「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい

守村 肇

悪役令嬢の予想が外れたようです





 つまり、だ。
 意地悪をやめればいいわけじゃなく、やめたらやめたでルート改変が起きてしまうが正解ということか。


 うぐぐぐぐぐと頭を抱える。授業は半分聞き流しているような状態でベアトリスは今朝のことを思い出していた。いつもやたらとつっかかってくるニコラは本来悪友ポジションだったはずだ。ニコラルートのベアトリスはヒロインに勘違いされるという役割も持っていたはず。ノエルもそうだ。少なくともあんなにわかりやすい恋心を向けられたのは初めてだった。


 アベルはというと接点なんてあまりない。夜会で何度か会ったことはあるし、一度くらいは踊ったことだってあるけれどそんなものだ。そもそも王家とつながりがある王子の花嫁候補の設定のウインチェスター侯爵家がボルフラン公爵家の男となにかあるはずがないのだ。辺境伯とはいいつつ本来ヤヨイは公爵家の長女という立ち位置にくるから自分は侯爵家なのだということも十分理解している。あとでヤヨイのほうが身分が高くならなくてはいけない。


 極めつけはグランツだった。「なんせ俺の花嫁候補」?バカを言うないままでそんな素振りすら見せたことはなかったじゃないか。それにあくまで候補の一人であって婚約者ですらないのになにをそんな当然ですと言わんばかりなのか。テランスについてはもういいだろう。




「ミス・ウインチェスター?聞いていましたか?」


「すみません先生、なんだか頭が痛くて聞いておりませんでした」


「医務室に行きますか?」


「いえ、授業を受けますわ」




 先生に声をかけられてしまい居住まいを正す。考えるのは後にしよう、今は真面目で優秀なベアトリスを演じなければ。
 と思ったが、それもフラグだったようである。






「トリクシー、ぼ、ぼく医務室までついていくよ」


「ええ?大丈夫ですわよノエル、ありがとう」


「でも心配だよ、風邪でもひいたんじゃないかと思って」


「ばーか、言っても聞かねえなら連れてくまでだっつーの」


「ちょっ!? ニコラ! おろして! おろしなさい!」


「やだ」




 今日も仲良しねーみたいな目線がいたたまれない。ちょっと顔赤くしてるニコラに耐え切れない。そんなこと望んでない、逆ハールートはあったかもしれないがそれはあくまでヒロインの話であって悪役令嬢じぶんには関係ないはずだ。それが、それがどうしてこんなことに! ベアトリスの頭は真っ白だった。




「二人ともどこに行くんだ?」


「医務室、なんか頭いてーんだってさ」


「僕が代わるよ」


「うっせーな、トリクシーくらい俺でも持てるよ」




 アベルに見つかった。もう人為的なんじゃないかというくらいルート改変をひしひしと感じる。やめてくれ。公開処刑だ。
 だれかに助けを求めようと周りを見渡すも、公爵家の男たちの間に割って入ってくるようなモブはいないらしく、女子生徒もきゃあきゃあと三人を見てはしゃいでいるだけだった。こっちの顔色も見てほしいものである。




「どうした、何を騒いでいる。トリクシーがどうかしたのか?」


「ベアトリス様、なにやらお顔の色が優れないようですね」




 詰んだ、と彼女は思った。なんでこんな時に限ってヤヨイはいないんだろうと彼女を恨んだ。

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