世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて

伊達\\u3000虎浩

第四章1 レリス 下

 
 呼ぶ声がする。
 赤いじゅうたん、嫌、赤い血の海の上で膝をついていた私を呼ぶ声。


 誰かが呼んでいると思わないのは、誰なのかが解っていたからだ。


 忘れる訳がない。
 誰よりも幸せになってほしいと願っている、私のたった一人の家族。


 辺りを見渡すと、死骸の山が築きあげられている。
 無論、築いたのは私だ。
    私は死骸の山を消した。
 真っ黒な死骸を炭くずにして、風の魔法を放てばそれだけで良かった。
 しかし、この血だけは飛ばせない。
 立ち上がろうとする私の体は重たい。
 真っ黒な服が、返り血を吸い過ぎてしまったからか、あるいは罪悪感のせいだろうか。


 唇を噛み締め、私は立ち上がり、自分の家に向けて解除魔法を放つ。
 これで、ナナは外に出られるはず。
 ナナに会いたい気持ちをグッと我慢し、私は森の中に姿を消した。


ーーーーーーーーーー


 どうする?レイラを殺さなくてはならない。
 そうしなければナナが殺されてしまう。
 しかし、相手はこの世界で一、二番目に強い相手だ。
 クリフと互角だとしたら、私では殺せない。
 ・・ん?待てよ。それならば、レイラの側にナナがいれば安全なのではないだろうか。


 森の中で、アリ兵隊や木こり兵を消し去りながら、私はナナを救う方法を考えていた。


 ーーーーーーーーーー


「・・・空いた?」


 収納庫の扉を、下から叩きながら助けを呼んでいたナナは、収納庫の扉に解除魔法がかけられた事を感知する。
 解除魔法「アンロック」
 ナナはまだ使えないが、この魔法は、宝箱や開かない扉などに使えば、開けられる魔法であり、冒険者の必須魔法でもある。
 カズトが操作していた頃は、クリフとテトがこの魔法を使えていた。


 外の異様な声を聞いていたナナは、そ〜っと扉を開けて、顔をヒョッコっと出して辺りを見渡す。


「・・・お姉ちゃん?」


 村の中のあちらこちらから、感じられる姉の魔力の痕跡に、ナナは戸惑いを隠せずにいた。
 自分の家のリビングから、2階に駆け上がるが、そこには誰もいない。


「・・・一体何が・・お姉ちゃん」


 ふと気になって、2階の窓から見た景色に、ナナは声を失ってしまう。
 顔は青ざめ、ガダガタ震えだす体。
 右手で、左腕を強く握り締めながら、窓から顔を背ける。


 村は崩壊しており、辺りは血の海が広がっていた。


「誰かいませんか!!」


 ナナは叫んだ。
 かつて、カズトが同じように、誰かいたら救助するべきだと考え、ひたすら声をあげ続けた。


 しかし、ナナがいくら叫び続けてみても、返事は返ってこなかった。


 ーーーーーーーーーー


 ナナが叫んでいる頃、ナナミは急いでクリフに会った場所へと戻っていた。


 ナナを救う方法は二つあると、考えたからである。
 一つはレイラに守ってもらう方法である。
 二つ目は、自分がクリフを監視、または手下に下る事である。


 クリフの望みを叶えるかわりに、自分の望みを叶えてもらう。
 そう考え、ナナミは魔女の森を突き進んで行く。


「ナナ待ってて。私が必ず救ってみせるから」


 後ろを振り返ろうとする自分に、何度も駄目だと言い聞かせ、ナナミは魔女の森を駆け抜けるのであった。


 ーーーーーーーー


「まさかお姉ちゃんがやったの・・」


 村中から、姉の魔法の痕跡が残っている。
 魔女の森から感じられた姉の魔法。
 村からどんどん遠ざかって行く。
 まるで逃げて行くみたいに感じられる。
 大好きな姉が、生きていてくれたのは嬉しい。


「違う。絶対違う」


 もしかしたら、村がモンスターに襲われた所を姉が助けに駆け付け、今現在、そのモンスターを追っているのかもしれない。
 きっとそうに違いない。
 ナナは自分にそう言い聞かせ、自宅に戻り、ベッドの中に潜り込んだ。
 悪い夢であってほしい。
 毛布にくるまって、ナナはひたすら震えるのであった。


 ーーーーーーーー


 魔女の森を抜け、クリフに会った場所にたどり着いたナナミ。
 しかし、クリフの姿が見当たらない。
 辺りを見渡し、しばらく歩いていると、一本の剣が突き刺さっていた。


「これは?」


 ナナミは剣に触れようとしたが、触れてはいけない気がして、触れる事をやめた。
 近くで何かが光っている。


 ナナミは剣に触れず、剣の周りで見かけた光の元へ歩み寄った。
 そこで見つけた指輪。
 テトと書かれた指輪をナナミは発見する。


 ーーーーーーーー


「あれは、勇者テトの指輪か?」


 カズトはずっと黙って、ここまで見ていたが、ナナミが持ち上げた指輪を見て質問する。
 ナナミはポケットから、指輪を取り出してカズトに投げ渡した。


「これはあなたの物で間違いありませんね?」


 指輪を受け取ったカズトは、指輪を眺める。
 銀色で、真ん中に紫色の宝石があるだけのシンプルな細い指輪。
 指輪の裏には、テトとアルファベットで刻まれている。


「あぁ。間違いない」


 かつてゲームをしている時に、目にした指輪であり、この指輪は一体何に使うのかと、疑問に思いながら装備していたカズト。


「それは貴方にお返し致します。それがあればいつでも虎徹を呼べるでしょう」


「虎徹を知っているのか!?」


 カズトは驚きを隠せずにいた。
 ナナミがこの指輪の使い道を知っていたからだ。
 カズトは虎徹を呼べるのか?と、本当は聞きたかった。
 しかし、勇者テトだと思われているのに、指輪の使い道を知っているのか?という質問は、自分が勇者テトではないと思われてしまうかもしれない。
 そんな感情から、虎徹を知っているのかと言う質問になってしまう。


「はい。使い魔を通じてあの剣は見張っておりました。勇者テトが現れて、剣を取りに戻った時、ナナの事をお願いしたかったからです」


 ナナミの話しを聞くカズト。
 カズトと虎徹の会話は聞かれてなかったらしい。
 聞いていれば、勇者テトだと思わないはずだ。
 剣を取りに来て、剣を抜いていけば、勇者テトだと思われても仕方がない。
 虎徹は、テトにしか扱えない武器なのだから。


「・・そうか。返してくれてありがとう」


 短い間があったが、カズトはこれ以上聞いたり、聞かれたりするのを避ける為、お礼を言って話しを終わらせようとする。
(そういう事だったのか・・通りで)
 カズトはゲームをしていた時の事を、思い返していた。


 常に虎徹を装備している為、指輪の使い道が全く解らなかったカズト。
 ナナミが言う、虎徹を呼べるとはどういう意味なのか?
 答えは簡単である。
 いつでも、何処でも、好きな時に虎徹を呼べるということだ。


 例えば、ダンジョンや森など、モンスターが現れる場所では常に、虎徹を背中に装備している。
 しかし、村や町、王国内では虎徹を装備していない。
 していないというより、してはいけないが正しいだろう。
 王様に会う時、剣を背中に背負って会う事は禁止されている。
 考えた事が無かったが、勇者の指輪が虎徹を隠していたらしい。


「虎徹!こい!」


 左手の薬指に指輪をはめて、左手を真っ直ぐ伸ばして虎徹を呼ぶカズト。
 左手から眩ゆい光が溢れ、カズトの左手に虎徹が現れる。


 カズトの行動を、見守っていたナナミは安堵する。
 正直言って、ナナミはカズトの事を、本当に勇者テトなのかと疑っていた。
 まるっきり強そうに見えない。
 油断していたとはいえ、レリスの攻撃もまともにくらってしまっていた。
 自分がいなかったら死んでいただろう。
 こんな人に、大切な妹を任せても大丈夫だろうか?
 しかし、あのレイラがテトと呼んでいるのだ。


 ナナミは地面にかけた魔法を消す。
 消した後、ナナミはカズトに向けて、深く頭を下げた。


「レイラの件は、謝っても許される事ではないのは解っています。しかし、それでも私はこうする事しか出来ません」


 ナナミはそう言うと、地面に両膝をつき、両手と額を地面についてカズトに向かって叫んだ。


「どうか、どうか私の大切な妹を


 生まれて初めて土下座を見た・・嫌、された。
 それは、あまりにも卑怯ではないだろうか?
 思わずそう思ってしまうほど、ナナミの土下座から感じられる圧力。


 ノーとは言えない空気。


 しかし、それは土下座からくる圧力ではないだろうと、少し経ってからカズトは考える。
 妹を思う気持ちが、ナナミの気魄となってカズトに圧力をかけているのだ。


「一つだけ聞きたい。誰かを傷つけてまで、妹を助ける事が、正しいとそう思うのか?」


「解りません。しかし、妹と誰かが川で溺れていたら、私は迷わず妹を救います」


 返す言葉が見つからない。
 ナナミの言う例え話しは、良く聞く例えである。


 川で溺れている二人。
 貴方はどちらか一人しか助けられません。
 さて、貴方はどちらを助けますか?


 この例え話しを聞いた時、カズトの脳裏に浮かんだのは二人の少女、アリスとレイラであった。
 カズトは答えを返す事が出来なかった。
 ただ一言、ナナの事は任されたと、プライドを捨て土下座するナナミに、返事を返す事しか今のカズトには出来ない。


 いつか答えを出す日が来るのだろうか。


 そんな未来など考えたくはなかった。


 ーーーーーーーーーー


 カズトが指輪を受け取っていた頃、アリスとレイラは再び、レリスの姿を発見する。
 サッと電柱に隠れるアリスとレイラ。
 奇妙な事に、レリスはショーケースをジッと見つめていた。
 アリスとレイラは知らない事だが、そこはカズトが先ほどコロッケなどを買ったお肉屋さんであった。


「・・・ジュルッ」


 右手の人差し指を加え、ヨダレを飲み込むレリス。


「アンタって実は、案外意地汚かったのね」


「・・アレは私ではありません」


 アリスがレイラの下からそう言うと、レイラは顔を赤くして、アレは自分ではないと返す。
 しかし、自分そっくりな人物が、あんなマヌケヅラをしていては、恥ずかしくなってしまう。
 もしもあのマヌケ顔を、テトに見られてしまってはと考えるレイラ。


 そんな二人のやり取りをよそに、コロッケ屋のおばちゃんが、レリスに話しかけている。


「オ、オイ!ドワーフのおばちゃんが話しかけているぞ!」


「マズイですね。しかし、ドワーフは力自慢の強者揃いです。もう少し様子を見ましょう」


 何かアレば、いつでもドワーフおばちゃんに加勢しようと二人は電柱から見守っていた。


「何か買うのかい?見た所お遊戯会の稽古中のようだけど」


 レリスの格好を見た、コロッケ屋のおばちゃんはそうたずねた。
 頭に輪っか、背中に翼がついている為、そう思うのも無理はない。
 おばちゃんにたずねられたレリスは、ショーケースの中にあるコロッケを指さし、おばちゃんに告げる。


「我がレリスの名の下に命じる。コレをよこしなさい」


 ーーーーーーーーーーーーーー


「多重人格?レリスがか?」


 カズトはナナミから、レリスについて教えられていた。


 アリスとレイラから作られたレリスという天魔てんま
 天魔とは、天使と悪魔の遺伝子から作る事ができる存在らしいのだが、そもそも二つを手に入れる事自体が難しい。


「待て。悪魔がアリスなのはわかる。しかし、レイラは天使ではない・・ぞ?」


 レイラが天使じゃない保証はない。
 ゲームの中でそんな会話がなかっただけで、本当は天使なのかもしれない為、語尾に少しの間ができる。


「アレは美姫みきひめです。・・くっ!?あまり時間が無いようです。ナナが私の魔力に気づいたようです」


 ナナミはそういうと、指を鳴らし結界を解いた。


「ホワイトクリスタル。白い宝石をミキ姫が持っています。それをクリフが狙っているかも知れません。勇者テトよ。サクラ王国に急いで戻って下さい」


 ナナミがそう告げて、カズトの前から姿を消そうとしたその時であった。


「カズトさんから離れて!!」


 放たれる魔法『ダークフレイム』が、ナナミとカズトの間を走る。


 振り向くカズトとナナミが目にしたもの。


 真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐ伸ばした杖、ナナがナナミを睨みつけていたのであった。


 次回   第四章2    カズトの決意    上

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