「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい

守村 肇

聖女になんてなりたくない





 聖女どころかぶっちゃけ貴族の身分だって、ちぎってまとめてゴミ箱にポイが理想的だ。
 実際、そんなわけにはいかないから今日まで何百日、何千日という「今日」を、「悪役令嬢」を、何回も繰り返してきた。


 やりたくないこと、もう覚えたこと、初めから知っていること。そのすべてを我慢して受け入れてきた。どういうわけか自分は「思い出した」とかじゃなく最初から記憶があった。中身がずっと大人のままだから、早くに亡くなった母親のこともよく覚えている。綺麗で優しい「悪役令嬢ベアトリス」の母親。なんでベアトリスが悪役令嬢になったんだか甚だ疑問に思うくらいに。




「ねえ、サシェ」


「なんですか、お嬢様」


「あなた、聖女マリアナの話を初めて聞いたのいつだった?」


「え、いつでしょう。子供のころから、たぶん母や祖母に聞かされましたけれど具体的にいつ聞いて知ったのかはわかりません」


「そうよね、わたくしもだわ」




 ぱらぱらと寄せ集めた文献をめくってみる。設定上「聖女」というのがある以上、この世界には聖女が発現した歴史が残っているはずだ、と思ったのだけれどもどうやらテランスの言うとおり本当におとぎ話レベルらしいのだ。


 そりゃあまあ?王室の文献にはそれっぽいのもありましたけど?一般書に大した記述がないのは本気で記録がないからだ。じゃなきゃ隠ぺいされているかのどっちか。
 でもみんな聖女のことを知っている。知っているってことはどこかで聞いているからだ。寝物語かなにかかもしれないけれどだとしたら初めて聞いたのって何歳の頃なんだろう?


 私が日本人として生きていた時も、たとえばかごめかごめの昔話とか桃太郎とかトイレの花子さんとか、ああいうのって本当にいつの間にか知っている。親から聞いた話ばかりじゃないから幼稚園とか学校で聞いているのかもしれないけれど出どころははっきりしない。




「聖女マリアナ、アレーヌ、ソフィー、ローラン、カトレア……時代や背景に法則はなさそうね」




 今が何年目の何回目かはわからないけれどカレンダー通りでいいのならこの二百年は聖女は出現していない。王室の王子の数とか戦争とかクーデターとかいろいろ調べてみたけれど、あんまり関係ありそうなものは無かった。しいて言うなら聖女がいたであろう年代はジェノサイドが高確率であるくらい。……やめてほしいですわね、そんな物騒なの。




「でもどの聖女も誰かと結ばれてその役目を終えているんですねえ」


「レズビアンな可能性とかないのかしらね」


「れ……?」


「なんでもありませんわ」




 やっぱり乙女ゲームをなぞるようななにかなのだろうかと首をかしげる。サシェがお湯を汲んでくると部屋から出て行ったので少しばかり体制を崩した。




『伝説の話ですよ、本気でおっしゃっているのですか!?』




 あの日のテランスの声が響く。本気よ、いつだって本気ですわ。ヒロインをいじめるのも、ため息をつくのも、夜会で誰より美しく振舞うのも、聖女を信じるのも。私はいつだって本気で悪役令嬢を務めあげてきたんですもの。今だって、ずっとずっと本気に決まっているじゃないの。




「あのう、お嬢様」


「どうしたの?」


「お客様です、その……テランス様が」





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