もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

今度こそ本当に

「逃げて下さいぃぃぃっ!」

「リンネ!? お、お前なにやってんだよ!?」

「見ての通りですぅぅぅ!」

先程から、どこからともなく響いていた声の正体。

それは、俺がよく知る女神、リンネのものだった。

唐突に空から登場した理由も気になる所だけど、そんな疑問が些事と思える程の緊急事態が同時に進行している。

「見て分かんねぇから聞いてんだよ、こっちは! つーか、止めろ!」

「どうやってですか!?」

「俺が知るかっ!」

そう、彼女は一人では無かったのだ。

とはいえ、その連れは人間という訳でもない。

何故か、彼女は大型のドラゴンの角に掴まり、振り回されるような形で姿を見せた。

「な、なんだ、あれは!?」

「なんで、こんな所にドラゴンが!?」

「お前ら! 無駄口を叩いてる暇があるなら手と足を動かせ! 気絶してる奴等を担いで、とっとと避難するぞ!」

「し、支部長! わ、分かりました!」

「総員! 我らも早急に、この場を離脱する! 負傷した団員の回収を急げ!」

「はっ!」

「私が殿しんがりを務める! お前は先行して安全に皆を誘導するのだ!」

「そんな……。いえ、了解しました! どうか、ご武運を!」

突然、現れたドラゴンに、場が騒然となり始めるが、ギルドと騎士団のトップにより、なんとか混乱は回避されたようだ。

しかし——、

「ぎゃあああ!? こっちくんなぁぁぁ!」

「だから、コントロールが出来ないんですってばぁ!」

何故かドラゴンに捕捉されてしまった俺は、全力で逃げ回る羽目に!

「は、ハルさん! いま助けますです!」

「ミルクはん、ちょいまち! お兄さん! しばらく、そのまま引き連れといて! 周りのモンスターが怯えて逃げてくから!」

「ムチャ言ってんじゃねぇぇぇ!」

確かに、蜘蛛くもの子を散らすようにモンスターが逃げて行ってるけども!

その前に、俺の命が散りそうなんだが!?

「おい、リンネ! お前、神様だろ! なんとかしろ!」

「白木さんも知ってるでしょう! 下界の私は特別な力が使えないんですよぉ!」

「くそったれがぁぁぁ!」

恐らく、これはリンネのギャグ体質による現象だと思う。

そもそも俺が狙っていた事でもあるしな。

実は、もちこに頼んだ用事というのは、教会にある女神像に体当たりをかまして、リンネを呼び出してもらう事だったのだ。

昨日、俺が女神像に叩き付けられた直後に、リンネは現れた。

だから、あの像を介してリンネを呼び出せるんじゃないかと考えた訳だ。

そこで、アイツの‘‘シリアスやると死ぬ病’’と、それに起因するギャグ体質を利用して、もしもの時の保険にしようとした。

だけど、まさか、こんな形で発現するとはな!

その後、俺は十数分に渡り、ドラゴンとリアル鬼ごっこに興じる事となる。

やがて、俺が力尽きて倒れる頃になって、ようやくドラゴンは去っていったのだった。

ちなみに、リンネも、そのまま連れ去られたけど、まぁ多分、心配ないだろう。

何だかんだで結局、俺も無事だった訳だし。

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