勝部??

伊達\\u3000虎浩

特別編 世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて・・勝部??

 2118年の5月中旬。


 いつものように、気怠げに部室のドアを開ける少年。
 少年が何故、気怠げなのかというと、9時に部室に来なさい!と部長からお達しがきたのが夜中の2時であった為である。
・・クソー茜のやつ、あんな時間にメールを送りつけてきやがって、嫌がらせかよ。
 ブツブツ文句を言いながら部屋に入る少年。


「遅いわよかつま!!副部長としての責任感ってものがあんたにはないわけ!?」


 かつまと呼ばれた少年。
 彼の名は『敗北     勝負はいきた  かつま』この部活動の副部長である。
 チラっと時計を見ると、8時50分であり、何故怒られているのかが、かつまには解らない。


「大体あんたのその死んだトカゲのような目!ツンツンした髪!どうにかならないわけ!?」


 見た目で文句があるなら、死んだ両親に言ってくれ。
 心の中で愚痴りながら、かつまは自分の方に指を向けるちっこい部長を見る。


 彼女の名は『林道     茜りんどう  あかね』我が部活動の部長である。
 幼児体形の彼女。
 茶色いショートボブの髪、目は猫みたいなツリ目の彼女は、右手をかつまに向け、左手を腰にあててまだ言い足りないと文句を言っている。
・・理不尽だ。偉いやつには逆らえない、これが社会の常識、いや社会のことわり円環の理えんかんのことわりというやつなのだろうか。


 意味もなく、大好きな魔法少女を思い出しながら、かつまは尚続く、茜様の説教を聞き流していた。
 そんなかつまに助け船を出したのは、机でグヘ、グヘへと本を読んでいた少女であった。


「おほん。茜。かつまも反省しているみたいだし、その辺でいいんじゃないか」


 全くもって反省していないかつまであったが、助けようとしている少女の、気遣いを邪魔してはいけないと、黙って見守っていた。
・・よだれを拭きなさい全く。


 かつまに助け船を出してきた少女『山月やまつき    ありさ』
 彼女は茜とは違い、身長も高く、スタイルもいい。
 黒髪ロングヘアーで学校一の美少女として有名な彼女であるのだが、彼女には問題があった。


「かつま、かつま!見ろここ!くぅーたまらん」


 女の子同士が、手をつないでいる絵を見せられても、かつまには理解ができないのであった。
・・この変態さんめ。


 ありさの問題・・変態である事であった。
 凄いすごいと、適当に相槌をうって、かつまは自分の席に向かう。


「これはこれはかつま殿。ん?その目は何でござる」


 机の上を彼女の巻物が占拠しており、対面に座るかつまのイスの上にまで侵略している。


「彩。お前の巻物が絶賛侵略中だから座れん」


 彩と呼ばれた少女は、すまぬでござると、言いながら巻物を巻いていく。
 彼女の名前は『服部    彩はっとり   さやか』黒い髪を三つ編みにしている彼女は茜と同じで幼児体形である。
 忍者に憧れているのか、将来は火影になりたいそうだ。
 無理だってばよと、いつも思っているかつまだが、夢ぐらい誰だって見る。
 大きくなったら野球選手になるだったり、海賊王だったり、お兄ちゃんと結婚するだったり、南を甲子園に連れていってだったり。
 いや、最後のは夢では、なくお願いか?とかつまが自問自答している前で、彩が巻物を片付ける。
 巻物をどかしてもらい、席に着くと茜から声がかけられた。


「かつま!これやっときなさい」


「座る前に呼べ。というより書記の仕事だろ」


 茜が手渡してきたのは何やら書類仕事のようで、かつまは文句を言いながら書類を受け取り、書記の姿を探す。
・・アレ?いない?


 書記の彼女の姿が見当たらず休みなのかと、かつまは仕方なく書類仕事にとりかかる。


『勝負部』
 ・部長 林道 茜 ・副部長 敗北 勝負
 ・会計 山月ありさ・騎士(書記)結城 ひかり
 ・秘書 服部 彩 ・顧問 西園寺 麗子


 ひとしきり書き終わった所で、勢いよく扉が開かれた。
 いつものポニーテールから、何故かツインテールにしている彼女は、右手で右目を抑え、左手を真っ直ぐ伸ばして宣言する。


「ク、クク。待たせたな愚民共。魔力結界を破るのに時間がかかってしまってな・・やれやれ。世界を救うのも楽ではない」


「・・世界的救う前に、書類仕事をちゃんとやれ」


 かつまが、書き終わった書類をひかりの前につきだして文句を言うと、ひかりは両腕を組んでニヤリと笑いだした。


「愚かなりかつま。我は騎士であるぞ?書類仕事などやらん!!」


「や・る・んだよ!」「や、やめろーー!」


 ひかりの大好きなフィギュアをゴミ箱の上で、ほれほれと、捨てるフリをしながらかつまが注意すると、かつまの制服を引っ張って阻止しようとするひかり。


 彼女の名前は『結城ゆうき     ひかり』絶賛中二病の彼女は、茜や彩と同じで幼児体形である。
 いつもはポニーテールな彼女だが、大好きなキャラクター『レイラ』に強い憧れがあり、たまにツインテールの日がある。


 大好きなレイラフィギュアをかつまから回収したひかりは、ブツブツ文句を言いながら、席へとついた。
 勝負部が勢ぞろいした所で、部長の茜が今日の活動内容を発表する。


 勝負部が何の部活なのかは、茜しか知らない為、説明ははぶくと言うよりできないのだ。


「世界を救うのに忙しいのに・・」


 まだブツブツ文句を言うひかりに対し、茜がニヤリと笑う。
 茜のこの表情を見たかつまは、ロクな事が待っていないなと、瞬時に悟った。


「ひかりが喜ぶ話しだけど、やりたくないならいいわよ?」


 茜の発言に、ピクっと反応するひかり。
 ありさ!と茜が声をかけて、今日の活動内容をありさが発表する。


「ふふ。喜べひかり!我が社がせかすくの新ゲーム開発を進めていて、今日は新ゲームのモニターをやってほ・・ぐへ」


 やってほしいと言い終わる前に、ひかりに抱きつかれありさはにやけてしまう。


『世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて・・通称せかすく』
 シリーズ累計が、ギネスに認定されるほどの神であるこの作品。
 作者が言うには、世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて・・大金持ちになったとか発言して、ネットで叩かれまくりらしい。
 叩かれてもいいから、大金持ちに俺はなる!


 かつまが一人で新たな決意をしていると、ありさが説明に入っていた。


「現代の科学の進歩によって実現されたこのゲームでは、実際に向こうの世界に行く体験ができてグヘヘ」


「話しが進まないから、離れろひかり」


 嬉しさのあまり、強く抱きしめるひかりをありさから引き離すかつま。
 ありさの目つきが鋭くなったのはスルーする。


「おほん。と、とにかくだ。我々が向こうで実際の出来事を体験できるゲームとして開発しているのだが、ひかりがこの作品を愛していると言う発言を思い出してだな、モニターを申し出たのだよ」


 ありさは超がつくほどの、お嬢様である。
 山月グループがあるラノベを参考にして、開発したと言うゲームらしい。


「掛け声は、リンクスタートだ!」


 この発言で、どんなラノベだったかをアニメやラノベ大好きっ子かつまには解ってしまった。
 そこに茜が待ったをかける。


「掛け声は別なのにしましょう」


「うむ。口寄せの術!と言うのはどうでござるか?」


「待て。俺達が向こうに口寄せされるんだぞ」


「ク、クク。全く愚かなり。召喚魔法と言えばコレしかないだろう」


 頭に機械を装着し、ひかりに教わった掛け声を唱える勝負部。


【リゼクト】


 唱えると同時に、機械が反応して俺達は長い長い旅へとでるのであった。
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 ゲームが始まる前に、開始画面に文字が出てきた。
 このゲームの物語の説明がいりますか?と出てきたのだ。
 ひかりとかつまはこの作品を見ているし、読んでいる為、神作品としか説明ができないのだが、他の3人は知らないだろうから『はい』にしようかと提案をする。


「説明はひかりに任せるとして、とりあえず早くゲームを進めましょう」


 俺達の格好は制服姿である。
 ありさに確認すると、向こうで防具などを買う事によって変わるのでは?との事だ。


 このゲームは科学の発展により、仮想世界なのだが、実際の物などは実在している物らしい。
 うまく説明できないが、やっていけば解るだろうと、かつまは一人で納得する。


「耳の穴をドリルでぶち破って良く聞くがよい」


 鼓膜破けちゃうけどねと、かつまは心の中でつっこむ。
 ひかりが解説しだした。


 主人公は『輝基    和斗てるもと   かずと』どこにでもいる普通の高校生の彼が、ゲームをクリアーすると、異世界にワープする事になった。
 転生ではなく、ワープなのは現実世界と異世界を救うお話しだからである。


 この主人公をワープさせたのが『アリス』という悪魔である。


 青く長い髪、金色の瞳をしたボンテージ姿の悪魔の少女は、勇者に倒されてしまった魔王サタンの娘だとカズトに説明し、勇者達に持って行かれてしまったブラッククリスタルを取り戻す為にカズトを召喚したと説明した。
 いつもツンツンしている為、ツンデレ悪魔アリスと、一部ファンから呼ばれている。


 そしてひかりが大好きなキャラクター『レイラ』。
 彼女は勇者のパーティーメンバーの一人であり、主に回復魔法で皆んなをサポートするのだが、勇者テトが傷つけられたりすると、回復魔法が使えなくなる。
 頭に血がのぼったからなのか、バーサーカーモードという、攻撃専門の少女に変わってしまうからだ。


戦略兵器バーサーカーレイラ』が彼女の通り名であり、ひかりがツインテールにしている事から、髪型はツインテール。金髪でツインテールでゴスロリ服を着ている彼女は、身長こそ低いが、胸はそこそこあり、秋葉原ではコスプレイヤーがこぞって真似をしている。


 一応説明するが、コスプレイヤーとは、キャラクターの制服やキャラ設定を忠実に再現しようとしている人達の事である。
 たまにセルやフリーザ様を見かけた時は興奮してしまうが、一番はやはりナッパである。


 そんな事をかつまが想像しているとは思いもせず、ひかりは話しを続ける。
 愛が止まらないのだろう。
 ひかりの話しが、細かい所まで発展している。
・・お調子者の田中はどうでも良い。
 クラスで一人は必ずいるだろう。
 ガヤを飛ばす、自称ムードメーカーが。


 やっと主要キャラに話しが戻った。
 魔女の森で一人の魔女に出会うカズト達。
『わ、わ、わわ我はな、な、な、ナナナ!さ、最強魔法のつ使い手である』


 失礼噛みました。


 思わずそう言ってしまいそうなぐらい、ガチガチに緊張しまくりの彼女の名前は『ナナ』という。
 レイラよりかは胸が小さい彼女は、黒い髪を後ろに2つ結びにしている。
 いつも自信がないからか、おどおどしてしまっている彼女は、大好きだった姉を止めるべく、カズト達と行動を共にしている。


「ひ、ひかり。早くはじめない?」


 茜は若干、いや、かなりひいていた。
 マニアやオタクに語らせるとこうなると、予想しないからだ。
 148センチとかそんな細かい情報を、ひかりが語りだした所で、茜が止めに入ったのだった。


「グヌヌ・・仕方がない」


 まだまだ話し足りないが、ひかりが一番早くこのゲームを始めたいので、しぶしぶ納得する。
 茜から、かつま、説明!とだけ告げられたかつま。
・・何かをまず説明しろ。


 話しの流れから、ひかりの後を継いで、素早く済ませろという事だろうが、アゴでくいっと合図だけ送られて、ちょっぴりイラッとしてしまう。


「要するにだな」


 現在、ブラッククリスタルを持っているのは、かつてレイラの仲間だった『クリフ』であり、ブラッククリスタルの所為で、性格が変わってしまった。
 ブラッククリスタルを取り戻したいアリス。
 かつての仲間を助けたいレイラ。
 かつて大好きだった姉を止めたいナナ。
 それに巻き込まれてしまう主人公。
 しかし、他の作品と違うのは、現実世界にもこの3人がついてくる事だろう。


 アリスの魔法で、カズトのクラスメイトになった3人が、現実世界でも主人公を巻き混んでいく話しの為、読者の中では、現実世界の方が面白いだの、現実世界の話しはいいから、異世界の話しを進めろだのと、当時は大変だったと、作者はニヤケながら話していたらしい。


「要するに、主人公は異世界で3人の女の子に出会って、異世界と現実世界とでイチャイチャする話しね」


「愚か者!!」「全然違うわ!!」


 ひかりとかつまが、茜の発言を否定する。
 しかし、感想は人それぞれなのだから、否定するのはおかしいのではないかと、かつまは呟いた。


 例をあげよう。


『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』


 通称、俺妹おれいもと呼ばれるこの作品。
 106年前に絶大な人気を誇る神作品である。
 ではどんな作品かを説明しよう。
 高校生の兄京介と、中学生の妹桐乃の仲は悪い。
 どこにでもあるよくある話しだ。
 ひかり以外の3人が見ていないかもしれない為、ネタバレに気をつけて、かつまは続ける。


 そんな二人がある事をきっかけに、仲がよくなっていく、そんな話しなのだが、さて読者目線で考えてみよう。


 普通は主人公目線で読む。
 その気持ちわかるわぁーーと、夜中に一人で呟いてしまうほどにな。
 次にヒロイン目線で読む。
 気づいてやれよ京介!!と、真夜中に一人で叫んでしまうほどにな。
 そして作者目線で読む。
 やはり俺の睨んでいた通りこうなったか・・フハハハハ、この作家と同じ考えができる俺はラノベ作家か編集者になれると勘違いしてしまうほどにな。


 そして究極なのが、キャラクター毎の立場になって読む事だ。
 しかし、せかすくに出てくる田中の立場になった所で、お調子者の田中なのだから、目立ちたかったからなのか、単純にお馬鹿ちゃんなのかしか解らない。
 だが、ひかりはこの作品に関してだけは、キャラクター毎の立場になって読んでいるのだろう。
 気持ちはわかる。
 あの時の発言は・・とか、表情・心情など色々な観点から見るとまた違った形で読めて面白い。


 要するにだ。
 茜の発言は読んでいないから、間違いなのだが、読んでいれば問題がないと言う事である。
 ひとしきり話し終わったかつまに茜が告げる。


「ながい」


 三文字の言葉。
 あんなに熱弁していた自分が恥ずかしい。
 めちゃくちゃ面白いのに・・。
 良かったら読んでほしい。
 もしくはアニメ化もされているから見てほしい。


「とにかく先に進むわよ」


 茜の号令で先に進む事になった勝負部。


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 一方その頃。


「で?どういうことなのか説明してくれる?お兄ちゃん」


 カズトは頭を抱える。


 現在カズトの部屋。
 アリス、カズト、レイラ、ナナの順で正座させられている。
 カズトは正座しながら、先ほどの事を思いだしていた。


「・・・う・・・ん・・。」


 カズトはうなされていた。
 身体が重たい。
 金縛りを体験した事がないカズトはこれが金縛りというものなのだろうかと、目をあける。


「うわ!・・美姫・・うん?どうした?」


 妹が泣きながら自分を見下ろしている光景を前にして、カズトは何事かと声をかけた。
 兄の声に我に戻ったのか、美姫は目元をゴシゴシしだした。


「お兄ちゃん。何やっていたの?」


 何かと言われても寝ていただけなのだが、何故怒っているのだろうか?
 カズトが不思議に思っていると、美姫がカズトの布団を勢いよくめくる。


「で?なにやっていたの?」


 再度問われる美姫からの質問。


「・・寝ていただけなのだが」


「ねねねねね寝ていいいいいたたたあた」


「うるさいわね」「・・あ美姫様」


「・・・・・うわ!アリス。レイラ」


 突然自分のベットから現れる2人。
 美姫のおさがりのパジャマを着ている2人は、美姫の絶叫に、目元をこすりながらムクっと起き上がる。
 カズマはようやく、現在の状況を理解した。
 金縛りかと思ったが、金縛りではなく、アリスとレイラが両腕にしがみついていたからである。


「寝ていたってどういうことなの!」


 両手を腰をあて、顔を真っ赤にする美姫。


「と、とにかくそこに正座!!」


「ハハハハイ!!」


 美姫の指示に返事をしたのは、カズトの足にしがみついていたナナであった。


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 I♡兄と書かれたTシャツに三本ラインの入ったジャージ姿の美姫は、両腕を組んで、カズトのベットに腰掛け、片足を組み、カズト達を見下ろしていた。


「どういう意味かと言われても・・俺は寝ていただけでって、寝るなアリス」


 アリスは今にも鼻風船を膨らませる勢いで、うとうとしながら、カズトの右肩によりかかる。
 そのアリスの行動に目を光らすレイラと美姫。


「あ〜アリスちゃん!何てうらやまけしからん事をしているの」


「・・・ふぁ」


 片手を口元にあて、わざとらしく可愛いあくびをするレイラ。
 カズトの左肩に寄りかかろうとするレイラの行動をよんで、美姫が阻止する。


「・・・美姫様」


 ぷくっと口元を膨らませ、上目使いをするレイラの可愛さに、美姫は少したじろぐが、首を横に振ってレイラにボソボソと告げる。


「お兄ちゃんにそんな羨ましい事をしていいのは、わたしだけなの」


 睨み合う2人。
 船を漕ぐ少女と、アワアワ震える少女。
 これから学校だというのに、勘弁してくれと、カズトは頭を抱えるのだった。


 いつものように、学校に行く準備をする4人。
 美姫は朝練の為先に家を後にする。
 内心では、カズトと登下校したいのだが、こればかりは仕方がない。


 美姫を見送ったカズト達は、洗面所で歯を磨く。


「アリス。新しいの使っていいぞ」


 歯を磨きながら、歯磨き粉を一生懸命だそうとしているアリスに声をかけるが、アリスは何故か怒りだした。


「この私に尻尾を巻いて逃げろって言うの?イヤよ」


 何と戦っているんだよと思ったが、物を最後まで大切に使う事は良い事なので、ほっとく事にしたカズト。


「・・テトの心遣いに何て言い方を」


 レイラの目が鋭く光るも、口元に歯磨き粉がついている為、迫力が感じられない。


「レイラ。口元に歯磨き粉がついているぞ」


 カズトはそう言って、優しくレイラの口元を手で拭く。


「・・テト・・だ、だいたん」


 頬を赤らめ、プイと横を向くレイラ。
 異世界では、こういう行動に何か意味があるのだろうか?
 カズトは口に水を含みながら、考えるのであった。


 レイラはカズトの事をテトと呼ぶ。
 その事についてカズトは、注意するのだが、レイラは頑なに拒む。
 かつて魔王討伐する仲間だった、勇者テトにカズトが似ている事からそう呼んでくるのだと思うのだが、レイラはカズト自身が、勇者テトだと思っている。
 美姫はレイラがテトと呼ぶのは、カズトのあだ名か何かだろうと思っていた。


 制服姿に着替えたカズト達は、朝食を食べる為にリビングへと向かう。
 美姫が用意していてくれたのだろう。
 両親が死んでから、美姫が立ち直るまで朝食の準備等カズトがおこなっていたのだが、ご飯だけは私がやりたいと美姫が言い出し、それ以降は美姫が担当している。


 洗濯に関しては「お、お兄ちゃんが、どうしてもって言うのなら・・ど、ど、どうかお願いします」と頭を深々と下げる美姫。
 この件に関しては丁重にお断りして美姫が担当になっている。


 そうなると、美姫に負担が増えるだろうと考え、掃除全般はカズトが担当し、手伝える時は料理を一緒にやる。
 最初は譲れないと言っていた美姫だが、何かに閃いたのか、顔を赤くしながら一緒にやろうと言い出した。


「お、お兄ちゃんと、きょ、共同作業」


 そんな事を呟きながら顔を赤くする妹を前に、カズトは首を傾げるのであった。


 リビングに並べられた朝食を前に、カズトが昔の事を思い出していると、レイラの目の色が変わる。
 サッと動き、いつもカズトが座る席に座るレイラ。
 目の前には、ケチャップで描かれた♡のオムレツと目玉焼きにパンが置かれている。


「・・・テトはそっちに座るべきです」


 うむを言わさないレイラ。
 ガツガツ食べるアリス。
 初めて食べる料理をじろじろ眺めるナナ。
 この3人が来てから、食事はとても賑やかになっていく。


    騒がしいぐらいが丁度いい。


 カズトは苦笑いしつつも、心の中でそんな事を思っていた。


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 朝食を済ませ、そろそろ出ようかというときに、カズトはふと気になって、アリスにたずねる。


「なぁ。今日の夜、向こうの世界に行くのか?」


 向こうの世界。
 信じられないだろうが、俺は二重の生活を送っている。
 普通の高校に通う生活と異世界に行って戦う生活の2つである。
 異世界と呼んでいいのかは解らない。
 何故ならクリアーしたゲームの中にワープする為、それは異世界なのかという事だが、他に説明のしようがない。


 また、この事は誰にも言えないでいた。
 クリアーする条件は魔王討伐にある。
 つまり、勇者テトを生み出したのはカズト自身であり、操作も指示も全てカズトが行っていた。
 魔王サタン。アリスの父親である。


 この事を知られてしまうと、アリスとの関係が壊れてしまうかもしれない。
 そう思うと言い出せないでいた。
 せめてもの罪滅ぼしもかねて、俺は二重の生活を送る事となった。


【リゼクト】


 カズトの答えは、アリスの魔法による答えであった。
 せめて説明がほしいと、カズト、レイラ、ナナは心の中で呟く。
 この時、何か変な音が鳴ったのを、ナナだけは気付いていた。
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「イッテテテテ。おい無事か?」


 頭をさすりながら、かつまは辺りを見渡す。
 しかし、そこにいたの泣いているひかりと、倒れているありさの姿だけであった。
 茜と彩がいない事に不安になるが、倒れているありさの方が優先だと、かつまはありさの元へと駆け寄った。


「おいありさ!大丈夫か?」


「う・・ん。かつまここは?」


 上半身を起こし、ありさも辺りを見渡す。
 両手を重ね、何かに祈りを捧げ始めたひかりの姿がそこにはあった。


「ああ神よ。hiroto神よ。生まれてきて、私を生んでくれてありがとうございます」


 ひかりを生んだのはお母さんだからな!と心の中でツッコミ、ひかりの元へ歩みよる。
 どうやらちゃんとゲームの中に入れたようだ。
 だが、茜と彩の姿が見当たらない。


「なぁひかり。茜と彩はどうした?」


 かつまが気付いた時、起きていたのはひかりだけだったので、何かしらないかとたずねる。


「これからはちゃんとピーマンを食べます。宿題もこっそりかつまのを写すのをやめます」


 何やら祈りから懺悔に変わってきたひかり。
・・あの中二病め。今度ワザと間違えた答え書いてきてやる。
 まさか自分の宿題が写されているとは思いもしなかったかつまは、英語の宿題に卑猥な単語を、英語で書く事を心に誓う。


 とにかく、尚続くひかりの懺悔をとめ、どうなっているのかを再度たずねた。


「ク、クク。生贄に捧げる豚の居所に、興味などないわ」


「生贄で豚ってお前な・・後であの2人にチクるぞ」


「そそそ、それだけはやめて下さい」


 かつまの注意に、バッと駆け寄り頭を下げるひかり。
 茜様の恐ろしさが、身に染み付いている証拠であった。


「これを見ろ!」


 シュバフィーンっと聞こえてきそうなすばやさで、両手を広げるひかり。
・・TSFさんみたいに花びらを巻くのをやめろ!というより何処からだした。後、橘シルフィンフォードさんは、花びらをもっと綺麗に巻くからな!


 どちらかというと、UMRさん派のかつまは、ひかりの見ろと言う言葉に従って前を向く。


「て・・る・・輝基?」


 ありさは首を傾げながら、表札にかかれている文字を読みあげる。
 そんなありさの行動にショックを受けるひかり。


「あ、あありさ!ここに連れて来てくれたから今回は不問とするが、ここはカズトの家ではないか!!」


 何故解らんと怒るひかりと、何故怒られているのかが解らないありさ。
 気持ちはわかる。
 ひかりにとって今この瞬間がたまらないのだろう。
 聖地巡礼みたいなものなのだろう。


 聖地巡礼。
 この言葉をご存知だろうか?
 簡単に説明するなら、実際にゲームや漫画、アニメやドラマで出てきた場所に行く事である。
 先ほど神と崇めた『俺妹』は秋葉原がよくでてくる。
 聖地巡礼とは、実際の建物に行ったり、食べたりして、観光する事である。
 だが実際、お店の名前が違ってたり、載ってなかったりがほとんどだ。
 なので、ファンの間では、文章から此処ではないかと、巡るのがほとんどである。


 例えば、黒猫というキャラクターに出会うのはメイド喫茶の中である。
 なので、ここのメイド喫茶ではないかと、一軒一軒廻るのだが、秋葉原にメイド喫茶はめちゃくちゃ多い為、見つけるのは至難の技であり、正解は作者にしか解らない為、見つけたかどうかが解らない。
 しかし、ファンはそんな事はどうでもいいのだ。
 それこそ、回りからどう思われても構わない。


 作品愛がそこにはあるのだ。


 うむ。
 実にいい説明だと、自画自賛するかつま。
 絶対に負けられない戦いがそこにはある的なテロップで、作品愛があるというテロップを作ってほしい。
 かつて、聖地巡礼の旅に出た事を思い出しながらといっても、そこはデカデカとここです!と書かれていた為、苦労はしなかったのだが。


「・・つ・ま・。聞いておるのかかつま!!」


 誰かに呼ばれる声で、我にかえるかつま。


「わりぃ。聞いてなかったわ」


 適当に相槌をうつとロクな事がおきない事を、身に染み付いているかつまは、正直に謝った。


「聞いてなかったではない。全く。これからどうするかと聞いているんだ」


「どうするも何も、ひかりがあの様子だとなぁ」


 そう言って、かつまとありさは、ひかりの方を向く。
 ひかりはジロジロと家を眺めていたかと思うと、急にソワソワしだした。
 自分の制服をバババっと触ったかと思うと、急に膝をついて頭を抱えている。
 まるで、これからこの家に不法侵入しそうな勢いであった。


「泥棒や不法侵入は犯罪だぞ」


「そんな恐れ多い事などせぬわ!!それよりかつま!ありさ!携帯かカメラ・・いや、ビデオカメラを貸すのだ」


 家の外観を、ムービーにしてどうするのだコイツ。


「残念ながら持っていない。それより早く行くぞ」


「そ、それよりとは何だ!!くっクソ。我の魔眼でこの光景を記憶しろと、神は言うのか!!」


「魔眼ではなく、脳に焼き付けとけ。ほら行くぞ」


 後ろ髪を引かれる思いで、ひかりはかつまの後をついて行く。
    この時、何故家のインターホンを鳴らさなかったのか、ゲームが終わった後も謎であった。


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「うむ。道に迷ったでござる」


「何で私が悪いみたいな目で見るのよ」


 両腕を組んで、ジロ目を向ける彩に、茜はプルプル拳が震える。


 ここは魔女の森。
 しかし、ひかりとかつまがいない為、2人はここが魔女の森だということに気づいていない。


「それにしても困ったわね。かつまやひかり、ありさとはぐれてしまってからだいぶ経つけど、無事かしら」


「うむ。全くその通りでござるな。かつま殿やありさ殿。ひかりと逸れてしまったのは失策でござるよ」


「そうね。せめて1人いてくれたら」


「ほぅ。茜殿は他の2人は要らぬと申されるか。いやはや、恐ろしい女子おなごでござる」


「あんたね・・全く。だいたい、アンタの所為で迷ったんじゃない」


 このゲームを持ってきたありさ。
 この作品を愛しているひかりと知っているかつま。
 それに比べて、2人は全くの無知であった。
 せめて1人いてほしいと願う茜は、先ほどの事を思い出していた。


「・・殿。茜殿。・・ヨダレを垂らしている茜殿」


「たりゃしてにゃい」


「おぉ!!ヨダレを垂らしている茜殿で起きたでござる」


 グヌヌと肩を震わせながら、一応制服の袖口で口元をぬぐう茜。
 辺りを見渡してみるが、木しかみあたらない。
 さっきまで、部室にいたのだから、ゲームの世界はゲームの世界なのだろう。


「あれ?私達2人だけ?」


「左様でござる。なのでヨダレを垂らしている場合ではないでござるよ」


「あんたって意外としつこいわね。それよりも困ったわ」


 ムクッと起き上がって辺りを歩いてみるが、木しか見当たらない為、どっちに向かえばいいのかが解らない。
 そもそもこの作品を知らない為、ゲームで体験と言われたが、何を体験するのかも解らない。
 異世界ファンタジーなら、敵とのバトルとかあるのかしらと、アゴに手をあてながら、茜が考えていると、彩が両腕を組んで告げる。


「茜殿。ここは拙者に任せるでござる」


「何かいい案でも浮かんだの?」


「拙者はくノ一。でござる」


 今思えば、遭難に慣れっこと言う言葉に、何故こうなると想像しなかったんだと、自分自身に腹をたてながら、茜は木の下にしゃがみこむ。


「少し休みましょう。ねぇ?こういうゲームって、お腹がすいたり、疲れたり、喉が渇いたりするのかしら?」


「拙者は忍び。耐え忍ぶ者でござる」


 訳の解らない答えに、頭を悩ます茜。
 深いため息とともに、空を見上げるのであった。


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「おい。ナナ!大丈夫か?」


 ゆさゆさとナナの体をゆすりおこすカズト。
 もう食べられないですと言う寝言は、聞かなかった事にしよう。


 辺りを見渡すが、アリスとレイラの姿が見当たらない。
 キョロキョロと首を動かしていると、ナナから声をかけられた。


「カカカズトさん。おはようございます」


 深々とお辞儀するナナ。


「おはようと言いたい所だが、そんな事を言っている場合ではないみたいだ。アリスとレイラがいない」


 え?と固まったナナはバッと立ち上がり、辺りを見渡す。


「ここはどこですか?まさかまた違う世界とか・・」


 もともとナナは、魔女の村から出た事がない。
 魔女の村を出た途端、日本にワープさせられる事になり、ナナはワープする事を怖がっている。


 アリスは知らない所を見るのが楽しいのか、何の抵抗もないというより、ワープ魔法はアリスの魔法なので、不安があってもらっては困る。
 レイラは、サクラ王国から魔王討伐まで、長い旅に出ている為、怖いとは思わない。


「ここは元々ナナがいた世界で、サタンシティー近くの丘じゃないか?」


 サタンシティー?っと聞いてくるナナに、ここはアリスが納める街だと説明する。
 魔王サタンがいない今、この街で一番偉いのはその娘のアリスである。


「とにかく、街に向かえば何か解るかもしれない。ナナ。行くぞ」


 情報収集はゲームをするうえで、もっとも重要な事である。
 弱点だったり、攻略のヒントだったり、何処にいるか、何処に向かえばいいのかを教えてもらえる。


 カズトは基本、攻略本や説明書を読まない。
 ゲームを完全クリアーした時、初めて見落としがないかの確認の為に読む。
 復習と言う言葉がしっくりくるだろう。
 しかし、カズトはこのゲームに関してだけは、完全クリアーしていないが、すぐに調べた。
 復習どころではない。
 クリアーしたら異世界に飛ばされたのだ。
 他に同じような人がいないかを調べたが、何も載っていなかった。


「カカカズトさん。だだだ大丈夫ですか?」


 ナナに呼ばれて、意識が戻る。
 カズトがボーッとしていると思ったナナは、心配になって声をかけてくるのだが、思わずナナが大丈夫かと心配になってしまう。


 ナナはあがり症なのか、自分に自信がないのか、とにかくオロオロしている。
 しかし、戦闘になればちゃんと、嫌、たまに呪文を噛んでしまうが、とにかく、逃げださず戦う女の子である。
 勇気がある女の子と言った方が、正しいのかもしれない。
 ナナに大丈夫と一言告げ、サタンシティーの丘からサタンシティーへと向かうカズトとナナであった。


 ___________________________


「・・アリス。鼻水を垂らしているマヌケなアリス。起きて下さい」


「だりぇがマニュケですって!!」


 アリスはガバっと起き上がり、自分をマヌケ呼ばわりしたレイラを睨みつける。
 一応念の為、制服の袖口で鼻を拭く。


「・・本当に垂らしていたら、制服が鼻水まみれになってしまいますよ」


 レイラはそう言ってサッとハンカチを差し出した。
 本当に垂らしていたらと言いながら、ハンカチを差し出してきた時点で、嘘なのか本当なのか解らない。


 アリスは制服で拭いた方の腕で、ハンカチを受け取りながら、制服についてしまっていないか確認する。
 どうやらついていないようだ。


 汚したりしたら、美姫が怒るだろう。
 この制服は美姫が、アリスやレイラ、ナナの為に作ってくれた物である。
 美姫が怒ると、当然妹に頭があがらない兄のカズトも怒るかもしれない。
 怒らせて学校に行けなくなっては困るのだ。


 学校に通う条件として、カズトは二つ条件をだした。


 一つカズトの言う事は絶対。


 一つ美姫の言う事は絶対。


 恐ろしい兄妹だと、アリスは思っている。
 仮にも魔王の娘に対してそんな条件をだすとは、お前達兄妹は悪魔みたいだと、アリスは密かに思っていた。


「アリス。マヌケな顔してないで、行きますよ」


「誰がマヌケな顔よ!!ってちょっと待ちなさい」


 レイラが歩きだしたのを見て、慌てて後を追うアリス。
 カズトとナナを探す事が優先だと、歩きながら話すもアテがない。
 そもそも自分達が何処にいるのかが解らない。
 しばらく歩いていると、何かに気付いた二人。


「ねぇ。アンタと同じ格好している人がたくさんいるみたいだけど」


「・・そのようですね。しかし、似ているだけではないでしょうか?」


 ニコニコしながら、何かを手渡している女性を、チラチラ見ながら二人が話していると、その女性がアリスとレイラに気付いたのか、こっちにやってきた。


「メイド喫茶に興味があるんですか?よかったらどうぞ」


 そう言って女性はニコニコしながら、割り引き券と書かれた紙を手渡してきた。
 受け取ったレイラの後ろから、アリスが話しかけた。


「なぁなぁ。その格好ってみんな着てるものなのか?」


 アリスの質問に驚く女性。
 しかし、直ぐに質問に答えてくれた。


「メイド喫茶で働く人はみんな同じ格好をしてますよ。お店によっては違ったりしますが基本はこんな格好です」


 女性はそう言って、スカートをちょこんとつまみ上げ、軽くお辞儀をする。


「メイド喫茶って何だ」


「・・お世話係の人じゃないでしょうか?」


 アリスがレイラにヒソヒソと話すと、レイラは何か、を思いだそうとしているのか、アゴに手をあてボソボソと答える。


 かつてサクラ王国にいた頃、お姫様の側にいた女性も、同じような格好をしていた事を思いだしての答えだったのだが、お世話という言葉にアリスが反応する。


「何だお前。お世話がしたいのか?」


「したい訳ないじゃないですかか」


 アリスの質問に答えたのは、レイラであった。
 お前は馬鹿なのか、みたいな目で見てくるレイラに、顔を赤くするアリス。
 そんな二人のやりとりを見ていた女性は、クスクスと笑いだした。


「ご、ごめんなさい。秋葉原にいてメイド喫茶を知らない何て、もしかして留学生さんなのかしら?その制服、桜ヶ丘高校の制服よね?」


 ペタペタとレイラの制服に触れ、高校かぁ〜懐かしいという、意味不明な言葉に固まるレイラ。


「私達を知っているのか?なぁ。私達、そのさくら何とかに行きたいのだが、どうしたらいい?」


 アリスは女性の言葉を聞いて、ここがカズトの世界であると理解し、女性に再度質問をなげかける。


「行きたいって・・ここまで何で来たんですか?」


 そう聞かれて、二人は固まってしまう。
 ワープ魔法と答えていいのかもそうだが、女性に聞かれた質問に対し、二人は答えを持ち合わせていない。


 サタンシティーに行くつもりが、気付いた時にはここにいたのだ。
 どうしてと聞かれても、二人には解らなかった。
 しかし、女性はアリスとレイラの答えを待たず、質問に答えてくれた。


「バスやタクシーなら・・いえ。バスだと乗り換えもあるし、タクシーだとお金もかかるし・・やっぱり、電車で行くのがいいんじゃないかな?」


 バス、タクシー、電車。
 聞き覚えのない単語に戸惑う二人。


「・・申し訳ありません。詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 レイラはそう言って、軽くお辞儀をする。
 そんなレイラの様子を見て、アリスは慌ててお辞儀をしだした。


 いいですよと、答えてくれた女性は色々と教えてくれた。
 色々と教えてくれたのだが、満員電車とか、バス酔いとか、タクシーとやらによっては料金が違うとか、全く何を言っているのか、ほとんど解らない二人。
 しかし、二つだけ解った事がある。


 一つは、バスやタクシー、電車とやらは、どうやら馬車みたいな乗り物だという事である。
 レイラは何度か、お姫様の護衛で乗った事があるが、アリスは無いようで、頭上に?マークが飛び交う。


 二つ目は、それにはお金という物が必要だという事であった。


「なぁ。そのお金とやらがないと乗れないのか?」


 アリスの質問に、本当にどうやってここまで来たのか、不思議に思いながらも、女性は答える。


「乗れないというより、中に入れないですよ」


 中に入れないの、中が何の事かは解らないが、マズイという事だけは二人は理解した。


「どうする?空を飛んでいくか?」


「・・いえ。テトから目立つなと言われていますから、それはやめた方がいいでしょう」


 二人がヒソヒソと話しあっていると、二人が困っていると思った女性は、二人に提案する。


「良かったら体験入店してみますか?高校生みたいですから皆んなよりかは時給が安くなってしまいますが」


 時給とは、働いた時間によって貰える報酬みたいなものだと説明された二人は、女性によろしくお願いしますと、頭を下げるのであった。




 _______________________


 その頃かつま達は、困っていた。
 何に困っているかというと、とにかくひかりの歩くスピードが遅いのだ。


「ひかり。お前は亀か?もう少しスピードをあげないと、置いていくぞ」


「愚かなりかつま。我は騎士。亀などと一緒にして貰っては困る」


 少し歩くと、ぐわぁぁっと悲鳴なのか奇声なのか解らない声をあげて、寄り道ばかりするひかり。
 その度、かつまとありさは立ちどまり、ひかりが満足するのを待つ羽目になる。


 だが、どんなに待っても満足する気配が感じられないので、魔法の言葉をかける。


「ひかり。レイラに会いたくないのか?」


 ありさが耳元で、ひかりに囁く。
 ありさに声をかけられ、ひかりがビクっと動き、スッと立ち上がって歩きだす。
 これをずっと繰り返しているのだ。
 かつまは初めて、この作品うぜぇと思った。
 しかし、そんな事を言ったらひかりから、雷が落ちるだろう。


 心の中で愚痴りながら、ひかり、ありさの後を追う。


「ところで何処に向かっているんだ?」


 キョロキョロしてはいるが、道に迷ってではなく、景色を目に焼き付けているひかり。
 何の迷いも無く、サササっと歩くひかりに、目的地をたずねる。
 ひかりは、バッと振り向き、左手で右目を抑えながら、右手を真っ直ぐ伸ばして宣言する。


「カズトの家があるという事は、桜ヶ丘高校があるに違いない!!我々騎士団は、そこに行って情報収集をするのだ!」


 いつから騎士団になったのだろうか?
 これ以上変なグループに入れるのを、やめてほしい。
 しかし、ひかりの提案は間違いではない。
 もしかしたら、茜達はそっちからスタートしている可能性もある。
 付いて来い我がしもべどもと言いながら、前を歩くひかりに、かつまとありさは付いて行く。


「なぁ。あの作品に、学校までの行き方なんか書いてあったか?」


 かつまは、ひかりの隣に並んで話しかける。
 あの作品には、学校までの通り道には、商店街があり、そこにいつも買い物に行くと書いてはあったが、それ以外の情報はない。
 何の迷いもなく、歩いて行くひかりに、大丈夫かという意味も込めて質問するかつま。


「ク、クク。これだから愚民は困る。商店街で聞けば良かろう?まぁ我は聞かずとも辿りつけるがな」


 腰に両手をあて、ハッハハハと笑うひかりに、イラっとしてしまうかつま。
 だが、言われてみればそうだ。
 ゲームの基本である。
 商店街まで行けば、何とかなるかもしれないなと、不安だった気持ちが、少し和らいだ。


 一同は、商店街を目指して歩き出したのであった。


 ___________________________




 かつま達が商店街を目指しているその頃、カズト達はサタンシティーで情報収集を始めていた。


「おっ?勇者テトじゃないか!何だ武器が欲しいのか?」


「おーいテト!!これからクエスト何だが、暇なら手伝ってくれよ」


 サタンシティーの商店街は、活気に溢れていた。
 歩く度に声をかけられるカズト。
 そんなカズトに、尊敬の目で見上げてくるナナ。
 声をかけられる度、丁重にお断りし、アリスやレイラを知らないか声をかけるが、未だに情報は得られない。


 アリスはここの女王の為、知らない人はいない。
 レイラは、勇者のパーティーメンバーだった事から、知らない人はいない。
 カズトは何故か、勇者テトに間違えられている。
 似ているからなのだろうが、勇者テトはTV画面越しにしか見た事がない為、似ているかどうか解らない。
 そもそも似ているか、似ていないかを判断するのは、他人からではないと解らないのではないだろうか。
 俺、アイツに似てない?などと言ってくる人はまず少ないだろう。


 しかし、勇者テトと勘違いしてくれているおかげで、色々と情報収集に役立っていた。
 自己紹介の手間もはぶけるし、アリス達の特徴を伝えなくてもいい。
 一言、アリスかレイラを見かけなかったか?で通じてしまうのだ。
 見かけてないと言われたら、見かけたら、勇者テトが探していた。魔女の森の前で待っていると伝えてくれ。これで済むのだ。


 しばらく、キラキラした目で見てくるナナを連れて歩くカズト。
 カズトさんは凄い。私もいつかはとブツブツ呟くナナ。
 ナナは有名ではない。
 そもそも魔女は村から基本でない。
 人間を毛嫌いしているからである。
 魔女の中で唯一有名なのは、ナナの姉のナナミぐらいであろう。
 しかし、有名なのは賞金首ブラックリストに登録されているからであった。


 ナナが何故、有名になりたいのかは解らないが、その事に触れると必然的に、姉の事にも触れなくてはならないかもしれない。
 カズトは、聴こえていないフリをして歩いていた。
 しばらく歩いていると、隣のナナから声をかけられるカズト。


「カカカズトさん!アレって何ですか?」


 ナナに呼ばれて、ナナが指をさす方へと顔を向けるカズト。
 パワースポットと書かれている看板の下に、人が集まっている。
 もしかしたらアリス達かもしれないと、ナナと一緒にそこに向かって行く。


「レイラ様。どうか力を」
「これ、本当にレイラがやったのか?」
「ああ間違いない。俺はこの目で見たんだ」


 そんな話し声と、見たものから何なのかを察したカズト。
 そこはかつて、腕相撲大会が開かれていた場所である。
 しかし、今は腕相撲大会は中止になっており、別の商売を初めたみたいであった。


 大会が中止になったのは、優勝したレイラが会場を壊してしまったからである。
 腕相撲だけでできる訳がないと、大きな穴を見てみんな笑っていたが、実際に見ていた商人や冒険者が証人として、ワイワイ騒いでいる。


 この世界で一番強いのはレイラ説を、広めているのもこの商人や冒険者であり、噂を聞きつけた人が、観光がてら見物したり、魔界に挑戦する冒険者達が、参拝しに訪れたりしているらしい。


 弁償しろと言われたら困ってしまうので、なるべく関わらないようにしようと、カズトはナナを連れてその場を後にした。 
________________________


「ちょっと!?何でこんな事になるのよ!」


「うむ。これは一大事でござるな」


 茜と彩は森の中を全力疾走していた。
 何故走っているのか?木の下で休んでいた二人の前に、大きなアリが姿を現し、二人に襲いかかってきたからであった。


 アリ兵隊と呼ばれるモンスターで、人間で例えるなら、幼稚園児ぐらいの大きさである。
    このモンスターは一撃で倒さないと、アリフェロモンと呼ばれる特別な匂いを発生させ、仲間を呼ぶモンスター。
     アリ兵隊の上のクラスであるアリ団体を呼ぶのだ。


 アリ団体からアリ軍隊へ。
 アリ軍隊からアリ騎士へ。
 アリ騎士からアリ女王へ。
 アリ女王からアリ王様へ。
 アリ王様は倒される前に、別のアリ女王を呼ぶモンスターである。


 この作品を知らない二人は、このモンスターが仲間を呼ぶとは知らず、つい攻撃をしかけてしまい、現在アリ団体に追われている最中である。


「もしかして、さっきのアリをボコボコにしたから、その仲間が怒っているんじゃないかしら?」


 走りながら茜が彩に、自分の考えを伝える。


「うむ。茜殿がボコボコにした所為でござるな」


 彩にそう返され、頬を赤くする茜。
 先ほどの事を振り返ってみるが、確かにやりすぎたかもしれない。
 茜は先ほどの出来事を思い返してみる。


「あ、茜殿!!敵襲!!敵襲でござるよ!!」


「み、見ればわかるわよ!!何アレ?気持ち悪い」


 彩が目を輝かせ、茜にそう告げるのだが、茜はそれどころではない。
 草むらから、ガサガサ音がするので、ネコか何かと期待していたら、現れたのは真っ黒な得体の知れない生き物であった。


 突然目の前に、大きなアリが現れたのだ。
 普通でいる事自体、難しいだろう。


「う、迂闊でござる」


「ど、どうしたの?」


 彩が突然、地面に両手両足をついて落ち込んでいる。
 何かあったのかと心配になり、声をかける茜。


「ほら貝を忘れてしまったでござる」


「・・どうでもいい」


 戦国武将に、何か特別な思いがあるのかも知れない。
 だが、ほら貝は味方に敵が来たと知らせる物であり、知らせる仲間と言えば自分あかねしかいない。
 吹く必要なんてないし、そもそもそれどころではない。


「ゲームなんだから、モンスターが現れてもおかしくはないけど、武器も何もないし、ここは逃げましょう」


 ゲームなのだから、ゲーム中に死ぬ事はあっても、現実世界では死ぬ事はないだろう。
 しかし、アリにムシャムシャ食べられる自分の姿を想像したら、トラウマになってしまいそうで怖い。
 茜が彩に背中を見せ、走りだそうとした時であった。


「いざ尋常にでござる」


 彩は、制服の中から手裏剣やクナイを取り出し、大きなアリに立ち向かおうとしている。
・・逃げる?この私が?から?それだけは絶対にない。
 茜は意を決して、木の側に落ちていた、木の棒を掴んで彩の隣に並ぶ。
 剣道の構えのように、両手をきちんと握り締め、アリを睨みつける茜。


「茜殿は、逃げていいでござるよ」


「馬鹿な事言わないで。私は勝負部部長よ?勝負からは絶対に逃げない!!」


 ハァァァッと言いながら、アリへと走り出す茜を援護すべく、素早く木に登った彩は、上から手裏剣を投げて茜を援護する。


 手裏剣があたったアリが怯んだ隙に、茜が木の棒を叩きつけた。
 一撃では倒せないだろうと考えていた茜は、面、胴、小手、突きーっと、木の棒でアリを乱れ撃ちする。
 その光景を上から見ていた彩は、体育の授業は絶対剣道を選択しない事を密かに決意する。


「ハァ、ハァ、当然の結果ね」


 動かなくなったアリを見ながら、茜がそんな事を呟いていると、後ろから声をかけられた。


「まさに悪鬼羅刹でござる」


「ハァ、ハァ、褒め言葉として受け取っておくわ」


 そんな二人のやりとりをよそに、アリ兵隊は静かにお尻をふる。
 アリ兵隊が仲間を呼んでいる行動なのだが、二人は気づかなかった。


 木の下で再度休もうかと、歩きだした時であった。
 アリ兵隊が出てきた草むらから、また音がする。


「今度は拙者が、お相手致すでござる」


 アリ兵隊の側に落ちている手裏剣などを拾いながら、彩がそう告げるのだが、音がさっきより大きい。


 ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ。


「さ、彩。何か様子が変じゃない?」


 茜が心配そうにしていると、予感は的中してしまう。
 さっきのアリ兵隊が3体、草むらから飛び出してきた。


「うむ。これはちょっとマズイでござるよ」


「ちょっとどころじゃない!彩!逃げるわよ!」


 嫌な予感ほど良く当たるとは、良く聞く言葉ではあるのだが、ここでそれはないじゃない!と心の中で叫びながら、茜は疾走に切り替える。


「忍法煙隠れの術」


 彩は制服のポケットから、丸い玉をとりだして、下に思いっきり叩きつける。
 地面にぶつかった丸い玉は、モクモクと白い煙があがる。
 花火玉の一種で、煙玉と呼ばれる物であり、衝撃などで玉が破裂すると、煙があがる仕掛けであった。
 ただし、子供のイタズラなどが酷い為、この花火玉は非売品である。


 茜は後ろを振り返りながら、何故非売品のはずの花火玉を彩が持っているのか、不思議に思いながら、疾走から全力疾走に切り替えた。


「茜殿。勝負してきてもいいでござるよ」


「武器などを揃えたら、一匹残らず倒すわよ」


 後ろからアリが追ってきているのが、音でわかる。
 茜は心の中で、リベンジを誓うのであった。


 ___________________________


 茜がアリ兵隊をボコボコにしている頃。


「アリスちゃん。これもお願い」


 アリスとレイラはメイド喫茶で働いていた。
 無論、お金を稼ぐ為である。
 アリスとレイラに仕事を教えてくれたお姉さんは麻友さんと名前らしく、忙しそうにしながらも、気にかけてくれている。


「わかった」


「アリス。これ」


「アンタのはヤダ」


 麻友から渡された食器を洗いながら、レイラが持ってきた食器は断るアリス。
 ベーっとするアリスに、イラっとするレイラ。
 現在二人は別々のポジションについている。


 レイラはメイド服に着替えて、ホールを担当している。
 アリスは残念ながら制服がないということで、キッチンで食器を洗っていた。


 レイラは手慣れた手つきで、コーヒーを運んだり、ケチャップで文字を書いてほしいと言う、リクエストに答えたりしている。


「・・♡マークですか。すいませんが描けません・・いえ、描けないのではなく・・そ・の・・テトにしか描きません」


 ボソボソ呟かれた言葉は聞き取れないが、描いてほしいとお願いしたお客は、なぜか嬉しそうにしていた。
 レイラが顔を赤くして、恥じらう姿がとても可愛いかったからである。
 レイラが顔を赤くするのは、最後の言葉を恥じらっての事であるが、お客達はウブな少女として見ていた。
 お客が喜んでいる姿を見てしまっては、注意する事ができない。


 麻友は、お客様のリクエストである♡マークをケチャップに描きながら、レイラなら大丈夫だろうと思っていた。


 一方アリスは泣きそうになっていた。
 アリスにとっては、2回目のアルバイトであった。
 前回は、無銭飲食の疑いをかけられそうになった為であり、その時もこうやってお皿を洗っていた。


「私だって!私だって!ケチャップで文字ぐらいかけるわよ!!」


 働くと必ずお皿洗い。
 お皿洗いしかできないと、思われてしまっているのではないだろうか。
 まるで見下されている気がして、アリスはイライラしていた。


「痛ッ」


 イライラしながら洗っていたら、お皿を割ってしまい、指を切ってしまった。
 流れる血を見ながら、固まっているアリス。


「アリスはマヌケでドジなのですか?」


「な、何ですって!!」


 レイラの声に、怒りながら反論するアリス。
 すると、レイラは急にキョロキョロしだして、辺りを見渡している。


 不思議に思いながら、様子を見ていると、側まで駆け足でやってきた。


「な、何よ!?やろうってわけ!?」


「やったら、アリスが惨敗しますよ?」


 悔しいが返す言葉が見つからないアリス。
 クリフに力を奪われなければ、互角、否、自分の方が強いはずだと、アリスは思っていた。


 グヌヌっと、顔を赤くするアリス。
 それには御構い無しと、レイラは急に手を握ってきた。


「誰も見てませんから」


 そう言って、回復魔法を使うレイラ。
 アリスはキョトンとしながら、レイラを見て呟いた。


「・・・ありがとう」「・・・え?」


 アリスが何か言ったのかは解ったが、ボソボソと呟く言葉に、レイラは何て言ったのかと聞き返した。
 アリスにもワザとだとレイラの表情から伝わり、顔を赤くしながら言い直す。


「ア、アンタの持ってきた食器も洗ってあげるから持ってきなさいって言ったの」


 どう考えても、そんなに長い文章を喋っていたとは考えられないが、その事には触れず、レイラはキッチンの死角にしゃがみ込んだ。


「そうですか。ではコレを」


 ドンっと置かれた食器に目を丸くするアリス。


「ア、アンタ、溜め込んでたわね」


「さて?何の事でしょう?」


 可愛く首を傾げ、レイラはとぼける。
 しかし、洗ってあげると言った手前、断る事ができない。
 アリスはぶつぶつ文句を言いながら、お皿洗いに戻っていく。


 本当に、この娘が魔王サタンの娘なのだろうか。
 レイラはぶつぶつ文句を言いながらも、きちんと与えられた仕事をこなしているアリスを見ながら、そんな事を思っていた。
 何の抵抗もなく、お礼を言うアリス。
 お礼など、言われる立場に自分はいない。
 魔王サタンを倒したのは、なのだから。
 そのうえ、クリフがアリスの力を奪ってしまった。
 どんなに謝っても、許されないだろう。
 だからせめて・・。
 レイラがアリスを見ながら考えこんでいると、麻友から声がかけられた。


「ジェンガ?とは何ですか?」


 あそこのテーブルでジェンガゲームで、遊んできてと言われるが、ジェンガゲームが何か解らないレイラ。
 詳しく話しを聞きながら、レイラはホールへと戻っていった。
 ___________________________


「ぐぉぉぉお!!!」


「や、やめろ!人が見ているから!!」


 ひかりは遂に辿り着いたのだ。
 中学の頃、進路希望に桜ヶ丘高校に進学したいと担任に言ったら、めちゃくちゃ怒られた当時を思い出しながら、心の底から喜びを爆発させる。
 ちなみにひかりが、桜上水高校に入学したきっかけは、桜ヶ丘高校に名前が似ていた為である。
 当時の担任はまさかひかりが、学年主席になるなど、思ってもいなかったであろう。


 ひかりが、正門前で雄叫びをあげる。
 当然、何事かと生徒達が振り返って見てくる。
 ひかりの後ろにいた、かつまとありさからしたら、たまった物じゃない。
 かつまがひかりをとめに入り、ありさは他人のフリを決めこんでいた。


「か、かつま。ここは天国なのだろうか?」


 涙目でたずねてくるひかり。


「レイラに会ってない世界が、お前にとっての天国なのか?」


 かつまにそう言われ、首を強くふるひかり。
 そんなひかりを見て、かつまとありさは羨ましいと感じてしまっていた。


 こんなに夢中になれる物があるって事にだ。


 かつまとありさは、目でアイコンタクトをとり、ここはゲームなのだから、ひかりの気の済むままにさせてやろうと、目だけで会話する。


「レ、レイラーーー!!愛してるぅぅ!!」


「ば、馬鹿野郎!!」


 何を思ったのか、ひかりが急に両手を口に添えて、校舎に向かって叫びだした。
 かつまは慌ててひかりを、抱き抱えてその場から立ち去る。
 ありさは涙目になりながら、優しく微笑んでいた。
 チラッと後ろを振り返るかつま。
・・やっと仲間ができたみたいな目でひかりを見るな!!
 心の底から、ありさにつっこむかつまであった。


 ___________________________


 ひかりが、校舎で愛を叫んでいた頃、カズトもまた叫んでいた。
 愛を叫ぶのではないのだが。
(全く。勘弁してくれ)
 カズトは頭を抱えてしまっていた。


 情報収集を兼ねて、酒場に立ち寄った時の事である。
 RPGをやるうえで、酒場はとても大切な場所と言っていいだろう。


 酒場でダンジョン攻略のヒントを聞いたり、仲間を集めたり、体力の回復だったりと、とても重要な役割を担っている場所、それが酒場である。


 カズトはそう考え、ナナに寄って行こうと提案したのだが、ナナは恥ずかしそうにしながら断ってきた。


「すすすすいません!私、お金を持っていなくて」


 酒場で、聞きこみだけで済ませるつもりだったのだが、どうやらナナは、食事をするんだと思ってしまったみたいだ。


 ここで、何も食べたりしないと言ってしまうと、ナナが更に顔を赤くしてしまうかもしれない。
 お腹は空いていないが、喉は渇いている。 
 飲み物ぐらい飲んでもいいだろう。
 アリスとレイラに、心の中で謝罪し、ナナに提案する事にした。


「ナナ。代ぐらい、俺が出すさ」


 飲み物にワザとアクセントをつけ、ここでは何も食べない事をアピールするカズト。
 ナナもそれに気づいたのか、うなずこうとした時であった。


「あ!きたニャ!アリス様を置いて逃げたゲス勇者」


 獣人族の若い女の子に、声をかけられるカズト。


「あれは違うと説明しただろ!それと、ゲスって言うな」


「そうだったかニャ?おっ?今日は違う女の子を連れてきたのかニャ?」


「いつも違う女の子を連れている、チャラ男みたいに言うのをやめろ。席に案内してくれ」


「チャラ男?まっいいニャ。コッチにくるニャ」


 この子は接客というのを解っているのだろうか?しかし、ここはゲームの世界。
 接客に対して何か言うのは、間違ってしまっているのかもしれないと、カズトは無言で席に着く。
 ナナにとっては初めての体験の為、カズトを見習って無言で席についた。


「まぁ何だ。好きなのを選んでいいぞ」


「あ、ありがとうございます」


 ナナはカズトから手渡されたメニュー表を受け取り、ドリンクと書かれた所を眺めていく。
 あ!っと声をあげた後、メニュー表の下からヒョコっと顔を見せるナナに、カズトが首をかしげていると、ナナは申し訳なさそうに呟いた。


「こ、このスライムソーダでお願いします」


「・・・それじゃないとダメか?」


 スライムソーダ。
 この飲み物は名前の通り、スライムが落とす素材から作れる飲み物である。
 その素材とは、スライムの涙と呼ばれるもので、スライムの種類によって様々な物がある。
     スーパー、ハイパー、ジャイアント等、倒すスライムによってそれは異なる。


 カズトはこの飲み物を、飲んだ事がある。
 しかし、それは思い出したくない過去でもあった。
 カズトが質問すると、モジモジしながらもナナは答える。


「ハ、ハイ!アリスさんが、酒場でコレを飲まないのは、人生損していると教えてくださいましたので」


「・・そ、そうか」


 アリスの奴!と内心では思うカズトだが、何を飲むのかは本人の自由であり、カズトが注意する事ではない。
 獣人の女の子に手を挙げて、スライムソーダを注文するカズト。
 酔わせてどうするのだニャ?と言う女の子を無視し、カズトはミルクティーを注文する。


「カ、カズトさん。酔わせるって・・?」


 獣人の女の子の話しを聞いて、ナナが不安そうにたずねてくる。


「ナナ。スライムソーダはお酒だ。しかし心配しなくて大丈夫だ。アリスが言うには体にとてもいい物らしいからな」


 ミルクティーを飲みながら、カズトが告げると、お待ちニャーと言いながら、スライムソーダがナナの前に置かれる。


 見た目は申し分ない。
 シュワシュワと泡立ち、色は青い宝石のように輝いている。
 味も悪くはないのだろうが、俺には早い。


 どんな味かとたずねられたら、大人の味と表現するべきだろう。
 カズトが見守る中、ナナがジョッキに手をかける。


「ナナ!?少しづつ飲んで、あまり無理はするなよ」


「だ、大丈夫です!!んっしょ。」


 そう言ったナナは、ジョッキを傾けて、ゴクゴクと飲んでいく。


 それから10分後。




「コラ!カズト!にょみにゃしゃい!」


 机に並ぶジョッキ。


 あはははと笑うナナ。


 大丈夫じゃねぇーー!!


 カズトは心の中で叫ぶのであった。


 ___________________________


 魔女の森で迷う茜と彩。


 サタンシティーでスライムソーダにやられたナナ。
 そんなナナにやられたカズト。


 秋葉原で、桜ヶ丘高校を目指す為、お金を手に入れようと、メイド喫茶で働くアリスとレイラ。


 そんなレイラに会うべく、桜ヶ丘高校にいたかつまとひかり、ありさの3人。


 この全員が、見事出会う事ができるのだろうか。


 次回に続く??


世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて・・


勝部??





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