もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

一難去って……

「危ないっ!」

かなりの速度で、こちらに向かって飛んでくる、謎の物体。

悪寒が全身を駆け抜け、本能が警鐘を鳴らし、魂が危険を叫んでいる。

俺は咄嗟の判断で、二人を地面に押し倒した。

「はぅっ……! ハルさん、急に何を!?」

「ちょ、お兄さん! 初めて、こういう事するんは旦那様と結婚した夜って、ウチ決めてるんよ!?」

「…………」

気が動転している二人に構う余裕もなく、俺は、すぐ傍に飛来した物体に目を向ける。

その正体は、昨日、教会で見た呪いの短剣にそっくりだった。

黙り込んでいる俺を不思議に思ったのか、ここで、ようやく二人もソレに気付く。

「なっ!? これは昨日の!」

「呪いの短剣……やね。ってことは」

「……ああ、奴だ」

俺がナイフの飛んできた方向に目を向け、アインとミルクも、その視線を追う。

予想通り、そこには黒いローブを纏った人物が立っていた。

恐らく、キース達を襲い、ハーモニックの街にモンスターの群れをけしかけた張本人だろう。

そいつは、ナイフの投擲が外れたと見るや、禍々しい笛を口元に当て、不吉な音色を奏で始めた。

「このヤロ——」

慌てて白虹丸はっこうまるを構え、その演奏を止めようとした俺だったが、もう遅かった。

辺りから無数の足音が響き渡り、どこからともなくモンスターが湧いてくる。

その数は優に100を越え、今も尚、増え続けている。

しかも——、

「騎士団やギルドの皆がっ!」

そいつらは、まだ満足に動けない戦闘員たちをピンポイントで狙い、真っ先に向かっていく。

ギルドの支部長や、騎士団の部隊長は辛うじて回復しているようだけど、この数が相手ではジリ貧だろう。

そもそも、あれだけの戦闘の後だ。

普段よりも圧倒的にパフォーマンスが落ちるのは想像に固くない。

「ウチが行く! まずは、プリムはんを回復させて、二人で片っ端から治療していくわ! お兄さん達は、ここを頼むで!」

そう言って、近くで倒れているプリムの元へ向かうアインだが、圧倒的に人手が足りない。

……このままだと、死人が出る。

そう確信し、急いで黒ローブを倒さねばと白虹丸を強く握った俺の耳に、かすかな声が届いた。

「————て—————さい」

「……なんだ、今のは?」

ただの空耳だ、そんなことより早く黒ローブを。

俺の脳は、そんな判断を冷静に訴えてくる。

しかし、俺の心が、耳を澄ませと囁いてくる。

俺は、無意識の内に、心の声に従っていた。

やがて、小さかった声が、徐々に大きくなり、はっきりと聞き取れるようになる。

この声は——。

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