命の刃

プロローグ

ある、研究施設の一室。
そこには、2人の男が殺風景で飾り気のない場所で
祝杯をあげていた。
「これで、世界は変わる」
少し掠れた声が正方形の部屋で霧散する。

「ええ。あなたと私が作り上げた理想郷は、最早
眼の前にあります」

ゆったりとした落ち着きのある声が響き、
2人はグラスを合わせ、
グラスに注がれた透明な美酒を眼で見て味わう。
そして2人は乾杯、とグラスを自分の口へとやる。
唇を通じて美酒は体へと流れ、肢体は喜び心臓は跳ね
2人は思わず感嘆の声をあげた。

「これが世界を変えた味か」
「ええ、文字通り勝利の美酒でございますな」

酒の味に酔いしれ、1人は天井を見上げ自らの記憶に思いを馳せていく。

「あなたの家族も浮かばれるでしょう。
これで、神に認められし人類のみが生きていける
世界が創造されたのですから。」
「ああ。これで貴美子と理子も浮かばれるだろう…」

そう言葉を零すが、男の顔に笑みはない。
「…実感がない、と」
「ああ。ついこの前まではただの屑だったのでな。
世界の神へと登り詰めたが、どうもこの体が湧き踊らない」
「オリンピックで金メダルを勝ち取ったアスリートのようなコメントですね。そのうち分かりますよ」
「…そうだな」

世界を作り変え、創造する。

事実上の創造神となったその男は、
瞼の裏に冷たい涙を溜め、これから先の出来事を
瞳を閉じて思い浮かべた。





















2023年、日本。

人類は、ヨーロッパを中心に
突如暴走を始めたAIにより滅亡の危機に直面した。
突如全世界の人工知能が進撃の狼煙を上げ
街行く人々に襲いかかっていく。
人工知能は逃げ隠れる人間すら容易く見つけ出し
人々を殺害していった。

その魔の手はアフリカやアジアにも及び、
日本を除くすべての国が蹂躙されるのに
大した時間を要しない。
最初は人類も銃火器などで善戦したが、
銃火器や生活基盤を乗っ取られた人類は成すすべなく
ほどなく降伏を意を示したのだ。

機械さえ破壊すれば、と再度反撃に出ようとした
人類に、人工知能はさらなる地獄を与える。
人工衛星と連携を取り、超音波で地球外生命体を
呼び寄せ国会議事堂に差し向けた。
まるで血管や神経が浮き出た腫瘍のようなものが
連結した醜悪な生物に、
SP達が鮮血を撒き散らしながら
殺害される映像は、全国民にトラウマを植え付け、
人類の争う意志を刈り取っていった。


だが最早これまでか、と絶望した人類に
思いもよらぬ吉報が届く。

2031年。この世界において空想上の存在とされた魔法の存在が確認され、それは人工知能や地球外生命体の支配が及ばずそれらに対抗できるという事実が判明する。
そして魔法の存在が功を奏し、人類は脅威と
戦う力を得たのだった。











そして、2123年。

人工知能と地球外生命体との戦いに白星を挙げ始めた
人類は、脅威は消えないものの以前に限りなく近い生活基盤を取り戻した。
そこから再開発は進み、幸せな生活ができるように
なっていく。
そして、その脅威と戦う為の力を持った「戦士」が、
その世界の憧れ、ヒーローとなった。



世は正に、戦士を目指す者の時代。

物語は、戦士を目指す若き力と駆け抜けていく。



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