世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第四章 ニワトリン討伐…上
『主な登場人物』
・輝基 和斗・・・本作品の主人公。ゲームをクリアーしたのだが、アリスの魔法により異世界にワープする事になった。
・アリス・・・勇者軍に倒された魔王サタンの娘であり、現魔王軍を率いる女王である。勇者軍に奪われたブラッククリスタルを取り戻す為、カズトを召喚したが、クリフに力を奪われてしまう。
・レイラ・・・勇者軍の1人。レイラについたあだ名は戦略兵器レイラであり、カズトの事を勇者テトだと思っている。かつて仲間だったクリフをとめるべくカズト達と行動を共にする。(元人間)
・ナナ・・・魔女族。大切な姉を助けるべく、カズト達と行動を共にする。
・輝基 美姫・・カズトの妹で、ブラコン(重症)
・ナナミ・・・ナナの姉。大切な妹を守る為、魔女族を滅ぼした。一族殺しの魔女が通り名である。
・クリフ・・勇者軍の1人。クリフについたあだ名は魔法剣士クリフであり、ブラッククリスタルにより性格が変わってしまう。
【本編】
ニワトリンが両手を挙げ、大きな声で叫ぶと、洞窟内に大きな声と風が、激しく吹き荒れた。
「…くっ!?」
両目を開けていられないほどの風圧、耳を塞ぎたくなるほどの声に、カズトは両腕でガードする。
「だぁぁあぁああ!!」
「ア、アリスさん!ダメーー!!」
ニワトリンに向かって走り出すアリス。
アリスの完全な独断先行に、ナナは引き止めるべく声をかけたのだが、アリスは止まらない。
ニワトリンの前には、温泉がある。その為、真っ直ぐ突っ込んで行くわけにもいかないので、右から攻めるアリス。
「アリスのヤツ…ナナ、レイラ!行くぞ!!」
それを見たカズトは、作戦を考えるのを後回しにし、すぐさま行動を起こした。
「ナナは正面から魔法を打ってくれ…レイラはアリスの後を追うんだ」
「は、はい!」
「…テトはどうするのですか?」
「俺は、左から攻める。行くぞ」
右からアリスが攻め、左から自分が攻める。
正面には温泉がある為、ナナの魔法ならば問題はないだろう。
アリスがやられた場合、レイラが近くにいれば問題はないし、逆に自分がやられたのであれば、アリスとバーサーカーレイラのタッグになるという事だ。
カズトは瞬時にそう判断して、走り出すのであった。
「フム。幼女ばかりではないか」
戦闘態勢に入る四人を見ながら、ニワトリンは首を傾げた。
「花嫁候補ぐらいにならしてやってもいいのだがなぁ」
アゴに手をあて、呟くニワトリン。
「誰がアンタと結婚したいって言ったのよ」
動き出した四人の中で、一番最初にニワトリンの元にたどり着いたのはアリスであった。
一番最初に動き出したのだから、当然といえば当然である。
そんなアリスに向かって、ニワトリンは右手を真っ直ぐ伸ばした。
「…ちっ!!」
ニワトリンの手の平を見て、魔法が飛んでくると判断したアリスは、舌打ちしながら、立ち止まった。
「違うちがーう!貴様だけは絶対に花嫁にしてやらん」
「はぁ?この中で言ったら、私が一番いいに決まっているじゃない」
聞き捨てならんと、アリスは右手を胸にあて、力説しだした。
「た、確かに、料理は苦手だし、掃除もあまりやらないし、洗濯をしたら、ボロボロに破けちゃうけど…」
「ゴミだな」
「……!?」
ニワトリンの一言に、アリスの両目がカッと開かれた。
「だ、誰が、ゴミだぁぁぁぁあ!!」
叫ぶアリス。
今の話しを聞く限りだと、フォローすらできんぞアリス。と、カズト達は思った。
「まぁまぁ落ち着け。貴様がどれだけアピールしても無駄だ」
右手を真っ直ぐ伸ばしたままでニワトリンは、首を小さく左右に振る。
「貴様は今日この日をもって、死ぬんだから、な!」
ニワトリンが、アリスに向かって走りだす。
(魔王の幹部というのが本当かは置いておくとして、ヤツは先ほど下克上と叫んでいた。だとすれば、狙いはアリスか)
ニワトリンの動きを見て、カズトはスピードを上げる。背後からの奇襲攻撃を仕掛けるべく動き出したのだが、ニワトリンのスピードの方が上であった。
「ヘルズアタック」
猛スピードで襲いかかってくるニワトリンに対し、アリスは守るのではなく、攻撃を仕掛ける事を選択する。
(ふん。あの馬鹿の方が、よっぽど速いわよ)
かつてバーサーカーレイラと戦った事があるアリスにとって、ニワトリンのスピードなど大した事ではない。
「残念、無念。ほら!食らうがいい」
アリスの正拳突きを、高くジャンプする事で交わしたニワトリンは、上空からアリスに攻撃を仕掛けた。
「タマゴ爆弾!ハハハハハッハ!くらえくらえ」
タマゴが上空から、霰のように降ってくる。
「フン。誰が、そんな、攻撃。当たるもんですか」
サッサッサッと、右、左、後ろ、と、攻撃をかわしていくアリス。
これは好機だ。
ニワトリンが地上に降りて来た所を、背後から一撃喰らわせてやる。
カズトはそう判断し、足をとめて剣を構え直した。残念ながら虎徹はまだ使えない。虎徹を使える為の発動条件である、女の子を救うという条件が、満たされていない為である。
街で買った剣を腰に置き、ニワトリンが降りて来た所を、はやぶさ狩りで攻撃する。
居合い斬りの三連撃。
レベルが分からないが、背後からの奇襲であれば、無傷では済まないはずだ。
「……?」
しかし、ニワトリンは地上には降りて来ず、上空からタマゴを投げ続けていた。
「…天井にぶら下がっているのか?」
天井からぶら下がっているニワトリンは余裕の表情で、アリス目掛け、タマゴを投げ続けている。
「ったく、鬱陶しいわね……!?」
交わし続けるアリスであったが、突如、動きがピタリと止まった。
「アリス!?」
鼻を抑えるアリスに、危ない!っと、声をかけるカズト。
「キャッ!?」
その一瞬の隙を、見逃すニワトリンではない。
タマゴが数個、アリスに直撃してしまった。
「レイラ!」
床に倒れたアリスを見て、カズトはレイラに、カバーするよう指示を出す。
「ハイ…こ、これは?」
床に倒れたアリスの元へとやって来たレイラは、思わず鼻を抑えた。
「何だ!?どうした!?」
アリスに続き、レイラまでも鼻を抑えるという仕草に、カズトはレイラに向かって叫んだ。
「ハハハハハ!どうだ、臭いだろう。我輩のタマゴは腐っているのだぁーぁはっはははっは」
どうやら、生タマゴでも茹でタマゴでもなく、タマゴ型の何かだったらしいと、床に散らばるタマゴの残骸や、ニワトリンの言葉、アリスとレイラの態度から、そう判断するカズト。
「イッタイわねぇ…って、く、くさ!?」
床から置き上がるアリスであったが、あまりの臭さに、再び鼻を抑えて、後ろに退いた。
「ちょ、ちょっとアンナ!く、くじゃすぎよ」
鼻をつまみながら喋るアリス。
何を言っているのかさっぱりであった。
「……アリス」
「レイラ?丁度いい所に来たわね!ちょっとアイヅを下に蹴り落として来て…って何よ?」
「臭いです」
「……!?あ、アンタも私と同じ目に合わせてやろうかしら」
「け、喧嘩してる場合か!」
下に散らばるタマゴの殻を拾い集め、不気味な笑みを浮かべるアリスに、鼻をつまみながら後ずさりするレイラ。
「と、とにかく、地上に降ろします!」
空中戦は不利というより、勝負にすらならないと判断したナナは、ニワトリンを地上に降ろすべく、魔法を発動する事を選択した。
「フレイム」
杖をニワトリンに向け、ナナは魔法を発動する。
「匂い…臭い?ま、待てナナ!!」
匂いの正体がもしもアレだった場合、火属性の魔法は危険だ。そう判断し、声をかけるカズトだったが、残念ながらナナの魔法の方が早かった。
ナナの杖から赤く燃える炎が、天井にぶら下がっているニワトリンに向かっていく。
「ふむ。一時避難だな」
ニワトリンはそう言うと、天井を蹴って温泉の中へとダイブする。
「…やはりか。アリス!レイラ!湯の中へ飛び込め!!」
ニワトリンの対応から、自分の仮説が確信へと変わったカズトは、二人に指示を出した。
「はぁ?何でよ」
急に指示を出されたアリスは、理由がないと嫌だから理由を言いなさいと、カズトにたずねた。
(…くっ。時間が惜しいっていうのに)
思わず、舌打ちしてしまいそうになるカズト。
このまま地上に、二人を残してはいけない。フレイムはもうすぐそこまで迫っていた。
(どうする?)
僅か数秒の間に、説明している時間などないと、迷うカズトだったが、迷う必要がなくなった。
テトの命令は絶対!と、何だか危ない事を呟きながら、レイラが動いた。
「ちょ、ちょっと、馬鹿レイラ!わ、私は猫じゃない」
レイラはアリスの首元をガッと掴むと、そのまま温泉の中へと走り出す。
「…理由なら多分、アリスが臭いからです」
「あーなるほどぉ。だから風呂に入れって、ア、アンタ…覚えておきな…ブクブクブク」
何か言っていたようだが、よく分からん。
沈んでいく二人を見送りながら、カズトは後ろに下がった。
チリ…チリチリ。ドォーーン!!
爆音と煙が、部屋の中を支配する。
「やはり、ガスだったか…ん?ナナ?」
部屋の中にある岩かげから、部屋の中を見渡すカズトは、ナナが何かに驚いているのを目撃する。
何がおきたのか分からない。そんな表情とともに、自分の両手をジロジロと見ていたナナは、何かに気づいたのか、杖をギュッと握りしめ、嬉しそうに呟いた。
「わ、私…レベルがあがってる?う、うん。絶対そう。いつものフレイムじゃなかったもん。これならきっと、お姉ちゃんだって…」
幸せそうな表情を浮かべるナナを見て、ガスに引火しただけだと告げずらくなるカズトであった。
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