世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第3章8 異変 中
(前回)
勇者の剣”虎徹”を手に入れたカズトはレイラの元へ急ぐ。
一方アリスとナナはレイラの近くへとたどり着いたのだが、アリ王様とアリ女王が、2人の行く先を塞いでしまい戦闘へと発展する。
そのころレイラは、黒いとんがり帽子にローブ姿、右目にルーペをした、女の子から攻撃を受けていたのだが・・。
【本編】
走る、走る、カズトはレイラの元へ急ぐ為に、ひたすら走っていた。
走っていたカズトの前に黒い煙があがっているのが見える。
(・・こんな時に・・どうする?)
闇雲に、あの煙の中に突入するのは危険だ。
だからといって迂回する時間が今は惜しい。
レイラがほこらを飛び出していった時間を考えると、恐らく1時間ぐらいたっているはずだ。
「誰かいるのか!!・・声がしない・・それなら・・いくぞ!」
カズトは、腰に差してあった虎徹を抜いて叫ぶ。
「はやぶさ狩りぃぃ!!」
繰り出す上中下段の3連続切り。
モンスターが中にいたらこれで倒せるだろうし、人の気配も感じられない為、思いっきり切りつける。
繰り出す3連続切りによって生じる風により、煙が晴れた。
木こり兵がいたらしく、晴れると同時に倒れこんでいった。
落としたドロップアイテムにも目もくれず、再びカズトは走り出しすのであった。
カズトが、剣を振るっている同時刻、アリスとナナもまた、走っていた。
しかし、今回は逃げる為に走り回っているのではない。
「ハァ・・ハァ・・。アリスさん!私に考えがあります」
この言葉に、アリスは驚きが隠せない。
相手は大きなアリ、自分やレイラですら倒せなかった相手だ。
いや、実際に完全な体力や、レイラの本気なら倒せない敵ではないのだが、それでも、この局面で作戦を思いつくのは、並大抵の人間にできる事ではない。
天才、カリスマ、または数々の修羅場をくぐっていないとできないのではないだろうか。
アリスは称賛の言葉を、皮肉っぽく聞こえないように注意して送る。
「この状況で思いつくなんて・・さすがは魔女族ね」
この賛辞にナナは驚き、一瞬だけ悲しい顔をした。
「いいいいいえ!!私なんて・・お姉ちゃんならきっと・・」
最後の言葉だけは聞き取れなかったが、一瞬悲しい顔をしたのを見逃さなかったアリスであった。
(そう。お姉ちゃんならきっと・・最強魔法を使わなくても、”ダークフレイズ”だけで、あのアリ2匹を倒してしまうだろう)
(お姉ちゃんに比べたら私なんて)
ナナは首を横に振る。
頼ってばかりではいられないし、大好きなお姉ちゃんは、今ここにはいない。
「アリスさん。少しだけ、敵の注意を引きつけて頂けませんか」
ナナは意を決し、表情を引き締める。
アリスがうなずくのを確認したナナは、急ブレーキをかけて、右の草むらに飛び込んだ。
息を整えながら、自分を鼓舞する。
(ハァ・・ハァ・・できる・・できるはず。さっきもできたのだから)
杖を固く握りしめて、ナナは木の後ろからそっと覗き込む。
一方アリスはアリスで、自分を鼓舞する。
敵の注意を引き付ける事だけに、全神経を集中させなければならない。
まるで、大量の雨が空から降ってきたような光景が、頭上から見える。
しかし、雨なんかとは比べ物にならないぐらいの、破壊力を秘めている攻撃だ。
振り落とされる、槍と斧を次々とかわしていくアリス。
幼き頃のアリスは、油断は命取りになると、今は亡き父に教わっている。
「アリスさん!よけて下さい」
「・・・!!」
ナナが杖を向けてくるのを見て、アリスは斧をかわし、かわした斧を蹴り、蹴った反動でナナの横に飛んで行く。
ナナはアリスが飛ぶのを見て、呪文を唱える。
「ダークバーストショット」
狙うはアリ王様。
威力は完全ではないにしろ、倒すのには充分な威力。
「・・・!?」
もらったとアリスとナナは確信したのだが、信じられない光景が広がる。
アリ王様にあたると思われた起動上に、アリ女王が姿を現したのだ。
まるでアリ王様をかばうような姿に、アリスとナナは息を飲む。
アリ女王が倒れこむと同時に、アリ王様が雄叫びをあげた。
「・・ちっ。どういうことよ」
両耳を抑えてアリスが呟く。
「ハァ・・ハァ・・アリスさん。アリの特性をご存知ですか」
杖を地面に突き刺し、倒れないように踏ん張るナナが質問する。
「ハァ・・ハァ。アリは”道しるべフェロモン”と呼ばれる匂いをつける生き物です。アリ兵隊からアリ団体が来るのは、このフェロモンのせいです」
「だとしたら・・今のは?」
「はい。おそらく仲間を呼んだんだと思います」
「それはそれは・・くそったれね」
ナナの体力は危険だ。
いや、体力だけではない。
恐らく魔力も底をつきたはず。
近づいてくる足音。
姿を現したのは先ほど倒したアリ女王であった。
「ア、アリスさん。ダ、ダメですよ。魔力を温存しないと」
そう言われ、アリスの動きがピタッと、とまる。
「わ、私が・・もう一度・・」
杖を地面に突き立てて、弱々しく声をかけてきた。
「あんた・・そう言うけど・・・」
その後の言葉が続かない。
(そんな・・。そんな表情を見せられたら何も言えないじゃない)
真っ直ぐ敵を見つめるナナの表情は、真剣そのものであった。
「ここは・・もう一度・・敵から距離をとって」
ナナが杖を地面に置いて、呪文を唱える。
「ダーク」
しかし、魔力を使い果たしてしまったのか、地面からは微量の煙しかあがらなかった。
ここぞとばかりに襲い掛かるアリ女王。
ナナは避ける事もできず、直撃に備え目をつぶる。
アリスはただ黙って見ていただけではなく、ナナに向かって行くアリ女王をとめるべく、動き出したのだが、アリ王様が行く手を塞ぐ。
「邪魔をするなああ」
アリスの攻撃を受けても、ぐらつくだけで、倒れもしない。
脇目もふらず、ナナに向かっていくアリアは、舌打ちをする。
間に合わない・・それなら。
アリスは魔法を唱えようとしたが、後ろからくるアリ王様の攻撃に気を取られてしまう。
「くそったれが・・ナナ!逃げなさい!」
振り落とされる斧をかわしながら、ナナに向かって叫ぶ。
ナナに向かって槍が突き刺さる瞬間であった。
「十文字切り」
ナナに向かって突っ込んできたアリ女王に向けて、カズトはアリ女王を切りつける。
槍の先端はナナの鼻先でとまっていた。
「フー。間一髪だったな。待たせて済まない・・大丈夫か?」
ナナの前に立ってカズトがたずねると、ナナは後ろへと倒れこんでいった。
「ナナ?・・だいぶ無理をしたのだろう・・すまなかった」
「いえ。それよりレイラさんを・・レイラさんを早く追って下さい」
ナナの体をおこしたカズトにそう告げる。
「ああ。こいつを倒したらすぐに後を追うぞ。アリス!」
剣を構えながらカズトはアリスを呼ぶ。
カズトとアイコンタクトをとったアリスは動く。
アリ王様が雄叫びをあげようとしていた。
「ヘルズアタック」
「巨人狩り」
アリスが頭部を狙い、カズトは胴体を切りつける。
アリスが頭部を地面に落とし、カズトが頭部ごと、胴体を切りつける。
ようやく、長かったアリ王様、アリ女王との戦闘が終わる。
「アリス!ナナを頼む」
カズトはアリスにそう告げて、再びレイラの元へ駆け出すのであった。
人の人生は儚い。
やりたいことをやり遂げて死ねる人は、数少ないであろう。
では、自分はどうであろうか?
相手はどうですか?
広く青い空を見上げながらレイラは心の中で呟いて、目を閉じるのであった。
次回 第三章8 異変 下
※ここまで読んで頂きありがとうございます。
さて今回はいかがだったでしょうか?
次回から物語が始まると言っても過言ではないかと思われます。
では、次回もお楽しみに。
勇者の剣”虎徹”を手に入れたカズトはレイラの元へ急ぐ。
一方アリスとナナはレイラの近くへとたどり着いたのだが、アリ王様とアリ女王が、2人の行く先を塞いでしまい戦闘へと発展する。
そのころレイラは、黒いとんがり帽子にローブ姿、右目にルーペをした、女の子から攻撃を受けていたのだが・・。
【本編】
走る、走る、カズトはレイラの元へ急ぐ為に、ひたすら走っていた。
走っていたカズトの前に黒い煙があがっているのが見える。
(・・こんな時に・・どうする?)
闇雲に、あの煙の中に突入するのは危険だ。
だからといって迂回する時間が今は惜しい。
レイラがほこらを飛び出していった時間を考えると、恐らく1時間ぐらいたっているはずだ。
「誰かいるのか!!・・声がしない・・それなら・・いくぞ!」
カズトは、腰に差してあった虎徹を抜いて叫ぶ。
「はやぶさ狩りぃぃ!!」
繰り出す上中下段の3連続切り。
モンスターが中にいたらこれで倒せるだろうし、人の気配も感じられない為、思いっきり切りつける。
繰り出す3連続切りによって生じる風により、煙が晴れた。
木こり兵がいたらしく、晴れると同時に倒れこんでいった。
落としたドロップアイテムにも目もくれず、再びカズトは走り出しすのであった。
カズトが、剣を振るっている同時刻、アリスとナナもまた、走っていた。
しかし、今回は逃げる為に走り回っているのではない。
「ハァ・・ハァ・・。アリスさん!私に考えがあります」
この言葉に、アリスは驚きが隠せない。
相手は大きなアリ、自分やレイラですら倒せなかった相手だ。
いや、実際に完全な体力や、レイラの本気なら倒せない敵ではないのだが、それでも、この局面で作戦を思いつくのは、並大抵の人間にできる事ではない。
天才、カリスマ、または数々の修羅場をくぐっていないとできないのではないだろうか。
アリスは称賛の言葉を、皮肉っぽく聞こえないように注意して送る。
「この状況で思いつくなんて・・さすがは魔女族ね」
この賛辞にナナは驚き、一瞬だけ悲しい顔をした。
「いいいいいえ!!私なんて・・お姉ちゃんならきっと・・」
最後の言葉だけは聞き取れなかったが、一瞬悲しい顔をしたのを見逃さなかったアリスであった。
(そう。お姉ちゃんならきっと・・最強魔法を使わなくても、”ダークフレイズ”だけで、あのアリ2匹を倒してしまうだろう)
(お姉ちゃんに比べたら私なんて)
ナナは首を横に振る。
頼ってばかりではいられないし、大好きなお姉ちゃんは、今ここにはいない。
「アリスさん。少しだけ、敵の注意を引きつけて頂けませんか」
ナナは意を決し、表情を引き締める。
アリスがうなずくのを確認したナナは、急ブレーキをかけて、右の草むらに飛び込んだ。
息を整えながら、自分を鼓舞する。
(ハァ・・ハァ・・できる・・できるはず。さっきもできたのだから)
杖を固く握りしめて、ナナは木の後ろからそっと覗き込む。
一方アリスはアリスで、自分を鼓舞する。
敵の注意を引き付ける事だけに、全神経を集中させなければならない。
まるで、大量の雨が空から降ってきたような光景が、頭上から見える。
しかし、雨なんかとは比べ物にならないぐらいの、破壊力を秘めている攻撃だ。
振り落とされる、槍と斧を次々とかわしていくアリス。
幼き頃のアリスは、油断は命取りになると、今は亡き父に教わっている。
「アリスさん!よけて下さい」
「・・・!!」
ナナが杖を向けてくるのを見て、アリスは斧をかわし、かわした斧を蹴り、蹴った反動でナナの横に飛んで行く。
ナナはアリスが飛ぶのを見て、呪文を唱える。
「ダークバーストショット」
狙うはアリ王様。
威力は完全ではないにしろ、倒すのには充分な威力。
「・・・!?」
もらったとアリスとナナは確信したのだが、信じられない光景が広がる。
アリ王様にあたると思われた起動上に、アリ女王が姿を現したのだ。
まるでアリ王様をかばうような姿に、アリスとナナは息を飲む。
アリ女王が倒れこむと同時に、アリ王様が雄叫びをあげた。
「・・ちっ。どういうことよ」
両耳を抑えてアリスが呟く。
「ハァ・・ハァ・・アリスさん。アリの特性をご存知ですか」
杖を地面に突き刺し、倒れないように踏ん張るナナが質問する。
「ハァ・・ハァ。アリは”道しるべフェロモン”と呼ばれる匂いをつける生き物です。アリ兵隊からアリ団体が来るのは、このフェロモンのせいです」
「だとしたら・・今のは?」
「はい。おそらく仲間を呼んだんだと思います」
「それはそれは・・くそったれね」
ナナの体力は危険だ。
いや、体力だけではない。
恐らく魔力も底をつきたはず。
近づいてくる足音。
姿を現したのは先ほど倒したアリ女王であった。
「ア、アリスさん。ダ、ダメですよ。魔力を温存しないと」
そう言われ、アリスの動きがピタッと、とまる。
「わ、私が・・もう一度・・」
杖を地面に突き立てて、弱々しく声をかけてきた。
「あんた・・そう言うけど・・・」
その後の言葉が続かない。
(そんな・・。そんな表情を見せられたら何も言えないじゃない)
真っ直ぐ敵を見つめるナナの表情は、真剣そのものであった。
「ここは・・もう一度・・敵から距離をとって」
ナナが杖を地面に置いて、呪文を唱える。
「ダーク」
しかし、魔力を使い果たしてしまったのか、地面からは微量の煙しかあがらなかった。
ここぞとばかりに襲い掛かるアリ女王。
ナナは避ける事もできず、直撃に備え目をつぶる。
アリスはただ黙って見ていただけではなく、ナナに向かって行くアリ女王をとめるべく、動き出したのだが、アリ王様が行く手を塞ぐ。
「邪魔をするなああ」
アリスの攻撃を受けても、ぐらつくだけで、倒れもしない。
脇目もふらず、ナナに向かっていくアリアは、舌打ちをする。
間に合わない・・それなら。
アリスは魔法を唱えようとしたが、後ろからくるアリ王様の攻撃に気を取られてしまう。
「くそったれが・・ナナ!逃げなさい!」
振り落とされる斧をかわしながら、ナナに向かって叫ぶ。
ナナに向かって槍が突き刺さる瞬間であった。
「十文字切り」
ナナに向かって突っ込んできたアリ女王に向けて、カズトはアリ女王を切りつける。
槍の先端はナナの鼻先でとまっていた。
「フー。間一髪だったな。待たせて済まない・・大丈夫か?」
ナナの前に立ってカズトがたずねると、ナナは後ろへと倒れこんでいった。
「ナナ?・・だいぶ無理をしたのだろう・・すまなかった」
「いえ。それよりレイラさんを・・レイラさんを早く追って下さい」
ナナの体をおこしたカズトにそう告げる。
「ああ。こいつを倒したらすぐに後を追うぞ。アリス!」
剣を構えながらカズトはアリスを呼ぶ。
カズトとアイコンタクトをとったアリスは動く。
アリ王様が雄叫びをあげようとしていた。
「ヘルズアタック」
「巨人狩り」
アリスが頭部を狙い、カズトは胴体を切りつける。
アリスが頭部を地面に落とし、カズトが頭部ごと、胴体を切りつける。
ようやく、長かったアリ王様、アリ女王との戦闘が終わる。
「アリス!ナナを頼む」
カズトはアリスにそう告げて、再びレイラの元へ駆け出すのであった。
人の人生は儚い。
やりたいことをやり遂げて死ねる人は、数少ないであろう。
では、自分はどうであろうか?
相手はどうですか?
広く青い空を見上げながらレイラは心の中で呟いて、目を閉じるのであった。
次回 第三章8 異変 下
※ここまで読んで頂きありがとうございます。
さて今回はいかがだったでしょうか?
次回から物語が始まると言っても過言ではないかと思われます。
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