世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
特別篇 カズトのアルバイト②上
今日はアリスと一緒に、働く事になっている。
元気よく飛び出していくアリスを見ながら、カズトは不安でいっぱいになっていた。
「なぁアリス。やっぱり、ヤメにしないか?」
「はぁ?なんでよ?」
「いや…それは…だな」
言葉に詰まってしまう。
ナナはオドオドしてはいるものの、基本的には素直で優しい子である。
その為、働く事になっても問題はないだろうと思っていたのだが、アリスはその逆であった。
いつも自信満々でいて、活発すぎるだろ!と、思わずツッコミたくなるほど活発な幼女。
それが、アリスである。
「欲しい物があるって言ったじゃない」
「前にも言ったが、ゴン◯山は、買えないからな」
「わ、分かってるわよ」
本当に分かっているのかと、問いただしたい所だが、あいにく時間がない。
今日は10時〜18時まで駅の近くにあるスーパーで、品出しのバイトである。
接客業でもなければ、誰かに声をかけたり、かけられたりするような仕事ではないのだから、アリスでも出来るだろう。
そう自分を納得させて、アリスと一緒にスーパーへと向かった。
ーーーーーーーー
「で、何をすればいいのよ?」
「…今の店長さんの話しを、聞いていなかったのか?」
「き、聞いてたわよ!」
なら、何故分からん!と、言いたいのをグッとこらえ、分かりやすいようにと説明をする。
「いいか?店内を見回って、少ない商品を補充するのが、俺達の仕事だ」
「ふむふむ」
「例えば、このポテチと呼ばれる商品が、もしも少なくなっていたら、ここにあるポテチを売り場に持って行って補充する。な?簡単だろ」
「ようは、少なくなったのがあったら、アンタに言えばいいのね!」
「全然違う」
「だ、大体、店内とか売り場とか意味分からないってぇの」
何故分からん!と、言いたいのを再びこらえ、ナナにしたようにアリスにも、向こうの世界の物で例えながら説明をするカズト。
「はぁ…いいか。例えば、店内が酒場だとしよう。お前は酒場の店員だ。酒場の店員は、注文を聞きに店内を見回っている。ここまではいいな?」
「まぁ、見た感じそうね。それで?」
「売り場とは、お客様だと思え。料理や飲み物が少ないと、おかわりを頼むものだ。おかわりを頼まれる前に、俺達がサッと動いてサッと持って行く。今日の仕事はそんな感じだ」
可愛らしく首を傾ける仕草を見たカズトは、頭痛を覚えながらも、アリスに告げた。
「とりあえず、付いて来い」
一回だけ自分が、手本を見せれば大丈夫だろうと考えたカズトは、アリスにそう伝えた。
こうして、二人の仕事はスタートするのであった。
ーーーーーーーー
とりあえず、店内を一通り案内する事にしたカズト。
「ここが野菜売り場だ」
「ちょ、ちょっとカズト!一大事だわ」
「な、何かあったのか?」
急に、あわあわと震え出したアリスを見て、一瞬ドキッとする。
「ピ、ピーマンが減っている…ですって」
「…特売日だからじゃないか?」
「あ、あんな不味い物、良く買う気になるわね」
「はぁ…次、行くぞ」
ため息をつきながら、次のブロックへと移動を開始する。
ーーーーーーーーーー
「ここにパン売り場があり、あっちが魚売り場。で、こっちが肉売り場だ」
「ふーん。これらも、少なかったら補充するの?」
「嫌、これらは別の人が担当する」
「は?だ、だったら何で私を歩かせるのよ。疲れさせたいわけ?嫌がらせなの?」
「…いいかアリス。お客様に道を聞かれた場合の事を常に想定してだな」
「お客様(お菓子)は喋らないと思うんだけど…」
「…さっきのは、例えばの話しだ。いいからついて来い」
ブーブー文句を言うアリスを引き連れ、再び各部門を教えていく。本当であれば中断したい所なのだが、もしアリスが、お客様に場所を聞かれたら困る為であった。主に自分がだ。
ーーーーーーーー
売り場を案内するだけだというのに、何故こんなに疲れないといけないのだろうか。
「…ここが俺達の担当エリアだ」
ともあれ、ようやくアリスと一緒に担当する事になった、お菓子売り場にたどり着いた。
「カ、カズト、カズト」
「…今度は何だ」
ビューッと走り出したかと思えば、遠くの方から手招きをするアリス。
呼ばれてしまっては、無視する訳にもいかず、仕方なくアリスの元へと歩くカズト。
「これ買って!」
グイッとお菓子を突きつけられるカズト。
「分かった分かった。仕事が終わった後でな」
「…なら、さっさと終わらせましょ」
「いや、労働条件は時間帯でしばられているわけであってだな、どんなに頑張っても、帰る時間は変わらないって、聞け!」
説明していたカズトであったが、そこにアリスの姿はなかった。
ーーーーーーーーーー
最初の頃はトラブルだらけであったが、徐々に慣れはじめたのか、その後は特に大きいトラブルはなかった。
「一時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだな」
どうやって持ってきたんだ?と、言わずには言られないぐらい、大量のポテチを抱えて現れた時は、弁償も覚悟したカズト。
賞味期限を気にして補充しなくてはいけないという、大切な事を説明し忘れた為、アリスを捕まえて賞味期限について10分間説明する羽目になったカズト。
そんなこんなありながらも、何とか仕事をこなし、時計の針は17時を過ぎた頃である。
「あと1時間か…ふー。ようやく長い長い仕事も終わりだな…あ!はい。野菜売り場ですね」
何度目になるかわからない程、よく売り場を聞かれるカズト。若い女性だけなのは、偶然なのだろうか?そんな事を考えながら、カズトは野菜売り場までエスコートしていた。
ーーーーーーーー
カズトがエスコートしている頃、アリスはというと、補充の仕事をほぼマスターしつつあった。
「フン。楽勝よ」
補充の必要がないか、商品が間違って置かれていないか、商品が曲がったりしていないかをチェックする。
お菓子売り場は一番広い。
駄菓子と呼ばれるコーナーや、スナック菓子と呼ばれるコーナー。ビスケット類にチョコレート類、ガムに飴にと、とにかく広い売り場である。
だからこその二人体制なのだが、派遣で来たアリスとカズトには、わからない事であった。
「ビスケット…食べたい。スナック菓子…食べたい。チョコレート…食べたい」
食べたい=OKという意味である。
「ガム…た、食べられた。飴…食べたい」
食べられた=補充せよという意味である。
「こ、このガムっていうお菓子は、よく食べられるけど…美味しいのかしら」
異世界にはないガム。
当然、食べた事など一度もない。
「そもそもこんなに小さいお菓子を食べて、お腹いっぱいになるの?」
ガムと呼ばれる細長いお菓子をジロジロ眺めていると、不意にスカートの裾を掴まれた。
「ん?何かようか?小童」
アリスのスカートの裾を引っ張ったのは、小さな男の子である。
「これ、泣いていては分からんぞ」
その小さな男の子は、何故か泣いていた。
アリスは男の子の頭に手をやり、泣いている理由を尋ねた。
「…ママ」
「え?」
「ママーー!」
「ま、待て!我は小童の母ではないわ」
何故か、更に泣いてしまった男の子にアリスは焦った。そもそも初めて会う男の子に、母親と間違われる意味がわからない。
「落ち着け。な?小童よ。名は何と申す」
泣いていては話しにならないと思ったアリスは、とりあえず泣くのをやめさせる事にした。
「…グス。た、太郎」
「うむ。我はアリスじゃ」
「アリ…ス?」
「そうじゃ。太郎は何故泣いておったのじゃ?ママとか言っておったが」
アリスがママと発音した所で、太郎はまた泣き出してしまった。コレはらちがあかないと思ったアリスは、カズトを呼びに行くか迷ってしまう。
アリスは魔王サタンの娘にして、魔族、悪魔族といった種族の頂点に君臨している。
向こうの世界にも、ヒューマン族と呼ばれるカズト達みたいな種族はいる事はいるのだが、あまり関わりを持つ事がない。
そもそも自分達は人間を驚かせたり、怖がらせたりして、負の感情をコントロールする種族であり、特に小さな子供には恐れられている。
早い話し、ヒューマン族の子供の接し方が分からないのであった。
「う…困ったわね。怖がらせろと言われたら簡単なんだけど…ったく、あの馬鹿は何処に行ったのよ」
さっきまでカズトがいた場所に目をやるも、カズトはエスコート中でいない。
「マ、ママーーーー!」
「泣くでない!良いか太郎?そう簡単に、男の子が泣いてはいかん」
段々、イライラしてしまったアリスは、少し強めに注意する。注意された男の子は当然、更に泣き出してしまう。
だぁぁあ!!っと、叫び出したいのをグッとこらえ、アリスは考えた。
「…そ、そうか小童!腹が減っておるのじゃな!」
まだ喋る事の出来ない小さな子供は、腹が減ったので何か下さい!と、泣く生き物だった事を、アリスは思い出した。
手に持っていたガムを太郎に向け、ようやく分かった…と、ニヤリと笑みを浮かべるアリスであったが、全くの見当違いであった。
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