世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて
第一章4 現実世界
【4】
一瞬何を言われたのかが理解できず、固まってしまうカズト。ぎゅっとカズトを抱きしめ、幸せそうなレイラ。そんな二人を見て、口を開けて固まるアリス。
(・・テト・・?)
レイラは確かにそう言ったよな。
「な、何してるのよ!」
アリスは顔を赤くして、カズトとレイラを引き離す。引き離されたレイラの目が鋭くなり、アリスを睨みつけた。
「テトはいないって言ったけど、いるじゃないですか」
「こいつはテトじゃない」
今にもおでこが、くっつきそうな距離で睨みあうアリスとレイラ。
「二人ともやめろ。レイラ。俺の名前はカズト。輝基 和斗だ」
睨みあう二人を引き離しながら、カズトはレイラに自己紹介をする。
「・・カズト?」
レイラは首をかしげながら、不思議そうな顔を向けてくる。
「そうだ!なぁレイラ。少し質問させてもらっていいか?他の仲間はどうしたんだ?テトやクリフ、ダンと一緒だったんじゃないのか?」
勇者テト、バーサーカーレイラ、魔法剣士クリフ、守護神ダン。勇者一行のメンバーであり、プレイしていたカズトはもちろんだが、この世界で知らない人はいない有名人である。
勇者テト。
全ての能力に特化しており、もちろんゲームの中での主人公である。
戦略兵器レイラ。
回復専門だが、バーサーカーモードになった場合のみ攻撃専門になる。バーサーカーモードになるには条件があったり、回復魔法が使えなくなったりと欠点があるが、バーサーカーモードになった場合、レイラは誰よりも強い。
魔法剣士クリフ。
エルフ族の異端児であり、冷酷な性格である。自己中な部分もあるのだが、単純な剣技のみならテトより上である。
守護神ダン。
ドワーフ族の彼は、魔法が使えない欠点があるが、攻撃力や防御力が高く、テトやレイラが呪文を唱えてる間、おとりになって助ける。魔法のきかない相手なら頼りになるが、物理がきかない相手なら全く頼りにならない。
レイラがバーサーカーモードになっている以上、テトの身に何かあったのは間違いないのだろうが、他の二人は無事なはず。カズトは軽い気持ちでたずねてみる。
「・・・!?」
レイラの青い両目が開かれる。どうやらバーサーカーモードはとけているみたいだ。
「それは・・・」
そう言ってレイラは語りだした。
ーーーーーーーー
【5】
魔王サタンを倒した疲れを癒す為、宿屋に来ていた勇者一行。
疲れを癒したら、サクラ王国に向けて出発し、魔王サタン討伐の報告をしに行こうと、話し合ってから酒場で解散した。
レイラは女の子なので、当然テト達とは違う宿屋に来ていたレイラは、明日に備えて就寝の準備をしていたのだが、丁度その時、激しい光が窓から差し込み、爆音と共に火煙が外から見えた。
(・・・何??)
慌てて服を着替え、解いていた髪を、ツインテールに戻す。
(とにかく、何があったのか確かめなくちゃ)
そう決心し、外にでるとダンと目があった。
「おぉレイラか。ちょうどよかったわい。今お主を呼びに来たとこじゃったわい」
「ダンじぃ様。何があったのでしょうか?」
先に外にいたダンに状況をたずねる。
「いやぁワシもさっきまで寝ておってのぅ。目が覚めたんじゃが、部屋にいたはずの二人がおらんくて慌てて出てきた所なんじゃ」
「・・そうですか。」
ダンの話しを聞いてレイラは不安な気持ちになる。ダンはそれに気付いたのか「なぁに、あの二人なら心配せんでも大丈夫じゃわい」と言って、レイラを励ました。
「そうですね。とにかくあそこに行ってみましょう。ダンじぃ様は先に行ってて下さい。私は町の人達に話しを聞いてから向かいます」
「気をつけるんじゃぞ」
ダンと別れ、町の人達から話しを聞くが、これといった情報は得られなかった。
(むこうも気になりますし・・)
レイラは、ダンの後を追いかける事にした。
ーーーーーーーー
森に入る道中、信じられない物をレイラは目にした。
「・・あれはテトの剣」
剣だけではなく勇者の腕輪など装飾品が当たりに散乱している。
(そんな・・テト・・)
レイラの顔が青ざめ、地面に崩れ落ちた。しばらく呆然としていると、レイラの耳に、激しい音が聞こえてきた。
(・・・・近くで戦闘がおこなわれている!?)
その事に気づいたレイラは目元をぬぐい、音のする方へと駆け出した。
レイラは自分の目を疑った。
何故なら、戦闘を行っているのはダンとクリフだったからである。
「レイラ!来てはならん!」
レイラに気付いたダンは、二人を止めようとするレイラに注意する。
ダンに注意されてレイラの動きが止まる。よく見るとダンはクリフを止めようとしており、一方的に攻撃を仕掛けているのはクリフだ。
「しかしダンじぃ様・・」
「それよりもレイラ!魔王サタン城に戻って手がかりを探してきてくれぬか」
「・・手がかり?」
「そうじゃ。どうやらこやつ何者かに操られておるのやもしれん」
とまらないクリフの攻撃をかわしながら、ダンはレイラに告げる。確かにクリフの様子がおかしい。ダンの言葉にも自分の言葉にも何の反応も示さない。
「なぁに安心せい。ワシの頑丈さはしっておろう。テトの事も気掛かりじゃろうが頼んだぞ」
「しかし・・・ダンじぃ様」
「行くのじゃ!」
ダンに強く言われ、レイラは駆け出した。
守護神として数々のピンチを救ってきたダン。
パーティー内で最年長の彼は、三人を孫のように可愛がっており、特にクリフには目をかけていた。
彼はどことなく自分の若い頃に似ており、このままでは孤独になってしまう。
だからワシがきちんとコヤツを導いてやらんといかん!ダンは日々そう考えていた。
「さぁてクリ坊よ、ちぃっとばかしおいたがすぎるのぉ」
ダンがクリフに向け、構えをとる。
「ワシの愛の鉄拳で、目を覚まさせてくれるわい」
ダンがクリフに駆け出そうとしたが、クリフの姿を見て動きが止まる。
クリフは空にむけて剣をかかげている。クリフの剣に空から雷が落ち、ダンに向けてクリフが構える。
「メテオスラッシュじゃと・・」
ダンは両腕をクロスさせてガードの構えをとると同時に、クリフが剣を振る。
「この馬鹿たれが・・・」
彼が残した最後の言葉であった。
ーーーーーーーー
ダンと別れたレイラは、魔王サタン城を目指す。幸いここから魔王サタン城は近い。
(ダンじぃ様・・クリフ・・テト・・)
首を横に振り加速する。余計な事は考えまいと自分に言い聞かせ、魔王サタン城を目指すレイラ。
(・・・!?)
近くまでやって来たレイラは、テトがいる事がわかった。
(テト!!)
嬉しさがこみ上げてくると同時に、沸々と怒りが湧いてくる。
(テト・・・待ってて。今助けに・・)
「誰だ!?」
魔王サタン城入り口を守る鎧武者の兵隊は、近づいてくる少女の姿を見て驚愕する。
「まさか・・戦略兵器レイラ」
レイラの右眼が紫色に変わる。
「テトを・・・返せぇぇぇぇぇぇえ」
入り口にいた門番を吹き飛ばし、レイラは城内へと入って行く。
そして、この部屋まで乗り込んできたというわけであった。
_____________
【6】
レイラの話しを聞いた、カズトは考えていた。
(テトがいなくなった?クリフが暴走している?いったい何がおきているのか・・)
「恐らくブラッククリスタルの影響ね」
アリスの言葉に、二人が驚いた。
「ブラッククリスタルは、負の感情を吸収するのとは別に、負の感情を与えるって言ったわよね?」
レイラは初耳だったらしく、驚いていた。
「使い方を間違えると、負の感情が抑えきれなくなる。きっと、そのクリフって人は苦しんでいるはずだわ」
アリスはレイラの両肩をつかんで質問をする。
「ねぇレイラ。クリフって人は、黒い宝石を持っていなかった?」
アリスの言葉を聞いて、レイラは思い出そうとあごに手をあてる。
「ごめんなさい。暗かったせいもあって見てなかったです」
レイラは首を横に振る。
「と、とにかく、ダンを助けに行くべきじゃないか?」
カズトの言葉にレイラの顔が青ざめる。テトの事で頭がいっぱいだったのだろう。
「レイラが回復魔法。アリスが攻撃魔法。ダンが攻撃と防御。俺は・・」
カズトが自分の考えを口にしていると、突然ゴン太が飛びかかってきた。
「ゴン太!?」
アリスが驚いていると、上空から雷が落ちゴン太に直撃する。三人を庇うように覆い被さったゴン太は、横に倒れこんだ。
「ルミナスヒール」
レイラはすかさずゴン太の傷を手当てする。一体何が起こったのかと辺りを見渡すと、空からクリフが降りてきた。
「ほぅ・・レイラにサタンの娘。それにテト」
クリフの姿を見たカズトは焦った。
(まずい、まずい、まずい。今戦えるのはアリスしかいない。ここで戦闘になった場合、間違いなく全滅する)
「クリフ!ダンじぃ様はどうされたのですか・・」
ゴン太の傷を治療しながら、レイラが質問をする。
「ジジィなら消えてもらったぜ」
クリフは、口元をニヤリとさせる。その姿を見たレイラは愕然とする。
「ゴン太ごめんね。ゆっくり休んで」
アリスはゴン太を優しくなでると、召喚魔法を解いた。
「フン。ブラッククリスタルを探す手間がはぶけたわ」
そう言ってクリフと対面する。
「サタンの娘。悪いが貴様の力、もらっていくぞ」
クリフはクリスタルをアリスに向けて宣言する。
「まさか・・あんた・・」
アリスの顔が青ざめる。
「デリート」
クリフがそう唱えると、アリスの体から黒い霧みたいな物が宝石に吸い込まれていく。悲鳴をあげるアリス。
「やめろ」「やめてください」
アリスを助けるべく、カズトとレイラが動く。左手に持っていた宝石を下げ、右手の剣を三人に向け、クリフが口を開いた。
「フン。冥土の土産にいいものを見せてやる」
クリフが空に剣をかかげる。かかげると、剣に雷が落ちた。
「まさか・・メテオスラッシュ・・」
その姿と構えを見たカズトとレイラが絶望する。
「ハァ・・ハァ・・捕まってなさい」
二人の肩を掴み、アリスが唱える。
「リゼクト」
三人を黒い球体が包み込んだかと思うと、突然目の前が真っ暗になった。これをカズトは経験したことがある。ここに来た時のような感覚・・。
しかし、何も考える事は出来なかった。
_____________
(んん・・)
カズトは体を起こそうと、辺りを手探りしていると、両頬に痛みがはしる。
「イテッ!?」
「何処触ってるのよ変態」「・・テトのエッチ」
痛みに目が覚めたカズトは上体を起こし、辺りを見渡すと、両胸を隠しながら頬を赤く染めるアリスとレイラの姿が目に入る。いや、それよりも・・。
「アリスとレイラが何故、俺の部屋に!?」
ここは魔王サタン城ではなく、カズトの部屋の中であった。
一瞬何を言われたのかが理解できず、固まってしまうカズト。ぎゅっとカズトを抱きしめ、幸せそうなレイラ。そんな二人を見て、口を開けて固まるアリス。
(・・テト・・?)
レイラは確かにそう言ったよな。
「な、何してるのよ!」
アリスは顔を赤くして、カズトとレイラを引き離す。引き離されたレイラの目が鋭くなり、アリスを睨みつけた。
「テトはいないって言ったけど、いるじゃないですか」
「こいつはテトじゃない」
今にもおでこが、くっつきそうな距離で睨みあうアリスとレイラ。
「二人ともやめろ。レイラ。俺の名前はカズト。輝基 和斗だ」
睨みあう二人を引き離しながら、カズトはレイラに自己紹介をする。
「・・カズト?」
レイラは首をかしげながら、不思議そうな顔を向けてくる。
「そうだ!なぁレイラ。少し質問させてもらっていいか?他の仲間はどうしたんだ?テトやクリフ、ダンと一緒だったんじゃないのか?」
勇者テト、バーサーカーレイラ、魔法剣士クリフ、守護神ダン。勇者一行のメンバーであり、プレイしていたカズトはもちろんだが、この世界で知らない人はいない有名人である。
勇者テト。
全ての能力に特化しており、もちろんゲームの中での主人公である。
戦略兵器レイラ。
回復専門だが、バーサーカーモードになった場合のみ攻撃専門になる。バーサーカーモードになるには条件があったり、回復魔法が使えなくなったりと欠点があるが、バーサーカーモードになった場合、レイラは誰よりも強い。
魔法剣士クリフ。
エルフ族の異端児であり、冷酷な性格である。自己中な部分もあるのだが、単純な剣技のみならテトより上である。
守護神ダン。
ドワーフ族の彼は、魔法が使えない欠点があるが、攻撃力や防御力が高く、テトやレイラが呪文を唱えてる間、おとりになって助ける。魔法のきかない相手なら頼りになるが、物理がきかない相手なら全く頼りにならない。
レイラがバーサーカーモードになっている以上、テトの身に何かあったのは間違いないのだろうが、他の二人は無事なはず。カズトは軽い気持ちでたずねてみる。
「・・・!?」
レイラの青い両目が開かれる。どうやらバーサーカーモードはとけているみたいだ。
「それは・・・」
そう言ってレイラは語りだした。
ーーーーーーーー
【5】
魔王サタンを倒した疲れを癒す為、宿屋に来ていた勇者一行。
疲れを癒したら、サクラ王国に向けて出発し、魔王サタン討伐の報告をしに行こうと、話し合ってから酒場で解散した。
レイラは女の子なので、当然テト達とは違う宿屋に来ていたレイラは、明日に備えて就寝の準備をしていたのだが、丁度その時、激しい光が窓から差し込み、爆音と共に火煙が外から見えた。
(・・・何??)
慌てて服を着替え、解いていた髪を、ツインテールに戻す。
(とにかく、何があったのか確かめなくちゃ)
そう決心し、外にでるとダンと目があった。
「おぉレイラか。ちょうどよかったわい。今お主を呼びに来たとこじゃったわい」
「ダンじぃ様。何があったのでしょうか?」
先に外にいたダンに状況をたずねる。
「いやぁワシもさっきまで寝ておってのぅ。目が覚めたんじゃが、部屋にいたはずの二人がおらんくて慌てて出てきた所なんじゃ」
「・・そうですか。」
ダンの話しを聞いてレイラは不安な気持ちになる。ダンはそれに気付いたのか「なぁに、あの二人なら心配せんでも大丈夫じゃわい」と言って、レイラを励ました。
「そうですね。とにかくあそこに行ってみましょう。ダンじぃ様は先に行ってて下さい。私は町の人達に話しを聞いてから向かいます」
「気をつけるんじゃぞ」
ダンと別れ、町の人達から話しを聞くが、これといった情報は得られなかった。
(むこうも気になりますし・・)
レイラは、ダンの後を追いかける事にした。
ーーーーーーーー
森に入る道中、信じられない物をレイラは目にした。
「・・あれはテトの剣」
剣だけではなく勇者の腕輪など装飾品が当たりに散乱している。
(そんな・・テト・・)
レイラの顔が青ざめ、地面に崩れ落ちた。しばらく呆然としていると、レイラの耳に、激しい音が聞こえてきた。
(・・・・近くで戦闘がおこなわれている!?)
その事に気づいたレイラは目元をぬぐい、音のする方へと駆け出した。
レイラは自分の目を疑った。
何故なら、戦闘を行っているのはダンとクリフだったからである。
「レイラ!来てはならん!」
レイラに気付いたダンは、二人を止めようとするレイラに注意する。
ダンに注意されてレイラの動きが止まる。よく見るとダンはクリフを止めようとしており、一方的に攻撃を仕掛けているのはクリフだ。
「しかしダンじぃ様・・」
「それよりもレイラ!魔王サタン城に戻って手がかりを探してきてくれぬか」
「・・手がかり?」
「そうじゃ。どうやらこやつ何者かに操られておるのやもしれん」
とまらないクリフの攻撃をかわしながら、ダンはレイラに告げる。確かにクリフの様子がおかしい。ダンの言葉にも自分の言葉にも何の反応も示さない。
「なぁに安心せい。ワシの頑丈さはしっておろう。テトの事も気掛かりじゃろうが頼んだぞ」
「しかし・・・ダンじぃ様」
「行くのじゃ!」
ダンに強く言われ、レイラは駆け出した。
守護神として数々のピンチを救ってきたダン。
パーティー内で最年長の彼は、三人を孫のように可愛がっており、特にクリフには目をかけていた。
彼はどことなく自分の若い頃に似ており、このままでは孤独になってしまう。
だからワシがきちんとコヤツを導いてやらんといかん!ダンは日々そう考えていた。
「さぁてクリ坊よ、ちぃっとばかしおいたがすぎるのぉ」
ダンがクリフに向け、構えをとる。
「ワシの愛の鉄拳で、目を覚まさせてくれるわい」
ダンがクリフに駆け出そうとしたが、クリフの姿を見て動きが止まる。
クリフは空にむけて剣をかかげている。クリフの剣に空から雷が落ち、ダンに向けてクリフが構える。
「メテオスラッシュじゃと・・」
ダンは両腕をクロスさせてガードの構えをとると同時に、クリフが剣を振る。
「この馬鹿たれが・・・」
彼が残した最後の言葉であった。
ーーーーーーーー
ダンと別れたレイラは、魔王サタン城を目指す。幸いここから魔王サタン城は近い。
(ダンじぃ様・・クリフ・・テト・・)
首を横に振り加速する。余計な事は考えまいと自分に言い聞かせ、魔王サタン城を目指すレイラ。
(・・・!?)
近くまでやって来たレイラは、テトがいる事がわかった。
(テト!!)
嬉しさがこみ上げてくると同時に、沸々と怒りが湧いてくる。
(テト・・・待ってて。今助けに・・)
「誰だ!?」
魔王サタン城入り口を守る鎧武者の兵隊は、近づいてくる少女の姿を見て驚愕する。
「まさか・・戦略兵器レイラ」
レイラの右眼が紫色に変わる。
「テトを・・・返せぇぇぇぇぇぇえ」
入り口にいた門番を吹き飛ばし、レイラは城内へと入って行く。
そして、この部屋まで乗り込んできたというわけであった。
_____________
【6】
レイラの話しを聞いた、カズトは考えていた。
(テトがいなくなった?クリフが暴走している?いったい何がおきているのか・・)
「恐らくブラッククリスタルの影響ね」
アリスの言葉に、二人が驚いた。
「ブラッククリスタルは、負の感情を吸収するのとは別に、負の感情を与えるって言ったわよね?」
レイラは初耳だったらしく、驚いていた。
「使い方を間違えると、負の感情が抑えきれなくなる。きっと、そのクリフって人は苦しんでいるはずだわ」
アリスはレイラの両肩をつかんで質問をする。
「ねぇレイラ。クリフって人は、黒い宝石を持っていなかった?」
アリスの言葉を聞いて、レイラは思い出そうとあごに手をあてる。
「ごめんなさい。暗かったせいもあって見てなかったです」
レイラは首を横に振る。
「と、とにかく、ダンを助けに行くべきじゃないか?」
カズトの言葉にレイラの顔が青ざめる。テトの事で頭がいっぱいだったのだろう。
「レイラが回復魔法。アリスが攻撃魔法。ダンが攻撃と防御。俺は・・」
カズトが自分の考えを口にしていると、突然ゴン太が飛びかかってきた。
「ゴン太!?」
アリスが驚いていると、上空から雷が落ちゴン太に直撃する。三人を庇うように覆い被さったゴン太は、横に倒れこんだ。
「ルミナスヒール」
レイラはすかさずゴン太の傷を手当てする。一体何が起こったのかと辺りを見渡すと、空からクリフが降りてきた。
「ほぅ・・レイラにサタンの娘。それにテト」
クリフの姿を見たカズトは焦った。
(まずい、まずい、まずい。今戦えるのはアリスしかいない。ここで戦闘になった場合、間違いなく全滅する)
「クリフ!ダンじぃ様はどうされたのですか・・」
ゴン太の傷を治療しながら、レイラが質問をする。
「ジジィなら消えてもらったぜ」
クリフは、口元をニヤリとさせる。その姿を見たレイラは愕然とする。
「ゴン太ごめんね。ゆっくり休んで」
アリスはゴン太を優しくなでると、召喚魔法を解いた。
「フン。ブラッククリスタルを探す手間がはぶけたわ」
そう言ってクリフと対面する。
「サタンの娘。悪いが貴様の力、もらっていくぞ」
クリフはクリスタルをアリスに向けて宣言する。
「まさか・・あんた・・」
アリスの顔が青ざめる。
「デリート」
クリフがそう唱えると、アリスの体から黒い霧みたいな物が宝石に吸い込まれていく。悲鳴をあげるアリス。
「やめろ」「やめてください」
アリスを助けるべく、カズトとレイラが動く。左手に持っていた宝石を下げ、右手の剣を三人に向け、クリフが口を開いた。
「フン。冥土の土産にいいものを見せてやる」
クリフが空に剣をかかげる。かかげると、剣に雷が落ちた。
「まさか・・メテオスラッシュ・・」
その姿と構えを見たカズトとレイラが絶望する。
「ハァ・・ハァ・・捕まってなさい」
二人の肩を掴み、アリスが唱える。
「リゼクト」
三人を黒い球体が包み込んだかと思うと、突然目の前が真っ暗になった。これをカズトは経験したことがある。ここに来た時のような感覚・・。
しかし、何も考える事は出来なかった。
_____________
(んん・・)
カズトは体を起こそうと、辺りを手探りしていると、両頬に痛みがはしる。
「イテッ!?」
「何処触ってるのよ変態」「・・テトのエッチ」
痛みに目が覚めたカズトは上体を起こし、辺りを見渡すと、両胸を隠しながら頬を赤く染めるアリスとレイラの姿が目に入る。いや、それよりも・・。
「アリスとレイラが何故、俺の部屋に!?」
ここは魔王サタン城ではなく、カズトの部屋の中であった。
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