「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい

守村 肇

悪役令嬢はヒロインと仲良くなりたい





「ヤヨイ! ごきげんよう、よく眠れまして?」


「ご、ごきげんよう、うん、よく眠れました」




 健気な嘘をつくものだなあ、と心中でほろほろ涙をこぼす。目の下のクマがあんな環境最悪の部屋で寝れるかよ!と言わんばかりであった。早いところ、それこそ今日中にでも我が家に招こうと心に決めた。




「ごきげんよう、グランツ様、テランス。グランツ様、私を差し置いてヤヨイと仲良しってどういうことですの、ずるいですわ、抜け駆けですわ」


「抜け駆けって君な、俺は人として当然のことをしただけだ。工場への斡旋もしたし、彼女は家が遠いから迎えに行ったんだ」


「まあ、遠いんですの?」


「村の外れのほうに住んでいて……」


「でしたら私の家においでなさい! 部屋は沢山ありますし私と登校したらいいんですもの!」


「な、トリクシー!そんな勝手に」




 グランツとのごく自然な会話からすんなりヤヨイを誘うことに成功する。ヤヨイは「いいんですか!?」と嬉しそうにしてくれていたのでグランツにあっかんべーをかまして一緒に帰る約束をした。幸い荷物なんて一つもないそうだ。とはいえ世話になったパトリックには会いたいそうなので寄り道をして帰ることになるだろう。




「休みの日は工場に?お父様にお金の話もしてみますわね」


「なんでそんなに、親切にしてくれるんですか?」


「あなたに出会えてびびっときましたのよ」


「びびっと?」


「びびっとですわ!」




 そりゃあもうこの子で終わらしてやるというびびっと感であった。
 幸い導入ルートはグランツのようだし、働くうちにミシェルかパトリックのルートになるかもしれない。なんであれそれなら都合がいい、勝手に幸せになってくれてこっちは悪役令嬢を辞められる。もちろんヤヨイがそれを知らなくてもウィンウィンというやつだ。


 訝し気なグランツとは裏腹にテランスは楽しそうに笑っていた。
 この学校にルートの関係者はグランツ、テランス、アベル、二コラ、ノエルがいて自分も含めみんな歳は十七歳。途端に気恥ずかしくなってふわりと目線をそらす。気になってもう一度見やるもテランスの目線はベアトリスをしっかり捉えていた。




「ベアトリス様は今日もお美しゅうございますね」


「な、な、なんてこというの、テランスったら」


「ふふ、すみません。想ったことを言ったまでだったのですが」




 思うの字が違う!とつっこみそうになる自分を抑えて「あらまあおほほ」と笑って見せる。ヤヨイはなにか感づいたのかきらきらとした目でテランスとベアトリスを見つめている。グランツはというと、どことなく不機嫌そうで、咳ばらいをするとこう言い放った。




「トリクシーはいつだって美しいぞ、なんせ俺の花嫁候補なのだから」


「なあっ!? なにを言ってますの、グランツ様ってば!」


「? 事実だろう?」




 噂という面では事実かもしれないがヤヨイの前だ。ヤヨイはヤヨイできらきらと楽しそうにしていて、恋愛話が好きな思春期の少女の表情をしていた。どうして?導入ルートはグランツだったんじゃないのか?ヤヨイはもしかして「ヒロイン」ではないのか?そんなはずはない、こんなに顔のはっきりしたモブがいるはずがないのだ。




「ヤヨイは俺とテランスと同じクラスだ、さあ行こう」


「はい、ではベアトリス、またあとで」


「え、ええ、また……あとでね……」

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