異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?
26 火事場のなんとかっていうしバカと天才はなんとかっていうし
「エレーナ、ティタニアさん、こっからカルセルムまでどんくらいかかる?」
「気球ユニットを使えば2時間くらいかしら…まさか行くつもり?」
「ウタキ、これは私怨ではなく客観的意見だが今のお前では行っても無駄に怪我をするだけだ」
ふたりの言うことはもっともだ。俺はメイスすらまともに扱えない。ティタニアさんに勝ったあれだってただのまぐれだし、エレーナにすら及ばない自分の戦闘力については自分が一番わかってるつもりだ。
でもだからって、知り合いを見捨てても平気なほど俺は臆病者じゃない。
「俺、クレオと約束してんだよ、調べなきゃいけないことがあるしそれについてクレオに伝えなきゃなんないんだ」
「だからって、危なすぎるわ」
「あの二人の親父さんだって俺の同郷だろ、それをほっておいたらあとで後悔する。怪我したほうがましかもしれない。俺は勇者なんだろ!?なら俺がやるんだよ!」
全員が息を呑むような音がした、気がする。隣で王様だけが楽しそうにくつくつと笑っていた。
「よおし、わかった!事務局員はすぐさまカルセルムに緊急避難警報を発令しろ!カルセルム自衛団に連絡して防御を固めるんだ!アシュタルは気球ユニットを手配してウタキ、エレーナ、ティタニアはそのままカルセルムに向かえ!王都騎士団の第五部隊から偵察隊を派遣して北部国境隊と連絡を取るんだ!と、リト!」
「はいっす!?」
「お前、ウタキについてけ。パキラも」
「おおおおお俺っすか!?あんまりおやくには立たないと思うっすけど!」
「男一人じゃやりにくいだろ、なあウタキ?」
にやにやーっと王様は笑った。結局この人はめちゃくちゃ賢い。事務局勤務ってことはエレーナたちより地理や普段の様子はリトのが詳しいからナビ役として連れてけって言ってるんだ。
なんでこの一瞬でそこまで指示できるんだろうとむしろため息が出る。王様は象徴か、飾りかって話もしたけれどどうもそればっかりじゃあないらしい。
「ウタキ、お前水晶水飲んだじゃろう?」
「えっ」
するっと猫のような動作でパキラが俺の肩にのり移ってきた。
くんくんの俺のにおいを確かめるとぎざぎざの歯を見せつけるようににんまり笑う。
「水晶水のにおいがする、どこで飲んだか知らんが飲んだからには覚悟ができとるんじゃろ?」
「覚悟?覚悟ってなんだよ?」
「お?知らんで飲まされたか災難なこって」
「パキラ、ウタキさん水晶水飲んだんっすか?」
「エレーナからもにおいがする」
「え、わたし?」
俺とエレーナ。水晶水。
心当たりなんて一か所しかない。
「アリアさんのとこで紅茶飲んだけどまさか・・・」
「ま、そのあたりは同中説明してやってもええぞ。面白いことになったもんじゃのう?」
声を出して笑うパキラ。呆然とするリト。眉間にしわを寄せたままのアマレアさん。
ニヒルに笑った王様と、真顔で指示しているアシュタルさん。ため息をついているティタニアさん、
彼女に隠れるように黙っているオデット姫。
そして泣きそうな顔をしているエレーナ。
この場はカオスの一言だった。
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