魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

入学編 下(4/5)

【1】


 一度あゆみを部屋に連れ帰るという勇樹の案を受け、拓斗は現在一人で部屋の中にいた。
 時計の針は18時を回った所である。
 伊波に心配かけないようにと、病院に行った帰りに事件に遭遇してしまったことや、あゆみと勇樹が関わっている事をメールに書いて送信する。
 本当であればまだ病院だと言いたいのだが、伊波は拓斗のMAGを調整している為、ごまかすのは不可能だと考えての連絡であった。


「・・・気をつけてね・・か。すまない」


 伊波からの返信メールを読み、謝罪の言葉が出てくる。
 伊波に送ったメールは、嘘ばかりのメールではない。病院に行ったという事を除けば、ほとんどが本当の事である。
 罪悪感を胸に刻みながら携帯をポケットにしまうと、勇樹が戻って来た。


「もう帰っていいぞ」


 部屋に入り拓斗を見るや、勇樹はそんな言葉をかけてきた。
 本当であれば、後は任せた!と言いたい所なのだが、時間旅行の事を考えるとそうもいかない。


「いや。通り魔の事が気になる」


「・・・チッ。勝手にしろ」


 勇樹としては、補欠何か邪魔でしかないのだが、情報提供者は拓斗である。
 拓斗にこう言われてしまっては、帰れなどと強くは言えなかった。


 その後二人の間に、特に会話は無かった。
 拓斗としては、あゆみが何故さらわれたのか?あゆみと任務制度中だったのか?など、色々聞きたい事はあったが、勇樹からしたらあまり愉快な話しではないだろうと自重した。


 また勇樹としても、通り魔の情報はどこから手に入れたのか?あゆみはこのままの状態で見つけたのか?などと聞きたい所だったのだが、そうなるとあゆみについて聞かれる可能性があるだろうと、拓斗同様勇樹もまた自重していた。


 ーーーーーーーーーー


【2】


 無言のまま待つ事数十分。
 玄関の扉の鍵が開く音が鳴る。
 勇樹は拓斗に、驚いた表情と視線を送る。
 勇樹は当初、部屋の鍵を閉めるという拓斗の提案に首を傾げた。元々部屋の鍵が開いていたから、拓斗は部屋の中を調べてあゆみを発見したはずであり、鍵をかけてしまっては、犯人に気づかれるだろうが!と愚痴をこぼしていた。


 拓斗も、勇樹の意見は最もだと考えている。本当に、鍵がかかっていなかったらの話しなのだが。
 しかし、時空間魔法で中から鍵を開けたなどとは当然言えるはずもなく勇樹に嘘の説明をする。
 人は普段から鍵をかける習慣があり、まさか部屋の鍵を閉め忘れているとは思っていない。ましてや、今はあゆみをベッドに寝かせている状態だ。
 部屋の鍵が開いていたら、犯人はパニックになって逃げて行く可能性がある、と。


 右手を構える二人。


「勇樹。殺すなよ」


「相手しでぇだな」


「それでもだ」


 時間旅行にあわない為にも犯人は捕まえるべきだと考えている拓斗。勇樹の相手次第というのには、二つの意味が込められているだろうと解釈しながらもそう注意した。


「き、君たち!ここで何をやっている」


 若い男は部屋に入り、二人を見るなりそう告げた。
 勇樹は、この男が通り魔なのかを知らない。その為、無言のまま拓斗の顔を見る。


「俺たちを空き巣か何かだと決めつけ、誤魔化そうとしても無駄だ。ここに寝かせてあった女子校生は保護してある」


「・・・ど、どうしてだ」


「答えるつもりはない。両手を頭の後ろで組んで膝をつけ!」


 若い男のどうしては、何故、ここにいるのがわかったのか?何故、幻影魔法で隠していた女子校生を発見できたのか?と二つの意味を持っていた。
 拓斗はそれを答えない。いや、答えられない理由がある、と言っても、答えられたとしても答えなかったのだが。


「おぃ!変態野郎。女子校生を狙ったのは何故だ」


「・・・クヒッ。ヒッヒヒ。ここまでバレていては仕方がない。僕の趣味じゃないんだけど、若いって事で特別だよ?」


 若い男は、両手でお腹を抱えながら不気味に笑う。拓斗と勇樹は犯人を取り囲むべく、目線で合図を取り合う。


「さぁ!美しい内臓を僕に」


 若い男がお腹から両手を勢いよく抜くと、両手に大きなサバイバルナイフを持っていた。
 剣でも刀でもなくナイフだ。
 それを見た拓斗は驚きの声をあげる。


「お前まさか錬金術者か!?」


 本来サバイバルナイフは小さい。
 この剣や刀のような長さからサバイバルナイフを触媒とし、大きくしたのだと推測した。


「ヒッヒヒ。泣いてもわめいてもいいからね?その方が僕も


 若い男はサバイバルナイフを振り上げながら、拓斗に襲いかかった。


「フン。馬鹿が・・『地に伏せ』」


 勇樹は犯人目掛け、重力魔法である加重魔法を繰り出した。


「ガハッ!?」


 勝負は一瞬で終わりを迎える。
 サバイバルナイフによる近接戦闘に対し、勇樹は中距離からの戦闘である。何百回と戦闘した所で結果は同じだろう。
 床に押し潰されそうな若い男を見ながら、拓斗は勇樹の技量に感心していた。


「流石だな」


「チッ!?こんなヤツにさらわれたのか・・あの馬鹿が」


「・・油断していたとかじゃなく、不意をつかれたんじゃないか?」


 拓斗自身、こんなヤツにあゆみが捕まったのかと思っていた。まぁあゆみが目を覚ました時にでも聞けば済む話しであると、拓斗が考えていた時であった。


「う、うわぁぁぁあ」


「コラ!尋常にお縄につきなさい」


 外の方から小嶋の声が聞こえていた。
 勇樹の視線に気づいた拓斗は小嶋という婦人警官に、ひったくり犯の逮捕を依頼していた事を告げる。


 時刻は19時を回った所である。
 外に出て、通り魔の情報を小嶋に伝えに行った拓斗は、部屋に戻るなり勇樹に話しかけられた。


「おぃ補欠。まぁその・・あれだ。帰っていいぞ」


 これから事件の事後報告に行かないと行けないと思っていた拓斗に、勇樹が照れくさそうに告げる。
 あゆみの保護に感謝しての申し出なのかは、勇樹本人に聞いてみないとわからない。
 無論、拓斗はその理由を聞く事はないだろう。
 伊波が心配しているに違いない為、拓斗はその申し出を有り難く頂戴した。


 ーーーーーー


【3】


 自宅に帰り玄関を開けると、エプロン姿の伊波が出迎えてくれた。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 お互い言いたい事や聞きたい事があるが、まずは挨拶から済ませ、手洗いうがいを済ませてから話そうと提案する。
 リビングで待ってますと告げる伊波を残し、洗面所で手洗いうがいをしながら、拓斗はどう説明するかを考えていた。


「それで・・大丈夫だったのですか?」


 当然とも言える質問に、伊波を安心させるよう優しい声で答えた。


「勿論だ。病院に行った帰りに、ひったくり犯らしき人物の隠れ家を偶然発見した。証拠を見つけて警察に連絡をする際に、あゆみが監禁されていたのを発見したので直ぐに勇樹に来てもらって、監禁していた人物を捕まえてきた所だ」


「か、監禁!?だ、大丈夫だったのですか?」


「あぁ。だが、あまり思い出したくはない話しだろうから、勇樹やあゆみには聞かないでやってくれ」


「そうですね・・。もしかして朝のあれは・・」


「それは誤解だ。もし通り魔の存在を知っていたら、病院などには行かずに伊波の側にいたさ」


「・・・!?」


 思いがけない返しに、伊波は顔を赤く染めてうつむいた。拓斗が言っている言葉はほとんどが嘘である。しかし拓斗がもし通り魔の存在を知っていたら、きちんとそう言ってくれる、いや、側に居てくれるだろうと伊波は信じていた。拓斗自身も通り魔に限らず、何者かが伊波を狙っているとわかった場合は必ず側にいると決めている。


「さぁ夕食を食べよう」


 この話しはこれでお終いと拓斗は告げる。
 伊波もそれ以上は聞かなかった。
 その事に感謝しつつ、今日の学校の出来事を伊波から聞きながら、二人は楽しい夕食を済ませるのであった。


 ーーーーーーーー


【4】


 目が覚めた拓斗は真っ先に、朝の日課となっている携帯で日付けを確認した。


「・・・嘘・・だろ?」


 いつも寝ながら携帯を開く拓斗は、日付けが変わっていない事に驚き、すぐさまベッドに腰掛ける態勢になった。
 見間違いかと目元を擦るとか、夢かとほっぺたをつねるようなそんな真似はしない。
 間違いなく、時間旅行が発動していた。


「何故だ・・いや、そうじゃない」


 何故、時間旅行が起きたのかなど考えても分からない。分かれば苦労などしない。
 時間旅行が起きたのだから、考えるべきポイントはそこではなく、どうするか?だ。


「拓斗?朝ご飯です」


「あ、あぁ。直ぐに行くよ」


 勇樹に殺されなかったし、あゆみも無事だった。
 他に違った点といえば、拓斗が学校に行かなかった事ぐらいだ。


「学校に行ってから救えって事なのか?」


 パジャマを脱ぎ、制服に着替えながら拓斗はどうするかを考えていた。
 リビングに行き、朝食を済ませ、食後のコーヒーを飲みながらどうするかを決める。


(学校に行った場合、大きなポイントは咲を生徒会に連れて行った事か、その後女子生徒を救ったこと・・そうか!!)


 思わずコーヒーを吹き出しかけながら、拓斗は気がついた。
 拓斗は小嶋に連絡をし、勇樹を例の工場に呼んでいる。その後、勇樹と二人で通り魔を待っていた。つまり拓斗と勇樹は、三人組みの男に絡まれていた女子生徒を救っていない。
 あゆみは助かったが、もしかしたらそっちで何かあったに違いないと考える拓斗。


「一応、学校には行くか」


 もしかしたら学校をサボったから、時間旅行が起きたのかもしれない。可能性が0ではない限り、可能性を0にする必要がある。学校に行ってから二人を救おう。拓斗はそう決意した。


 ーーーーーーーーーー


【5】


 学校の授業では、特に変わった事は無かった。
 拓斗は普通に授業を受け、咲を生徒会に連れて行き、生徒会でのイベント(咲が生徒会長に捕まる)を見て、見送りをしてくれたなぎさに話しかけた。


「そう言えば副会長。生徒会にも任務制度なるものがあるのですか?」


「ん?拓斗君に、任務制度の事を話したか?」


「いえ。前年度卒業された、生徒会書記の小嶋優子先輩から聞きました」


 拓斗はまだ小嶋に会っていない。
 これから会って、任務制度について聞くのだが、あさみやなぎさから任務制度について聞いたと、嘘をつくよりかはいいだろうと判断した。


「優子ちゃんか・・。いや、あさみがああなってしまったのは彼女の所為でだな・・ハァ」


 小嶋優子と拓斗が口にすると、あさみやなぎさ、事務の中村までも一瞬ビクッとするが、拓斗は気づかないフリをした。
 なぎさに至っては、こめかみを抑えるジェスチャーつきでため息を吐いた。
 一体何をしたのか気になる拓斗であったが、長話しをするつもりはない為無言で見ていた。
 それに気づいたなぎさは、一つ咳払いをして話しを戻す。


「あ、あぁすまん。任務制度は厳密に言えば使えるのは会長のあさみ、副会長の私、そして書記の君だ。会計である咲は学年2位だから使える事は使えるが・・いや、他に聞きたい事はないか?」


「いえ。ありがとうございました。では、行って来ます」


 この中で唯一使えないのは、事務の中村である。
 会計と事務は本来学校内にいる。そもそも使う理由がない。また、なぎさは敢えて言わなかったが、学年ランキングでも中村は30位と、こちらでも適用されていない。まるで一人だけ仲間外れみたいな会話を嫌がった為、なぎさは話しを強引に終わらせたのだった。


「あぁ。行ってらっしゃい」


 拓斗はさっさと外に行きたかった為、なぎさの強引な話しを蒸し返さなかったのだが、なぎさは自分の思いが通じた?伝わった?と勘違いしていた。
 その為かなぎさは、満面の笑顔で拓斗を見送った。


 ーーーーーーーー


【6】


 生徒会を出て階段まで来た拓斗は、周りを見て誰もいない事を確認する。


「一応連絡しとくか・・」


 拓斗は携帯を取り出し、小嶋に電話をかけた。


「はい。小嶋です」


「初めまして。小嶋先輩の後任者になりました、1年桐島拓斗と申します」


「懐かしいわね!って思える自分って、何だかおばさんみたい・・。あっ、それで?」


「はい。実は書記として学校周辺を調べていた所、ひったくりや通り魔といった事件が起きているということが分かりまして」


「と、通り魔!?本当なのそれ?」


 小嶋の返しを聞き、ひったくりは実際に起きているが、通り魔事件は今日が初めて起こる事件のようだと拓斗は思った。


「情報だけですので何とも言えませんが、無視も出来ないと思ってます」


「だからあさみちゃんかなぎさちゃんに番号を聞いて、私のプライベート番号にかけてきたって訳ね・・」


 これは小嶋の誤解であった。拓斗は後々の事を考え、はい。とも、いいえ。とも言わなかった。


「小嶋先輩。◯△工場にひったくり犯や通り魔が出入りしていると言った情報があります」


「そこは確か移転した工場だったはず・・」


「しかし、電気がついていました」


「・・!?ナメられたものね」


 自分の縄張りで犯行があった事もそうだが、自分の縄張りにアジトがあったとなれば更に怒りは増す。小嶋の真剣な声を聞いたのは、コレが初めてであった。


「自分も本来であれば任務制度を利用して、捜査に加わりたいのですが、あまり校内を不安がらせたくありませんし、一つ力を貸して頂けませんか?」


「任務制度を使用する場合は、申請理由が必要になるものね・・あっ!勿論、協力します」


「では、自分は生徒会書記として、学校から駅に帰る道を調べながら帰りますので、小嶋先輩は駅から学校に行く道を調べてもらえませんか?そこで一度会いましょう」


「今から・・駅・・と。拓斗君」


「はい」


「情報提供ありがとうございます」


 これもまた、初めて聞く言葉であった。
 わざわざプライベート番号を調べて知らせたからなのかは分からないが、初めて警察官らしき素顔を見た気がする。無論、拓斗はプライベート番号をわざわざ調べてなどいない。時間旅行にあう中で小嶋から聞いた事であり小嶋の誤解である。


「ご協力感謝します。では、後ほど」


 もしかしたら違う理由もあるかもしれないが、聞く事も訂正や説明などせず小嶋にそう告げて、拓斗は電話を切るのであった。


 ーーーーーーーーーー


【7】


 外に出て、ひったくり注意という看板を携帯カメラで撮影する。
 鍵ではないと思うが、念の為である。
 拓斗は任務制度を使って授業を休むのではなく、生徒会という委員会活動で調査をする事を選んだ。
 あゆみの場所も分かっているし、犯人も分かっている。部屋に入る人物や殺される時間も分かっている。
 あゆみには申し訳ないが、それまでは寝ていて貰おうと考えての選択であった。


「待てよ・・」


 幻影魔法はあくまで姿を隠す魔法である。
 窒息死する心配はない。
 また、幻影魔法が持続する時間は術者によって異なり、持続時間が長いほど高度な術者だということである。
 あの程度の術者が、あゆみを長時間隠していたのだろうか?
 また、ひったくり犯が何故あの部屋にやって来たのか?
 拓斗はそこが引っかかった。


「もしかして仲間なのか?いや、どうでもいいか」


 しかし、直ぐに考えるのをやめた。
 どうせ全員捕まるのだ。
 捕また後にでも聞けばいい。
 それよりも今は、女子生徒の元に向かわなくては行けない。


 拓斗は、歩かず走り出すのであった。

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