「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい

守村 肇

聖女の条件





 王宮の書庫。
 本来であれば、入ることなんてとてもできないであろうその場所に彼女たちはいた。




「ほあー、すっごい数の本ですね」


「重要な文書なんかもあるそうですからこうなるのでしょうね」


「で、何を調べるんですか?」


「聖女の条件のようなものですわ、ヤヨイが聖女だと私は思っているんですけれど」


「資料集め頑張りますね、お嬢様」




 二人では大変なのではないか、手伝おうかというグランツをなんとか振り切りベアトリスとサシェは「聖女」に関する記述を探しに来た。
 おとぎ話、なんてテランスは言うが実例が存在したのだからそういう記録は王宮にあるだろうと踏んだのだ。とはいえなかなか骨が折れそうではある。




「お嬢様、この辺聖女の記載ありそうです!」


「でかしたわ、サシェ」




 聖女。
 神の代理人であり、神託の啓示を行うもの。国の繁栄と安寧を約束する絶対的な存在。
 端的に言ってしまえば理不尽であっても親愛度ゲージの上がる存在だ。アンスフィアの聖女をプレイしながら「なんでそこで親愛度上がるの」と突っ込みを入れた回数は少なくない。


 2の世界線での記載もどこかにないものだろうか。




「200年前の聖女の発生によれば……」


「……(これかな?)」




  いざ見つけたそれはあからさまに攻略本の体をしていた。サシェに見られないようにこっそり目を通すと「アンスフィアの聖女2」のおおまかなシナリオのようなものが書いてある。厳密には予言となっているがどう見たってあらすじのそれだった。




「なになに、聖女の記憶を持つ乙女と心優しき乙女の邂逅?」




 これはヤヨイと自分のことだろう。心優しきというのは「悪役令嬢」だったからこう見えるのだろうと納得して読み進める。




「愛を知らされる青少年、聖女は記憶を持つ乙女と心優しき乙女が邂逅することで二人が聖女となるだろう……」




 つまり、ヤヨイに「優しくすること」が聖女の条件だったというわけか。これでは回避のしようがそもそもないのだなと肩を落とす。が、待てよ。二人が聖女と書いてある。そのすぐ下には「二人の聖女がそれぞれ真実の愛をもたらす」と書かれていた。


 つまり、ヤヨイに傾くルートも存在するということだ。悲鳴を上げそうになった口を押えてベアトリスはメモを取り始めた。




「(ヤヨイに傾くのであれば、最低でも自分は一人と固定のルートというのが可能なはず。ハーレムエンドは避けられるかもしれない)」




 もちろん応えるかどうかは一旦置いておいて、とりあえずハーレムが避けられるのなら精神衛生はだいぶ良くなるのだ。あと選ぶとしたらテランスに変わりはないのでぶっちゃけそのあたりはどうでも良かったりもする。彼女にとって今大切なのはヤヨイも聖女足りえるというこの一文だった。




「お嬢様、このあたりなんかもそうかもしれませんよ」


「置いておいて、今気になる部分を見つけましたの」


「わあ、良かったですね!」




 人間は有頂天になると見落としやすい。校正なんかも、たとえば応募だの教授に送るなどしてから誤字脱字を見つけることだってままある。
 彼女の読んでいた攻略本、もとい予言書の下には小さくこう書かれていた。


 「心優しい聖女は数多の真実の愛をすべて受け入れなくてはならない」と。

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