魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

校内ランキング戦 上(1/5)

 
【プロローグ】


 彼女は理事長室にて、通信電話の対応におわれていた。対応におわれているといっても、長々と話しをしたり、内容がころころと変わるなどといった事はない。


 聞かれる事は大体同じであり、答える内容も同じの為、回数や表情を作る事だけが彼女の悩みであった。
 いっその事、グループ通信にすれば良いのにと思う彼女だがそうもいかない。
 何回目かわからない通信を受けとる彼女は、キリッと表情を引き締めた。


「お久しぶりです京子さん」


「えぇ。卒業式の後以来ですね花さん」


「流石にお互い疲れているでしょうから、さっさと本題に入りませんか?」


「関西ともなれば電話対応も大変でしょう。勿論、喜んで」


「関東にくらべれば全然ですよ、っと。この話しはこのくらいで。関西は入学式以来、特に変わった事はありません。そちらは事件があったとか?」


「まぁ、その話しでしょうね」


 このように、さっきから対応に追われているのは、拓斗が事件を解決した事についてである。
 時期が悪かったとしかいいようがない。


 入学式が終わって2週間が過ぎ、4月の終わりに生徒が誘拐されたとなれば、騒ぎになるのは目にみえている。
 無論、マスコミには誘拐されたとは公表していないのだが、各高校には公表している。といっても、一般の高校ではなく、任務制度を利用している高校だけである。


 京子は聞かれたからと言って、全てを話してはいないし話す気もない。話す内容は、任務制度に選ばれるほどのパートナーが誘拐された事や、当校の生徒が事件を解決した事、誘拐された理由だけである。


「・・以上の内容ですが、質問はありますか?」


「背後から薬を嗅がされては仕方がありませんね・・。それにしても、誘拐された初日に助け出すとは、その生徒は白魔法が得意なのですか?」


 問題はそこであった。
 拓斗から話しを聞いた時、何故そこにいると分かったのか?という疑問を京子も抱いた。


 当然、拓斗に質問をすると、誘拐されたと言う情報、ひったくり犯の隠れ家らしき建物があるという情報、それ等を調査中に偶然見つけたと言う。
 情報者は通行人であって、流石に名前や顔などは覚えていないと言う拓斗。


 拓斗の言い分を聞いて、おかしな点はない為、そのまま帰したのだが・・はぁ。
 思わず心の中でため息を吐いてしまう。


「得意かどうかはお教え致しかねます」


「・・そうでしょうね。では、私はこれで」


「それじゃ」


 電話を切った京子は、グッと背伸びする。


「まぁ怪我が無くて良かったわね」


 可愛い生徒が怪我をして、その理由について、電話対応に追われる事よりも断然いいに決まっている。
 京子は気分を変える為に、シャワーを浴びに立ち上がるのであった。


 ーーーーーーーー


【1】 校内ランキング戦


 京子ほどではないが、拓斗もまたうんざりしていた。彼は事件を解決した当事者だ。
 だからといって、自分から言いふらすような事はしないのだが、理事長である叔母は勿論だが、担任や生徒会などには報告をする義務がある。


 ・生徒会書記として活動中に事件に遭遇。
 ・三人組みにからまれていた女子高生を山本勇樹と保護した後、誘拐犯を取り抑える。
 ・その後、生徒会書記の先輩であった小嶋優子に引き渡して一件落着。


 これは、彼がまとめたレポートである。
 拓斗自身はこれで大丈夫だと思っていたが、他の人は違うらしいと、何度目かの質問を聞きながら考えていた。


「・・それで拓斗君。優子ちゃんには何で会ったのかな?」


「はい。ひったくり犯を捕まえる為に、協力を要請しました」


 現在拓斗は、生徒会室で質問責めにあっていた。
 何処でと聞かれたら◯△工場と答え、何の目的でと聞かれたら、携帯で撮っておいたひったくり注意の看板写真を見せて説明をする。
 そして、誘拐されたのは誰か?と聞かれたら、彼は少し言いづらそうにしながらも山田あゆみの名前を挙げた。


 事実は事実の為、あゆみは怒ったりしないだろうが、あまり気持ちの良い話しではない。
 その為、レポートには書かなかったのだが、聞かれたら別だ。勿論、聞かれたら誰にでも話すのかと聞かれたらノーだ。
 相手はこの学園の生徒会メンバーであり、対策や対応をしなくてはいけない立場にある為、仕方なく名前を教えると、咲から疑問の声があがる。


「あゆみがか?あゆみは決して弱くはないじょ」


「背後から薬を嗅がされたらしい・・それより鼻をかめ」


「ふふふ。咲ちゃん来なさい」


 咲の言う通り、山田あゆみは山本勇樹のパートナー以前に、学年25位と科学者の中でも10番以内に位置している。


「どうしましょうか?」


 将吾は生徒会としての方針をたずねた。
 彼は唯一の3年生なのだが、役職でいえばあさみやなぎさより下の為、主に敬語を使っている。
 人柄なのだろうと、拓斗は聞きながら考えていた。


 どうするかを話し合うのだが、決定権は会長であるあさみにしかない為、四人は無言であさみを見守る。


「そうだな・・あさみ」


「まずは一人で帰らない事を注意しましょう。それと、自衛目的での魔法はなるべく避けるようにと、付け加えておいて」


「了解しました」「妥当だな」


 生徒会書記である拓斗の仕事の為、拓斗は今言われた事をすぐにパソコンに入力する。
 また、呼び掛けはなぎさの仕事の為、彼女は拓斗が入力した資料をコピーし、席を立ち上がった。


「じゃぁ私は規律委員と風紀委員にこの事を伝えてくるぞ」


 生徒会の方針を伝える大事な仕事なのだが、何故かあさみが呼び止めた。


「なぎさ待って。ねぇ拓斗君、代わりに行ってくれないかな?」


 ニッコリと微笑みながらお願いをされる拓斗。
 正直に言えば面倒くさいと思うが、相手は上級生でもあり、生徒会長でもあるあさみだ。
 それはお願いじゃなくて、命令では?と内心思いながら拓斗は、ハイと返事を返そうとした。


「待て。何故私じゃなく拓斗君なんだ?」


 拓斗が喋る前に、なぎさがあさみに声をかけた。
 こういった仕事は本来彼女の仕事である。
 仕事を奪われたというより、これ以上の仕事があるのか?という質問だろうと、あさみ以外の三人は思った。


「なぎさ。この後、他校にこの事を報告しないといけないのを忘れていない?」


「それは・・そうだが」


 風紀委員や規律委員との話し合いの後でも良いのでは?と、彼女は思っていた。


「それに、事件の当事者である拓斗君の方が良いと思うの・・拓斗君。新しい生徒会メンバーとしての挨拶がてら行ってきて」


「わかりました」


 やはり命令でしたねと、内心呟きながら拓斗は席を立った。


 ーーーーーーーーーー


【2】


 風紀委員と規律委員の部屋は別棟の1階にある為、拓斗は一回で終わらせる事が出来ないかと、考えていると(どう考えても無理なのだが)伊波を見かけた。


「伊波?」


 伊波の様子がおかしい。
 近付いてみると、彼女は少し泣いていた跡が残っていた。心配になった拓斗はどうしたのか伊波に声をかけると、彼女は言いづらそうにしながら答えた。


「拓・・いえ。お兄ちゃんは補欠だと馬鹿にされている事をご存知ですよね」


 知っていますか?ではなく、知っているだろ?との問いに、拓斗は正直に答えた。


「知っている。しかし、事実は事実だ」


 拓斗は体育の授業中に、何度か耳にしている。
 一瞬、誤魔化すかと考えたが、伊波の表情を見て気が変わる。


「先ほど、お兄ちゃんには才能が無い、妹より劣る兄という話しを耳にしました。あずさや香菜に聞いたら・・」


「少し落ち着け」


 拓斗は興奮気味に喋る伊波をなだめた。


「言わせたいヤツには言わせておけばいい。それに、入学式の前の日に話しただろ?」


「それは・・そうですが」


 拓斗は補欠として入学している。
 そんな彼が、学年3位の山本勇樹をもし倒したら?恐らくはに選ばれる恐れがある。
 実際、高校の入試は12月に行われ、高校に入学するのは4月だ。
 約4ヶ月で多少は魔法力が上がるだろうが、補欠から学年3位まで上がるのは普通ではない。
 そういった生徒は、研究対象とされてしまう恐れがある。


 高校入試の時、彼は間違いなく補欠であった。
 しかし、幾度となく繰り返した時間旅行の所為で、彼の実力は上がっていた。


 時間旅行は記憶だけを引き継ぐ訳ではなく、経験値も引き継いでいる。
 実際に手合わせをした訳ではないが、完璧な時間を使えば、山本勇樹にも劣らないだろうと、拓斗と伊波は考えている。


「俺としては、出来るだけ伊波の側にいたいと思っている」


 もし研究対象に選ばれてしまったら、拓斗は病院に監禁されるだろう。
 また、パートナーである伊波も例外ではない。
 伊波が監禁される事を恐れるのであれば、補欠と馬鹿にされようが特に気にならない。


「・・・伊波?」


 何故か耳を赤くしながらうつむいてしまった伊波に再度声をかけると、伊波は嬉しそうにしながら顔をあげた。


「私も気持ちは同じです」


 満面の笑顔でそう言う伊波に対し、思わず拓斗も笑みがこぼれる。
 仲の良い兄妹。嫌、家族とはこうあるべきだ。
 拓斗はそんな事を考えていた。


「・・ところで、風紀委員に何のようですか?」


 この先には風紀委員会本部しかない為、伊波は拓斗が来た理由が気になった。


「ん?あぁ。この間の事件の件で、話しをしに来た所だよ。伊波、決して一人で帰るなよ」


「分かっています。私も風紀委員の仕事がありますので、後で一緒に帰りましょう」


 先ほどとは違い、とても嬉しそうな表情を見せる伊波を見送ってから、拓斗は風紀委員会本部へと向かった。


 ーーーーーーーーーー


【3】


 風紀委員会と書かれているプレートを見上げ、場所の確認をした拓斗は、部屋を数回ノックする。
 ノックをすると、どうぞーと言う声がした為、拓斗は部屋の扉を開けた。


「失礼します。生徒会書記の桐島拓斗です」


 今日は生徒会書記として来ている。
 その為、1-Aとは言わなかった。


「やぁやぁ。いつもいなみんをお世話しているニョロよ」


「・・・ありがとうございます」


 伊波がお世話になっているのは事実の為、拓斗は戸惑いながらも頭を下げた。


「いいニョロよ!コレが私の仕事ニョロ」


 頭を下げる拓斗の肩を、バシバシ叩く彼女。
 彼女は風紀委員長にして、2年生の中でも特に有名な生徒である。


「い、委員長!?委員長の仕事はこっちですよ」


 副委員長である彼女は、委員長の腕を引っ張って行く。相変わらずだなぁと思いながら、拓斗は顔をあげた。
 拓斗は以前、伊波を迎えに来た時に彼女を紹介されている。


「リー委員長。生徒会から大切な話しをしに来た所ですよ」


「リンでいいアルよ」


 右手を挙げ、可愛く提案してくる上級生に対し、小さく首を振る拓斗。


「いえ、流石に先輩に対して呼びすては出来ませんよ」


 拓斗がそう返事を返すと、リンはリスのように頬を膨らませた。
 彼女は風紀委員長にして、学年2位の優秀な生徒である。
 名前はリー・リン。
 日本人と中国人のハーフであり、幼少期を向こうで過ごしていた為、日本語があまり上手はくない。
 また、咲よりかは身長があるが、2学年の中でも特に身長が小さく、一時期生徒会長あさみが狙っているという噂があった。


「リンちゃん。あまり下級生をいじめちゃダメよ?」


 副委員長がリンを優しく注意した。


「いじめてないアルよ?なぁ拓斗?」


「・・・えぇ。まぁ」


 リンに制服の袖を引っ張られながら、可愛くたずねられた拓斗は、どう返すべきか迷ってしまう。


「そうじゃなくてですね。いいですか?日本ではパワハラって言ってですね・・・」


 拓斗は、パワハラについて語り出した副委員長の話しを聞きながら、規律委員から行けば良かったかと後悔していた。
 しかし、規律委員から行けば伊波に会えなかっただろうから何とも言えない。
 もしも時間旅行にあったとしても、やはりこちらから行くべきだろうなと、現実逃避気味に考えていた。


 ーーーーーーーー


【4】


 拓斗が伊波と話しをしている頃、とある一室にて、丸いテーブルを囲むように座っている集団の姿があった。
 ただしその姿は普通ではなく、全員が何かしらの仮装をしている。


「も、申し訳ありませんキング」


 ただ一人席にはつかず、部屋の中央で片膝をついて謝罪をする男。
 キングと呼ばれた男は、丸いテーブルとは別のテーブルに両肘をついて、頭を下げる男を見下ろしていた。


「キング!我々の目的を、この男は台無しにしかけました!それなりの処置を!!」


「おぉー怖。少し落ちつきなよクイーンちゃん」


「何!?」


「やめろ!ジャックもテーブルから足をおろせ」


「へーい」


「しかし、残念ながら山田あゆみの勧誘には失敗してしまいました」


 彼等はとある目的をもっている。
 そして前回の事件の首謀者は彼等であり、頭を下げている男は、作戦失敗の報告と謝罪をしているのであった。


「我々としては何としてでも引き入れておきたい人材だったというのに、ピエロのヤツ」


「・・いや・・でも・・失敗したのは・・ピエロの手下」


「いやいやいや。手配したのはピエロだろ?責任はあるさ」


 彼等はピエロと呼ばれる男をどうするかを話しあっていた。
 処罰するべきだと告げる者もいれば、かたをもつ者もいる。
 どうするべきかで話しあっていた彼等を見守っていたキングは、話しがずれていった所で声をかけた。


「さて、クィーン」


「ハッ!」


 クィーンと呼ばれた女性は、右腕をあげ、握り拳を心臓にあてて忠義を示す。


「問題点は何だ?」


「ハッ!我々の目的が失敗してしまった事であります」


 失敗の部分で、ピエロは肩をビクッと震わせた。


「違うな。間違っているぞクイーン。正しくは、我々の目的が遠ざかったが正解だ」


「も、申し訳ありません」


「うむ、まぁ良い。さてピエロ。我々の目的は何だ」


「ハッ!不老不死の魔法を発見する事であります」


 ピエロは顔をあげず、うつむいたままキングに告げる。キングはゆっくりと席を立つと、ピエロの前で立ち止まった。


「そうだ。決しての生徒に危害を加えるのが目的ではない。残念だが君とはここでお別れのようだ」


「キ、キング!?い、今一度、今一度チャンスを・・は、放せ!?」


 ピエロは床に抑えつけられ、に開かされた。


「や、やめろ!い、いや、やめてください!!キ、キング!!!」


「落ちろ!!」


 キングがそう命令すると、先ほどまで騒いでいたピエロと呼ばれた男は静かになった。


「ピエロよ・・せめてもの情けだ。ただの一般人として過ごすがいい」


 キングはそう言うと、自分の席へと帰って行く。
 その光景を、ある者は興奮気味に、ある者は顔を青ざめながら見守っていた。


 ピエロと呼ばれた男を部屋からつまみ出し、何事もなかったかのように、新たに会話が始まった。


「さて、諸君。山田あゆみからは手を引くべきだと私は考えている」


「山本勇樹が警戒していますでしょうから、仕方がないと思われます」


「では、千石あずさはどうでしょう?」


「いや、彼女には志熊香菜がべったりだ」


 彼等は1学年の、科学者について話し合っていた。また、名前があがるのは、どの生徒も優秀な生徒ばかりである。


「では、桐島伊波はいかがでしょう?」


「桐島伊波のパートナーは今年度の補欠であります。また、ピエロの失態を防いだ者でもあります」


「うむ。補欠だが事件を解決した・・か」


「いいんじゃねぇーの?何なら俺様に任せてもいいんだぜ」


 次のターゲットは、桐島伊波という生徒で決まりだと誰しもが考えていた。
 しかし、キングからの返事がない。しばらくの間、全員がキングからの返事を待っていた。


「桐島拓斗か・・怪しいな」


「まさか、わざと自分から、弱い者を演じているとお考えなのですか?」


 クイーンからの質問に、キングは小さく首を横に振る。


「仮にもピエロが手配したほどの者だ。油断は如何なる時でも怠ってはいけないだろう」


 油断は禁物という言葉を、ここにいる全員が肝に命じている。


「幸いな事に明日から、校内ランキング戦が始まる。そこでそいつの腕を見るのも悪くはないか」


 キングは一人言のように呟いていたが、その場にいた全員が、キングからの命令だと受け止めていた。


 校内ランキング戦。
 学年ランキングとは別にあるランキングである。例えるのであれば、あずさや香菜はあゆみより学年ランキングは上である。
 しかし、校内ランキングを行なった場合、あゆみの方が上になってしまう。
 これは、あゆみのパートナーである勇樹の力である。


 学年ランキングは、生徒個人のランキングであり、校内ランキングは、ペアーでのランキングである。
 キングがこれからの方針を伝えようとしたその時、ハートの手元にあった電話が鳴った。
 ハートから出てもいいかと視線で問われ、キングは許可を出す。


「何かあったのか・・何!?ちょっと待っていろ・・キング。来訪者です」


「ほぅ。来訪者とは珍しいな」


「それが・・来訪者は生徒会書記、桐島拓斗であります」


 彼等の元を訪れたのは、拓斗であった。

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