魔法×科学の時間旅行者

伊達\\u3000虎浩

入学編 上(1/3)

【プロローグ】


 西暦3000年。
 世界の人口は30億人へと激減していた。それは第三次世界大戦、第四次世界大戦からの影響である。世界は戦争という、またしても悲しみに溢れる事となった。
 戦争の引きがねとなったのはとある国、嫌、我が国、日本がと呼ばれる、を使えるの存在を隠していた事が原因だと言われている。


 西暦2100年。
 それは突然現れた。嫌、産まれていたというべきか、非科学だとされながらも、世界の夢でもある"魔法"というものを使ったのは、日本の幼い少女であった。両親は至って平凡。何故、突然魔法を使える子供が生まれてきたのかはわからない。
 自分の子供が、魔法を使えるという事がわかったのは偶然であった。


 ある日、家族でドライブをしているところ、崖から転落するという事故を起こしてしまう。両親は死を覚悟し、自分の可愛い子供だけを守ろうと子供におおい被さった。すると、子供が何やら呟き、右手をあげる。深く閉ざしたまぶたをあけた両親が気づいた時には、三人とも無傷で崖の上に立っていた。
 少女は言う。テレポートを使ったと。
 ふざけているのかと両親は思ったが、実際自分達が目にし、体験した出来事を振り返ると、少女の言葉を信じる以外の選択肢がなかったのであった。


 その次の日から少女の人生は大きく変わる。嫌、劇的に変わってしまう。来る日も来る日も白衣を着た男の人、女の人が少女じぶんに対して血を抜いたり、薬を飲ませたりする。心配そうに見守る両親の顔が、嫌いだった。
 自分の所為で悲しい顔をさせたくないと考えた少女は、テレポートを使って病院を抜け出し、我が家に帰宅する。久しぶりの我が家で、自分の部屋で、大好きな両親とゆっくり過ごしたいと考えての行動であった。
 しかし、少女を待ち受けていたのは、大勢の武装した警察官、パトカーにヘリであった。
 子供が一人で生きていけるはずもなく、しぶしぶ従う自分が、嫌いだった。


 西暦2110年。
 彼女を取り巻く環境は変わらない。毎日同じ顔を見て、毎日同じ質問をされる。
 しかし、変わった事もあった。
 妹ができたり、病院の先生に恋をしたりだ。
 妹は魔法が使えないということを聞いて、少女は素直に喜んだ。魔法を使えると知られてしまった所為で、自分の人生は変わってしまったのだ。
 それと同時に、確かにある感情が、少女の心を苦しめた。それは、嫉妬であった。
 大好きな場所を妹が独り占めにしている。
 私の部屋を妹が独り占めしている。


 ナゼワタシバカリ。


 そんな少女の考えを見透かすように、若い男の医者せんせいは優しく注意する。何故わかったのかと聞くと、冗談っぽく「相手の心を読む魔法です」という医者のことが、大好きで


 西暦2112年。
 当時18歳である少女は、結婚する事となる。結婚相手は勿論、若い男の医者だ。だがそれと同時に、両親や妹の見舞いがパタリと無くなってしまう。


 西暦2125年。
 たくさんの子宝に恵まれた少女は、幸せだと感じていた。相変わらず病院だが、周りには子供が居て、旦那がいる。子供達にも少女じぶんと、同じ思いをさせてしまうのかと思うと、心苦しい気持ちもあったが、あの時とは違い、今は自分がいる。旦那もいる。きっと大丈夫。


 しかしそれは叶わない夢であった。


 西暦2128年。
 やはりというべきか。子供達が物心を突き出す歳、少女じぶんが自覚しだした歳である6歳を過ぎると、子供達も魔法が使える事が判明した。自分の子供である証であるが、それは同時に、子供達も一生を病院で過ごす事が確定してしまう出来事であった。


 西暦2130年。
 彼女はこの世界の真相へとたどり着く事となる。
 それは旦那の誕生日の日の出来事であった。
 驚かせてやろうと思い、病室からテレポートを使って旦那がいる部屋に忍びこんだ日、彼女はある物を発見してしまう。


 "魔法者増殖計画"


 魔法を使う被験体である"白崎   加奈子しらさきかなこ(旧姓灰崎   加奈子はいざきかなこ)通称魔法者まほうしゃに子供を産ませる事により、実験サンプルを増やしていくという計画である。
 また、被験体である魔法者の両親、妹も同様に研究対象とする。


 何だコレは。身体の震えが止まらなかった。胃の中の物が溢れ出しそうなのをこらえるのに必死であった。
 そんな時、扉の前から話し声が聞こえてきた。
 どうやら誰かが部屋に入ってくるみたいだ。
 急いでベットの下に隠れ、旦那なら問い詰めてやろうと、息を潜める加奈子。


 部屋に入ってきたのは、旦那と妹であった。
 何がおきているのか理解ができない加奈子であったが、二人の会話を聞き、全てを悟る。


 二人は付き合っていたのであった。


 悲しみに溢れる加奈子は、その夜屋上にテレポートをし、自殺してしまう。


 西暦2138年。
 加奈子の子供達が結婚し、子供を産む。
 同時に、加奈子の妹である加奈枝かなえに変化がおとずれる。


 加奈枝にも、魔法が使えるようになっていたのだった。
 翌年の2139年。
 加奈枝は病院に拘束されてしまう。
 それはかつて姉が、子供の頃から体験していた事の、再現であった。


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「・・・ん?なんだその顔は?」


「・・・何だも何も、何故、7の頃に習った事を今、この瞬間ときに話すんですか?」


「何でと言われてもだな、一応これが我が高の決まりだからだよ」


「はぁ・・・まだ続けますか?」


「ふむ。それならば二人に今後どうなっていくのかを聞こうかな」


「簡単に説明するのであれば、その後子供達が子供を産み、孫ができての繰り返しがおこなわれ、ついに魔法者と呼ばれる者達を隠せなくなってしまった日本に対し、各国が戦線布告をしてきた」


「・・何故、各国が、戦線布告をしてきたかわかるかね?」


「・・・ハイ。各国は日本を恐れたからです。核兵器の威力は全世界が正しく認識を持っています。しかし、魔法者の威力はわからない。だからこそ、全世界は日本を恐れたのです」


「今のを聞いて、補足はあるかね?」


「はい。各国は魔法者を求めました。それは未知の物を追い求めるという、好奇心が多少あったのだと思います。実際に、人身売買や拉致されて行方不明になってしまった魔法者が多かったと記されています」


「まぁ70点ってところだな。戦争が行われた結果、人口は減り、終戦を迎えたのは西暦2600年である。それから約400年。一度も戦争はおこなわれてはいない。紛争はあるがな・・っと、二人とも、楽にしたまえ」


 とある一室で繰り返しおこなわれる質疑応答。
 ここは理事長室である。
 少年と少女の二人は、長い理事長の話しを聞きながら、軽くうんざりしていた。と言うのも、あまり聞いていて気持ちのいい話しではないからだ。
 理事長から楽にして良いと許可がおりた為、姿勢を崩す少年。崩すといっても、ダラけるわけではなく、適度にだ。気をつけから、休めのポーズにと、いった方が分かりやすいかもしれない。
 少年とは対象的に、少女はピンっと背筋を伸ばしたままであった。長い茶色い髪の毛を後ろで結び、ちょこんと首をかしげる少女。


「いや、首だけ休まれてもだなぁ・・まぁいいか。二人とも、明日から我が高校の生徒になる訳だが、解っているな?」


「ええ。勿論です・・あっ嫌、姉上」


 鋭く光る目を見て、慌てて訂正をする少年。


「ふ、ふん。解っているならそれでいい。二人は手続きを済ませてある。念のためにプリントを読め。何か異論はあるかね?」


「その方が色々と都合が良いかと思います」


「・・・私が・・妹?」


 理事長から受け取ったプリントを見て、あまり納得いっていない表情を見せる少女。今まで対等に付き合ってきた少年に対し、明日から適度に敬語を使わなければならない事を考えると、こういう態度になってしまっても可笑しくはないが、伊波は普段から敬語みたいなものなので、苦にはならないであろう。


「何だ伊波?拓斗にお姉ちゃん♡って呼ばれたかったのか?」


「・・・このままで大丈夫です」


 からかっているであろう声を聞き、伊波は軽く首を横に振る。


「・・・一つだけ・・何故、拓斗とは別のクラスなの?ですか」


「ん?そりゃぁ兄妹だからだろう」


 兄妹だと何故、別のクラスになるのだろうか。しかし、これが規則だと言われてしまっては反論のしようがない。拓斗と同じクラスが良かったという伊波の気持ちは、諦めるしかなかったのであった。


「さて、面倒くさい面接はこれでお終いになるが、二人とも、本当に分かっているな?」


 あっけらかんとしていたさっきまでとは違う真剣な表情を前にして、自然と姿勢を正す二人。理事長である叔母上の質問に拓斗が答える。


「大丈夫ですよ。無くして生きてはいけない。伊波は俺が守りますよ」


「・・・・・」


「フフフ。帰ってよろしい。あぁそれとだな、一応人前では、理事長って呼べよ」


 顔を真っ赤に染め上げる伊波に優しく微笑みかけ、理事長である二人の叔母は退室を命じた。軽く会釈を返す拓斗であったが、隣を見て困惑してしまう。伊波が何処か心あらずといった状況だったからだ。仕方がないので、拓斗は伊波の腕を軽く引き、理事長室を後にする。
 二人が部屋を出た直後、理事長室のオンライン通信がなったのは、丁度その時である。
 やれやれと思いながらも、通話ボタン押すのであった。
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【1】 入学編      上    1/3


 理事長室を後にした拓斗と伊波。
 校門を通り過ぎた時、伊波から質問される拓斗。


「・・ね、ねぇ、お、お、お兄ちゃん」


「・・・・あ、あぁ。何だ伊波?」


 声は裏返り気味であり、普段からあまり呼びなれていない事が丸わかりであった。
 これは仕方がないと拓斗は思い、特に注意したりせず伊波に要件を聞く。


「先ほどの話しですが・・どちらが良かったのでしょうか・・」


「どちらっていうと、知ってしまった事に対してか?」


「そうです。知らぬが仏という言葉もありますし・・知らない間は幸せだったとも記されています」


「伊波自身はどうなんだ?」


「・・わかりません」


「そうか・・結果は残念な話しだが俺は、知って良かったと思っている」


「・・・何故ですか?」


「知らない間に物事が進み、知らない間に事が済んでいるという事は珍しい話しではない。実際の日常でもある事だからね。だけど、最愛の人に裏切られてしまっているという事。自分が実験動物のような人生を歩まされている事を、死ぬまで知らないというのは、余りにも悲しいと思うから・・」


「この教材は私達に何を伝えたかったのでしょうか?」


「特に何もないんじゃないかな。作者である白崎加奈美さんは、この作品を通して、同情をかいたいから書いたと思うかい?病院は恐ろしい所だと知らせたくて書いたと思うかい?しかし、正解は誰にも解らない事だと俺は思う。読んだ人が100入いたとしたら、100入に書かせた感想が全て一致する事は有り得ない」


「つまりは・・読み手側に、委ねられているという事・・でしょうか?」


「そういう事かな。あくまで俺の感想だけどね」


 優しく微笑みかけられながら、軽く照れくさそうにしている拓斗を見て、少し顔を赤く染める伊波であったが、幸いにも夕暮れ時で拓斗に気づかれなかったのは、幸か不幸か本人にも解らない事であった。


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 世界の人口の1/3を魔法者が占めている。
 魔法を使う者と書いて、魔法者。
 残りの1/3を科学者が占めている。
 科学を使う者と書いて、科学者。
 残りの1/3を一般市民等が占めている。


 日本でのみ発見された魔法者であったが、戦争や国際結婚などにより、全世界で魔法者は存在している。
 魔法者とは何かを説明するのであれば、魔法を、使う者である。
 例えば魔法者は、身体の中にある水分を術式を唱える事により、手から水を出す事が可能である。
 身体に含まれている水分の0.01%と魔法力を使う事により可能となっているのだ。
 では、科学者とは何かというと、魔法を科学的に使う者である。
 魔法者が直接体内から魔法を放つのとは違い、科学者は体外から魔法を放つ。
 本来、科学者とは科学を研究している者の事をいっていたのだが、時代が変わると共に、科学を研究する者は、研究者となっている。同様に、魔法を研究する者は、魔法研究者である。


 科学を使うというのは単純に、科学の力を借りて、魔法を使う者の事を言うのだが、例えば街にある電気などに、術式を唱える事によって電撃を発生させる事が出来るのである。
 これを魔法と呼んでいいものなのか疑問する声もあったが、科学者が使っているのだから、反論する声はあがらなかった。


 魔法者も科学者も、それだけでは充分な威力とはいえない。
 各国の研究者は研究に研究を重ね、魔法補助道具である"マジックアシストグッズ"通称"MAGマッグ"を開発した。
 例えば手を振る事により起こる風では威力が足りなくても、団扇うちわ扇子せんすによって起こす風の方が威力は高い。
 といっても常に団扇や扇子を持っているわけではない。


 威力を高める行為に対し、また戦争でもするのかという反対の声もあったが、もし、敵が攻め込んできたら?という声に、反対する声は水面下に沈んでいったのである。


 魔法者と科学者は全ての魔法が使える訳ではない。それぞれ属性と呼ばれる物があり、例えば火を使う魔法者は水を使う魔法を苦手としている。火と水を両方使える魔法者は
 同時に、科学者は火と水の両方の魔法を使。科学者は魔法力をもっているが、魔法者に比べてやや劣ってしまう。
 その為か、魔法者の中には科学者を差別する傾向が見られる。
 実際の戦闘になれば、多種多彩な魔法を使う魔法者と、一撃必殺を秘めた科学者とでは、ほぼほぼ互角だという結果が出ているのにだ。


「伊波。分かっていると思うが、俺たちはペアだ」


「・・分かっています。なるべく目立たないようにしましょう」


「・・・そうだな」


 目立たないようにと考えていても、絶対に目立ってしまいそうな伊波をみながら、少しの間をあけて返事を返した。


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 国立付属魔法科学高等校。
 世界の人口の減少にともない、義務教育の改善がおこなわれる事となった。具体的には小中高の、中学校の廃止である。終戦から400年経っている為、戦争によって壊された中学校を作れない訳ではない。単純に、人口が足りないからである。
 その為政府は、小学校を7年間。高校を4年間の計11年間の義務教育にしたのである。
 小学校に入学するのが7〜8歳。卒業して高校に通うのが14〜15歳であり、入学する為には当然試験がある。


 拓斗と伊波は先週まで小学校に通っており、今日は明日から通う事になる国立付属魔法科学高等学校、通称、魔科学高校の理事長面接に呼ばれていたのであった。


 学校から駅がある道まで歩く二人。
 駅から電車に乗る為ではない。タクシーに乗って帰る為である。
 一般の人が働いているという事もあり、魔法や科学の無断使用は厳しくなっている。無断使用した場合、理由によっては厳しく罰せられる事もある。


「伊波。少し寄って行かないか?」


 こくりとうなずく伊波と共に、デパートの入り口をくぐる拓斗。


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【2】


 デパートは8階建ての大きな建物であり、1階は食品フロアー2階は雑貨フロアーなどといった具合にわかれている。


「お、お兄ちゃん。8階に、是非」


「あまり長くはいられないからな」


 アミューズメントと書かれた看板を見つけた伊波が、目を輝かせながら提案してきた。時計の針は17時を過ぎたところである為、少しだけだぞと軽く注意をうながしながら、エレベーターを目指す二人。
 学校は明日からなのだが、理事長面接の為、制服を着ている。あまり遅くなって警察官に注意をされるのは不味い。入学する前から問題児扱いされるのは後々面倒くさい。
 8階フロアーのアミューズメントコーナーにやってきた二人。時間があまりないという事もあり、伊波はお目当てのゲームコーナーに一直線に向かって行く。
 明日から高校生なんだから慌てるなという拓斗の声は、今の伊波には届かなかった。


 伊波のお目当てのゲームコーナーは幸いな事に、無人であった。
 メダルゲームもやりたいが、時間が限られている為、チラっと見るだけにする。
 チラっと伊波が見ると、3箱満タンにメダルを詰めているにもかかわらず、つまらなそうにプレイをする女の子が目に入った。
 出しすぎてつまらないのか、単純に飽きてきたのかは分からないが、羨ましい限りである。


「伊波のお目当てはあっちだろ」


「・・・分かってます」


 どうやらしばらくその女の子を見つめてしまっていたようだ。後ろから声をかけられた伊波は、女の子から目線を外し、お目当てのゲームコーナーにやってきた。


「ぬいぐるみが欲しいなら買った方が早いんじゃないか?」


「全然違います!いいですか?ここでしか手に入らない物もありますし、通常2千円する物が100円で手に入るかもしれないんですよ?1900円もお得なんですよ?」


 それは100円で取れたらの話しだ、と拓斗は思ったが、自分のお小遣いをどう使おうと、それは伊波の勝手である為、伊波の後ろに立って注意する。


「魔法は使うなよ。一応センサーもついているみたいだからな」


「そ、そんなインチキ、し、しません」


 一瞬、ビクっとしながらも、100円玉を機械に入れ、矢印ボタン1を押す。
 お目当てのぬいぐるみの上まで、アームを動かし矢印ボタン2を素早く押して放す。


「いける!いけます!」


「・・・伊波!下がれ!」


 アームがぬいぐるみを掴み、持ち上げようとしていた瞬間に、拓斗から突き飛ばされてしまう伊波。勢いあまってゲーム機にぶつかると、持ち上げようとしていたぬいぐるみは、アームから外れ、ポトリと落下してしまう。


「あ、あーぁ!!い、今、絶対取れたはずです!な、何て事をしてくれたん・・です・・か」


 文句を言いながら、後ろを振り返る伊波。振り返った先では、拓斗が戦闘態勢に入っていた。


「伊波。話しは後だ」


「お、お願い。助けて下さい」


「お、おい!この子の命が惜しければ、車を用意しろ」


 二人の目に飛び込んできたのは、5歳ぐらいの女の子を抱えた、ナイフを持った若い男の姿。拓斗にすがりつき、助けてと叫ぶのは女の子の母親だろう。


「伊波下がれ!貴女はあちらに!」


「拓・・お兄ちゃん」


「あぁ。分かっている」


 恐らくは、デパート強盗だろう。人質をとった辺りからして、犯人は追い詰められていると考えられる。ここは8階だ。逃げるなら1階で人質を取るのがセオリーだが、ここで人質をとった事を考えると、1階からここまで、追い詰められた可能性が高い。となれば、あまり刺激を与えない方がいいだろう。
 短いわずかの間に、考えをまとめる拓斗。出来る事なら使いたくないが、いざという時は使わずにはいられない。嫌、使うべきか。
 大勢の観衆の前で、使うべき魔法でない事は理解している。理事長室で言われた言葉はその為だ。
 犯人がナイフを持っているのを見た近くの人達は、一斉に悲鳴をあげて逃げ出して行く。
 薄情な人達だとは思わない。それにこれは拓斗にとっても有難い事だ。さて、どうするかと拓斗が考えていた時である。


「そこまでよ!」


 そんな声が耳に入ってきたのは、ジリジリと犯人に気づかれないように近づいていた時であった。
 声がする方、自分の左隣を見ると、金髪のツインテールを揺らしながら両腕を組む、小学生ぐらいの女の子が立っていた。


「人質強盗容疑で逮捕するわ」


 今にもビシッと聞こえてきそうなぐらいの勢いで、犯人を指さす女の子。よく見ると、先ほどまでつまらなさそうにメダルゲームをしていた女の子であった。人質がいるのだからあまり犯人を刺激して欲しくない所であったが、拓斗はニヤリと微笑んだ。悲鳴をあげて逃げるもいるというのに・・。


「オイ。ここは俺に任せておけ」


「はぁ?アンタ何言っているのよ!小さな子供が人質になっているのよ!ほっとけるはずがないじゃない!香菜!」


 拓斗の注意も聞かず、拓斗の隣に立った女の子は魔法を発動する準備をする。加奈!と女の子が叫ぶと、ハイっと言う返事が犯人の背後から聞こえ、青い髪をした女の子が人質を救出する。人質の安全が確認されたのを見るやすかさず、拓斗の隣に立っていた女の子は魔法を放った。


「赤き雷鳴よ」


 金髪の女の子が呪文を唱え、右手を犯人に向けると、天井にある蛍光灯から犯人目掛けて電流が落ちた。威力は充分抑えられている。現在の日本では、犯人を捕まえる為に魔法を放つ事は許されてはいない。
 しかし今回の場合、気絶させるのが目的なのは明白であり、これなら警察官に聞かれたとしても、犯人を捕まえる為の処置として通るだろう。ようは正当な理由と結果が伴っていれば、罰せられる事はないというわけだ。


「香菜。ご苦労様」


「あずさもお疲れ。ほら。お母さんの所に帰りな」


 犯人を気絶させた金髪のツインテールの女の子はあずさというらしく、人質を救出した青い髪の女の子は香菜というらしい。
 そんな二人のやりとりを見ながら、二人のコンビネーションに感心していた拓斗は、声をかけるべきかを考えていた。
 そんな事を考えていた拓斗の背中に、軽い衝撃があった。
 痛いわけではなく、ボールが軽くぶつかったような衝撃であり、拓斗は後ろを振り返って固まってしまう。


「・・・い、伊波?」


 拓斗に衝撃を与えたのは、伊波であった。
 それだけでは、固まってしまう理由にはならない。固まってしまったのは、伊波のあるべきはずの、からであった。


「・・拓・・斗。ごめ、ごめんなさい」


 その声を聞いて、拓斗のとまっていた時間が動き出した。


「い、伊波!!し、しっかりしろ!!」


 しゃがみ込んで伊波に何が起きてしまったのかを考える拓斗。考えるも何も、足を斬られたということは、見ればわかる。左足が無いのだから。
 出血が酷く、飛ばされた衝撃なのかあばらの骨が折れている事がわかる。呼吸のリズムがおかしい。おそらく、あばら骨が肺に刺さってしまっている可能性もあり、このままでは伊波が死んでしまう。嫌、これは・・・。


「あずさ!」


「わかってるわよ香菜!アンタはその子を連れて病院に行きなさい!」


「・・・くっ。誰だ!」


 伊波の上半身を優しく床に置き、伊波が元いた場所に目を向ける拓斗。


「フフフ。ハハハハハ。ねぇ?今どんな気持ち?」


 伊波が居た場所に立っていたのは、黒いローブに身を包んでいた、若い女性であった。
 拓斗はスッと立ち上がる。


「あずさ!香菜!悪いが伊波を病院に連れて行ってくれ」


「・・・香菜!行くわよ」


 いきなり呼び捨てに、命令口調。反論しようかと考えたあずさであったが、今は時間が惜しい。あずさはそう判断すると、伊波と呼ばれた女の子を抱き抱えて走りだした。
 出血が酷く、呼吸がおかしい。
 嫌、止まっている!?
 心臓目掛けて電流を流しながら、あずさは8階の窓を突き破り、地上へと降りて行った。


「アレ?聞こえなかった?ねぇ?ねぇ?」


「聞こえている。答えが欲しいなら答えてやる。お前を殺してやりたい気分だよ」


「フヒヒヒヒ。あの娘は助からない」


「あぁ。な。何故伊波を狙った」


「私は錬金術・・いや、錬金術といい直した方がいいのかな?フヒヒヒ」


 錬金術師。
 魔法者と科学者を融合する事により生まれる存在。産まれるのではなく、生まれる。
 魔法と科学を融合させる研究が、昔行われていた。現在では禁止されている研究であり、禁止された理由は拓斗の目の前に立っている女性が答えである。融合する事により、理性が保てなくなって暴走してしまう。
 また、錬金術師は魔法者と科学者に、強い復讐心を持っている。


「フヒヒ。出でよゴーレム」


 右手をクレーンゲームの中に突っ込み、ぬいぐるみを掴みながら叫ぶと、クレーンゲームの中にあるぬいぐるみが一つになる。


「お前、見たところ魔法者だろ?我が最高傑作を前にして、魔法者如きでは勝てまい。行けゴーレム!フフフヒアハハハ」


「あぁ勝つ気がない。


 拓斗目掛け飛び込んでくるゴーレムに対し、拓斗は特に何もせず、突っ立ったままで迎える。
 激しい体当たりにあい、壁に激突する拓斗。口から出たのは血なのか、異物なのかわからない。


「・・・グッ」


「さっきからワケの分からない事ばかり言いやがって。チッ!歯ごたえのないヤツ」


 蹴られているのだろうか。


 踏まれているのだろうか。


 今は耐えるしかない。


 何故なら、伊波が死んだのだから。


 ーーーーーーーーーー


【3】


 拓斗が目を覚ますと、白い天井が目に入った。
 部屋をノックされた音で、目が覚めたようだ。
 部屋に入る許可を出す拓斗。


「・・・拓斗?まだ寝てるんですか?もうお昼を過ぎましたが」


「・・・あぁ、すまない。今日のお昼は何だ伊波」


「カレーです」


「すぐに行くよ」


「今日は京子ちゃんとの面接もありますからね」


「・・・理事長面接だろ?明日から高校生になるんだ。外では理事長って呼ぶようにしろよ」


 ベットから上半身を起こし、ぐっと背伸びをする拓斗。お昼ご飯の準備をしに部屋を出て行く伊波を見ながら、ほっと胸を撫で下ろす。ぼぉ〜っとする頭を振り頬を叩くと、拓斗は先ほどの出来事を振り返っていた。


「とりあえず今回も、時間旅行タイムトラベルは無事に作動してくれたか・・5回目にしてようやく見えてきたな」


 拓斗が理事長の話しを、うんざりしながら聞いていたのは5回目であったからである。同じ話しを5回もされれば、流石にうんざりしてしまうだろう。


「デパートの8階に行き、あずさと香菜に会って、犯人を捕まえさせる事が思っていたが・・あの錬金術師が鍵みたいだな」


 1回目は、デパートに行き、8階に行きたいという伊波に時間がないからと説得し、夜ご飯の食材を買って帰り、そのまま寝たら時間旅行にあってしまう。


 2回目は、デパートに行かずにそのまま帰って寝たら時間旅行にあってしまう。


 3回目は、デパートに行き、8階に行った所に人質強盗事件に遭遇する事となる。これが鍵かと思い、犯人を捕まえる拓斗であったが、やはり時間旅行にあってしまう。


 4回目の朝、作戦を考える拓斗。
 デパートに行って、8階に行き、事件に遭遇するまではいい。拓斗自身が犯人を捕まえるのが間違いなのかと考えた拓斗は、事件に遭遇した際に、素早く捕まえるのではなく、少し待つ事にした。
 すると、あずさと名乗る少女と香菜と呼ばれる少女に出会う事となるのだが、5回目の時とは少し違う。
 あずさが犯人に指をさして、逮捕を宣言した際に、あずさには話しかけずに、拓斗は犯人を捕まえる。犯人を捕まえた後に、あずさと香菜という名前だと知る事となった拓斗は、この二人と出会う事が鍵かと思い、そのまま就寝するもやはり、時間旅行にあってしまったのであった。


 5回目の朝、拓斗は再び考えた結果、あずさと香菜に犯人を捕まえさせれば、事件は解決するかと思ったのだが、一番最悪なパターンである、伊波が死んでしまうという結末が待っていた。


「クソ。鍵はどれだ」


 頭をかきむしりながら、ベットから起き上がり、部屋を後にする拓斗であった。


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 お昼をすませ、理事長の長い話しを右から左に聞き流しながら、この後の鍵について考える。
 もしや、ここで拓斗自身が弟になるのが鍵なのかと考えたが、冷静に考えれば、明日から高校生なのだから、すでに手続きはすまされているはずである。京子が伊波に姉になりたいかとたずねたのは、からかっているだけであろう。


 時間旅行は、以前に何度も経験した事がある。
 捨てネコを拾うか伊波と話し合い、拾って帰ったところで時間旅行にあったりだ。その場合の鍵はネコを拾わないだろうと考え、拾わずに帰ったら、時間旅行は起きなかった。
 なので今回も、必ず何処かに鍵があるはずだ。


「・・・ん?なんだその顔は?」


「・・・何だも何も、何故、7の頃に習った事を今、この瞬間ときに話すんですか?」


「何でと言われてもだな、一応これが我が高の決まりだからだよ」


 いつの間にか長い話しが終わっていたらしく、京子に質問された拓斗は、1回目〜5回目と同じ返事を返す。京子とのこの面接は鍵では無いはずだ。
 やはり、あの錬金術師だろう。3回目も4回目も犯人を捕まえたが、錬金術師が現れなかった事を考えると、5回目の、あずさと香菜に捕まえさせるまではあっているはずである。伊波に離れるように指示を出さずに、自分の側に伊波を置いておく事が鍵なのか・・。


「伊波。少し寄って行かないか?」


 こくりとうなずく伊波と共に、デパートの入り口をくぐる拓斗は、鍵は錬金術師だと決めた。


「お、お兄ちゃん。8階に、是非」


「あまり長くはいられないからな」


 本当であれば、側を離れるなと言いたいところだが、それでは伊波がメダルゲームをしているあずさに気づかない可能性がある。
 しかし、何故あいつあずさはつまらなさそうにしているのだろうか。


 クレーンゲームをしている伊波の後ろで、戦闘態勢を取る拓斗。しかし、今度は伊波を突き飛ばすことはせずに、伊波の腰に手を回し、自分のもとへ引き寄せる。


「と、取れたって、た、拓斗!?な、何ですか」


「伊波!俺の側を絶対に離れるなよ!」


 助けてと言ってくる、人質の子供の母親に向こうに行くように指示を出し、あずさが来るのを待つ拓斗。人質強盗事件に遭遇するのはあっているはずである。そうしなければ、あずさと香菜に出会うきっかけがない。もし、これで違ったならば、人質になるであろう子供を、次の7回目で先に保護して・・いや、そうじゃないだろうと、拓斗は頭を冷やす。
 時間旅行にあう理由は大体わかっているのだが、制限回数についてはわからない。もし、6回が限度であったならば、次などとは言っていられない。


 先ほどと同じようにあずさに声をかけ、香菜が人質を救出すると同時に、5回目の時に錬金術師が現れた場所へと目を向ける拓斗。


「・・・・」


 しかし、錬金術師は現れなかった。
 どういう事かと悩んでいると、子供の母親から声をかけられた。


「あ、あの、ありがとうございました」


「あっ、いえ、自分は何もしてませんから」


「ママ〜」


 怖い思いをした女の子が、わんわん泣き出してしまっていた。


「・・・これ。良かったらあげる。だから泣かないで」


 そんな女の子に対し、伊波は優しく微笑みながら、先ほど自分がクレーンゲームで取ったぬいぐるみを、泣いている女の子に差し出した。
 これが鍵なのだろうか。
 拓斗が伊波を側に置く事が鍵なのか、伊波がぬいぐるみを取って女の子に渡す事が鍵なのか・・だとしたらあの錬金術師はどういう意味なのか。


「ねぇあんた達。もしかしてあんた達も明日入学式?」


「・・・あぁ。そうだが」


「その間は何よ!!同い年に見えないって言いたいわけ!?」


 少しの間が出来てしまったのは、考え事をしていたからなのだが、何故あずさは怒っているのか。
 何て返そうかと考えていた拓斗に、助け舟を出したのは香菜であった。


「見た目で歳を判断されるのは仕方がない事ですよ。それよりもあずさ。する?」


「人を見た目で判断するなって、教わらなかったのかしら。後、補給は帰ってからお願い」


 香菜の言うように、あずさは幼く見える。といってもまだ14、15なのだから、しょうがない事なのだろうし、香菜もあずさより少し胸が大きいだけで、あずさと対して変わらない。


「初めまして。私は" 桐島   伊波きりしま いなみ"といいます。明日からよろしくお願いします」


「伊波ね。私は"千石せんごく   あずさ"あっちは"志熊    香菜しぐま かな"よ。明日からよろしくっとその前に、ねぇ伊波?普段何を食べているの?牛乳たくさん飲む?寝る子は育つっていうけど、たくさん寝てるの?」


「え、え〜っと」


 一度にたくさん質問される伊波は、戸惑ってしまう。人の目を見て話しなさいと教わらなかったのかとあずさに対して言おうかと考えた拓斗であったが、香菜の方が早かった。


「あずさ。伊波の胸はがり見ては失礼ですよ」


「み、見てないし、気にしてないし」


「・・・桐島   拓斗きりしま たくとだ。悪いんだが、ここは任せていいか?」


 そろそろ警察官も来る頃であり、事情を説明するのであれば、人質となった子供の母親に防犯カメラもついているはずである。


「えぇ。また明日学校で会いましょう」


 拓斗は伊波を連れ、何度も頭を下げる母親と、小さな手を振る女の子に、軽く会釈を返しながら、その場を後にした。


 ーーーーーーーーーーー


【4】


 タクシーに乗る拓斗と伊波。
 タクシーの運転手に行き先だけを伝えて、終始無言であった。
 タクシーの運転手の耳を気にしての行動なので、いつもの事と特に気にしないのだが、伊波が少し元気がないのが気になった。


 タクシーを降りて、玄関の扉の鍵を開ける伊波に、何故元気がないのかとたずねる拓斗。


「あっ、いえ・・母親とはああいう人の事をいうのですよね」


 母親とは、自分を産んでくれた人の事をいう。
 拓斗はそう考えたが、無論、伊波もそれは理解しているはずである。


「あぁ。そうだろうな・・ところで伊波、さっきのぬいぐるみに少し魔法を使っただろう。少し補給しておくか」


「・・・はい。あの女の子が落ちつくようにと、魔法を使いました。なのでお願いします」


 拓斗と伊波は二人暮らしをしている。
 拓斗と伊波の両親は、何処かにいるはずだ。
 拓斗と伊波は7歳の時に出会っており、10歳の時に二人暮らしをはじめている。
 拓斗の父親と伊波の母親が再婚した事から、拓斗と伊波は血の繋がらない兄妹となった。
 兄妹になった二人だが、拓斗の誕生日が伊波より早いからといって、兄貴のように振る舞えとは言わなかった。


 10歳になった時、両親は離婚する事となったのであったが、二人の親権を、どちらに引き取らせるのかでもめたのをきっかけに、拓斗と伊波は二人暮らしを決意した。
 引き取るかでもめたのではなく、引き取らせるのかでもめている両親を見て、拓斗が二人暮らしを提案したのだ。
 この日から拓斗の中で、伊波は妹、自分が守ると密かに誓う。


 自分はこんなにも経済力がない。自分はこんなにも子供達を愛していない。だからこそそっちが引き取るべきだと主張する両親を見て、拓斗と伊波の中で両親というものの存在は無くなった。
 毎月の養育費やらを必ず送ってくるのは、世間を気にしての事であり、決して罪滅ぼしではないと二人は思っている。
 そんな二人に優しくしてくれたのは、明日から通う高校の理事長でもあり、叔母にあたる京子である。毎月お小遣いをくれる京子なのだが、それは二人にとっては大金であった。


 伊波が元気が無かったのはさっきの親子のせいだろうと考えた拓斗は、特に気にした様子も見せず、いつも通りに伊波に指示をだす。


「服を脱いでうつ伏せに。準備が出来たら声をかけてくれ」


「・・・はい・・・出来ました」


 拓斗が振り向くと、上半身の服だけを脱いで、うつ伏せの状態の伊波の姿が目に入る。
 海などでオイルを塗ってもらうような格好であるが、する為には仕方がない。
 若干耳が赤くなっている気がするが、伊波も明日から高校生。年頃の女の子なのだからこれが普通なのだろうと考え、特に気にした様子も見せずに伊波の背中に手を置く。
 とても白く、時に弱々しさも感じさせる伊波の背中に向かって魔法を唱える。


「この者に安らぎを」


「・・・うっ」


 少しの魔法しか使用していない為、伊波の補給作業は数十秒で終わった。


「お疲れ様。もういいぞ」


 伊波が起き上がれやすいようにと、わざと伊波の前まで歩く拓斗。伊波が顔を上げた時には、拓斗のいつもの背中が見えた。


「・・・あ、ありがとう、ございます」


「ん?どういたしまして」


 わざわざお礼など言わなくていいのにと思う拓斗であったが、いつもの事なので、いつものように返事を返す。


「もう大丈夫です」


 服を着たからこっちを向いても大丈夫という、声を聞き、いつものように質問をする。


「気分が悪かったりしないか?」


「はい。大丈夫です」


「そうか。じゃぁ夕飯にしよう」


 調整室と名付けた部屋のドアを開けながら、拓斗は伊波に提案をした。


 ーーーーーーーー


【5】


 夕飯を食べ終え、各々がお風呂を済ませた後、拓斗と伊波はリビングに腰掛けて、コーヒーを飲んでいた。


「今日は色々ありましたね」


「ああ。そうだな・・」


 伊波は知らない事だが、拓斗にとっては今日という日を迎えるのは6度目である。
 時間旅行。
 拓斗の1日が終わると、強制的に時間が巻き戻る。また、拓斗だけが記憶を共有している呪われた魔法。


 時間旅行が行われると、拓斗はその日を超える為の鍵を見つけなくてはならないのである。
 時間旅行が行われるのは、死ぬ事ではない。
 鍵を見つけられずに、1日が過ぎてしまう事であり、拓斗にとっての1日である事が条件である。
 これは、拓斗が経験した事から考えた結論である。
 時間旅行にあうきっかけは解らない。そもそもそれが解るのであれば、時間旅行にあう事はないだろう。また、時間旅行に限度があるかは解らないし、正解も解らない。
 その為、拓斗は朝起きたらまずカレンダーを確認するのが習慣となっている。
 次の日を迎える事が出来たのであれば、それが正解だと決めつけるしかないのだ。


「・・・拓斗?」


「ん?すまない。少し考え事をしてたから」


 7回目をもし迎える事になれば、やはり錬金術師を倒すしかないと考えていた拓斗に対し、心配そうな表情で声をかける伊波。


「こうやって二人っきりで、誰にも聞かれていなければ拓斗でいいが、伊波、京子さんが言っていた事の意味は理解しているよな?」


「はい。本当の兄妹としなければ、別々に暮らす事になってしまうからです」


「ああ。それと"コード"は誰にも知られるなよ。まぁこれは、言わなくても解るか」


 コードとは、科学者が魔法を使えるようになってから約5年経つと現れるものである。
 ある日夢の中でコードの存在を知ることとなり、このコードは自分の命そのものでもある。
 伊波のコードを知っているのは、拓斗だけである。
 科学者が科学者である為には、魔法者から魔法力を補給してもらう必要があるのだが、魔法力を補給してもらう為には、コードを魔法者に教える必要がある。
 先ほど伊波に魔法力を補給する際に、伊波のコードを頭の中で処理し、呪文を唱えた拓斗だが、もし悪用すれば、伊波と拓斗は融合し、錬金術師に生まれ変わってしまう。
 その為、科学者は信頼できる魔法者を選ばなくてはならない運命を持っている。


 科学者が魔法者を見つけられず、魔法力を失った場合、一般人等に生まれ変わるといわれている。
 ではなく、だ。
 魔法力を使った科学者が、一般人に戻る確率は1%未満となっている。


 魔法者は特に魔法力を補充する必要はない。
 時間が経てば魔法力は戻る。
 しかし魔法力を使用するには科学者が必要になってくる。
 魔法の威力が問題となる為、魔法者は科学者にMAGを調整してもらう必要があるのだ。


「・・拓斗の魔法力が上がっている気がするのですが」


「まぁ、明日から高校生になるからじゃないか」


 拓斗自身、説得力のない返しだと思ったが、伊波は一応納得したようであった。
 時間旅行により1日を何度もやり直せば、魔法力があがっていても何もおかしい事ではない。
 しかし、それを知っているのは拓斗だけなので、もし何か言われたら成長期だと言ってごまかそうかと考えたが、どうやら必要ないようだ。


「これだけの魔法力があって、何で補欠なのですか?まさか手を抜いたんじゃ・・」


「その日は体調が悪かったのを、伊波も覚えているだろう?」


「む・・。確かに・・」


 こうなる事を見込んで、試験の当日に伊波に体調不良だと伝えていた。
 もし落第していたら、体調不良の所為にもできるという理由でもあった。
 しかし、実際は本当に補欠で合格している拓斗。
 時間旅行のおかげで、どうやら明日から恥をかかずにすみそうだ。


「伊波。明日は早い。そろそろ寝ようか」


「・・・はい」


 時間旅行は起きないはず。
 伊波におやすみを伝え、祈る気持ちで眠りにつく拓斗であった。

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