異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?

守村 肇

10 固定役職におけるちょっとした与太話



 「うううううう暇だよおおお!アルバート!ひま!」
 「アリアドネ、きみはもう少し統率者である自覚を持たないといけないよ…」


 この世界にも法がある。ウタキの世界と大きく違うが根底は一緒。要は社会生活におけるルールだ。
 そのなかでもことさら特殊なのが「特定役職における固定ルートとルートに関する法令」というものがある。
 ざっくり言うと、世襲制とそれに関しての決まり事だ。目立つところでは王族がそうであり、またこの世界では魔法使いと呼ばれる彼らもそうであり




 「しーらない!世界征服したのって2代目様とひいひいおじいさまと、お母様だけじゃん。好きで魔王なんかしてないよぉーっだ」


 魔王様も例外ではなかった。


 「本当は踊り子とか薬屋になりたかったんだもん」
 「魔王ってなりたくてなれるもんじゃないんだけど」
 「じゃあアルバートがやりなよ」
 「僕はカタストロフ殿下の直系じゃないから無理だよ」


 この世界の魔王という役職は経済活動を回すのに重要な役割を持っている。
 魔王側は世界征服と称して部下を雇い入れる必要がある。それを倒すために王国側は勇者を召喚し、その勇者にも報酬が発生する。勇者に倒されるのを阻止すべく、強化が必要となり強化剤やジム、鍛錬場が解放され利益率が爆発的に上昇し、勇者はそれを倒すために装備に金を使い、町の経済が活性化する。部下たちはそれを強盗という形で奪い取り、町は再建を繰り返す。


 もっと単純に言うと、風が吹けば桶屋が儲かるのだ。


 ちなみにこの世界で一番給料がよくて楽なのは、初期勇者の経験値上げをする低級部下たちで、次いで薬屋である。
 変な話だが、倒されやすく金を報酬として取られてしまうので給料値はトップクラスなのだ。


 さて、今の魔王は見た目だけなら年端もいかない少女だ。42代目である彼女はアリアドネという名前である。好きなものはぬいぐるみとケーキ。実年齢は聞いたら後悔すると思うので控えさえていただく。


 側近である彼は彼女の血縁であるアルバート。ただし魔王の直系ではないので彼が魔王職を務めることはない。


 固定役職の者たちは大体そうだが、直系の長子が性別に関係なく世襲する。長子に後継ぎがいなければ長子の兄弟が継ぐのが決まりでもあった。両親や歴代の魔王たちは隠居して旅行やゲートボールを楽しみ、彼女の弟たちは町で商人や狩人としてやりたいことを謳歌している。
 倒すことが死ぬことではないこの世界で、ヒトならざる彼らはかなり長寿であるため役職を退いた後は勇者や町人と和気あいあいとしているのである。


 ちなみにアルバートが側近なのは彼のほうが年上で、かつ彼がアリアドネに長いこと恋情を燻ぶらせているからでもあった。


 「そろそろ次の勇者が来るだろうからしゃんとしなさい」
 「やーんー…やだぁ」


 勘のいい読者諸君にはお察しいただけたかと思う。
 魔王が女ということはつまり――。

「異世界転生してハーレムルートなのにヤンデレしか選択肢がないんだが?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く