世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第四章ニワトリン討伐…下
水中から戻ったアリスの話しを聞いたカズトであったが、全く持って分からなかった。
水中でジェスチャーゲームをしている場合か!と、怒りたい衝動を抑えるカズト。
今は戦闘中であり、強敵である。
「…話しは後だ。アリスは隣、レイラは少し離れてくれ。ナナ!」
「ハ、ハイ!?」
何故かしょんぼりしているレイラを無視し、カズトはナナを呼ぶ。
「いい感じだ!その調子で頼む」
洞窟が崩れないように調整された魔法であり、敵にダメージを充分与えられるほどの威力でもあった。
「はい!エヘ、エヘヘ」
嬉しいという事を隠そうともせず、ナナは照れくさそうに笑う。ナナも後で説教だな、と、心に誓うカズトは、殺気じみた視線を感じる。
その殺気はニワトリンからではなく、アリスとレイラからであった。
「ちょっとアンタ!?私も褒めなさいよ」
ビシッと指を向けるアリス。
「…褒められるような事したのか?」
それを冷たくあしらうカズト。
「洞窟内を見た後くしゃみをした所為で、ニワトリンには気づかれるわ、独断専行で走り出したかと思えば、特に何もしていないだろう」
「ぐぬぬぬぬ」
悔しそうに歯ぎしりするアリス。
言い返そうにも、言い返す言葉が見つからない。
「…テト」
すると、レイラがグイッと一歩前に出る。といっても、少し離れた所からで、その表情から、私は?と言っているのは明らかであった。
(…ったく、戦闘中だっていうのに)
ため息を吐きたい衝動を抑え、レイラにも声をかけた。
「アリスを庇った行動は流石レイラだ。この調子で頼むぞ」
実際、レイラの機転が無ければ、アリスは爆発に巻き込まれていたかもしれない。
そうなった場合、魔法を発動したナナに、トラウマを植え付けてしまう結果になっただろう。
アリスが倒れ、ナナが魔法を発動出来なくなった場合、カズト達は全滅していたに違いない。
そう考えたカズトは、レイラを素直に褒めた。
「……はぃ。頑張ります」
嬉しそうに微笑んだレイラを見たカズトは、ニワトリンの方へと顔を向ける。
もくもくと白い煙が無くなると、そこには、鬼の形相をしたニワトリンが立っていた。
「来るぞ!?」
身構えるカズトは三人に、注意するようにと呼び掛けた。
「……!?」
突然目の前に現れたニワトリンに驚くアリス。
初心者冒険者であったならば、そのまま死んでしまっていたかもしれない。
「…クソ」
振り挙げられる下からのアッパースイングをアリスは、瞬時に身体をグルッと回転させる事で回避する。
「…アルファーだったか?」
ニワトリンはそう呟くと身体をグルッと回転させ、下から振り挙げた右手をそのまま再度下から振り挙げる。
「まさか…火炎狩りアルファーの応用なのか…アリス!?」
先ほど見た技を、そっくりそのままお返しをするニワトリンの技量に驚くカズト。
まともにくらえば、いくらアリスといえどマズイ事になる。
まともにくらえば…の、話しだ。
「フン。ヘルズナックル」
グルッと回転したアリスは、そのまま右手を相手の顔面目掛け、繰り出した。
下から上へと突き挙げる拳と、フィギュアスケーターみたいに華麗にターンしながら繰り出すアリスの裏拳。
必然、アリスの拳の方が早くあたった。
「す、すごい…」
遠くから見ていたナナは、思わずそう呟いた。
カズトの隣を過ぎ去り、一瞬にして間合いを詰めたニワトリンに対し、注意するよう呼び掛けようとした時には、アリスは既に裏拳を繰り出していた。
すごいとしか、言いようがなかった。
「…立ちなさい。そして、理由を教えなさい」
右手を腰にあて、ガラガラと崩れ落ちる瓦礫を見ながら、アリスはニワトリンに話し掛けていた。
「貴方が魔王軍の幹部だと言うのであれば、お父様、いえ、魔王サタンの部下だったって事よね?なぜ、こんな事になっているのよ」
こんな事をしているのか?ではなく、こんな事になっているのかと、アリスは尋ねた。
こんな事をしているのかなど、聞いた所でもう遅い。事は既に始まっているのだから。
ならば、なぜ、こうなったのかを聞くのが普通だろうとアリスは考えた。
「我が魔王軍の目的は、人々の負の感情を吸収する事にあったはず。確かに、吸収するだけが全てではないわ。適度に与える事だって必要とされている…けど」
アリスはそこで一旦言葉を切った。
歯ぎしりする、苦虫を噛み潰したような、そんな表情でアリスは訴えた。
「これは違うわ!これは、人々に恐怖を与えるもの何かじゃない!人々をただ困らせているだけじゃない!!」
街の人々からタマゴを奪う。
タマゴの収穫に来た人ならば、最初は恐怖しただろう。しかし、繰り返せば人々はタマゴの収穫を諦め、洞窟に来なくなる。
それでは意味がないじゃないか。
確かに、無意味ではない。
タマゴ料理が食べれないという不満はでる。
不満=負。
しかし、それが当たり前になった場合、不満は無くなる。アリスが納得出来ないのは、その一点だけであった。
「魔王になりたいと思う人は沢山いるわ。だから、アンタが魔王になりたいと言う気持ちが、嘘か本当かなどどうでもいい」
睨み殺すようなそんな表情を浮かべ、アリスは構えた。その瞳が、金色から赤く染まっていく。
「魔王になって、人々を困らせるだけだって言うのであれば、この地位は譲ってあげられないわ」
アリスの思い、三人は何も言えないでいた。
特に、レイラとカズトは複雑であった。
魔王討伐の為に、旅をしてきたレイラ。
魔王は悪いヤツだからという理由だけで、魔王を討伐したのは、自分達である。
また、それを操作していたのはカズトである。
もしかしたら、何か間違えてしまったのだろうか。いや、間違えてしまったのだろうな…俺は…。
魔王とは?勇者とは?
それはあくまで、勝手なイメージだけがそうさせているだけなのではないだろうか。
勇者=いいヤツ。
魔王=悪いヤツ。
一体それは、誰が決めた事だと言うのだ。
そんな、回答なき疑問に頭をよぎらせていると、ニワトリンがゆっくりと立ち上がり、おもむろにに口を開くのであった。
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