もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

信仰と決裂

「つ、疲れた……」

「な、何でミルクまで怒られたのですます?」

「……喧嘩両成敗って奴なんじゃね? ていうか、あのシスター、俺様たちはともかく、プリムさんまで説教するか?」

「まぁ、はしゃぎすぎたのは事実だし。別に文句はないわ」

あの後、騒ぎを聞き付けた本職のシスターさんから、本物の【説教】というものを受けた俺達は、へとへとになるまで絞られて、ようやく解放された。

今は皆、教会の長椅子に、それぞれ身を投げ出して、思い思いにダラけている。

ちなみに、シスターさんはプリムに留守を頼んで、街に買い出しに行った。

いやぁ、シスターから説教を受けるとは貴重な体験をしたものだ。

出来れば二度と、ごめんだけど。

「さて、一息ついたところで聞きたいことがある。ミルクの知り合いで治療院を開いてるってのは、プリムさん、で合ってるんだよな?」

身体を起こして椅子に座った俺は、ここに来て、ようやく本題へと話を移す。

もともと、ここには仲間を探しに来たのだ。

シスターモドキと変態の特殊プレイを見に来た訳でもなければ、本職のシスターに叱られに来た訳でもない。

正直、あの光景を見た後だとスカウトの気力が割りと萎えているが、一応、話くらいはしておきたい。

「えぇ、そうね。わたくしがプリム・キュアレスト。それで、あなたは?」

「俺は駆け出し冒険者の白木 春。今はミルクと一緒に新しいパーティーメンバーを探している最中だ」

「なるほど、駆け出し……ね。大方、今は低レベルクエストが枯渇していて、ミルクと二人では受けられる依頼がないから、私に会いに来たってとこ? ……あなたが、あのパーティーを抜けるのは、もう少し先だと思ってたわ」

気だるげに起き上がりつつ、こちらの状況を言い当てたプリムは、視線をミルクの方に向ける。

その瞳には、確かな好奇心が見て取れた。

「やりたいことが出来ましたですから」

そう笑顔で語るミルクは、どこか自慢気だ。

……未だに仰向けで寝っ転がり、顔だけ、こちらに向ける格好ではあったけど。

「……そう、良い縁に恵まれたのね。この出会いを神に……何でもないわ」

ミルクの言葉に、間違いなく嬉しそうに微笑んだプリム。

しかし、何かを口にしかけた途端、思い出したように苦々しい顔付きになり、それきり黙ってしまう。

「プリムさん……」

ミルクは、なにかしらの事情を知っているのか、悲痛な面持ちだが、勝手に俺に話す訳にはいかないと思ったようで、彼女もまた黙ってしまった。

確か……神がどうとか言ってたよな。

「そういえば、あの像って、どんな神様を祀ったものなんだ?」

実は、シスターの説教中も気になっていた、教会の最奥にある女性の像。

精悍な顔付きで剣を構えるという、教会には、あまり似つかわしくない雰囲気だ。

戦の神か何かだろうか?

「おい、お前、その話題は……」

「お黙り。過剰な気遣いと紳士的な振る舞いは似て非なるものよ。自重なさい」

「は、はい」

俺の疑問に、何故か慌てたように少年が口を挟むが、プリムはそれをピシャリと制止する。

そして、こちらに顔を向け、冷静を装った様子で回答した。

「あれは、転生神リンネの像よ。掲げた剣は、前世との繋がりを断ち、新たな人生を切り拓くと言われているわ。この街は特に、女神リンネと親交が深いと言われていて、女神本人に会ったなんて噂話もよく聞くわね。それと、街によって置かれている像は異なるけれど、教会が信仰しているのは、あくまでも全ての神よ」

「へ、へぇ。そうなんだ……」

うん、何やら心当たりのあるキーワードが連発されたな。

けど、聞いた話は、ところどころ実態と異なるようだ。

まず、リンネは、こんなに凛々しくないし、転生は前世の繋がり(記憶と肉体)を断つ場合と、断たない場合があるし、こんな剣も持っていない。

付け加えると、街で会ったという話は、たぶん、ほとんどが真実だろう。

「ん? なにやら納得がいってない顔ね。わたくしの説明に、おかしな点でもあった?」

「い、いえ別に」

まさか、本人を知ってる、なんて言う訳にもいかない。

俺は、像を見に行く振りをして、会話を打ち切ろうとする――、

「ま、神サマなんて、どうせ偽りだらけよね」

――しかし、プリムの側を通った時に、ぼそりと吐き捨てられた言葉を聞いて、思わず足を止めた。

神に対する、明らかな侮蔑と嫌悪。

被害妄想なのは分かっていたが、リンネを侮辱された気がして、思わず声に怒気が宿る。

「……どういう意味だ?」

「は、ハルさん! 落ち着いてください!」

ミルクの声を無視して、プリムが嘲るように口を開く。

「だってそうでしょ? 大仰な言い伝えやエピソードばかり語られているけど、そんな理想的な力をもつ神サマは実際に人間を救ったりしない。そんなことは子供でも分かる。だって、世界には悲劇も理不尽も溢れているもの。そんな大層な神サマ達が本気で人間を救おうとしてるなら、世界には幸せしかないはずよ。教会の人達だって心の底から神を信じてる訳じゃない。【信じるものは救われる】という希望を信じてるの。その希望に説得力を持たせるために神サマを崇拝してるだけ」

「プリムさんも言い過ぎです!」

ここで、ミルクが俺とプリムの間に割って入る。

しかし、明らかに体格が足りないせいで、俺とプリムの視線はぶつかったままだ。

「力が及んでいないだけで、言い伝えに実態が追い付いていないだけで、神は世界と、そこに住む人々を全力で救おうとしてる。そうは考えないのか?」

少なくとも、俺が知ってるリンネは、そんな女神様だ。

頼りないところもあった、面倒くさい場面もあった、知らないことだってあった。

けれど、たとえ転生者に迷惑をかけて嫌われても、転生者の人生が良いものであるようにと、言葉を尽くし、行動で示し、心に寄り添っていた。

「仮にそうだとしても、人を救う力が足りない神に、何の価値があるのかしら?」

「……傲慢だな。役に立たないなら貶しても構わないってか? そもそも神に人を救う義理なんてないのに? たとえ力のある神様だって、助けるのが当たり前なんて態度でいる奴を救いたくはないだろうな」

俺が無意識に嘲るような口調でプリムを非難すると、またしても例の少年が口を出す。

「お前が、プリムさんの何を知ってる!?」

「お黙りと言ったはずよ?」

「うっ、はい……」

「はぁ。わたくしだって、神サマになんて救って貰いたくないわ。……兄さんを救わなかった神なんかに……」

後半は独り言なのか、声が小さくて聞き取れなかったが、プリムが本気で神を嫌っているのは分かった。

どうやら、俺達は上手くいきそうにないな。

俺が、そう結論づけた、ちょうどそのタイミングで、ギシッと音を立てて教会の扉が開く。

そちらを見ると、どうやら買い出しに行っていたシスターさんが戻ってきたようで、中の険悪な雰囲気に困惑している様子だ。

このまま事情を聞かれると、また本職の説教コースに突入しそうなので、ここらで、お暇するとしよう。

「ミルク、スカウトは失敗だ。帰ろう」

「あっ、待ってくださいです! そ、その、お邪魔しました! ハルさんってばぁ!」

俺が足早に外に向かいながら声を掛けると、ミルクは丁寧に頭を下げて別れの挨拶を済ませ、慌てて追いかけてくる。

「おととい、きやがれぇ! ――へぶしっ!?」

わたくしの顔も三度までよ? お黙り」

背後から響く騒がしいやりとりを聞きつつ、俺達は教会を後にした。

コメント

  • S.F.瑞穂

    今日は、ここまでしか読めませんでした…
    あまり小説を読まないものなので、それでも楽しく読めてます‼︎

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