神に会っても祈らない ーこの恋と呪いの続きをー

藍舟

4


「――ああ、そうだ。わしはこの国を消してしまうことにしたよ」

 散歩でもしてくる、というほどの気軽さで、女神は言った。
 わたしがあの国で17歳の誕生日を迎える前日のことだった。

 国の歴史1119年――そのままの年月をその国とともに生きて来た女神は、慈悲深げな笑みを浮かべたまま、事も無げに国を滅ぼすことを宣言したのだ。

「明日の日の入りまでに、この世に残して欲しいものを1つ決めなさい。欲張ってはいけないよ、民1人につき願いは1つだ。分かったね」

 大岩の上にふわりと降り立った神々しい女神の姿を、あの国の全ての民が認識したのは、史上初めてのことだった。実際には目視出来るはずのないそびえ立つ大岩の上に在るその姿を、脳裏に浮かぶように全ての民にあらわして――先の言葉を伝え、女神はそれっきり沈黙した。女神の姿は、ほっそりとして儚げにも見えるものだったが、初めてその姿を目の当たりにした民たちには、きっと眩しい光のかたまりのように映ったことだろう。
 戸惑いから始まり、やがて嘆きや怒りに変わった地鳴りのような1万の民の声は、確かに女神に届いていたはず。
 それらを女神はいったいどんな思いで聴いていたのだろう。
 神の考えなど、今も昔もただの人間でしかないわたしには、理解出来ようはずもない。
 それまで、王族のみにその姿を見せて声を伝えて来た女神が、初めて民の前に姿をあらわした理由も、その時以降、王族であったわたしの問い掛けに応えてくれなくなった、その理由も……。

 ――ともかくあの時のわたしたちには、1人につき1つ限りの願いを女神に伝えることしか出来なかったのだ。

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