もしも理想のパーティー構成に実力以外が考慮されなかったら?

雪月 桜

変態と、変態と、変態と……

「ここが、ミルクの知り合いがいる教会か」

「はい、そうですます。彼女は、ここの一室を借りて、小さな治療院を開いてますです。ただし、診療日は不定期で、会える保証はありませんが」

おっぱい談義で脱線してしまったが、今日から新たなパーティーで活動開始だ。

とはいえ、今のパーティーで実力者と呼べるのはミルク1人。

低レベルのクエストが枯渇している現状では、俺達が達成できそうな依頼はギルドにない。

そこで、まず追加のパーティーメンバーをスカウトする方向で活動方針を纏めた俺達は、ミルクの知り合いを訪ねるべく、街の外れにある教会へとやって来たのだった。

「それは良いけど、やたらボロいな。この教会」

「最近は信仰心の深い人も少なくなってきましたですから。王国の中央なら、まだ活発に活動されてる方も多いそうですが、この街は特に平和なので、神に助けを求める人も、あまり居ないのですます」

全体的に木で出来た素材が目立つ造りの建物は、あちこち小さな穴が開いていたり、一部が雨風で腐っていたり、ガラスに入ったヒビがテープか何かで補強されていたりと、お世辞にも綺麗とは言えない。

良く言えば年季が入っている、が、悪く言えば廃れている、という感じ。

ただでさえ信者が減っているのに、これでは寄り付く人も少なかろう。

実際、ここに来るまでの道程で、どんどん人の流れが少なくなっていったし。

そして、そのせいで、お布施や献金が減って更に貧しくなるという悪循環ってところか。

世知辛いなぁ。

「ここって、教会なんだし、薬草とか薬も置いてるよな? あんまり金はないけど、少し買って貢献していくか?」

俺自身、リンネという女神に世話になった身だし、たとえ自己満足でも何か出来ないかと考えての発言だった。

しかし、それを聞いたミルクは気まずそうな表情だ。

「えぇっと……その心遣いは、とても良いと思いますですが……とにかく、彼女がいるかどうか確認しましょうか」

「ん? あぁ」

ミルクにしては珍しく歯切れが悪い。

一体ここに何があるというんだ。

まさか魔王が隠れ住む人外魔境という訳でもあるまいに。

「ごめんください、ミルクですますっ。プリムさんは、いらっしゃいま……す、か?」

「どうした、ミルク……えっ?」

コンコン、と二回ノックしたのち、ゆっくりとドアを開けたミルクに続いて中へ入ると、そこには教会とは思えない光景が広がっていた。

「ほぅら、こんなのが気持ち良いんでしょう? この、ブ・タ・や・ろ・う♡」

まず目に入ったのは、こちらに気付く気配もなく、【椅子】に座って荒々しく体重を掛けつつ、罵倒の言葉を放つ美女。

光を強く反射する長い金髪と、炎のように赤いツリ目は、まさに彼女という攻撃的な美を表現している。

かつて、慈愛を感じたリンネの、淡い金髪や空のような瞳とは、まさに対極だ。

そして、彼女の攻撃性は服装にも現れている。

基本的には、教会らしく白と蒼の布地を使ったシスター服なのだが、あちこちに個性的な改造が施されていた。

袖はなく完全なノースリーブで、ヘソの部分には大胆なダイヤ型の穴、胸元も大きく開いており、ミルクと同じか、それ以上の至宝が惜しげもなく晒されている。

とどめは、服のあちこちに縫い付けられた、色とりどりの宝石。

シスターなのに、慎ましさがまるで感じられない。

こうなると、何も手が入っていない正常なロングスカートの部分に違和感を覚えるレベルだ。

「ぶひぃ! ありがとうございますぅ!」

次に目についたのは、喋る【椅子】。

もとい、ブタ野郎。

もとい、四つん這いになって美女を乗せ、恍惚の表情を浮かべる少年。

焦げ茶色の髪は短いが乱雑で、黒で統一された服装も、あちこちボロボロだ。

捕虜になって、しばらく経った忍者とは、こんな感じだったのかもしれない。

美女が身体を上下に揺らして体重を掛ける度に、うめき声と悦楽の声を上げる姿を見れば、忍者の皆さんに一緒にするなと怒られそうだが。

「……はっ!? ミルク、見ちゃいけません! こんな変態共と関わってたら、純真無垢なミルクが汚れちまう!」

「その純真無垢なミルクにセクハラしてた変態は、どこの誰ですますっ!? さんざん、おっぱいについて語った後では説得力がないと思いますです!」

ようやく我を取り戻した俺は、咄嗟の判断でミルクの心を守るために目を塞いだが、あっさりとツッコミを受けて距離を取られてしまう。

しかし、その言い草は断じて認められない!

「バッカやろう! あんなのと一緒にされてたまるか! オッパイはもっと清らかで尊いものだ! そして、それを崇拝する俺の心も!」

「なんということでしょう! ミルクの周りには変態しかいなかったという衝撃の事実が明らかになったのですます!」

「…………(ピョンピョン)」

「ああっ、ごめんなさいですます! ミルクには、もちこちゃんという、最後の良心がいましたです!」

今まで大人しくしていた、もちこが急に跳び跳ねて存在感をアピールし、ミルクの元へ行ってしまう。

「も、もちこが寝取られた!? くっそぅ、それもこれも全部お前らが情操教育に良くない現場を見せたからだ! 俺のミルクと、もちこを汚しやがって。どう落とし前つけてくれんだ、あぁん!?」

「いや、知らねぇし! つーか、アンタら誰!? そっちこそ、いきなりやって来て、俺様とプリムさんの蜜月の時間を邪魔してんじゃねぇ!」

「ねぇ、ブタやろう? 誰と誰の蜜月ですって? あまり調子に乗らないことね」

「ちょっと、ハルさん! もちこちゃんはともかく、ミルクはハルさんのものじゃないですます! 適当なこと言ったら勘違いされちゃいますですよ!」

こうして、人気ひとけのない街の外れで静謐せいひつさを保っていた教会は、匠達の手によって、近所から苦情が出そうな阿鼻叫喚の地獄絵図へと、見事な変貌を遂げましたとさっ。

…………はい、反省します。

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