世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第四章 漆黒の堕天使 下
アリスとレイラ、ナナは焦っていた。
家に帰り着き、玄関の扉を開けようとした所、身に覚えのある魔力を近くで感知したからだ。
アリスとナナは驚き、チラっと隣にいるレイラに目を向ける。
三人の中で、一番驚いていたのは、間違いなくレイラだろう。
何故なら、この魔力の痕跡はレイラに似ていたからだ。
「・・・テト」「ま、待ちなさい!レイラ!」
魔力の痕跡が感じられたのは、朝みんなで学校の方へ歩いた方角から感じる。
まさか、まさかとレイラは激しく動揺し、魔力の痕跡のする方へと走りだした。
アリスとナナは、アリ王様の時と同じようなシチュエーションに焦って、玄関にカバンを置き、制服姿のまま駆け出すのであった。
何が起こったのだろうか。
レイラとアリス、ナナは信じられない光景を目撃する。
電柱はへし折れ、まるでハリケーンに襲われたような道路。
そこに一人の少女、否、一人の天使が立っていた。
「ちょっとそこのあんた!これあんたがやったの?」
アリスは道路の真ん中に、ボーッとつっ立っている天使に向かって問いかけた。
アリスの問いかけに、天使が振り向き、振り向いた天使の顔を見た三人は、固まってしまう。
背中の羽や頭の上にある輪っか、髪の色が違うだけで、天使の正体は、間違いなくレイラであった。
「レレレレ、レイラさんが二人!?」
ナナはレイラと天使を交互に見渡す。
双子だと言われたら、納得してしまいそうなぐらい似ている。
「・・・テトに何をしたのですか」
レイラはここにカズトがいた事を、ここにくる途中で気づいていたのだが、見当たらないどころか、辺りは酷い有り様であり、天使を鋭い目つきで睨みつける。
レイラに問いかけられた天使は、不気味な笑みを浮かべ、突然笑い出してしまった。
天使の笑い声が辺りに響き渡り、笑うのに満足したのか、天使はレイラを見る。
この時アリス達は、天使の左眼に気づいた。
「まさか・・あんた・・」
もしもアリスの考えが正しければ、おそらくこのレイラは手強い。
それはナナも同意見だったのか、天使の目を見たナナの足は震えていた。
あのレイラと戦う事になったら、間違いなく自分では勝てない。
それでも。
もう悲しい思いをするのは嫌だ!!
ナナは唇を嚙みしめ、短く呪文を唱え、杖を取り出して天使に向ける。
「わわわわ我はナナナナナナ、ナナ!最強ままま魔法の使い手でああああある」
「いでよゴン太!」
ナナが杖を構えるのと同時に、アリスは召喚魔法を唱え、ゴン太を召喚する。
「ナナ!ゴン太と一緒にカズトを探してきて」
「ハ、ハイ!!」
「馬鹿レイラ!ここでの戦闘はまずいわよ」
アリスの言葉を受け、ナナはゴン太を連れてカズトを探す為、この場を立ち去った。
少し顔が赤くなるナナ。
せっかく決めポーズをとったのにと、心の中で愚痴るのであった。
アリスとレイラはどうするべきか考えるのだが、いい案が浮かばない。
リゼクトを使おうにも、魔力を使い果たす恐れがあり、向こうで戦闘にでもなったら、足手まといにしかならない。
しかし、このままではここが、戦場とかしてしまう。
「・・・もう一度聞きます。テトに何をしたのですか」
レイラは今にも飛び出したい衝動を、何とかこらえていた。
右眼はとっくに紫色に変化している。
レイラが鋭い目つきで睨んでいると、天使はニヤリと笑い、右手をレイラとアリスに向けてきた。
「ルミナスレイン」
アリスとレイラに向かって放たれる、無数の光の雨。
アリスとレイラはその呪文に驚きを隠せずにいた。
呪文の威力もそうだが、身に覚えのある呪文を唱えられた事により、一瞬固まってしまう。
「ルミナスウインド」
レイラは光の雨を空に逃がすべく、風魔法を放ち、アリスはレイラの右から、ブロック塀の上に飛び乗って、天使に向かって走りだす。
天使に攻撃を仕掛けようと、力を溜めながら疾走するアリスだったが、突如、天使の姿が消えた。
舌打ちをするアリス。
天使が姿を消すと同時に、レイラも動いた。
レイラの姿が消え、レイラが走り抜けたであろう道に、火柱があがる。
「ルミナスブレイク」
レイラが呪文を唱えるのを察知したアリスは、ぐっと腰を深く落として、身構える。
アリスの目の前に、レイラと天使の姿が目に入る。
天使は真正面からアリスに、攻撃を仕掛けようとしていた所を、レイラのかかと落としによって封じられる。
重なる二人の右足。
睨むレイラと楽しそうな笑みを浮かべる天使。
「ヘルズアタック」
レイラの後頭部に向かって、全力の呪文を繰り出すアリス。
レイラはサッと身体を横にずらして、アリスの攻撃をかわし、天使にアリスの攻撃をあてようとする。
天使はサッと右に、攻撃をかわしたのだが、レイラを見て思わず笑みを浮かべてしまう。
アリスの攻撃は囮。
本命は、攻撃をかわした後にできる、僅かな隙をついてのレイラの呪文。
「ルミナスレイン」
アリスは全力で突っ込んだ為、ブロック塀を突き破り、天使はアリスの攻撃をかわす選択をし、レイラと逆側に逃げた。
レイラはそれを見越して、真正面に立つ天使に向かって呪文を唱える。
無数の光の雨が、天使に襲いかかる。
しかし、天使は上空に向かって思いっきりジャンプして攻撃をかわした。
「残念でした・・くらいなさい!!ヘルズアタック」
アリスは上空に逃げてくると予測し、天使目掛け、拳を地面に振り抜く。
ブロック塀を突き破ったアリスは、上空に逃げてくるかもしれないと考え、上空で待ち構えていたのてある。
アリスを侮っていたのが仇となり、天使は地面に向かって急降下していく。
「テトを傷つけた罰です」
地面に急降下する天使を、待ち構えていたのは、先ほどからずっと放たれている、無数の光の雨であった。
レイラはこうなる事を予測して、呪文を唱え続けていたのである。
天使を襲うレイラの攻撃。
辺りを砂煙が舞って何も見えなくなった。
レイラの後ろに飛び降りたアリスは、流石にやったかと天使の方へと顔を向ける。
全力で叩きこんだ自分の攻撃と馬鹿レイラの攻撃。
無傷のはずがないと、アリスはニヤリと笑った。
このレイラは強い。
しかし、こっちのレイラと同じぐらいなのであれば、カズトとナナが加われば倒せる。
気はすすまないけどね。
「・・アリス。まだです」
レイラがアリスに、気をぬくなと注意しながら、腰を深く落として身構える。
「アハ。アハハ。アハハハハハハ!!」
煙が舞う中で、天使の笑い声が聞こえる。
アリスとレイラは攻撃に備えて身構え、天使の姿を見て、息を飲んだ。
黒い翼を広げる天使。
アレだけの攻撃をうけたはずなのに、無傷である。
左眼を紫色に染め、銀髪ツインテールで、レイラに似た天使。
「・・あんた一体何者よ」
アリスの質問に対して返される言葉に、二人は驚愕してしまう。
右手を腰にあてながら、二人に向かって微笑みかける天使。
「我はレリス。世界に終わりを告げる者」
そう告げるレリスの黒い羽が、黒い翼へと変化する。
その翼は、アリスの翼にそっくりであった。
次回第四章     1      レリス       上
※ここまで読んでいただきありがとうございます。
やっと現実世界でも、物語が進み始めました。
いやぁながかったです。
少しでも面白いとっていただけたら幸いです。
では次回もお楽しみに。
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