机に、小さな拳を叩きつけた。
「おい、ロブス!
お前、そんな事も本人に確認せずに連れて来おったのか!?」
「あ、いや、申し訳ありません。まず、急ぎ連れてこねばと思ったもので」
巨漢上司はしどろもどろに言い訳し、黒いおっさんは額から玉のような汗をだらだらと流している。
「お前たちには再教育が必要じゃな。
まぁ、それは後だ。おい、お前。もう一度聞くぞ。出身世界と生前の名前は?」
(チキュウから来たカワマタ ダイチ)
少女が手元の書類に目を落として舌打ちした。
「チッ。はっきりしおったな。お前達が勝手に勘違いしたのか、10年前に転生した奴がこいつになりすましたのかはわからんが、こいつは10年前に転生してなきゃならん魂だ」
(え? それって、オレ転生しそこなったってこと?)
「そうじゃ。将来的にも転生させる訳にはいかん」
(なんで?)
「お前の代わりに転生した魂がどこから来たかわからん。どこかの転生界で転生させる魂が足りなくなったはずじゃが、10年前にそんな話はでておらん。簡単に言えば転生させる先が用意できんし、できたとしても、なぜこんなことになったかを解明せずに当事者を転生させる訳にはいかんだろう。
儂的には裁断界に報告し、お前を移送して親父殿に丸投げしてしまうのが一番楽なんじゃがな」
(そうなの?)
「うむ。当然この転生界で起きた不祥事であるからな。
最高責任者たる儂も罰は受けるが、身分もあるでな。しばらく謹慎か減給かであろう。
だが、こんなに長い期間魂が待機してることに気付かなかった者、実際に別の魂を転生させてしまった現場の者は……最悪、存在を消されるかもしれんのう」
うわ、黒いおっさんだけじゃなく、骸骨のおっさんの隣のスキンヘッドのおにいさんと左側手前にいる蛇みたいな顔したおねえさんも顔を真っ青にして、汗をだらだら流している。
「正直、この転生界は魂手が足りておる訳ではないのでな。儂としてもできればそれは避けたいのう。さて、どうしたものか……」
少女はそう言って頭を抱えたが、しばらくして顔をあげるとオレをじっと見つめる。
(え~と、なに?)
「お前……ここで働いてみんか?」
黒いおっさんは、頭を床に何度も打ち付けて謝罪してきた。
おっさんの話によれば、なんとオレはこの部屋で10年も待たされていたらしい。
待つことしかできなかったとはいえ、自分でも呆れるほどの時間が経過していた。生きていた頃だったら、10分待たされるだけでも耐えきれなかっただろうに……感覚の麻痺って凄い。
二桁を超えるほど頭を打ち付けた後、黒いおっさんは上司だという2メートル超えの巨漢を連れて来た。オレは二人に連れられて、実に10年振りに部屋から出た。
二人に連れられて入った部屋は、待機していた部屋よりはるかに広く、奥の壁には大きく「9」と書かれ、床には部屋いっぱいに模様が描かれている。
おそらく、これがオレの世界の小説とかで、魔方陣と呼ばれていたやつだろう。その魔方陣の中央には四角い台座があり上部には小さなボタンが15個ついていた。その内のひとつを巨漢上司が押すと魔方陣が輝きだし、部屋が白い光に包まれる。
光がおさまった時には、奥の壁の数字が「16」になっていた。
どうも別の部屋に転移したようだ。
なんか感動だ。さっき……と言っても10年前だが、門をくぐってこちらの転生界に来た時よりも、異世界に来た実感が湧く。死んだ時とは逆に、今度はあの世からこの世への旅立ちだ。ドキドキが強い。以前の生き方に後悔があった訳じゃない。だが同時に満足していたとも言いきれない。
違う世界、違う理の中で、今度は自分を試すような生き方をしてみたい。
そんな思いを抱きつつ、オレは二人と転移部屋を出る。目の前に巨大な扉があった。巨漢上司が、ノックと言うには、些か力強く扉を叩く。
「界長。先程ご連絡した件の受付係と魂を連れて来ました」
「……入れ」
中から短い返事が返ってくると、巨漢上司は重そうな扉を両手で押し開けた。
5人の男女がそこにはいた。特に目を引いたのが、正面の高級そうな座席にふんぞり返っていた金髪をおかっぱにした小柄な少女だ。少女は明らかに不機嫌な様子で、その碧き瞳で俺たちを睨んでくる。
「いや、確かに10年前に転生させた魂に似てはいるようですが、別の魂でしょう。たまたま最近紛れ込んでしまったのではないですか?」
「黙れ。本人に聞けばわかることじゃ」
オレから見て右奥にいる骸骨のように痩せ細った男が口をだしてきたが、少女に叱責され面白くなさそうに押し黙った。
「おい、お前。改めて出身世界と生前の名前を言え」
少女がオレに無茶振りしてくる。口がないのに喋れる訳がない。
そう思っていると少女が眉をひそめた。
「おい。まさかわかっていないのか? 生きていた時と同じように、喋るつもりで思い浮かべれば、儂らには伝わるぞ」
(ウソ!?)
「本当だ。その調子では物に触れることにも気付いてなさそうだな。
それが10年も部屋の中でじっとしていた理由か。
……クソが。チキュウの転生界はそんな事も説明せんのか」
少女は苛立たしげに重厚そうな机に、小さな拳を叩きつけた。
「おい、ロブス!
お前、そんな事も本人に確認せずに連れて来おったのか!?」
「あ、いや、申し訳ありません。まず、急ぎ連れてこねばと思ったもので」
巨漢上司はしどろもどろに言い訳し、黒いおっさんは額から玉のような汗をだらだらと流している。
「お前たちには再教育が必要じゃな。
まぁ、それは後だ。おい、お前。もう一度聞くぞ。出身世界と生前の名前は?」
(チキュウから来たカワマタ ダイチ)
少女が手元の書類に目を落として舌打ちした。
「チッ。はっきりしおったな。お前達が勝手に勘違いしたのか、10年前に転生した奴がこいつになりすましたのかはわからんが、こいつは10年前に転生してなきゃならん魂だ」
(え? それって、オレ転生しそこなったってこと?)
「そうじゃ。将来的にも転生させる訳にはいかん」
(なんで?)
「お前の代わりに転生した魂がどこから来たかわからん。どこかの転生界で転生させる魂が足りなくなったはずじゃが、10年前にそんな話はでておらん。簡単に言えば転生させる先が用意できんし、できたとしても、なぜこんなことになったかを解明せずに当事者を転生させる訳にはいかんだろう。
儂的には裁断界に報告し、お前を移送して親父殿に丸投げしてしまうのが一番楽なんじゃがな」
(そうなの?)
「うむ。当然この転生界で起きた不祥事であるからな。
最高責任者たる儂も罰は受けるが、身分もあるでな。しばらく謹慎か減給かであろう。
だが、こんなに長い期間魂が待機してることに気付かなかった者、実際に別の魂を転生させてしまった現場の者は……最悪、存在を消されるかもしれんのう」
うわ、黒いおっさんだけじゃなく、骸骨のおっさんの隣のスキンヘッドのおにいさんと左側手前にいる蛇みたいな顔したおねえさんも顔を真っ青にして、汗をだらだら流している。
「正直、この転生界は魂手が足りておる訳ではないのでな。儂としてもできればそれは避けたいのう。さて、どうしたものか……」
少女はそう言って頭を抱えたが、しばらくして顔をあげるとオレをじっと見つめる。
(え~と、なに?)
「お前……ここで働いてみんか?」
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