もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

決着

「……とうとう、動き出したか」

俺の口から漏れた呟きが少し、くぐもった響きで俺の耳に届く。

加えて、辺り一帯には、ズシン! ズシン! というゴーレムの重厚な足音が撒き散らされているが、やはり、それも、どこか遠くに感じた。

それらの原因は単純で、俺が透明なビニールっぽい素材の巨大ボールに入っているためだ。

「ほんなら、そろそろ始めよか。お兄さんも、ミルクはんも、心の準備はオッケー?」

「俺は、いつでも良いぞ。ミルク、思いっきり頼む!」

「了解ですます! 任せてください!」

全長100メートル近い巨体を誇るゴーレムの胸部。

そこにあるケルンを叩き潰すために、俺達が立てたプランは非常にシンプル、かつ力押しだ。

1.俺がアイン作の巨大ボールに入る。

2.ミルクが、ゴーレムに向けて、それを打ち上げる。

3.ゴーレムに接触する直前で、アインがボールを爆破し、最後の加速を得る。

4.俺が白虹丸はっこうまるを突き刺してとどめ。

以上である。

最初は、ミルクがとどめを差すプランも提案したけど、俺じゃあミルクを打ち上げられないことと、消耗したミルクの武器ハンマーではケルンを砕くための負荷に耐えられない可能性があったので、この布陣に落ち着いた。

白虹丸の丈夫さは折り紙つきだから心配ないし。

ちなみに、もちこには出番が無いため、ちょっとした、お使いを頼んである。

この作戦が万が一、失敗したときの保険だ。

もちこ一人で無事に役目を果たせるか、少し不安な気持ちはあるけど、何事も経験だしな。

初めての、お使いが、もちこにとって貴重な財産になる事を祈るとしよう。

「さて、それじゃあ行くか! ‘‘アースロ’’! ‘‘ウォルタ’’!」

まずは、地属性の基礎魔法‘‘アースロ’’で、予め身体能力を強化しておく。

大地からエネルギーを得る性質上、空中では使えないからだ。

まぁ、所詮は基礎魔法だから、使ったところで気休め程度の効力しか得られないけど、無いよりはマシだろう。

そして、次に、水属性の基礎魔法‘‘ウォルタ’’を使い、巨大ボールの中を水で満たす。

こうしておかないと、打ち上げた時の衝撃で、激しくシェイクされる羽目になるからな。

風船の中にビー玉を入れて思いっきり振ったら、どうなるか。

それが人体に置き換わるイメージだ。

前もって内部を水で満たしておけば、呼吸が出来なくなる代わりに衝撃は緩和される。

数十秒くらいなら息も持つし。

「いっけぇぇぇ、ですますっ!」

気合いの籠ったミルクの掛け声と共に、巨大ボールが真上に投げられ、落ちてきた所に渾身の一撃が放たれる。

その勢いに押され、巨大ボールは弾丸のように射出された。

周囲の景色がブレる程の速さで後ろに流れ、みるみるうちにゴーレムとの距離が縮まっていく。

「爆破!」

そして、ゴーレムが目の前に迫った瞬間、アインの仕掛けでボールが破裂し、更なる加速が俺を押し出す。

「これで終わりだ、クソ野郎がぁぁぁ!!」

その勢いと、沸き上がる想いを、白虹丸の切っ先に全て込め、思いきり突き出した。

既にヒビが入っていたゴーレムのケルンは、容易く侵入を許し、白虹丸が奥へ奥へと突き刺さっていく。

——しかし、まだ足りない。

さすが、これまで騎士団とギルド部隊の猛攻を耐えてきたゴーレムのケルンだけあって、ひどく頑丈だ。

「だったら! これでどうだよっ!? ‘‘ウィンドレ’’! 暴発オーバーロード!」

最後のダメ押しとばかりに、片手を後ろに突き出し、風の基礎魔法‘‘ウィンドレ’’を暴発させて、突風を生み出す。

その風の影響で、更に前に進んだ俺の手は、確かな手応えを感じていた。

そして、次の瞬間。

ガシャン! と何枚ものガラスが同時に砕けたような甲高い音と共に、抵抗感が消え失せる。

大地に向かって緩やかに落下していくなか、俺はゴーレムの体が光の粒子に変わる様を、確かに目に焼き付けていた。

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