世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第四章2 カズトの決意 中
カズトは頭を抱えていた。
目の前で女の子が泣いているのだ。
抱えない方がおかしいだろ?
無論、泣いている女の子はナナである。
「まぁ・・その・・アレだ。泣くな」
気にするなとも、大丈夫だとも言えないカズトは、そう言う事しかできなかった。
自分の姉が、悪い方へと変わってしまったと、思い込んで落ち込んでいる時、気にするなや大丈夫なんて言葉は、無責任でしかない。
「・・ひ、ひっぐ。で、でも。」
両手で目元を擦りながら、ナナはカズトに向かって謝ろうとしたのだが、カズトに止められてしまう。
カズトは、右手を前に突き出し、待ったをかけた。
「いいかナナ。俺たちは仲間だ」
「・・・。」
カズトはナナに悟らせるように、優しく、ゆっくりと、自分の思いを伝える。
「仲間である俺たちに、遠慮をする必要はない」
「・・・ばい」
ナナは姿勢を正し、カズトに返事を返すのだが、鼻水のせいで「はい」が、「ばい」になってしまっていた。
カズトは気にせず続ける。
「だからな、ナナ。俺たちが欲しい言葉はそうじゃないんだ」
ここにはカズトしかいないのだが、カズトはあえて俺たちと口にした。
謝って欲しいんじゃない。
そんな事の為に俺は・・。
「そうよナナ!遠慮なんて無用よ!」
「・・・テトとの距離が近いのでは?」
カズトが優しくナナに語りかけていると、ガサガサっと音を立てながら、草むらからアリスとレイラが姿を現した。
両腕を組みながら、偉そうにしているアリス。
両手を下の方で重ねながら、鋭い目つきのレイラ。
「ひ、ひっぐ。み、みなざん」
「二人共無事だったか?良かった・・」
「・・テトも元気そうでなによりです」
「フ、フン。と、当然でしょ!そんな事よりカズト、コロッケを買って来なさい」
やっと、いつものメンバーになった事に、ホッとするカズト。
見た所、誰も大きな怪我を負っていないように見える。
本当は死にかけてしまい、それをナナミに救われたのだが、それはタブーであった。
「いや、アリスは少し遠慮しろ」
「さっきの言葉はどうしたのかしら?まさか私は仲間じゃないとでも?」
「そうです。テトは仲間じゃないと言っているのですよ」
「な、何ですって!!」
「嫌、待て。怒るなら俺じゃなくてレイラにだな・・」
「・・・ふふふ」
いつもの三人だ。
あんな事があったというのに、特に気にした様子もなく、いつも通り自分に接してくれている。
またしても、私は彼等に救われた。
彼等は悪い人間ではないと、わかっていたはずなのに。
ついつい、悪い方へ、悪い方へと考えてしまう。
そんな自分が可笑しくなり、つい笑ってしまった。
くすくす笑うナナを見たカズトは、アリスとレイラを見る。
二人も同じ気持ちだったのか、目があってしまう。
「・・ハハハハハハ」
四人は声にだして笑った。
「良し!今日は特別にコロッケパーティーをやるぞ!」
「賛成!!やっとアンタも解ってきたのね」
「・・しかし、問題があります」
「問題?」
「ハイ。ドワーフのおばちゃんのコロッケが、とぶように売れてしまい、残りが少ないかもしれません」
「ドワーフ?」
「・・・違うのですか?まさか、獣人族ですか?」
「待て。コロッケの前に確認だ。何があったんだ?」
いつもなら、二人の勘違いだろうと考えるカズトであったが、レリスとナナミの件もあった為、確認をする必要がある。
もしそれが、本当なのだとしたら大変な事だからだ。
「ハイ。実は・・。」
レイラが語りだし、アリスが補足する。
カズトとナナは、黙って二人の会話を聞いていた。
ーーーーーーーーーー
一通り話しを聞き終えたカズトとナナ。
「なるほどな。しかし、あの店主はドワーフではない。普通の人間だぞ」
ドワーフと間違えられた、コロッケ屋の女店主。
「あ、ああ、あの。もしかして、レイラさんとアリスさんから作られたんじゃないでしょうか?」
ナナは二人の話しを聞いて、レリスはアリスとレイラから作られたと予想した。
カズトはナナミからその話しを聞かされていた為、驚く事はなかった。
「ハァ?この私がレイラと合体?勘弁してほしいわ」
「・・・それはこちらのセリフです。しかし、残念ながらそのようですね」
「こ、心当たりがあるんですか?」
ナナのこの質問に、レイラは何故か頬を赤く染め、プイっと横を向く。
すると、アリスが茶化すように理由を説明する。
「ふふふ。確かに、コロッケを食べたそうにしていた時のあのマヌケって!!危ないじゃない」
「・・テトの前で変な事を言わないで下さい!それにアレはアリスの・・その・・」
「二人共よせ。それよりも・・。」
それよりもの、後に続く言葉が出てこないカズト。
ナナミから聞かされた情報では、クリフがホワイトクリスタルを狙っている事。
サクラ王国の姫様である、ミキ姫が狙われている事。
レリスは、アリスとレイラからできているという事などだ。
色々と三人に確認したい所だったのだが、それは全て、ナナミに繋がってしまう話しであった。
ホワイトクリスタルについて聞こうにも、クリフがサクラ王国に向かっているという事も、何処から掴んだ情報?と聞かれてしまったら、答えは全て、ナナミに繋がってしまう。
カズトが黙ってしまっていた事、否、黙ってしまわないといけなくなった事に、ナナがいち早く気づいた。
「すすす、すいません。カズトさんはタブーと言う魔法を、か、か、かけられたんです」
だから、うまく喋れないんだと、アリスとレイラに説明する。
ナナの説明を聞いていた二人は、特に気にした素ぶりを見せなかった。
レイラの目が、一瞬光ったように見えたのは、気のせいではない。
おそらく二人は、ナナを気遣ったのだろう。
「ま、まぁいいんじゃない。そんな事より、カズト!コロッケよ!コロッケ!」
「・・・私も食べてみたいです」
「あ、あの!コロッケってなな、何ですか?」
『美味しそうなヤツ(です)』
やれやれ。
楽しそうにじゃれあっている三人を見ながら、頭をかくカズト。
今日はとびっきり美味い、コロッケを作ってやろう。
夕日が沈み、夜がくる。
いつも通りの夕食を。
いつも通りのメンバーで。
できる事なら、この先もずっと・・。
次回第四章2     カズトの決意   下
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