もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

想定外

「さて。ほんなら具体的な魔法の使い方を教えよか。まぁ、スキルを習得してる場合は、対応する魔法名を唱えて、力の強さや向きをイメージするだけでええんやけどね」

魔法の危険性について改めて念を押され、ようやくアインが詳しい実践法を説明する。

しかし、その内容は、とてもシンプルかつ短いものだった。

ただ、今の話に一点だけ気になる部分が。

「ん? その口振りだと、スキルを習得しないで魔法を使うこともできるのか?」

「あー、せやね。確かに、そういう人達は一定数いるけど、あくまで例外やで? 魔族やエルフ、あと一部の天才は【なんとなく】魔法を使いこなすし、たとえ凡人でも過去の遺物である魔導書を【読む】ことで魔法を習得できる。ただし、魔導書を理解するには魔法文字に通じている必要があるし、魔法文字を身に付けるためには10年単位の勉強が必要や。ただ魔法を使いたいだけなら、スキルを習得するのが一番なんよ」

つまり、【なんとなく】魔法が使える天才連中は、魔法の習得にスキルポイントを使わなくて済むから、その分を他に回せる訳だ。

ただでさえ魔法に精通しているのに、更にアドバンテージが加わるのか。

普通に戦ってたら、まず太刀打ち出来ないよな。

そして、それは魔導書を読むことで魔法を習得する奴らも同じ。

とはいえ、そっちは勉学に時間を取られるらしいから、戦闘経験を積んでる暇は無さそうだ。

多分、魔法の研究者とかを志望する秀才が、この方法を選ぶのだろう。

「なるほど。なら天才でも秀才でもない俺は、大人しくスキルを頼るとするか。……魔法名を唱えれば良いんだよな?」

「うん。あとは体内の魔力の流れを自在にコントロール出来れば効率が上がるんやけどね。まだ、お兄さんには無理やろうから、取り敢えず【持っていかれない】ようにだけ気をつけて」

なにやら意味深な表現を用いたアインの注意に、俺は思わず首を傾げる。

「どういう意味だ?」

「これは、言葉で言って分かるもんや無いからなぁ。まっ、習うより慣れろってことで。万が一、暴発しても‘‘ウォルタ’’なら安全やから、まずは挑戦してみ?」

「……分かった」

いまいち要領を得なかったが、確かに感覚を口で説明するのは難しい。

自転車に乗るコツは? と聞かれても上手く答えられないのと一緒だろう。

万が一にも、危険はないと言われているし、自分で試すのが一番、手っ取り早い。

「ハルさん、ファイトですます!」

「…………(ピョンピョン!)」

「おう! 俺の人生初の魔法、その眼に焼き付けてくれよな!」

ミルクと、もちこの応援を受け、テンションが上がった俺は、誰もいない方向に勢い良く手の平を掲げた。

そして、言われた通りに力の強さと向きをイメージして、口を開く。

「‘‘ウォルタ’’! ……って、うぉぉぉ!?」

魔法名を唱えた途端に、全身を駆け巡る感覚。

それは、形容しがたい未知の経験だった。

あえて言葉にするなら、体内に眠っていたエネルギーが叩き起こされ、暴れ狂っているような。

そして、そのエネルギーは、手の平に生まれた魔法陣を通じて外へ飛び出していく。

——いつしか視界は真っ白に染まり、

——なんとも言えない解放感で脳が満たされ、

——その感覚に身を委ねたいという抗いがたい欲求が沸き起こる。

もっと、もっと、もっと。

この感覚を貪るためなら、この身のエネルギーを全て使い果たしても——。

「ダメですっ!」

「ガハッ!?」

唐突に腹部を襲った強烈な衝撃。

その勢いに押され、俺は仰向けに倒れこむ。

「ミ……ルク?」

やがて、目に見える世界が彩りを取り戻すと、真っ先にミルクの顔が映った。

「ハルさん! 大丈夫ですか!?」

「俺は……」

どうやら、俺は魔法の全能感に酔って我を失い、ミルクの頭突きによって、意識を取り戻したようだ。

ふと、周囲を見れば、もちこが傍に寄っており、心配するようにプルプルと震えている。

そして、アインはというと、青ざめた顔で何事か呟いていた。

「いくら何でも相性が良すぎや……。こんなに【呑まれる】なら、もっと魔法力のステータスが高くないとおかしいはず。一体なにが……」

何を言っているのか分からないが、これはアインにとっても想定外の事態らしい。

ミルクも止めなかったから、多分、こんな症状を見たのは初めてなのだろう。

本当に、俺の身に何が起こったと言うのだろうか。

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