世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて

伊達\\u3000虎浩

第一章7 桜ヶ丘高校アリスとレイラ 下

 
 アリスに蹴られて部屋を出たカズトは、台所に向かっていた。


 アリスがお腹空いたと言っていたし、自分もお腹が空いたからである。


(今日の昼飯は何を作ろうか…)


 昨日はゲームをしていたら、そのまま異世界に飛ばされてしまい、戻ってきた時はすでに朝が来ていた。そこからまた色々あり、何も食べていないカズトは、少し多めに作ろうと冷蔵庫を開けたが材料がなかった。


(…そうか、日曜日に買い物に行こうと思っていたんだった)


 どうするかを考えてながら、冷蔵庫の前に立っていたカズトの元にレイラがやってきた。


(その制服…気に入ったんだな)


「…そんなに見られると…恥ずかしいです」


 レイラは顔を少し赤くしながら、カズトから視線をはずす。


「…すまない。よく似合っているなぁっと思ってな」


 カズトのこの言葉にレイラは耳まで赤くしてうつむいてしまう。


「…と、ところでテトは、ここで何をなされているのですか?」


 話しを誤魔化すかのように、レイラが質問をしてきた。


 レイラはカズトの事をテトと呼ぶ。
 やめさせようと何度か注意したのだが、直らないいので諦めている。


「あぁ。昼飯を作ろうかと思ったんだが…材料がなくて買いに出かけようかと思ってな」


 カズトのこの言葉に反応したのは、ここにいないはずの妹であった。


「お、お兄ちゃん!買い物に行くの?私も一緒に行きたい!」


 バンッ!?と、扉を開けて、美姫はカズトの前に走ってきた。


(毎回思うんだが…扉を閉めていても聞こえるものなのだろうか)


「わ、わかった。30分後に出るから準備しておいで」


 動揺しつつ、目の前に走ってきた美姫の頭を撫でながらそう言うと、美姫の後ろにサッとレイラが並ぶ。


「…?レイラは何をしているんだ?」


「…順番待ちというやつです」


 よくわからないが、どうやら頭を撫でてほしいらしいので撫でてあげる事にするカズト。


 美姫は着替えてくるから待ってて!と、伝えて、自分の部屋に戻っていった。


 美姫の代わりというわけではないが、アリスがやってきた。


「丁度いい所にきた。今呼びに行こうと思っていた所だったんだ」


 アリスはサイズを測ると言っていたから、服を脱いだはず。背中の翼はどうしたのかを、聞きたかったのである。


「ふーん、で?何かようなの?」


 アリスは少し頬を赤くし、両腕を組みながらカズトの前にやってきた。レイラは撫でてもらって満足したのか、カズトの斜め後ろに立っている。


「あぁ。服を脱いで背中を見せてくれないか?」


 背中の翼がどうなっているのか見たいから、と言う前に、カズトは三人から怒られる事となった。


「こ、このお馬鹿」


 アリスから盛大に蹴りをもらい。


「……テトの馬鹿」


 レイラから背中をつつかれ。


「おおおおおお兄ちゃん!」


 美姫が顔真っ赤にして、部屋から飛び出して来る。


 三人の態度を見たカズトは、言葉遣いには気を付けようと、深く心に刻むのであった。


 ーーーーーー




 落ちついた所で、カズトはアリスに翼の事を聞く。


「翼?魔力が落ちて、今はない状態よ」


 アリスの話しによると、リゼクト(ワープ魔法)はかなりの魔力を使うらしく、クリフに力を奪われてしまったアリスは魔力が減っている為、そうなるらしい。


「じゃあサタン城には戻れないのか?」


「夜には魔力も戻っているはずだけど…下手したら明日ね」


 カズトの召喚、レイラとの戦闘でもかなり使ったのも関係していた。


「そうか。できたらこの世界では騒ぎになるから翼を見せるなよ」


「はぁ?なんであんたに、命令されなきゃいけないのよ」


「見せたらご飯抜きだ」


「…わかったわよ」


 なんとかアリスを説得したカズトは、アリス、レイラ、美姫を連れて家をでる事にした。


 ーーーーーーーー


 今日は商店街に行こうと思い、歩いていたカズト達だったのだが…全く前に進まない。


 渋滞しているとかではない。
 アリスとレイラが、寄り道をするためだ。


「カズト!カズト!これは何?」


 自動販売機を指さしながら、アリスが聞いてくる。


「…美姫様。これは何でしょう?」


 看板を指さしながら、レイラが聞く。


「もしかして二人は帰国子女か何か?」


 美姫が二人の会話がどういう意味なのかと、カズトに聞いてくる。


(さて。何てごまかそう)


 美姫に対して、どうごまかそうか考えていたカズトに、二人が告げる。


「カズト!敵よ!」


「…テト。敵です」


 バッと相手との距離をとり、戦闘態勢をとるアリスとレイラ。


「こんな時にレッドピエロとは厄介な」


「アリス。回復魔法なら任せて」


「ふ、二人共!やめろ」


 カズトは、二人を止めに入った。


「は?なんでよ!」


「これさマネキンといってだな…はぁ。ちょっとこっちに来い」


 某ファーストフード店のマネキンの前で、カズトはアリスとレイラを叱るのであった。


 ーーーーーーーーーー


 通常20分で着くはずだったのだが、色々あったおかげで、すっかり日が暮れている。家に帰ってきたカズト達は、遅めの昼食をとる事になった。


 アリスと美姫は買って来た裁縫道具で、制服を作ってみるという事で美姫の部屋に戻って行く。
 カズトは台所に立って、ご飯の準備をしながらこれからの事を考えていた。


(しかし…これは現実なんだよな)


 ゲームをしていたら、ゲームの中に召喚され、召喚されたかと思いきや、自分の部屋にゲームのキャラクターのはずの、アリスとレイラがやってきた…などと、誰も信じないだろう。


 アリスとレイラには、ゲームという事は伝えない方が良いだろうな。


 東京タワーが爆破されていた事や、レイラが美姫を見て、美姫様と呼ぶ事など、まだ謎が残っているが、まずはクリフを捕まえるべきだろう。


 クリフを捕まえて、ブラッククリスタルを取り戻す…いや待て、現状不可能だ。


 今のパーティーの、レベルではマズい。


 それならばレベルをあげるか、仲間を増やすべきか…アリスに言って、アリスの部下で強い奴を仲間に…しかしそれは、レイラによって壊滅状態だ。


 そのレイラのパーティーは、現在壊滅している。
 テトがいなくなり、クリフがああなってしまった…そしてダン爺…か。


 レイラには言えなかったが、恐らく守護神ダンはもう…。


「……テト?」


 ハッ!?と、しながら、呼ばれた方に顔を向けると、レイラが心配そうな顔をしているのが分かった。


「…何かあったのですか?」


「あぁ。お腹が空いてしまって、考え事を少しな…心配かけたかな?それだったらすまない」


 そう伝えると、レイラが近くにやって来た。


「手伝います」


 レイラが優しく微笑みかけてくるのを見たカズトは、胸が痛くなる。


 レイラのバーサーカーモードという特異体質は、カズトの所為である。


 本来戦いを好まない彼女を、ゲームのプレイ中に無理矢理変えたのだ。戦えないやつはいらん!当時そんな事を言っていたカズトだったのだが…。


「…テト?」


 どうやらまた、考え込んでしまったようだ。


「すまない…良し、レイラ。フライパンに火をつけてくれないか?」


「わかりました。フライパンとは…コレですか?」


 そう言いながらレイラは、フライパンを自分の前に置いてカズトに確認する。


「火をつければいいんですよね?」


「あぁ。頼む」


 カズトに確認をとったレイラは、右手をフライパンに向けて唱える。


「ファイアー」


「ま、待て!?」


 レイラは回復魔法専門だが、こういった初歩的な魔法なら使える。ちなみに、バーサーカーレイラになった場合は、攻撃魔法しか使えない。


 カズトが止めに入るも、レイラの右手からフライパンに向けて呪文が放たれた。
 当然、フライパンは炭クズになって、洗面台にボロボロっと落ちていく。


 その光景を、カズトは無言で見つめる事しかできず、レイラは良くやったと、褒めてオーラーを出しながら、カズトに頭を向けてくるのであった。


 ーーーーーーーー




 本日の献立はカレーである。


 アリスは、ラビビットの丸焼きを要求してきたのだが、当然そんな食べ物などこの世にない。アリスの意見を却下したカズトは、テーブルにカレーを並べていく。


「何?この茶色いスープは?」


 明らかに嫌そうな顔をするアリス。レイラはお皿に顔を近づけて、臭いを嗅いでいる。


「良いか!この世界では、マナーという言葉がある。料理を出されて、嫌そうな顔をしたりするのはやめろ」


 ふ~んと、アリスは納得したようである。
 一方レイラは、無言でうなずいていた。
 どうやらアリスとレイラは、自分達が知らないこの世界を、学ぼうとしているらしい。


 いつもなら文句を言いそうなアリスが、やけに素直である。


「何?この食べ物!」


「…美味しいです」


 さっきまでの態度は何だったのかと、思いたくなるほどの急変ぶりを見せる二人。
 どうやら気に入ったようだと安心していると、美姫が話しかけてきた。


「ところでお兄ちゃん。今日二人は、泊まって行くの?」


 妹の美姫からの質問に、カズトの動きがピタリと、止まってしまう。


(し、しまった。すっかり忘れていた)


「…ん?どうしたの?お兄ちゃん?」


 ニコニコっと笑顔で、カズトを見つめる美姫の背後から、不吉なオーラーが見えたのは、きっと気の所為ではなかったはずだ。


 しかし、答えないわけにはいかない。


「あ、あぁ。泊まっていくぞ」


 カズトが美姫からの質問に答えると、ほっぺたにご飯粒をつけたアリスが、カズトに続いて美姫に答えた。


「カズトの部屋で寝るから安心していいわ」


 このアリスからの答えに、レイラと美姫の目が光る。


「おおおおお兄ちゃんと寝るななな何て…何てうらや…けしからん」


「アリスは外で寝ればいいんです。テトは私と、私と……ね、寝るべきなんです」


「は?何ですって!?」


 三人が立ち上がって口論しているのを、カズトは無視してご飯を食べるのであった。


 ーーーーーーーーーーーー


 遅めの昼食を済ませたカズト達。
 美姫がお風呂に入っている間に、色々と状況を整理しようと考えたカズトは、アリスとレイラを自分の部屋に呼んで、話し合いを始める事にした。


「アリス。あっちの世界に戻る場合、こっちの世界との時間軸はどうなっている?」


「時間軸?」


「わかりやすく言うと、現在こっちの世界は夜だ。この場合、今からあっちの世界に行ったら、あっちの世界は夜なのか?」


「知らないわよ」


 え?っと驚くカズトに、アリスが告げる。


「行ってみないとわからないでしょ?当然じゃない」


 こいつ馬鹿なの?という目で、アリスが続ける。


「あんた自身はどうだったの?」


 アリスにそう言われ、カズトは考える。


 昨日は夜にゲームをしていた。外の天気は見てないが恐らく晴れていたはず。


 気を失い、目が覚めたら朝でアリスとレイラがいた。つまり8時間以上たっていたという事に…いや、待てよ。


 向こうの世界も夜だったよな?


 しかし、あっちの世界でろくに寝ていない状態だったのだが、こっちに帰ってきてから眠くなっていない。


 つまり、寝ている間にあっちの世界に行っていたという事に…そうか!幽体離脱みたいな事か…いや、痛かった事からあれは現実のはずだ。


 クソ、解らない事だらけだ。
 頭をかきながら悩むカズトを見たレイラが、カズトに話しかける。


「悩んでも仕方ないです」


「そうだな。行ってみれば分かるか…よし!アリスあっちの世界に戻るぞ」


「…無理ね。まだ魔力が戻っていないわ」


「そうなのか?それなら明日戻るという事になるな」


 そうなると、二人を泊める事になるのだが、何処で寝てもらうかだな、と、カズトが二人の寝る場所を考えていると、美姫がやってきた。


「アリスちゃん、レイラちゃん。お風呂入ってきなよ」


 それを聞いたカズトは焦った。
 二人はシャワーなどを使った事があるのかなど、疑問に思ったからである。


「い、いいか!何か解らない事があったら美姫を呼ぶんだぞ」


「わかったわよ」


「行ってきます」


 二人に釘をさした後、部屋を出ようとする美姫を呼び止めた。


「美姫。悪いんだが、二人を1階の客室に泊めてやってくれ」


 客室。死んだ両親の部屋である。


「それと学校の話しは、二人の耳に入れないでくれないか?明日先生に確認をとってみるから」


 無論、確認をとるつもりなどないのだが、そういわないと美姫は納得しないだろうと思いそう伝える。


 明日二人には、留守番させるつもりでカレーを作ったのだった。


(完璧な作戦だ)


 心の中でフフフと笑うカズト。
 明日は早く起きて、気づかれない内に家を出よう。


 そんな事を考えながら、カズトは眠りにつくのであった。


 ーーーーーーーーーー


 翌朝。
 カズトは二人にメモを残し、そ~っと家をでた。


 妹の美姫は、部活の朝練でいない。
 これで大丈夫だろうと思いながら、カズトは鞄を肩にかけて通学する。


 ん?誰かに見られてる?


 視線を感じたカズトは、辺りを見渡すが誰もいない。気のせいかと思い、カズトは学校に向かった。


「カズト君!おはよう」


「あぁ。おはよう」


 クラスメイトに挨拶をかわしてから、窓際の自分の席へと向かう。疲れたなぁっと思っていると、授業開始のチャイムが鳴り響く。


 ガラガラっと、教室のドアが開き、担任が部屋に入ってきた。


「はあ~い。HRを始める前に朗報です。今日からこのクラスに転校生が二人くる事になりました!皆さん。仲良くしてあげてくださいね」


 この時期に転校生か…しかも二人とは、珍しい…そう思いながら、担任の背後に目を向けるカズトは、思わず固まってしまった。


「カズト!」


「テト!」


 その聞きなれた声にカズトは、現実逃避気味に窓から空を見上げるのであった。

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