開拓惑星の孤独

舞夢宜人

第29話 開拓惑星の交易交渉の曙

 商用で街を代表してきている来賓と、土産話を持ってきただけの旅行者とでは、当然扱いが異なる。それが分からない愚か者もいる。いや、愚か者ゆえに既存の社会に馴染めずに他所の土地に行きたがるのかもしれない。


 スタートが同じだけあって、100年経っても、街の間で基本的には大きな違いがない。仙台市と函館市の様子を見てみても、得意な産物や、取得しやすい産物、流行している文物で差別化が始まってはいるものの、基本的な社会制度は同一である。


 琉球夫妻についてだが、悲しい結果になった。強盗傷害を犯して現行犯で射殺されたのである。琉球市と博多市に関するレポートと交換する形で、街で使える通貨と補給物資を提供しようとしたのだが、3日経っても提供されなかった。1週間経ってやっと提出されたレポートは、あいまいな記述と、合理性がない矛盾した誇大表現が散見される信頼性が欠けるものだった。いくら短いレポートだったとしても、駿河市の卒業間近な学生が、こんなレポートを提出したら、単位を落として卒業を取り消され再履修になるようなレベルの内容だ。社会に馴染めない不良が駆け落ちでもしてきたとみなして警戒を高めていたところ、夜間に商店に忍び込んで窃盗をした上に、捕まえようとした整備員に銃を発砲し、駿河市の漁船を盗んで逃亡しようとしたので、警備員に射殺された。遺留品を調べてみると、身分証明書では確かに琉球市から来たようだが、乗っていた船は博多市の船籍だった。今となっては、本当に琉球市の幹部候補生だったかどうかも怪しい。一般市民に被害がなかっただけ良しとしておこう。


 駿河市は、亡くなった長老の功績で、重点開発地域に指定され、入植した第一世代の人口と配分された資源が多かったおかげで、工業的に他の街よりも恵まれているところがある。最新の成果としては、植物由来の原料を使った高分子化合物の産業化がある。もともと、アミノ酸関係については入植開始した初期から可能であったが、施設の老朽化などで低迷していた。そこに梃入れをして、合成繊維や合成樹脂まで扱えるように長年研究してきたのである。可能であるとわかっていても、実験室レベルならばともかく、産業化するとなると、問題も多かった。課題としては触媒などに使用する希少金属や希少鉱物が不足している点が挙げられるが、周辺地域から取得可能なもので代用する研究が進み最近になってやっと実証プラントが稼働できたものだ。不足している鉱物資源が得られれば産業化できる段階にまで来ていた。


 伊達夫妻と十勝夫妻に、こういった成果を説明して見学してもらった結果、鉄や銅ばかりでなく、不足している鉱物資源を提供できる可能性を提案された。長期的な計画になるが、研究者の交流と資源探査の協力を行いつつ、現在提供可能な資源を融通し合うという基本合意ができたことが今回の成果だ。他の地域を巻き込んでより大規模な資源開発と資源の流通が始まれば、エレクトロニクスや半導体関連の産業を再興することも夢ではあるまい。


 この合意を受けて、各街は、お互いに相手の街に商館を建てて、交易品の売買を管理することにした。今後のためにも、運輸業と、交易は分けておいた方がいい。通貨については、もともとの通貨が物価水準の差が大きすぎて意味をなくしているので、当面は、物々交換を前提にしつつ、通貨の共通化を検討することとなった。商館の役割は、現地の商売は現地の通貨で済ませるという目的もある。早速、現地の商館に派遣する商館員の育成も開始した。


 伊達夫妻と十勝夫妻は、1ヶ月にわたる長期の逗留後、それぞれの街向けの交易品とともに戸田丸で故郷に帰っていった。半年後の次の航海では、商館員を交換することになるだろう。


 一方で、琉球市と博多市が少なくとも健在であることは確認できたので、貨物船3番船である下田丸を造船する優先度が上がった。





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