異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?

守村 肇

55 鬼は泣く





「マツリカを逃して数年後、また食人事件はおきた。今度はすぐ捕縛された」


「捕まったのね」




悲しみと復讐で起きた事件なのに、なんでそこに連続性があるのかがさっぱりわからない。愉快犯みたいなあれならまだわかるけど、その血の零時事件の背景にあるのは単純な愛憎劇だ。
それがまた数年後に違う場所で食人事件になるなんてことがありえるのか?




「マツリカは心神喪失といった様子だった。当時騎士団長だった私も駆けつけたが悲しいほどにやつれていた。
あれだけ優しさに満ち溢れた男が持つ悲壮感というのは本当にやりきれないのだ」




「なんでまた人を食ったんです、ロータスさんもいない、子供も殺せなかったのに」


「理由は一切不明だ。やつはもうすでに、・・・・・・鬼だった」




アシュタルさんが絞り出すような声でそう言った。鬼。それは比喩かもしれないし事実かもしれない。金色に輝く目で血塗れの男性を想像して泣きたくなるほど辛くなった。なんでなんだ。誰も悪くなかったのにどうしてマツリカさんは幸せになれなかったんだ。何が彼をそうさせたんだ。




「その後マツリカは独房で亡くなった。最後まであいつは鬼だった。ロータスの愛したマツリカはいなくなってしまった…それも悲しい話だが」


「独り身だった、のにどうして食人鬼の一族が発生したんです」


「負の感情はそれ自体が意思を持つ。いいかウタキ、通常考えられないことだが奴が鬼と化したあと、おそらくその体が2つあったのだ」


「体がふたつ?」


「負に飲まれ、あるいは魔族と契約をしたか、本当のところはわからん。だが奴の意思を次ぐ何か入れ物が存在したのは本当だ。そして、その入れ物はおそらくロータスの形をしていた」


「・・・つまり、気の交わりかなんかでできたガキがいる、って?」


「今考えられるのはそれしかない。でなくてはあの金色の目を発現させる理由に説明がつかないからな」




なるほど、食人鬼はみんな揃ってその金色の目をもってるわけか。




「発生原理とか、そんなのは」


「わからん。今年はまだどこも被害を確認していない」


「アシュタルさん、今のだけじゃ食人鬼を憎めない理由には足りなさすぎるでしょう、なんかあるんじゃ」


「被害者たちだ」


「被害者?」


「マツリカの被害者こそ関係者が無差別だったものの、その後の事件はいつも結ばれない二人の障害となる人間が襲われている。まるでその2人の未来を阻むものを許さないとでも言うように」




外見的特徴で発現するのはその目だけ。性別も外見も年も様々で共通性はない。あるのはその2人を幸せにしようという善意が間違った方向にでてる食人だけ。きっと食事そのものが目的ってわけでもないんだろう。




「だから、それで救われる者もいる。だから、その背景にマツリカとロータスを見てしまう我々には食人鬼を殺すことはできんのだ」




ああ、やっぱり。
優しさが仇になって、そうやって自分の首を締めるみたいな、どこにも当てられないやりきれなさだけを孕んだ理由でしかないんだな。
根絶やしにできないのは、きっと全人間族がそう望んでいないからだ。ダークヒーローのようなもので。




「マツリカもロータスももうこの世にはいない。20年も前の話だ。だがだからこそ、食人鬼は都市伝説になるにはまだ新しすぎる悲劇なのだ」

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