魔法×科学の時間旅行者
入学編 下(1/5)
【1】
自宅に帰り、夕飯を食べている時であった。
「生徒会は、何だったんですか?」
「ん?あぁ、生徒会の書記をやってほしいと言われたので、引き受けてきた」
「引き受けたんですか!?」
「活動記録を作るだけらしいから、特に問題はないだろう」
正確に言うのであれば、引き受けなかった場合、伊波にこの話しがいく事になるのを、拓斗が未然に防いだが正しいのだが、そこまで伝えるつもりはない。
「まぁ、拓斗がそう言うのであれば・・なら私も風紀委員会に入ります」
どうやら伊波には風紀委員会から、声がかかったらしい。風紀委員会に入るのに対し、拓斗が断る権利も理由もない為「そうか」とだけ伝える。
風紀委員会は、学内を見回る委員会である。
危険な仕事ではない。
風紀委員がうろついている校内で、喧嘩などといった行為をする生徒はいない。
風紀委員がいなくても、喧嘩などするような生徒はいないと思いたい所なのだが、残念ながら口論はおこる。
口喧嘩ならまだいいが、殴りあいなどに発展しないとも限らない為、一応、風紀委員が校内を見回っている。
「規律委員会の方が良かったんじゃないか?」
「そうですね・・。しかし、声をかけられたのは風紀委員会ですので・・」
規律委員会とは、学校の規律を保つようにする委員会であり、風紀委員会同様、校内を見回って、学校のルールを破っていないかを見回る委員会である。
校則違反者などを、取り締まる委員会と言った方が馴染みがいいかもしれない。
風紀委員会と規律委員会は似ているが、やる仕事が似ているだけで、取り締まる内容が違う。
学校の風紀を守る委員会と、学校の規律を守る委員会である。と言っても、喧嘩の仲裁に入るのは風紀委員会の仕事だからと言って、規律委員が仲裁に入らないわけではない。
学校を、良くしようという気持ちは同じなので、仲はとてもいい。
「まぁ。何も起きないとは思うが、気をつけろよ」
「大丈夫です」
決まってしまった事は仕方がない。拓斗は伊波に注意する事だけに留めた。自分の事を心配してくれる拓斗の優しさが嬉しく、ニッコリ微笑む伊波であった。
ーーーーーー
【2】
授業も終わり、拓斗は今日から生徒会での初仕事である。
「・・咲?起きろ。行くぞ」
「・・・フニャ?」
咲の身体を揺らしながら、拓斗は生徒会に行く準備を済ませた。まさか生徒会の初仕事が、眠っている生徒会会計を起こす事から始まるとは、思ってもいなかった為、軽い頭痛を覚えてしまう。
「咲を連れて行かないと、俺が怒られるかもしれん。まずはヨダレを拭け」
「ふわぁ〜ぁ。行きたくにゃい」
寝ぼけているのか、行きたくないが行きたくにゃいになっている。
目元を擦りながら上体を起こした咲に、拓斗はハンカチを手渡した。
ハンカチでヨダレを拭いて、拓斗にハンカチを返しながら咲は席を立った。
「おにゃかすいた」
「・・・生徒会室にお菓子ぐらいあるんじゃないか」
「何をしておる桐島拓斗!!ほら、早く行くぞ!」
「・・・あ、あぁ」
教室のドアを勢いよく開け、目を輝かせながら拓斗を見る咲に、若干引き気味で返事を返す。
軽い頭痛が更に痛くなった気がするのは、気の所為ではないはすだ。
咲に気づかれないように、そっと溜め息を吐く拓斗であった。
ーーーーーーーー
【3】
生徒会に着き、部屋をノックしようとした拓斗であったが、残念ながら失敗に終わってしまう。
「お、菓子ーーーー!!」
「・・・し、失礼します」
勢いよく扉を開け、ズカズカと入って行く咲の後ろで、拓斗はきちんとお辞儀をしてから、上体を起こすと、咲があさみに捕まっている光景が目に入った。
「あぁ、拓斗君か。良く咲を連れて来てくれたな」
「えぇまぁ・・。同じクラスですから」
「や、やめろーーーー!」
「あぁ!いぃいい!凄くいいわぁ」
あさみから、ぎゅーっと抱きしめられ、咲は苦しそうにしている。
この生徒会大丈夫か?と拓斗は思ったが、口にはしなかった。彼の役割りは、学校周辺の活動記録を取る事がメインである。
委員会の活動記録や、イベント(行事)の活動記録もあるが、彼の手元に資料が届くかまたはイベント時期にならないと、彼の仕事はできない。
外にいる事がメインの彼にとって、この生徒会がダメだったとしても関係がない事であった。
「・・では、俺はこれから外を見てきます」
「あぁ。何かあったら知らせろよ」
会長は咲に夢中のようだ。
咲に対し、少しの罪悪感をもちながら、拓斗は再びお辞儀をしてから部屋を出て行った。
ーーーーーーーー
【4】
さて、どうしたものか。
外の活動記録をとって来てほしいと言われたものの、具体的に何をすればいいのかが分からない。
去年までいた先輩は、学校から駅までの道を歩いてそれを記録していたらしいのだが、だから何だと言われたら身もふたもないだろう。
おそらくは駅まで続く道で、工事や事故などがあった場合、それを記録して報告するのが目的だと思われる。
「・・ひったくりがおきているのか?」
電柱に建て掛けてある看板を見ながら、一人言を呟く拓斗。
「明日全校生徒に注意を呼び掛けるべきだろうな」
携帯を開き、電柱に書いてある住所を写真に収める拓斗。次の日の朝礼の時にでも注意を呼び掛け、登下校中に生徒が被害に遭わないようにする。生徒会書記の仕事がこれか?と思う拓斗ではあったが、大事な案件である事に間違いはない。
「少し駅まで歩くか」
携帯で学校周辺マップを開きながら、拓斗は歩きだした。
しばらく歩いていた拓斗は、駅の近くで女性が絡まれている場面に遭遇する。
「や、やめて下さい」
「いいじゃんいいじゃん。俺達が奢ってやるからさぁ〜遊ぼうぜ」
女性の腕を掴み、腰に手を回す男一人に、それを楽しそうに見守る男二人。
女性は拓斗の通う高校の3年生だった。
こういった場合でも魔法を使わないのは、この女性なりの優しさなのか、属性魔法に問題があるのか。
あずさのような雷属性であれば、相手を痺れさせて逃げれるだろうが、火属性や炎属性だった場合、そうはいかない。
相手を焼き殺してしまう恐れがあるからだ。
相手もそれが分かっているからか、女性との密着がほぼ0といっていい距離である。
あまり人と関わりたくないと考えている拓斗であったが、流石に見てみぬ振りも出来ない。
「困ってますので、その辺にしてもらえませんか?」
「あぁん?外野は引っ込んでろ!!」
相手を刺激しないよう注意したつもりが、かなり怒らしてしまったようだ。
「・・・・」
女子生徒と目が合う拓斗。
女子生徒は、決して助けを呼ぼうとしなかった。
拓斗を危険な目に合わせたくないと考えたからか、補欠である拓斗に気づき、補欠では助けてもらえないと判断したからなのかは分からない。
しかし、どちらでもいい。
彼のとるべき行動は、一つしかないのだから。
「聞こえなかったのか?女性をこちらに渡してもらおう」
右手を真っ直ぐ突き出し、先ほどとは違う低い声で相手を威嚇する。
「・・チッ。魔法者かよ・・。おぃお前等!やるぞ!!」
女性を掴んでいた手を放し、男三人がこっちに歩きかけたその時であった。
「・・・グハッ!?」
突然、三人の身体が地面に這いつくばるように倒れた。地面にヒビが入るほどの強力な魔法。
女子生徒や拓斗が放った魔法ではない。
「・・・あぁ?補欠じゃねぇか」
魔法を放ったのは、1年A組山本勇樹であった。
ーーーーーーーー
倒れた男達の一人の背中に乗り、他の二人の頭を交互に踏みながら、山本勇樹は高らかに笑う。
「俺のなわばりで、、デケェツラァして、、二度と歩けねぇよぉに、してやんよ」
踏んでいるというより、蹴っていると表現した方が正しいかもしれない。しばらく見物していようかと考えた拓斗であったが、このままでは三人が死んでしまう恐れがある。
「・・・やりすぎだ」
「あぁ?こういう連中はなぁ、これぐらいしとかねぇと分からねーんだよ」
拓斗を睨みつける勇樹。一触即発の空気であったが、女子生徒が話しかけた事により、直ぐになくなった。
「あ、あの・・。助けて下さり、ありがとうございます」
「・・・チッ。アンタから警察に連絡しとけよ」
「は、はい。ありがとうございます」
拓斗の話しには耳を傾けない勇樹であったが、流石に上級生には強く言えないようだ。
女性という理由も多少はあったかもしれないが・・。
「あ、あの・・た、いえ、すいませんでした」
「気にしないで下さい」
助けたのは勇樹であって、拓斗ではない。
助けられた御礼を拓斗に言うのはおかしいと思った女子生徒は、迷惑をかけてしまった事に対して謝った。
拓斗自身何もしていないので、特に気にせず女子生徒に警察を呼ぶように薦める。
魔法の使用があった場合、警察への事後対応が必要になる。
三人は気を失っているだけで、多少の怪我があるものの、大きな怪我は見当たらない。
「・・待て。何処に行く」
後は任せたと言わんばかりに山本が、背中を向けて歩き出そうとしたのに気づいた拓斗は、山本に話しかけた。
警察が来た時の事後処理は、拓斗ではなく山本がいるべきである。
被害に合った女子生徒もそうだが、三人に魔法を放った当事者も残るべきなのだが、山本は舌打ちしながら拓斗の問いに答える。
「チッ。サツには山本が、と言っとけ。それより補欠」
「・・・何だ?」
「・・・あゆみを見なかったか?」
「あゆみ?今日は休みだったな・・」
「見たか、見ていねぇかしか聞いてねぇ!!」
拓斗の胸ぐらを掴む山本に対し、拓斗は目を逸らす事も、胸ぐらを掴む手をはらう素ぶりすら見せず、山本の問いに答えた。
「悪い。見ていない。なぁ山本?見かけたら連絡してやろうか?」
「・・・あぁ。見つけたらその場を動くなと伝えとけ。後、山本何てダセェ苗字で呼ぶな」
そういうと、メモ帳に自分の携帯番号を書き、拓斗に手渡す勇樹。手渡すと言うより押し付けてきたというべきか・・。メモを拓斗が受けとると、目にも止まらぬ速さで山本勇樹は姿を消した。
何もなければいいが・・。
警察に連絡している女子生徒の隣で、拓斗はそんな事を考えていた。
ーーーーーーーー
【5】
警察の事後処理が、直ぐに済むはずもない。
どういう経緯で絡まれ、どういう理由で魔法を使用したのかという話しをしなくてはならない。
「は、はい。絡まれている所に、彼が声をかけてくれて、絡んできた男の人達が私の手を放した瞬間、山本君が魔法を放ったんです」
「・・フム。桐島君・・だったかな?君は何故あの場所に?」
「はい。自分は生徒会書記として、学校周辺を記録してまわるよう生徒会長から指示を受けていました。近くでひったくり事件などもあったようですので、せめて駅まで見て回ろうかと思いまして」
警察官に質問された拓斗は、先ほど撮った写真を見せながら事件に関わってしまった理由を話す。
「なるほど、なるほど・・確かにこの写真に書かれているのは事実です」
「生徒会として注意を呼びかけたいと考えていますが、詳しく聞かせて頂けませんか?」
拓斗の話しを聞いた警察官の男性は、両腕を組みながら考える。拓斗の言っている事の重要性は分かるが、何処から何処まで話していいのかを考えているようであった。
「いいでしょう。犯人は二人組みです。バイクを運転する者、バイクの後ろに乗っている者、バイクの後ろに乗っている一人が、バックをひったくるといった犯行です。あまり一人で帰らない事。道路側に鞄を持たず、壁側に鞄を持つよう呼びかけをお願いします」
「ご忠告ありがとうございました」
「小嶋。二人をお送りして差し上げろ」
「ハッ!!」
小嶋と呼ばれた女性警察官が、拓斗達の前に座っている男性警察官に向け敬礼しながら答えた。
女子生徒と拓斗は、座りながら短くお辞儀をしその場を後にする。
時刻は19時前とはいえ、怖い思いをした女子生徒を一人で帰らせないといった優しさであった。
ーーーーーーーー
ミニパトと呼ばれる車に乗り込む三人。助手席には拓斗が座り、女子生徒は後ろに座った。
女子生徒は緊張がほぐれたからか、後部座席で直ぐに眠り始めた。
「桐島君だったかな?君は何処まで?」
「学校の駅の近くで大丈夫ですよ。一度学校に荷物を取りに行かなくてはいけませんし、この車で学校付近に行くのはちょっと・・」
「アッハハハハ。そうだろうね。学校側に捕まりたくはないよね」
「・・・えぇまぁ」
事件の事はすでに、学校側には伝えてある。事件に巻き込まれたのだから当然であり、当事者である拓斗と女子生徒は学校側に報告をする義務がある。捕まりたくないと言ったのは、時間も時間の為、出来るなら明日にしたいのだろうと小嶋が考えたからであった。
「桐島君。私は小嶋優子っていいます。主に地域課を担当しているの」
「学校地域・・ですか?」
「その地域全般ね。君の住むエリアも担当しています。桐島君は魔法者かしら?」
「えぇまぁ・・」
「そう。私は科学者よ。まだ科学師のライセンスは取れていないのよね」
「そうですか・・。まだ若いでしょうから、無理も無い事だと思います」
軽い世間話しなのだろう。女性はお喋りが好きだという話しを思いだしながら、拓斗は会話に付き合っていた。
「うふふ。ありがとう。そこにメモ帳があるでしょ?君の番号を書いておいてくれない?」
若いと言われた事が嬉しかったのか、小嶋は上機嫌であった。
「私は去年、君達の通う高校を卒業して警察官になったの。ちなみに、君の先輩よ」
「・・・生徒会の書記は小嶋さんだったんですか?」
可愛いくウィンクする小嶋に対し、拓斗はメモ帳を手に取って、電話番号を書きながら質問する。君達とは言わず、君のと言った小嶋の意図を正確に理解しての質問であった。
「えぇそうよ。あさみやなぎさは元気かしら?」
「元気だと思います。自分は昨日生徒会の書記になったばかりですので、昨日しか知りませんが・・」
「昨日書記になって、直ぐに事件か・・災難だったわね」
「いぇ。一番災難だったのは、彼女でしょうから・・。この辺で大丈夫です」
「それもそうね・・。桐島君。ひったくり事件が解決したら電話してあげる。後、これ。私の携帯番号だから、何かあったら連絡してね。それじゃぁ」
「・・ありがとうございました」
小嶋から名刺を受けとり、胸ポケットに名刺をしまってから拓斗はお礼を告げてドアを閉めた。
学校まで歩く前に、マップを見直す拓斗。
「違う道から行ってみるか」
普段通っている道とは、別の道から学校に向かう事にした。普段とは違う道も見ておきたい理由もあるが、怪しい工場があったという理由もあったからである。
ーーーーーーーー
【6】
廃墟になっている工場の、近くを通ったときである。二人乗りのバイクが、工場の入り口から慌てて飛び出して行くのが目に入った。
明らかなスピード違反。
捕まえようかとも考えた拓斗であったが、ここで魔法を使ってしまうと、事故を起こしてしまう可能性がある。拓斗はそう判断し、挙げていた右腕を降ろした。
「・・ここが隠れ家なのか?」
こっそりと中を伺うが、人の気配は感じられない。入り口の正面にはシャッターが閉まっている建物が見え、左側は駐車場、右側は2階建てのプレハブ小屋が見える。
廃墟になる前は、プレハブ小屋で休憩スペースや事務所やらがあったのだろう。
「・・魔法を使うのは危険か」
月灯りでは周りが良く見えない。魔法で辺りを照らすか考えた拓斗だったが、人がいる可能性がある為、魔法を使わず携帯のライトを照らす事にした。
地面にライトをあて、タイヤの跡や犯人らしき靴跡を探して行く。
犯人らしき靴跡は、1階部分のプレハブ小屋に続いていた。
サッと入り口付近に身を潜め、トン、トンっと、まるで誰かがノックしたようかのように、石を数個投げる。
「・・・誰もいないか」
しばらく待ってみたが、誰も出てこない。
音をたてないよう注意しながら入り口のドアに近づき、拓斗は軽くドアノブを回すが鍵がかかっていた。
「・・・窓があればいいが」
窓を探す為に、入り口の反対側へと移動する。
ぴったりプレハブ小屋に密着しながら、音をたてないよう移動する。時空魔法を使えば、簡単に部屋の中に入れるのだが、イメージがつかめない事には、時空魔法を使う事が出来ない。その為、部屋の中を見る必要があった。
(窓から部屋の中を見る事が出来れば、入り口の鍵を壊さなくてすむのだが・・)
出来るだけ現場を荒らさずに済ませたいと、考えている拓斗。しかし、窓を発見したがカーテンが閉まっていて中が見えない。
「人がいるのか?」
誰もいないはずだが、部屋の明かりがついている。居留守の可能性もある為、今度は石ではなく自分の手で窓を叩いた。
しかし、やはり誰も出てこない。
物音もしない為、さっきの二人組みが消し忘れたのだろうと判断し、再度辺りを見渡す。
部屋の中から自分の影が映らないよう注意しながら、反対側に移動をする拓斗。
「・・・台所か?」
入り口の丁度反対側に、鉄格子付きの小窓を発見する拓斗。鉄格子が付いている事に安心してか、今度は鍵がかかっていない。音をたてないように注意しながら窓を開け、中の様子をうかがうと台所が見えた。台所の前に自分が立っている姿を想像し、時空魔法を発動する。
台所の奥の部屋に向かう前に辺りを見渡すが、人が隠れられそうな所は見当たらない。
右手を真っ直ぐ突き伸ばし、いつでも魔法が放てるよう準備しながら、拓斗は部屋の奥の扉へと足を踏み入れた。
「・・・・何だ・・血か?」
部屋の中を覗くと、シングルサイズのベッドが置いてあり、シーツには血の跡が残っている。
部屋に誰もいない事を確認した拓斗は、右腕をおろしベッドの下を覗き込んだ。
「・・・・・・噓・・だろ」
ベッドの下を覗きこんだ拓斗が目にしたのは、1-A組の山田あゆみの死体であった。
自宅に帰り、夕飯を食べている時であった。
「生徒会は、何だったんですか?」
「ん?あぁ、生徒会の書記をやってほしいと言われたので、引き受けてきた」
「引き受けたんですか!?」
「活動記録を作るだけらしいから、特に問題はないだろう」
正確に言うのであれば、引き受けなかった場合、伊波にこの話しがいく事になるのを、拓斗が未然に防いだが正しいのだが、そこまで伝えるつもりはない。
「まぁ、拓斗がそう言うのであれば・・なら私も風紀委員会に入ります」
どうやら伊波には風紀委員会から、声がかかったらしい。風紀委員会に入るのに対し、拓斗が断る権利も理由もない為「そうか」とだけ伝える。
風紀委員会は、学内を見回る委員会である。
危険な仕事ではない。
風紀委員がうろついている校内で、喧嘩などといった行為をする生徒はいない。
風紀委員がいなくても、喧嘩などするような生徒はいないと思いたい所なのだが、残念ながら口論はおこる。
口喧嘩ならまだいいが、殴りあいなどに発展しないとも限らない為、一応、風紀委員が校内を見回っている。
「規律委員会の方が良かったんじゃないか?」
「そうですね・・。しかし、声をかけられたのは風紀委員会ですので・・」
規律委員会とは、学校の規律を保つようにする委員会であり、風紀委員会同様、校内を見回って、学校のルールを破っていないかを見回る委員会である。
校則違反者などを、取り締まる委員会と言った方が馴染みがいいかもしれない。
風紀委員会と規律委員会は似ているが、やる仕事が似ているだけで、取り締まる内容が違う。
学校の風紀を守る委員会と、学校の規律を守る委員会である。と言っても、喧嘩の仲裁に入るのは風紀委員会の仕事だからと言って、規律委員が仲裁に入らないわけではない。
学校を、良くしようという気持ちは同じなので、仲はとてもいい。
「まぁ。何も起きないとは思うが、気をつけろよ」
「大丈夫です」
決まってしまった事は仕方がない。拓斗は伊波に注意する事だけに留めた。自分の事を心配してくれる拓斗の優しさが嬉しく、ニッコリ微笑む伊波であった。
ーーーーーー
【2】
授業も終わり、拓斗は今日から生徒会での初仕事である。
「・・咲?起きろ。行くぞ」
「・・・フニャ?」
咲の身体を揺らしながら、拓斗は生徒会に行く準備を済ませた。まさか生徒会の初仕事が、眠っている生徒会会計を起こす事から始まるとは、思ってもいなかった為、軽い頭痛を覚えてしまう。
「咲を連れて行かないと、俺が怒られるかもしれん。まずはヨダレを拭け」
「ふわぁ〜ぁ。行きたくにゃい」
寝ぼけているのか、行きたくないが行きたくにゃいになっている。
目元を擦りながら上体を起こした咲に、拓斗はハンカチを手渡した。
ハンカチでヨダレを拭いて、拓斗にハンカチを返しながら咲は席を立った。
「おにゃかすいた」
「・・・生徒会室にお菓子ぐらいあるんじゃないか」
「何をしておる桐島拓斗!!ほら、早く行くぞ!」
「・・・あ、あぁ」
教室のドアを勢いよく開け、目を輝かせながら拓斗を見る咲に、若干引き気味で返事を返す。
軽い頭痛が更に痛くなった気がするのは、気の所為ではないはすだ。
咲に気づかれないように、そっと溜め息を吐く拓斗であった。
ーーーーーーーー
【3】
生徒会に着き、部屋をノックしようとした拓斗であったが、残念ながら失敗に終わってしまう。
「お、菓子ーーーー!!」
「・・・し、失礼します」
勢いよく扉を開け、ズカズカと入って行く咲の後ろで、拓斗はきちんとお辞儀をしてから、上体を起こすと、咲があさみに捕まっている光景が目に入った。
「あぁ、拓斗君か。良く咲を連れて来てくれたな」
「えぇまぁ・・。同じクラスですから」
「や、やめろーーーー!」
「あぁ!いぃいい!凄くいいわぁ」
あさみから、ぎゅーっと抱きしめられ、咲は苦しそうにしている。
この生徒会大丈夫か?と拓斗は思ったが、口にはしなかった。彼の役割りは、学校周辺の活動記録を取る事がメインである。
委員会の活動記録や、イベント(行事)の活動記録もあるが、彼の手元に資料が届くかまたはイベント時期にならないと、彼の仕事はできない。
外にいる事がメインの彼にとって、この生徒会がダメだったとしても関係がない事であった。
「・・では、俺はこれから外を見てきます」
「あぁ。何かあったら知らせろよ」
会長は咲に夢中のようだ。
咲に対し、少しの罪悪感をもちながら、拓斗は再びお辞儀をしてから部屋を出て行った。
ーーーーーーーー
【4】
さて、どうしたものか。
外の活動記録をとって来てほしいと言われたものの、具体的に何をすればいいのかが分からない。
去年までいた先輩は、学校から駅までの道を歩いてそれを記録していたらしいのだが、だから何だと言われたら身もふたもないだろう。
おそらくは駅まで続く道で、工事や事故などがあった場合、それを記録して報告するのが目的だと思われる。
「・・ひったくりがおきているのか?」
電柱に建て掛けてある看板を見ながら、一人言を呟く拓斗。
「明日全校生徒に注意を呼び掛けるべきだろうな」
携帯を開き、電柱に書いてある住所を写真に収める拓斗。次の日の朝礼の時にでも注意を呼び掛け、登下校中に生徒が被害に遭わないようにする。生徒会書記の仕事がこれか?と思う拓斗ではあったが、大事な案件である事に間違いはない。
「少し駅まで歩くか」
携帯で学校周辺マップを開きながら、拓斗は歩きだした。
しばらく歩いていた拓斗は、駅の近くで女性が絡まれている場面に遭遇する。
「や、やめて下さい」
「いいじゃんいいじゃん。俺達が奢ってやるからさぁ〜遊ぼうぜ」
女性の腕を掴み、腰に手を回す男一人に、それを楽しそうに見守る男二人。
女性は拓斗の通う高校の3年生だった。
こういった場合でも魔法を使わないのは、この女性なりの優しさなのか、属性魔法に問題があるのか。
あずさのような雷属性であれば、相手を痺れさせて逃げれるだろうが、火属性や炎属性だった場合、そうはいかない。
相手を焼き殺してしまう恐れがあるからだ。
相手もそれが分かっているからか、女性との密着がほぼ0といっていい距離である。
あまり人と関わりたくないと考えている拓斗であったが、流石に見てみぬ振りも出来ない。
「困ってますので、その辺にしてもらえませんか?」
「あぁん?外野は引っ込んでろ!!」
相手を刺激しないよう注意したつもりが、かなり怒らしてしまったようだ。
「・・・・」
女子生徒と目が合う拓斗。
女子生徒は、決して助けを呼ぼうとしなかった。
拓斗を危険な目に合わせたくないと考えたからか、補欠である拓斗に気づき、補欠では助けてもらえないと判断したからなのかは分からない。
しかし、どちらでもいい。
彼のとるべき行動は、一つしかないのだから。
「聞こえなかったのか?女性をこちらに渡してもらおう」
右手を真っ直ぐ突き出し、先ほどとは違う低い声で相手を威嚇する。
「・・チッ。魔法者かよ・・。おぃお前等!やるぞ!!」
女性を掴んでいた手を放し、男三人がこっちに歩きかけたその時であった。
「・・・グハッ!?」
突然、三人の身体が地面に這いつくばるように倒れた。地面にヒビが入るほどの強力な魔法。
女子生徒や拓斗が放った魔法ではない。
「・・・あぁ?補欠じゃねぇか」
魔法を放ったのは、1年A組山本勇樹であった。
ーーーーーーーー
倒れた男達の一人の背中に乗り、他の二人の頭を交互に踏みながら、山本勇樹は高らかに笑う。
「俺のなわばりで、、デケェツラァして、、二度と歩けねぇよぉに、してやんよ」
踏んでいるというより、蹴っていると表現した方が正しいかもしれない。しばらく見物していようかと考えた拓斗であったが、このままでは三人が死んでしまう恐れがある。
「・・・やりすぎだ」
「あぁ?こういう連中はなぁ、これぐらいしとかねぇと分からねーんだよ」
拓斗を睨みつける勇樹。一触即発の空気であったが、女子生徒が話しかけた事により、直ぐになくなった。
「あ、あの・・。助けて下さり、ありがとうございます」
「・・・チッ。アンタから警察に連絡しとけよ」
「は、はい。ありがとうございます」
拓斗の話しには耳を傾けない勇樹であったが、流石に上級生には強く言えないようだ。
女性という理由も多少はあったかもしれないが・・。
「あ、あの・・た、いえ、すいませんでした」
「気にしないで下さい」
助けたのは勇樹であって、拓斗ではない。
助けられた御礼を拓斗に言うのはおかしいと思った女子生徒は、迷惑をかけてしまった事に対して謝った。
拓斗自身何もしていないので、特に気にせず女子生徒に警察を呼ぶように薦める。
魔法の使用があった場合、警察への事後対応が必要になる。
三人は気を失っているだけで、多少の怪我があるものの、大きな怪我は見当たらない。
「・・待て。何処に行く」
後は任せたと言わんばかりに山本が、背中を向けて歩き出そうとしたのに気づいた拓斗は、山本に話しかけた。
警察が来た時の事後処理は、拓斗ではなく山本がいるべきである。
被害に合った女子生徒もそうだが、三人に魔法を放った当事者も残るべきなのだが、山本は舌打ちしながら拓斗の問いに答える。
「チッ。サツには山本が、と言っとけ。それより補欠」
「・・・何だ?」
「・・・あゆみを見なかったか?」
「あゆみ?今日は休みだったな・・」
「見たか、見ていねぇかしか聞いてねぇ!!」
拓斗の胸ぐらを掴む山本に対し、拓斗は目を逸らす事も、胸ぐらを掴む手をはらう素ぶりすら見せず、山本の問いに答えた。
「悪い。見ていない。なぁ山本?見かけたら連絡してやろうか?」
「・・・あぁ。見つけたらその場を動くなと伝えとけ。後、山本何てダセェ苗字で呼ぶな」
そういうと、メモ帳に自分の携帯番号を書き、拓斗に手渡す勇樹。手渡すと言うより押し付けてきたというべきか・・。メモを拓斗が受けとると、目にも止まらぬ速さで山本勇樹は姿を消した。
何もなければいいが・・。
警察に連絡している女子生徒の隣で、拓斗はそんな事を考えていた。
ーーーーーーーー
【5】
警察の事後処理が、直ぐに済むはずもない。
どういう経緯で絡まれ、どういう理由で魔法を使用したのかという話しをしなくてはならない。
「は、はい。絡まれている所に、彼が声をかけてくれて、絡んできた男の人達が私の手を放した瞬間、山本君が魔法を放ったんです」
「・・フム。桐島君・・だったかな?君は何故あの場所に?」
「はい。自分は生徒会書記として、学校周辺を記録してまわるよう生徒会長から指示を受けていました。近くでひったくり事件などもあったようですので、せめて駅まで見て回ろうかと思いまして」
警察官に質問された拓斗は、先ほど撮った写真を見せながら事件に関わってしまった理由を話す。
「なるほど、なるほど・・確かにこの写真に書かれているのは事実です」
「生徒会として注意を呼びかけたいと考えていますが、詳しく聞かせて頂けませんか?」
拓斗の話しを聞いた警察官の男性は、両腕を組みながら考える。拓斗の言っている事の重要性は分かるが、何処から何処まで話していいのかを考えているようであった。
「いいでしょう。犯人は二人組みです。バイクを運転する者、バイクの後ろに乗っている者、バイクの後ろに乗っている一人が、バックをひったくるといった犯行です。あまり一人で帰らない事。道路側に鞄を持たず、壁側に鞄を持つよう呼びかけをお願いします」
「ご忠告ありがとうございました」
「小嶋。二人をお送りして差し上げろ」
「ハッ!!」
小嶋と呼ばれた女性警察官が、拓斗達の前に座っている男性警察官に向け敬礼しながら答えた。
女子生徒と拓斗は、座りながら短くお辞儀をしその場を後にする。
時刻は19時前とはいえ、怖い思いをした女子生徒を一人で帰らせないといった優しさであった。
ーーーーーーーー
ミニパトと呼ばれる車に乗り込む三人。助手席には拓斗が座り、女子生徒は後ろに座った。
女子生徒は緊張がほぐれたからか、後部座席で直ぐに眠り始めた。
「桐島君だったかな?君は何処まで?」
「学校の駅の近くで大丈夫ですよ。一度学校に荷物を取りに行かなくてはいけませんし、この車で学校付近に行くのはちょっと・・」
「アッハハハハ。そうだろうね。学校側に捕まりたくはないよね」
「・・・えぇまぁ」
事件の事はすでに、学校側には伝えてある。事件に巻き込まれたのだから当然であり、当事者である拓斗と女子生徒は学校側に報告をする義務がある。捕まりたくないと言ったのは、時間も時間の為、出来るなら明日にしたいのだろうと小嶋が考えたからであった。
「桐島君。私は小嶋優子っていいます。主に地域課を担当しているの」
「学校地域・・ですか?」
「その地域全般ね。君の住むエリアも担当しています。桐島君は魔法者かしら?」
「えぇまぁ・・」
「そう。私は科学者よ。まだ科学師のライセンスは取れていないのよね」
「そうですか・・。まだ若いでしょうから、無理も無い事だと思います」
軽い世間話しなのだろう。女性はお喋りが好きだという話しを思いだしながら、拓斗は会話に付き合っていた。
「うふふ。ありがとう。そこにメモ帳があるでしょ?君の番号を書いておいてくれない?」
若いと言われた事が嬉しかったのか、小嶋は上機嫌であった。
「私は去年、君達の通う高校を卒業して警察官になったの。ちなみに、君の先輩よ」
「・・・生徒会の書記は小嶋さんだったんですか?」
可愛いくウィンクする小嶋に対し、拓斗はメモ帳を手に取って、電話番号を書きながら質問する。君達とは言わず、君のと言った小嶋の意図を正確に理解しての質問であった。
「えぇそうよ。あさみやなぎさは元気かしら?」
「元気だと思います。自分は昨日生徒会の書記になったばかりですので、昨日しか知りませんが・・」
「昨日書記になって、直ぐに事件か・・災難だったわね」
「いぇ。一番災難だったのは、彼女でしょうから・・。この辺で大丈夫です」
「それもそうね・・。桐島君。ひったくり事件が解決したら電話してあげる。後、これ。私の携帯番号だから、何かあったら連絡してね。それじゃぁ」
「・・ありがとうございました」
小嶋から名刺を受けとり、胸ポケットに名刺をしまってから拓斗はお礼を告げてドアを閉めた。
学校まで歩く前に、マップを見直す拓斗。
「違う道から行ってみるか」
普段通っている道とは、別の道から学校に向かう事にした。普段とは違う道も見ておきたい理由もあるが、怪しい工場があったという理由もあったからである。
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【6】
廃墟になっている工場の、近くを通ったときである。二人乗りのバイクが、工場の入り口から慌てて飛び出して行くのが目に入った。
明らかなスピード違反。
捕まえようかとも考えた拓斗であったが、ここで魔法を使ってしまうと、事故を起こしてしまう可能性がある。拓斗はそう判断し、挙げていた右腕を降ろした。
「・・ここが隠れ家なのか?」
こっそりと中を伺うが、人の気配は感じられない。入り口の正面にはシャッターが閉まっている建物が見え、左側は駐車場、右側は2階建てのプレハブ小屋が見える。
廃墟になる前は、プレハブ小屋で休憩スペースや事務所やらがあったのだろう。
「・・魔法を使うのは危険か」
月灯りでは周りが良く見えない。魔法で辺りを照らすか考えた拓斗だったが、人がいる可能性がある為、魔法を使わず携帯のライトを照らす事にした。
地面にライトをあて、タイヤの跡や犯人らしき靴跡を探して行く。
犯人らしき靴跡は、1階部分のプレハブ小屋に続いていた。
サッと入り口付近に身を潜め、トン、トンっと、まるで誰かがノックしたようかのように、石を数個投げる。
「・・・誰もいないか」
しばらく待ってみたが、誰も出てこない。
音をたてないよう注意しながら入り口のドアに近づき、拓斗は軽くドアノブを回すが鍵がかかっていた。
「・・・窓があればいいが」
窓を探す為に、入り口の反対側へと移動する。
ぴったりプレハブ小屋に密着しながら、音をたてないよう移動する。時空魔法を使えば、簡単に部屋の中に入れるのだが、イメージがつかめない事には、時空魔法を使う事が出来ない。その為、部屋の中を見る必要があった。
(窓から部屋の中を見る事が出来れば、入り口の鍵を壊さなくてすむのだが・・)
出来るだけ現場を荒らさずに済ませたいと、考えている拓斗。しかし、窓を発見したがカーテンが閉まっていて中が見えない。
「人がいるのか?」
誰もいないはずだが、部屋の明かりがついている。居留守の可能性もある為、今度は石ではなく自分の手で窓を叩いた。
しかし、やはり誰も出てこない。
物音もしない為、さっきの二人組みが消し忘れたのだろうと判断し、再度辺りを見渡す。
部屋の中から自分の影が映らないよう注意しながら、反対側に移動をする拓斗。
「・・・台所か?」
入り口の丁度反対側に、鉄格子付きの小窓を発見する拓斗。鉄格子が付いている事に安心してか、今度は鍵がかかっていない。音をたてないように注意しながら窓を開け、中の様子をうかがうと台所が見えた。台所の前に自分が立っている姿を想像し、時空魔法を発動する。
台所の奥の部屋に向かう前に辺りを見渡すが、人が隠れられそうな所は見当たらない。
右手を真っ直ぐ突き伸ばし、いつでも魔法が放てるよう準備しながら、拓斗は部屋の奥の扉へと足を踏み入れた。
「・・・・何だ・・血か?」
部屋の中を覗くと、シングルサイズのベッドが置いてあり、シーツには血の跡が残っている。
部屋に誰もいない事を確認した拓斗は、右腕をおろしベッドの下を覗き込んだ。
「・・・・・・噓・・だろ」
ベッドの下を覗きこんだ拓斗が目にしたのは、1-A組の山田あゆみの死体であった。
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