世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて

伊達\\u3000虎浩

第三章7 資格 中

(前回)
 ナナを救出することに成功したアリスとレイラ。
しかし、逃げる途中でアリ女王の攻撃を受けてしまったアリス。
レイラは、隠れる為に行動をおこす。
 カズトはアリ王様キングから逃げる為、見つけた小さな穴に飛び込んだのだが。


【本編】
 カズトは口元を抑え、辺りを見渡す。
小さな村なのか、人が居た痕跡が残っている。
「何があったというのだ」
天井がはがれ落ちている小屋。
井戸の中は何もない。
扉をあけ、そっと中の様子をうかがう。
イスは倒れ、テーブルの上にある食器には食べかけであったであろうスープが残っていた。
スープを覗き込んで、思わず顔をそむけた。
皿の中には赤い液体が浮いていた。


 部屋をでたカズトは声をかける。
「誰か!!誰かいませんか!?」
モンスターに見つかる恐れがあるが、この光景は異常だ。
もしかしたら、自分が助けられる事ができるかもしれない。
どこかに隠れている人がいるかもと思い、カズトは声をかける。
「・・・いない・・か」
しばらく待ってみたが、返事は返ってこなかった。
 違う小屋をあける。
さっきの小屋と同じような光景が、広がっていた。
カズトは扉のそばに置いてあった、木刀サイズの木の棒をつかみ、部屋をでた。
 血の海によって異臭が鼻をつく。
一刻も早くこの場を離れたい衝動を抑え、カズトは建っている小屋という小屋をあける。
情報は武器だ。
しばらく村を探索していると、村はずれに小屋が建っていた。
まるで、特別扱いされているような小屋。
「・・・村長とかの小屋か?」
カズトはその小屋に向けて歩きだす。


 モンスターに備え、木の棒を構えじりじり近づいていく。
ゆっくり扉をあけると、綺麗なお花がテーブルに置いてあった。
(最近まで人が住んでいた?)
生活感溢れる部屋を見渡していると、2階に続く階段を見つけた。
カズトは、ゆっくり階段をのぼっていく。
木の棒を構えながらだと、人が居た場合怖がらせてしまう可能性がある為、斜め下に片手で構える。
階段から、そっと中を覗き込む。
 一つのベットが置いてあり、壁には鳥の彫刻がたてかけられていた。
何もなく、人の気配もない為、カズトは下に降りようとした時だった。
「プルルルル。プルルルル」
壁に立てかけられていた、鳥の彫刻が突如鳴いた。
ビクッとして、階段から再度そっと覗き込む。
「プルルルル。プルルルル」
未だに鳴いている彫刻。
カズトはどうすればいいのか解らず、彫刻の側に近づく。
近づくと彫刻から人の声が聞こえてきた。
「・・ナナ・・よく・・今・・逃げ・・」
途中で雑音が混じり何を言っているのか解らない。
(ナナ・・だと?)
何を言っているのかは解らなかったが、ナナという単語にカズトは驚いた。
「ここは・・魔女の村・・なのか」
近くの窓に近づき、外を見ながらカズトは呟いていた。
「だとしたらここはナナの家なのか?」
カズトは再度鳥の彫刻に近づいていく。
しかし、鳥の彫刻は何も言わなくなっていた。


 カズトが村で迷っていた頃、レイラはアリスとナナに回復魔法を使いつつ、森の中を駆け抜けていた。
アリ女王とアリ王様から離れるように、逆方向に走る。
木と木の間をすり抜け、時には木の後ろに隠れ、後ろを振り返って追ってがないかを確認する。
自分1人なら、すでに森を抜けていてもおかしくはないが、今はアリスとナナを抱えている。
追ってが来ていない事を確認して、再度走り出そうとするレイラに声がかけられた。
「・・レイラ・・ここは?」
「・・アリス。気が付いたのですか」
アリスが弱々しく声をかけてきて、レイラはホッとする。
後はナナが目を覚ませば・・レイラはナナを見る。
ナナはスヤスヤ眠っている。
「何処に・・向かってるの?」
「とりあえずは何処かに身を隠して、テトを探しに行きます」
レイラの意見に反対することがアリスにはできなかった。
他にいい案が思いつかなかったからである。
レイラは再び走りだすのであった。


 カズトは下の部屋に降りて色々と調べる。
ナナには申し訳ないと思うのだが、今は情報が少なすぎる。
少しでも何かないかと物色していると、床に隠し部屋がある事に気付いた。
「隠し部屋というより・・ぬか漬け床みたいだな」
人が入るには狭いが、子供が足を抱えてなら入れるぐらいのサイズであった。
中を見てあるメッセージに気が付いた。
中には”お姉ちゃん”という一言が書かれていた。
よく見ると所々改良されている。
まるで、誰かの成長にあわせて部屋を大きくしようとしているような感じだった。
そっと床を閉じカズトは考えこんでいた。


 ナナは夢を見ていた。
見ているのは、大好きなお姉ちゃんとの思い出である。
会いたい・・会いたい・・会いたい。
知らず知らずのうちにナナは涙を流していた。


 カズトは決心する。
ここにいたら、ナナが帰ってきて合流できるかもしれない。
しかし、帰ってこないかもしれない。
かもしれないという言葉に、何の価値があるというのだろうか?
とるべく行動はただ一つ。
3人を探して合流。
その後はこの森をぬける。
 カズトは村に向けて、両手を重ね深く頭を下げる。
合掌し終わったカズトは、出口を目指すべく行動する。
ナナに出会ったという事は、自分がここに来た穴とは別の場所があるはず。
自分がここに来た穴は滑り台になっていた。
となればこちらからは登れないはず。
出口を探すカズト。
しばらく歩いているとカズトは穴を見つけた。
「よし。行くか」
意を決して穴に飛び込む。


 カズトは再び滑り台みたいな穴の中を滑り、地上へと帰還した。
岩の穴からでてきたカズトは、下に落ちていく。
お尻をうたないように、着地体勢をとって着地する。
着地後すぐに木の後ろに周り、辺りを見渡す。
「魔女の森を抜けたのか・・いや」
辺りを見渡して、まだ森を抜けていない事を確信する。
近くで大きな音もする。
どうやって探すか悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「カズト」「テト」
アリスとレイラであった。


 ようやく森に入る前のパーティーになり、ホッと胸をなでおろす。
「よかった。全員無事みたいだな」
カズトは、順番に目を向ける。
「ナナは・・眠っている・・だけか」
レイラにおんぶされているナナを見ながら呟く。
辺りを見渡しているカズト達に、近づいてくる足音。
「しつこいやつらね」
アリスが身構える。
「・・どうしますか?」
レイラはカズトを見ながら判断をあおる。
「何処かに隠れ・・あそこだ」
カズトは小さなほこらを見つけて、走り出した。
 カズトが地上に帰還した穴を潜り抜けるには、ナナをおんぶしているレイラが難しい。
それに滑り台を登るためには、あの高さにあるこの岩を登らなくてはならない。
素早くほこらに入る4人。
自分達を探しているのか、音がどんどん近づいてくる。
「くそ・・どうすればいい」
カズトは、考える。
「レイラ。ボステムまでどのくらいある」
「・・すいません。方角は向こうだと言うのは解るのですが・・距離までは」
レイラが右手を向けて答える。
「あんたボステムから魔王城に来るのにこの森を抜けてきたんじゃないの」
「あの時は・・無我夢中でしたから」
レイラの言葉を聞いてカズトは、考える。
(おそらくバーサーカーモードに入っていたのだろう)
「方角が解ったのはいいが・・ナナの道案内が必要か」
ナナを見るがまだおきる気配はない。
そうとう疲れているのだろう。
「アリス!”リゼクト”で現世に帰る事は可能か?」
「・・まだ無理ね」
カズトは、アリスのワープ魔法で、一度現世に帰る事を考えたが無理みたいだ。
「レイラ。ナナの様子はどうだ?」
アリスの背中に、回復魔法をかけているレイラに声をかける。
「ナナの回復は終わっています。後はナナが目を覚ますのを待つだけです」
ナナの道案内も期待できない。
(クソ・・どうする・・考えろ考えろ考えろ)
あごに手をあてて考えこむ。
しばらく考えこむがいい案が思いつかない。
「カズト!少し落ち着きなさい。私は周囲を見てくるわ」
アリスが心配そうに声をかける。
「・・わかっている」
可能性を導かなくては全滅してしまう。
額を軽く叩きながら考えこむ。
どんどん近づいてくる音から、意識をそらしてカズトは、考える。
考え考え考え考え・・一つの結論がでた。


【誰かが囮になっている間に逃げる】


 カズトは、首を横に振る。
(何を考えている・・馬鹿か俺は)
アリ女王とアリ王様相手2匹相手に逃げ回り、合流する可能性は0に等しい。
そしてその囮になって、逃げ回って助かる可能性がもっとも高いのは・・レイラだ。
レベルがもっとも高い彼女なら、可能性は0ではない。
(レイラに・・言うのか?囮になれと・・それは)
カズトの頭をよぎる様々な2文字。
最低、最悪、残酷、色々よぎるのだが、最後によぎる言葉。


【死ぬ】


 カズトは、大きく首を横に振る。
4人で最初の戦闘のように戦うのは難しい。
武器を持っていない自分。
アリスとナナの魔力もそうだが、レイラの魔力も心配だ。
なら、4人で逃げるべきだ。
4人で逃げて4人全員死ぬ・・。
1人が死んで3人が助かる。
(やめろ・・考えるな)
カズトは再度大きく首を横に振る。
そんなカズトに声がかけられた。
「・・・テト」
カズトは額をトントンと何度も叩く。
「テト」
呼ばれている事に気付かなかったカズト。
「・・・・」
ふいに、ほっぺたを包み込む温かい手。
カズトは固まってしまう。
ふいにカズトの顔を上にあげたレイラ。
(な・・・)
自分が何をされたのか、解らず固まってしまう。


レイラはカズトに口づけをしてきたのであった。


 かける言葉を探す。
「・・レ・・イラ」
耳を真っ赤にして、下を向くレイラ。
右足を”く”の字にして、左足の後ろにまわす。
ゴスロリ服のスカートに両手をあてて、ふわりと少し持ち上げる。
まるで舞踏会のダンスパーティー会場に相応しいポーズをとるレイラ。
真っ赤な顔をあげると、右目が薄紫色に変化している。
そして固まっているカズトに声をかける。


「私はレイラ。貴方を守る盾でありたい」


 そう言い残してレイラはほこらを飛び出していった。


次回第三章7 資格 下


※ここまで読んで頂きありがとうございます。
さて今回はいかがだったでしょうか?
今回は振り返りをさけます。
ネタバレになりそうなので・・
では引き続きお楽しみください。

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