もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

謎の体調不良

「お、お姉ちゃん!?」

「どうしたんだよ、アイン!?」

「顔が真っ青ですます!」

「……ごめん、ちょっと気分が悪くなってな……。しばらく、一人にして貰ってええ?」

アインは何とか気丈に振る舞おうとしているものの、その口から漏れる声は、ひどく弱々しい。

大して暑くもないのに、額には汗をかいているし、明らかに不調が見て取れる。

「そんなこと言ってる場合か!? 早くプリムを呼んできたほうが……って、ここからじゃ遠いな。くそっ、ミルク、他に治癒師の当ては!?」

「ありますです! すぐに戻ってくるので待ってて欲しいですます!」

そう言い残して、ミルクは足早に部屋を飛び出した。

取り敢えず、これで医者の確保は何とかなるか……。

念のため、後でプリムにも診察してもらうとして、今は俺が出来る事をしないとな。

……。

…………。

………………。

あれから、俺はアインの看病をしたり、不安そうなフィーアを宥めたりと大忙しだった。

また、ミルクが連れて来てくれた医者によって、アインの不調は肉体ではなく精神に起因するものだと診断された。

そして、現在、アインを除いたメンバー全員が食堂に集まり、駆けつけてくれたプリムの話に耳を傾けている。

「――という訳で、わたくしが診察しても結果は同じだったわ。あの子の体から不調の原因は発見できなかった。このわたくしが調べても分からないなら、考えられるケースは二つ。そもそも病が存在しないか、あるいは人間にどうにかできる病では無いという事よ。前者なら別の角度から不調を検証すべきだし、後者なら手の施しようが無いわ。せいぜい神頼みでもすることね」

無駄だと思うけど、と口にしなかったのは、プリムなりの気遣いだろうか。

まぁ、声に出さなくとも顔に出ているので、あまり意味はないけどな。

「ということは、やっぱり精神的な何かが影響してるって事なのか。あの先生も、そう言ってたしな」

ちなみに、ミルクが呼んでくれた先生は、人が良さそうな、お婆さんだった。

心理カウンセラーとしてのスキルも取得しているそうで、この街で彼女を知らない人は、ほぼ居ないらしい。

今はアインのカウンセリングに取り組んで貰っている最中だ。

「それだけなら良いのだけどね……」

「何か心当たりでも?」

「ほら、昨日のこと覚えてる? あの子がお腹を壊してわたくしが診てあげたこと」

「あぁ、それが?」

「その時、妙に回復魔法の効果が薄かったのよね。ただの腹痛なら一瞬で治せるのだけど、このわたくしが時間をかけても完治させることが出来なかった。でも、他に心当たりも無いって言うし、特殊な食材も使ってたって言うから、そんな事もあるのかもって思ったのだけれど……。どうやら、あの子、何か隠し事をしてるようね」

プリムの確信めいた発言に、俺はアインの言葉を思い出す。

『ウチには秘密があるんよ。墓まで持っていくつもりの秘密が。そして、それはフィーアにも関わりがあること。だから、この子の事は出来るだけ知られたく無かった。どこから秘密が漏れるか分からんからね』

俺は、無意識にフィーアに視線を向けた。

彼女は何かを恐れるように肩を震わせ、俯いている。

アインの秘密。

それに関わるフィーア。

謎の体調不良。

どうやら新たな出会いは、新たな事件の始まりでもあったようだ。

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