神に会っても祈らない ーこの恋と呪いの続きをー
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「――ああ、そうだ。わしはこの国を消してしまうことにしたよ」
散歩でもしてくる、というほどの気軽さで、女神は言った。
わたしがあの国で17歳の誕生日を迎える前日のことだった。
国の歴史1119年――そのままの年月をその国とともに生きて来た女神は、慈悲深げな笑みを浮かべたまま、事も無げに国を滅ぼすことを宣言したのだ。
「明日の日の入りまでに、この世に残して欲しいものを1つ決めなさい。欲張ってはいけないよ、民1人につき願いは1つだ。分かったね」
大岩の上にふわりと降り立った神々しい女神の姿を、あの国の全ての民が認識したのは、史上初めてのことだった。実際には目視出来るはずのない聳え立つ大岩の上に在るその姿を、脳裏に浮かぶように全ての民に顕して――先の言葉を伝え、女神はそれっきり沈黙した。女神の姿は、ほっそりとして儚げにも見えるものだったが、初めてその姿を目の当たりにした民たちには、きっと眩しい光の塊のように映ったことだろう。
戸惑いから始まり、やがて嘆きや怒りに変わった地鳴りのような1万の民の声は、確かに女神に届いていたはず。
それらを女神はいったいどんな思いで聴いていたのだろう。
神の考えなど、今も昔もただの人間でしかないわたしには、理解出来ようはずもない。
それまで、王族のみにその姿を見せて声を伝えて来た女神が、初めて民の前に姿を顕した理由も、その時以降、王族であったわたしの問い掛けに応えてくれなくなった、その理由も……。
――ともかくあの時のわたしたちには、1人につき1つ限りの願いを女神に伝えることしか出来なかったのだ。
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