開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第36話 開拓惑星の野望

 再開発された名古屋市は、治水対策さえできれば広大な土地が使えるという点が再評価され、工業都市への道を歩みつつある。
 大和連合の5つの街は、いくつか特色はあるが、基本的には自給自足型のバランスの取れた開発が行われている。近年は工業側に舵を取りつつあるが、農業で食料生産とエネルギー生産を賄っている以上は、農業を疎かにするわけにもいかない。新しい開拓地は、利用できる平地の広さの関係もあって、どちらかというと農業と漁業よりの開発が行われている。
 駿河市が先行している工業製品の生産では、人口増加に従って需要が増大しているが、生産力にいずれ限界が出る。それを解決するために、駿河市を研究開発拠点として、名古屋市を大量生産を目的とした工業都市として新たに開発することになった。
 5年かけて、治水工事と並行して、大規模な港を建設した。現在は先行して整地した部分を利用して、製鉄所と、工業用アルコール生産と、アルコールを起点とした重化学工業のプラントが試験稼働を開始した。湿地の埋め立てと整地が済み次第、家電や車両などの工業製品の生産ラインが建築される予定である。駿河市では作れなかった全長100mを超える大型の鋼鉄船を造船できるドックも計画している。


 こういった大規模化が可能になった背景には大陸との交易拡大がある。
 大和連合としては、大陸とは距離を置く姿勢だったが、駿河市との交易開始を商機として大陸に進出した博多市の貿易商がいた。リスクこそ高いが、地元で鉱物資源を掘削するよりも大陸側で掘削した方がコストが安いことに目をつけて、大陸開発に乗り出したのである。開発が停滞していた大陸に必要な物資を投入して、地域開発に成功したことで、交易の取扱量が増えてきている。大和連合からは、食糧や、繊維製品と、鉱山開発用の重機が輸出され、大陸からは、鉄鉱石やボーキサイトといった鉱物資源が輸入されるようになった。開発に関与した貿易商の一人である博多豊太朗は、大陸東岸の主要都市をまとめ上げ、大東亜連合を設立し、その議長にまで成り上がった。


 交易交渉で駿河市にやって来た博多豊太朗は語った。
「さすがに、この星の反対側のことまではわかりませんが、大陸の東側一帯で、工業の再興という意味では駿河市より成功した街はありません。駿河市は、私たちの希望の星なのです。駿河市の成功は、早期に、ちょうど良い規模で、バランスの取れた資源開発ができ、新技術を開発できたことにある。地上にある母船のようなものです。大陸は広い。広いがゆえに問題を抱えている。人口だけはあるが、さらなる発展をするには物流が必要だ。物流が改善されて、駿河市のレベルになるには、100年はかかるでしょう。だが、そこに商機がある。当然無償でなどとは言いません。お互いのより豊かな社会のためにご協力願えませんか?」
「こちらの問題は、生産能力はあっても、鉱物資源を筆頭とする資源の取得のコストが高いことにある。当面の間は垂直分担で資源を輸出していただけるとありがたいです。産業基盤が整備できた暁には、輸送コストの問題で、いずれ現地生産による水平分担することになるでしょう。」
「もし、惑星全体を統治する世界政府を樹立するのであれば、母船からもたらされた文明を知っている世代が残っている今後20年ほどが勝負かもしれません。」
「と言いますと?」
「工業化に失敗した地域は、産業革命以前の農業と漁業主体の生活水準に落ちている一方で、人口は増加しています。かつての文明を知っている世代が生き残っているうちに、教育して開発しないと、世界を統一して開発を推進するには障害が大きくなる可能性が高いです。実際、大東亜連合でも教育のレベル低下は緊急の課題になっています。」
「勢力の分裂による戦争だけは避けたいですね。大東亜連合ではどこまでの地域を確認しているのですか?」
「勢力圏にあるのは北第一大陸の東岸4000kmぐらいの海岸地域で、そこよりも外となると不確かです。大型船で、船団を組んで、外交関係を結びなおすだけでも、共同でやりませんか?」


 私たちは、机の上にある惑星儀を眺めた。北半球の3分の1ほどにもなる大きな北第一大陸とその4分の1ほどの北第二大陸があり、南半球にも、北第二大陸と同じような大きさの南第一大陸と南第二大陸、南第三大陸がある。大和列島は、北第一大陸の東側にあり、北第二大陸、南第一大陸と南第二大陸に囲まれた直径18000kmの円形の太平洋と呼ばれる海に面している。


「大きな夢ですね。」
「でも、実現できない夢ではない。」


 こうして、『マゼラン計画』と名付けられた海岸沿いの街と外交関係を結ぶ計画が動き始めたのだった。後年、「マゼラン会談」と呼ばれるようになったこの会談は、この開拓惑星での大航海時代の幕開けを告げるものとなった。







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