世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第四章 ボステム洞窟 中
入り口付近は導火線があった為、特に苦労はしなかったのだが、奥に行くにつれ、だんだん暗くなっていく。
こればかりは仕方がないので、カズトはたいまつを取り出し、ナナのフレイムで火をつけた。
薄暗い洞窟の中を歩く四人。
当然、周囲を気にするカズトやレイラ、ナナであったが、先頭を歩くアリスは、特に気にした様子がない。
「ちょっと、もう少しペースをあげなさいよ」
「無茶言うな!辺りは暗いんだぞ…にしても、アリスはあまり気にしていないようだな」
「当たり前じゃない!今の私が何だったか、思い出してみなさい!」
「……子供」
「違うわよ!!魔王よ魔王!!夜の王たるこの私にとって、この程度の暗闇どうって事ないわ」
「けけけ喧嘩はダメですよ」
ため息を吐きたい気持ちを、ぐっとこらえたカズトは、少し休憩しようと提案した。
周囲にモンスターがいない事を確認し、近くの岩に腰掛ける四人。
「おそらく中盤あたりまではたどり着いたはずだが…ほら、レイラ」
水を一口飲んだカズトは、レイラに水筒を手渡した。水筒といっても、プラスチック製のフタが付いているタイプではない。
皮でできているタイプの物で、水袋といった方が分かりやすいだろう。
その水袋を渡されたレイラは、水袋をジッと見つめたまま固まってしまう。
「テト…と、か、間接…キ、キス」
顔を赤くしながら、水袋とカズトを交互に見るレイラ。カズトはたいまつを持って周囲を警戒していた為、気づいていない。
このまま飲まないと、次に飲むアリスやナナが困ってしまうし、テトとの間接キスになってしまうと考えたレイラは、意を決して飲もうとしたのだが…。
「馬鹿レイラ!さっさと飲みなさいよ!」
「……!!」
バッと、レイラの水袋を奪い取ったアリスが、ごくごくと水を飲み始めてしまうのであった。
固まるレイラ。
「プハー!生きかえるわね。ホラ、ナナ」
「あ、ありがとぉおあわわわ…ふー。危なかったです…ひぃ!?」
「・・・。」
水袋を落としかけ、何とか落とさずにすんだナナだったが、自分をジッと見つめるレイラの表情に驚いた。
「あ、あ、あの!?よかったらお先にどうぞ…」
よほど喉が渇いていたのだろうか?
ナナはレイラに水袋を手渡しながら、そんな事を考えるのであった。
ーーーーーーーー
少し休憩した後、再び出発するカズト達。
モンスターに遭遇すれば、アリスとカズトで向かい討ち、少し怪我をすればレイラの回復でやり過ごす。モンスターの大群がきたらナナの魔法で一掃する。
冒険の基本とも呼べる戦術で、レイラがバーサーカーモードにならないよう注意しながら先に進むと、明るい道にたどり着いた。
「怪しいな」
たいまつの火を消し、カズトは壁を調べはじめた。当然、何をしているのか分からないアリスやナナが質問する。
「何やってんのよアンタ」
「見ての通り壁を調べてるんだよ」
「ままままさか、キノコを探しているんですか?」
「…違います。壁を調べる事によって、様々な情報が手に入るのです。例えば…」
レイラは壁に近づいて、ナナとアリスに説明する。
「見て下さい。大きなひっかき傷があります。おそらく、ニワトリンは強固な爪を生やしているかもしれません」
洞窟内の壁は、固い岩やら石、土などで出来ている。その為、当然強固なものだ。
壁に出来た真新しいひっかき傷を指差しながら、レイラは補足する。
「ニワトリンでないモンスターの可能性が、ないわけではありません。しかし、ここまで大きい爪の跡は見た事がないです」
「なるほどねっていうか、ニワトリって爪なんかあるの?」
「ニワトリじゃなくてニワトリンですよ、アリスさん」
レイラの説明に、アリスは質問をしたのだが、それに答えたのはナナであった。
「ナナの言う通りだが、アリスが今言った事は大切な事だ」
壁を一通り調べたカズトは、三人の会話に加わった。
「ニワトリンって名前からして、ニワトリみたいなモンスターだと誰しも想像するだろう。しかし、実際はそうじゃないかもしれないし、そうなのかもしれない」
「つまりは、両方の対策が必要って事ね」
「その通りだ。今、レイラが言った通り、もしもその大きな爪の跡をニワトリンがつけたと仮定しよう。その場合、ニワトリンは通常のニワトリとは異なる生物だろう」
ニワトリといえば何を連想するだろうか?
赤いトサカに、黄色いくちばし。
全身が白く、後ろ足2本で立っている。
そして、大きな爪など生えていない。
「もしかしたら、ニワトリンという名前をした、熊かもしれないな」
「く、熊!?ですか…」
「心配しなくても大丈夫。俺たちがやる事は変わらないさ」
敵に合わせて戦術を変える。
基本中の基本ではあるのだが、それができるのは上位のパーティだけだろう。
勇者テトや魔法剣士クリフ。
守護神ダンに、戦略兵器レイラ。
かつてカズトが操作していたこのパーティなら、戦術を変える事も出来るのだが、現在のパーティでは難しい。
近距離はカズトやアリスがいる。
中距離なら、アリスとナナがいる。
しかし、遠距離となると、ナナしか攻撃が出来ないのが、今のパーティであった。
「おそらく、そろそろニワトリンがいるはずだ。コレを見てくれ」
カズトは、壁付近に落ちていた骨を指さした。
「ひ、ひぃぃ!?も、もしかして…」
悲鳴をあげるナナ。
もしかしての後に続く言葉を、彼女はあえて言わなかった。
その後の言葉を引き継いだのは、カズトであった。
「おそらく、食事の後だろうな」
「つまり、もう少ししたらニワトリンがいるって事ね」
「そうだ。三人とも、準備はいいな?良し、レイラ」
うなずく三人を見渡した後、カズトはレイラの名前を呼んだ。呼ばれたレイラは、特に何も聞かず、呼ばれた意味を正確に理解している。
「ルミナスディール」
ルミナスディールとは、援護魔法の一つであり、かけられた人は、防御力があがる魔法である。
「良し。アリス、ナナ!」
アリスに先頭を譲り、ナナに気合いを入れるよう叱咤するカズト。勿論、自分も含めてである。
かつて、アリ王様やアリ女王と闘った事のあるパーティメンバーであるが、辛勝だったという自覚が四人にはある。
なめてかかれば全滅する。
同じ考えに全員がたどり着き、それぞれがそれぞれのやり方で気合いを入れる。
「行くぞ!!」
カズトの合図で、四人は先へと進むのであった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
3
-
-
4
-
-
29
-
-
11128
-
-
353
-
-
17
-
-
127
-
-
111
-
-
59
コメント