魔法×科学の時間旅行者
入学編 下 (5/5)
【1】
女子生徒を救うべく走っていた拓斗は、三人組にからまれている女子生徒を発見する。
ここで拓斗が救ってしまうと、勇樹が現れない可能性があると判断した拓斗は、助ける気はないのだが最初と同じように声をかけた。
声をかけた拓斗に対し、三人組の男達は拓斗に襲いかかろうとして勇樹に倒されてしまう。
女子生徒が勇樹に対しお礼を告げ、勇樹は女子生徒に警察を呼ぶようにと告げた所で拓斗が口をはさんだ。
「警察には俺から連絡をする。ところで勇樹、あゆみを探しているんじゃないか?」
「・・だったら何だってんだ」
勇樹が何処かに行ってしまわないようにと、拓斗は勇樹に話しかけた。
「実はあゆみらしき人物を目撃した。今からそこに行くんだが、一緒に来ないか?」
「テメェ・・何処からその情報を仕入れやがった」
「企業秘密だ。ちょっと待て、小嶋先輩だ」
勇樹が鋭く睨みつけるも、拓斗は特に気にせず、こっちに向かって手を振る小嶋に目線を送る。
「もしかして桐島拓斗君?」
「そうです。もしかして小嶋優子先輩ですか?」
拓斗は小嶋の外見を知っているが、小嶋は知らない。二人は今日が初対面である。その為、拓斗は知らないフリをしながら小嶋に返事をした。
「ええそうよ。初めまして地域課担当の小嶋優子です。それでこの状況は?」
礼儀正しく自己紹介をした小嶋は、地面に倒れている三人組みの男を見下ろしながら質問をする。
「彼女がからまれている所を自分が助けようとした所に、勇樹が魔法で倒しました」
「・・と言うことは、通り魔っていうのは」
「小嶋先輩」
「は、はい!」
通り魔という小嶋の呟きに、眉を細める勇樹。
小嶋が長話しすると知っている為、小嶋の話しを遮るように話しかけた。
「こちらの先輩を保護して、事情を聞いてくれませんか?自分達にはまだやるべき事がありますので」
「それは構わないけど」
「小嶋先輩。また工場で会いましょう」
軽く小嶋と女子生徒にお辞儀をした拓斗は、勇樹を連れてその場を後にする。
時間はまだ17時過ぎであり、通り魔が例の部屋に来るまでまだ時間はある。しかし、まだあゆみを保護出来ていない。
今後についてどうすべきかを、拓斗は考えていた。
ーーーーーーーー
【2】
工場に着いた拓斗は、誰もいないと分かっているが、勇樹に怪しまれないように一応敷地内の様子をうかがう。
「おい!状況を説明しろ」
「手短に済ませるぞ。最近この辺りでひったくりがあったのは知っているな?俺はその調査をしている」
「調査だ?」
「生徒会書記として調査している所、通り魔が現れるという情報を入手した」
「・・・で?」
「通り魔は女子高生をさらって行ったという情報もあり、その情報はあゆみに似た外見だった」
「つまりアイツはこの工場に監禁されているって事か」
勇樹はプレハブ小屋を見ながら呟いた。
「さっき目撃したって言ったのは何だ?」
「かもしれないだけではお前が着いて来ないと思ったからだ。それよりも早く行くぞ」
勇樹の疑問が解消されたからではなく、拓斗の中でどうすべきかが決まった為、会話を終わらせた。
「勇樹。俺は1階を調べるから勇樹は2階を頼む」
「チッ。分かったよ」
完全に主導権を握られた形だが、情報を持ってきたのは拓斗である。また、そんな事でもめている場合でもない。
勇樹はプレハブ小屋の2階に続く階段を、足音をたてないよう気をつけながら登って行く。
それを見た拓斗は、時空間魔法を使って部屋の中に入り、幻影魔法を解き、プレハブ小屋の鍵を開けて勇樹を呼んだ。
「・・ったく。手間かけさせやがって」
何処か安心したような表情を見せながら、ポツリと呟く勇樹に、拓斗はあゆみをこの場から連れ出すように薦めた。
「・・お前はどうすんだ」
「通り魔が帰って来るのを待って捕まえるさ。それよりも早く行け」
補欠の拓斗を心配しての問いであったが、話しをしている時間はない。勇樹からしたら通り魔がいつ帰ってくるのかが分からない状況であり、あゆみを背負った状態ではちあわせてしまう可能性が考えられる。
拓斗に指摘されるまでもない事だったが、指摘された事により、拓斗も同じ考えだと理解できた。
「フン。死ぬなよ」
おかげで罪悪感を抱く事なく、勇樹は部屋を飛び出して行った。
時刻は18時になる前だ。
(勇樹が戻ってくるのが1時間ぐらいかかるから・・やむおえないか)
本当であれば勇樹に捕まえさせたかったのだが、間に合わない可能性が高い。
時間旅行にあうかもしれないが、今回の鍵は少女二人の救出だろうと拓斗は考え、通り魔を自分が捕まえる事を決意した。
ーーーーーーーー
【3】
待つ事数十分。玄関が開く音がする。
やっと来たかと思いながら拓斗はベッドから立ち上がり、右手を挙げて待ち構えた。
「き、君!ここで何をしている」
「何って、貴様を捕まえる為だ」
「つ、捕まえるも何も、僕はここの管理者だ」
男が拓斗に向かってそう言うて、拓斗は思わず苦笑した。
「管理者?錬金術者の間違いだろ」
「・・!?どうやらバレているようだね」
拓斗に指摘された男は、ニヤリと口元を緩めながら両手をお腹の辺りへと移動させる。
それをただ黙って見ている拓斗ではない。
「光の刃よ」
拓斗は光魔法である『光の具現化魔法』を発動させる。
あらかじめ用意していたナイフに、光の刃(六角棒や木刀に形は似ている)が形状される。
「ほう。君は光魔法を得意としているのかな?」
両手にサバイバルナイフを持ち、男は拓斗が光魔法の使い手だと判断した。
通常の戦闘であれば、自分の得意魔法で闘うのが普通である。
しかし、残念ながら拓斗は普通ではない。
拓斗は時空魔法を得意としている。
前回のデパート事件の時は、伊波を一度殺されている。その怒りから、完璧な時間を使用したり、ブラックホールで相手を消したりした。
しかし、今回は捕まえるのが目的であって、消すのが目的ではない。
相手は弱い。この後、事情聴取で色々と喋られても困る為、拓斗は時空魔法と完璧な時間を使わずに犯人を取り抑える事を決意していた。
「お喋りはいいからさっさと来い」
拓斗は男の質問を無視した。
早く倒さないと、ひったくり犯らしき二人が部屋に入ってきてしまう恐れもあった。
相手を敢えて挑発し、拓斗は光の刃を左手から右手に持ち替える。
構えてしまうと男がこちらに来ない恐れがある為、構えを取らずにいる拓斗。
「隙だらけですよ」
その構えを見た男は、拓斗に向かって攻撃を仕掛けた。
右から顔を狙ったナイフは上体を逸らしてかわし、お腹を狙った攻撃は持っていた光の刃で受け止める。
キン!っと音が鳴り、顔を狙ったナイフを今度は左から斜めに切るよう狙う男。
上体を逸らし、左側にあるナイフと自分の刃で左側に動けない状況の拓斗は、右足を思いっきり振り上げた。
「グフッ!?」
男のアゴを見事蹴りあげた拓斗は、蹴りあげた足をそのまま降り落とした。
かかと落としを繰り出した拓斗は、次の攻撃を仕掛けようとして攻撃を中断する。
「・・本当に、何であゆみは捕まったんだ?」
攻撃を中断したのは男が床で、大の字で倒れていたからである。
光の刃を解除し、ナイフを胸ポケットにしまいながら、拓斗はあゆみが捕まった理由を考えていた。
「コラーー!!待ちなさぁーーい!」
外から小嶋の声が聞こえ、あゆみが捕まった理由を考えるのをやめた拓斗は、ホッと一息つく。
これで、ようやく長い時間旅行が終わるはずだ。
もしまたおきてしまったら?その時はまた考えよう。流石に疲れた・・。
そんな事を考えながら、小嶋を呼びに外に出るのであった。
ーーーーーーーーーーーーーー
【4】
外に出ると小嶋だけでなく、勇樹の姿も目に入った。
「小嶋先輩」
「あら、拓斗君。通り魔は現れたの?」
「えぇ。部屋の中でのびてますので、後は宜しくお願いします」
拓斗の返しを聞き驚く二人。
しかし驚きは同じでも、返す表情は違う。
拓斗が補欠だと知っている勇樹は、犯人が弱すぎたのか?だとしたらあゆみのヤツ・・と、あゆみに対する怒りが込み上げてくる。
拓斗を補欠だと知らない小嶋は、流石は私の後任者!っと、何処か微笑ましい気持ちであった。
「ご苦労様。しかし拓斗君も災難だったわね」
小嶋のねぎらいの言葉を、今度は否定せずに受け止める。
拓斗自身がそう思ったからではない。三人組みの男に絡まれていた女子生徒が近づいてくるのが見えたからである。
「き、桐島君。あ、ありがとうございました」
「いえ。ご無事でなによりです」
深々とお辞儀をする女子生徒を見下ろしながら、拓斗は心の中で謝罪する。
彼女は覚えていないだろうし、拓斗自身正解が解らないのだが、彼女を救わなかった時があったのだ。
拓斗や勇樹が現れず、三人組みの男に捕まったこの女子生徒が、その後どうなったのかは分からないし、知る必要もない事だ。
「じゃぁ拓斗君。出来れば事情聴取をとりたいんだけど・・時間大丈夫?」
今回は勇樹ではなく拓斗が捕まえている。その為、勇樹から帰っていいなどとは言われない。
「・・・少しだけでもよろしいですか?」
一瞬の間や時間を確認したのは、出来れば帰りたいという拓斗のアピールである。
そんな拓斗のアピールに気づいたのか、気づいていないのかは、この笑顔からは判断出来ない。
無論、気づいてますか?などと聞く事は出来ないだろう。
俺は帰ると言う勇樹を残し、拓斗はミニパトに乗り込むのであった。
ーーーーーーーーーー
【5】
拓斗が自宅に帰り着いたのは、21時過ぎであった。やはりというべきか、ですよねというべきか、小嶋の長話しで事情聴取に時間がかかったのだった。
「お帰りなさい」
拓斗のただいまに、少し元気がないように感じた伊波が、心配して駆け寄って来る。
「大丈夫だ。詳しい話しはご飯を食べながらでもいいか?」
本当であれば今直ぐにでも聞きたいと思った伊波であったが、疲れているであろう拓斗に対し、これ以上疲れさせまいと自重した。
「今日はオムライスです」
「それは楽しみだ」
拓斗が顔や手などを洗ってリビングに戻ると、ケチャップでお疲れ様と書かれたメッセージを目にした。
それに気づいた拓斗が伊波を見ると、恥ずかしそうにうつむいてしまっている。
決してハートマークで囲っているからではないと思うのだが・・。
拓斗は席に着くと、伊波の前に置かれたオムライスにケチャップで文字を書く。
ありがとう
たった5文字の言葉に込められた思いは無限にある。恥ずかしくて、決して口に出来ないものもあるだろう。
「た、拓斗?」
文字に気づいた伊波が顔をあげると、拓斗と目があった。
目があった伊波に対し、拓斗は口にする。
「いつもありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
二人の夕食はいつもこんな感じである。
しかし、お互い決して嫌ではない。
ギスギスしていたあの頃より、ずっと楽しく美味しい夕食。
事件の詳細を話しながら、二人は夕食を済ませた。
ーーーーーーーー
【6】  エピローグ
翌日の朝、拓斗はいつものように携帯で日付けを確認し、ホッとした所で制服に着替えてリビングに向かった。
「おはよう伊波。ん?何か上機嫌だな」
「おはようございます。そ、そうですね」
珍しく上機嫌なのを認める伊波。
チラっとテレビに目を向けるので拓斗もテレビ画面に目を向けると、昨日の事がニュースとして流れていた。
流石に拓斗は未成年であり高校生の為、名前などは伏せられている。
しかし、昨日事件の詳細を詳しく聞いた伊波は、この事件は拓斗が解決したものだと直ぐに分かった。
朝食の後のコーヒーを飲みながら、何度目かのニュースを耳にし、チラッと伊波を見ると、やはり終始ニコニコしていた。
少し恥ずかしさも感じながらも、伊波が嬉しそうなのを見て、拓斗はそっと目を閉じるのであった。
【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まずは謝罪から入らせていただきます。
当初、魔法×科学の優等生として書いていましたが、タイトルを変更させていただきました。
こちらは、タイトルからネタバレはあまり良くないと、何処かのサイトで目にした事からそういうタイトルにしたのですが、やはりどうしても今のタイトルである、魔法×科学の時間旅行者にしたく、変更させていただきました。
こちらの作品は登場キャラも多くなり、読んで下さる皆様に解り易いようにと、設定資料を随時載せていきます。
さて、入学編では主要キャラクターの紹介や、桐島拓斗という少年の強さや悩みを重点的に書いています。
次回はいよいよあずさや香菜、伊波に咲と、ヒロイン達が活躍するお話しになります。
楽しんでいただけたら幸いです。
次回『校内ランキング編』
事件を解決した拓斗は、生徒会や祐美子に事情を説明する。その際に校内ランキング戦がある事を知る事になり、補欠である事を証明しなくてはならない拓斗は苦労する事になる。
そんな彼を待ち受けていたものとは…
女子生徒を救うべく走っていた拓斗は、三人組にからまれている女子生徒を発見する。
ここで拓斗が救ってしまうと、勇樹が現れない可能性があると判断した拓斗は、助ける気はないのだが最初と同じように声をかけた。
声をかけた拓斗に対し、三人組の男達は拓斗に襲いかかろうとして勇樹に倒されてしまう。
女子生徒が勇樹に対しお礼を告げ、勇樹は女子生徒に警察を呼ぶようにと告げた所で拓斗が口をはさんだ。
「警察には俺から連絡をする。ところで勇樹、あゆみを探しているんじゃないか?」
「・・だったら何だってんだ」
勇樹が何処かに行ってしまわないようにと、拓斗は勇樹に話しかけた。
「実はあゆみらしき人物を目撃した。今からそこに行くんだが、一緒に来ないか?」
「テメェ・・何処からその情報を仕入れやがった」
「企業秘密だ。ちょっと待て、小嶋先輩だ」
勇樹が鋭く睨みつけるも、拓斗は特に気にせず、こっちに向かって手を振る小嶋に目線を送る。
「もしかして桐島拓斗君?」
「そうです。もしかして小嶋優子先輩ですか?」
拓斗は小嶋の外見を知っているが、小嶋は知らない。二人は今日が初対面である。その為、拓斗は知らないフリをしながら小嶋に返事をした。
「ええそうよ。初めまして地域課担当の小嶋優子です。それでこの状況は?」
礼儀正しく自己紹介をした小嶋は、地面に倒れている三人組みの男を見下ろしながら質問をする。
「彼女がからまれている所を自分が助けようとした所に、勇樹が魔法で倒しました」
「・・と言うことは、通り魔っていうのは」
「小嶋先輩」
「は、はい!」
通り魔という小嶋の呟きに、眉を細める勇樹。
小嶋が長話しすると知っている為、小嶋の話しを遮るように話しかけた。
「こちらの先輩を保護して、事情を聞いてくれませんか?自分達にはまだやるべき事がありますので」
「それは構わないけど」
「小嶋先輩。また工場で会いましょう」
軽く小嶋と女子生徒にお辞儀をした拓斗は、勇樹を連れてその場を後にする。
時間はまだ17時過ぎであり、通り魔が例の部屋に来るまでまだ時間はある。しかし、まだあゆみを保護出来ていない。
今後についてどうすべきかを、拓斗は考えていた。
ーーーーーーーー
【2】
工場に着いた拓斗は、誰もいないと分かっているが、勇樹に怪しまれないように一応敷地内の様子をうかがう。
「おい!状況を説明しろ」
「手短に済ませるぞ。最近この辺りでひったくりがあったのは知っているな?俺はその調査をしている」
「調査だ?」
「生徒会書記として調査している所、通り魔が現れるという情報を入手した」
「・・・で?」
「通り魔は女子高生をさらって行ったという情報もあり、その情報はあゆみに似た外見だった」
「つまりアイツはこの工場に監禁されているって事か」
勇樹はプレハブ小屋を見ながら呟いた。
「さっき目撃したって言ったのは何だ?」
「かもしれないだけではお前が着いて来ないと思ったからだ。それよりも早く行くぞ」
勇樹の疑問が解消されたからではなく、拓斗の中でどうすべきかが決まった為、会話を終わらせた。
「勇樹。俺は1階を調べるから勇樹は2階を頼む」
「チッ。分かったよ」
完全に主導権を握られた形だが、情報を持ってきたのは拓斗である。また、そんな事でもめている場合でもない。
勇樹はプレハブ小屋の2階に続く階段を、足音をたてないよう気をつけながら登って行く。
それを見た拓斗は、時空間魔法を使って部屋の中に入り、幻影魔法を解き、プレハブ小屋の鍵を開けて勇樹を呼んだ。
「・・ったく。手間かけさせやがって」
何処か安心したような表情を見せながら、ポツリと呟く勇樹に、拓斗はあゆみをこの場から連れ出すように薦めた。
「・・お前はどうすんだ」
「通り魔が帰って来るのを待って捕まえるさ。それよりも早く行け」
補欠の拓斗を心配しての問いであったが、話しをしている時間はない。勇樹からしたら通り魔がいつ帰ってくるのかが分からない状況であり、あゆみを背負った状態ではちあわせてしまう可能性が考えられる。
拓斗に指摘されるまでもない事だったが、指摘された事により、拓斗も同じ考えだと理解できた。
「フン。死ぬなよ」
おかげで罪悪感を抱く事なく、勇樹は部屋を飛び出して行った。
時刻は18時になる前だ。
(勇樹が戻ってくるのが1時間ぐらいかかるから・・やむおえないか)
本当であれば勇樹に捕まえさせたかったのだが、間に合わない可能性が高い。
時間旅行にあうかもしれないが、今回の鍵は少女二人の救出だろうと拓斗は考え、通り魔を自分が捕まえる事を決意した。
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【3】
待つ事数十分。玄関が開く音がする。
やっと来たかと思いながら拓斗はベッドから立ち上がり、右手を挙げて待ち構えた。
「き、君!ここで何をしている」
「何って、貴様を捕まえる為だ」
「つ、捕まえるも何も、僕はここの管理者だ」
男が拓斗に向かってそう言うて、拓斗は思わず苦笑した。
「管理者?錬金術者の間違いだろ」
「・・!?どうやらバレているようだね」
拓斗に指摘された男は、ニヤリと口元を緩めながら両手をお腹の辺りへと移動させる。
それをただ黙って見ている拓斗ではない。
「光の刃よ」
拓斗は光魔法である『光の具現化魔法』を発動させる。
あらかじめ用意していたナイフに、光の刃(六角棒や木刀に形は似ている)が形状される。
「ほう。君は光魔法を得意としているのかな?」
両手にサバイバルナイフを持ち、男は拓斗が光魔法の使い手だと判断した。
通常の戦闘であれば、自分の得意魔法で闘うのが普通である。
しかし、残念ながら拓斗は普通ではない。
拓斗は時空魔法を得意としている。
前回のデパート事件の時は、伊波を一度殺されている。その怒りから、完璧な時間を使用したり、ブラックホールで相手を消したりした。
しかし、今回は捕まえるのが目的であって、消すのが目的ではない。
相手は弱い。この後、事情聴取で色々と喋られても困る為、拓斗は時空魔法と完璧な時間を使わずに犯人を取り抑える事を決意していた。
「お喋りはいいからさっさと来い」
拓斗は男の質問を無視した。
早く倒さないと、ひったくり犯らしき二人が部屋に入ってきてしまう恐れもあった。
相手を敢えて挑発し、拓斗は光の刃を左手から右手に持ち替える。
構えてしまうと男がこちらに来ない恐れがある為、構えを取らずにいる拓斗。
「隙だらけですよ」
その構えを見た男は、拓斗に向かって攻撃を仕掛けた。
右から顔を狙ったナイフは上体を逸らしてかわし、お腹を狙った攻撃は持っていた光の刃で受け止める。
キン!っと音が鳴り、顔を狙ったナイフを今度は左から斜めに切るよう狙う男。
上体を逸らし、左側にあるナイフと自分の刃で左側に動けない状況の拓斗は、右足を思いっきり振り上げた。
「グフッ!?」
男のアゴを見事蹴りあげた拓斗は、蹴りあげた足をそのまま降り落とした。
かかと落としを繰り出した拓斗は、次の攻撃を仕掛けようとして攻撃を中断する。
「・・本当に、何であゆみは捕まったんだ?」
攻撃を中断したのは男が床で、大の字で倒れていたからである。
光の刃を解除し、ナイフを胸ポケットにしまいながら、拓斗はあゆみが捕まった理由を考えていた。
「コラーー!!待ちなさぁーーい!」
外から小嶋の声が聞こえ、あゆみが捕まった理由を考えるのをやめた拓斗は、ホッと一息つく。
これで、ようやく長い時間旅行が終わるはずだ。
もしまたおきてしまったら?その時はまた考えよう。流石に疲れた・・。
そんな事を考えながら、小嶋を呼びに外に出るのであった。
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【4】
外に出ると小嶋だけでなく、勇樹の姿も目に入った。
「小嶋先輩」
「あら、拓斗君。通り魔は現れたの?」
「えぇ。部屋の中でのびてますので、後は宜しくお願いします」
拓斗の返しを聞き驚く二人。
しかし驚きは同じでも、返す表情は違う。
拓斗が補欠だと知っている勇樹は、犯人が弱すぎたのか?だとしたらあゆみのヤツ・・と、あゆみに対する怒りが込み上げてくる。
拓斗を補欠だと知らない小嶋は、流石は私の後任者!っと、何処か微笑ましい気持ちであった。
「ご苦労様。しかし拓斗君も災難だったわね」
小嶋のねぎらいの言葉を、今度は否定せずに受け止める。
拓斗自身がそう思ったからではない。三人組みの男に絡まれていた女子生徒が近づいてくるのが見えたからである。
「き、桐島君。あ、ありがとうございました」
「いえ。ご無事でなによりです」
深々とお辞儀をする女子生徒を見下ろしながら、拓斗は心の中で謝罪する。
彼女は覚えていないだろうし、拓斗自身正解が解らないのだが、彼女を救わなかった時があったのだ。
拓斗や勇樹が現れず、三人組みの男に捕まったこの女子生徒が、その後どうなったのかは分からないし、知る必要もない事だ。
「じゃぁ拓斗君。出来れば事情聴取をとりたいんだけど・・時間大丈夫?」
今回は勇樹ではなく拓斗が捕まえている。その為、勇樹から帰っていいなどとは言われない。
「・・・少しだけでもよろしいですか?」
一瞬の間や時間を確認したのは、出来れば帰りたいという拓斗のアピールである。
そんな拓斗のアピールに気づいたのか、気づいていないのかは、この笑顔からは判断出来ない。
無論、気づいてますか?などと聞く事は出来ないだろう。
俺は帰ると言う勇樹を残し、拓斗はミニパトに乗り込むのであった。
ーーーーーーーーーー
【5】
拓斗が自宅に帰り着いたのは、21時過ぎであった。やはりというべきか、ですよねというべきか、小嶋の長話しで事情聴取に時間がかかったのだった。
「お帰りなさい」
拓斗のただいまに、少し元気がないように感じた伊波が、心配して駆け寄って来る。
「大丈夫だ。詳しい話しはご飯を食べながらでもいいか?」
本当であれば今直ぐにでも聞きたいと思った伊波であったが、疲れているであろう拓斗に対し、これ以上疲れさせまいと自重した。
「今日はオムライスです」
「それは楽しみだ」
拓斗が顔や手などを洗ってリビングに戻ると、ケチャップでお疲れ様と書かれたメッセージを目にした。
それに気づいた拓斗が伊波を見ると、恥ずかしそうにうつむいてしまっている。
決してハートマークで囲っているからではないと思うのだが・・。
拓斗は席に着くと、伊波の前に置かれたオムライスにケチャップで文字を書く。
ありがとう
たった5文字の言葉に込められた思いは無限にある。恥ずかしくて、決して口に出来ないものもあるだろう。
「た、拓斗?」
文字に気づいた伊波が顔をあげると、拓斗と目があった。
目があった伊波に対し、拓斗は口にする。
「いつもありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
二人の夕食はいつもこんな感じである。
しかし、お互い決して嫌ではない。
ギスギスしていたあの頃より、ずっと楽しく美味しい夕食。
事件の詳細を話しながら、二人は夕食を済ませた。
ーーーーーーーー
【6】  エピローグ
翌日の朝、拓斗はいつものように携帯で日付けを確認し、ホッとした所で制服に着替えてリビングに向かった。
「おはよう伊波。ん?何か上機嫌だな」
「おはようございます。そ、そうですね」
珍しく上機嫌なのを認める伊波。
チラっとテレビに目を向けるので拓斗もテレビ画面に目を向けると、昨日の事がニュースとして流れていた。
流石に拓斗は未成年であり高校生の為、名前などは伏せられている。
しかし、昨日事件の詳細を詳しく聞いた伊波は、この事件は拓斗が解決したものだと直ぐに分かった。
朝食の後のコーヒーを飲みながら、何度目かのニュースを耳にし、チラッと伊波を見ると、やはり終始ニコニコしていた。
少し恥ずかしさも感じながらも、伊波が嬉しそうなのを見て、拓斗はそっと目を閉じるのであった。
【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まずは謝罪から入らせていただきます。
当初、魔法×科学の優等生として書いていましたが、タイトルを変更させていただきました。
こちらは、タイトルからネタバレはあまり良くないと、何処かのサイトで目にした事からそういうタイトルにしたのですが、やはりどうしても今のタイトルである、魔法×科学の時間旅行者にしたく、変更させていただきました。
こちらの作品は登場キャラも多くなり、読んで下さる皆様に解り易いようにと、設定資料を随時載せていきます。
さて、入学編では主要キャラクターの紹介や、桐島拓斗という少年の強さや悩みを重点的に書いています。
次回はいよいよあずさや香菜、伊波に咲と、ヒロイン達が活躍するお話しになります。
楽しんでいただけたら幸いです。
次回『校内ランキング編』
事件を解決した拓斗は、生徒会や祐美子に事情を説明する。その際に校内ランキング戦がある事を知る事になり、補欠である事を証明しなくてはならない拓斗は苦労する事になる。
そんな彼を待ち受けていたものとは…
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